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第壱章:室戸/ミサキの事情*

#040:剛直な(あるいは、毒皿でいくか…)

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「その少年も含めて『溜王』に出る面子よぉ。それで三人分の衣装をジョリさんにお願いしたと。そんで一色分の在庫が無かったから、こんな山奥まで出張って来てるっつーわけだ。ま、観光も兼ねてだが」

 やっぱりか、観光目的。アオナギは建物の主、セーラーマッスルことオーリューさんに促されると、遠慮もためらいもなく上がり込むのだった。とは言え僕も寒さが限界なのでそそくさと室内へと急ぐ。

「……ペンションみてえだなあ、客を泊めんのかい?」

 おととい辺りから着倒している紅い革ジャンを脱ぎつつ、丸男が聞く。その下から現れたTシャツには墨痕鮮やかな「仙台」の筆文字。買ったんだー土産物屋でー。着替え用に買う人を初めて見た。

「ええ、ええ!! 辺鄙な所ですが、写真やる方とか、自転車ですか? 夏場も真冬も結構人は入るんですよ」

 そう言って顔を綻ばせるオーリューさんは、首から上はまったくの常識人である。そしてなぜ誰もその服装に突っ込まない? 浴衣に真っ赤なダウンの僕からはちょっと切り出しにくいのだけれど。

「今日はここで一泊も……ありだな」

 アオナギが居心地の良さそうなロビーの内装に目をやり呟くが、現在木曜日。土曜の朝8時に受付終了と言っていた溜王戦には間に合いそうだ……が、そう言えば開催される会場がどこかっていうのを確認してない!!

「……予選は土曜9時から、神宮球場地下に位置する『セディアノマノッソ・スタジアム』にて行われる。明日朝イチで戻れば、金曜日中には余裕で都内に着いてるだろうぜぇ」

 うん、時間的なことは多分そうなのだろうけど、地下にあるその何とかスタジアムの存在の方が気になるわけで。カワミナミさんも言ってたよな、国技館地下に云々って。ダメ人間達は地下に暗躍しているとでもいうのか?

「……今晩徹夜でマルちゃんの『緑』を仕上げるわぁん。協力、頼むわよぉ、タっちゃん、ムロっちゃん」

 ジョリーさんがむほり、と笑みを浮かべる。僕も頭数に入れてもらえてそれはそれで嬉しいのだけど、心がまだ凍てついていて何もする気が起こらないわけで。

「少年……やけに心が沈んでいるな。そんなんじゃ『溜王』ではっちゃけられないんじゃないかい?」

 そもそもはっちゃける場なのか? オーリューさんは軽く腕組みをしつつ僕を見据えてきた。そのビジュアルにはとても慣れそうも無いが、顔つきは真剣だ。僕のことを心配してくれている?

「俺がこんな格好をしているのは、なぜかわかるかい?」

 おっとぉー!! そこ自分からいくのか!! 想定外だったー!!

「……自分の作る服に妥協はしたくないからさ。見た目はもちろんだが、機能性を兼ね備えてこその服だと……俺は思う。だからまず自分で着て試す。この作りの袖は腕動かした時、気にならないか? とか、屈んだ時にボタンが裾に引っかからないか? とか、実際に着てみないと分からないことが多いんだ」

 オーリューさん……その職人気質、わかるっちゃあわかりますが、リスクの方が高すぎるというか……何というか……

「キミの衣装を見せてくれ。ジョリーの腕を疑うわけじゃあないが、何しろ突貫だったそうじゃないか。俺に出来ることが残ってるかも知れない」

 でも、このヒトの瞳も曇りがない。そいじゃいっちょ、やってもらいますかい!! 僕も気持ちを切り替えないと。初摩さんとの事はもう忘れろ。いや忘れずにこれもダメエピソードに昇華させてやるんだ!! 考えてみりゃ凄い破壊力のあるエピソードだ。為井戸三人くらいは死に至らしめられるほどの殺傷力を秘めた……

 クックック。もうここまで来て後戻りはできないんだ。溜王のため……土を食えと言われれば土を喰らうまで!!

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