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砲撃のパラディン大佐隊編(【05】の裏)

254【挨拶回りの前後編06】人切り元班長

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【パラディン大佐隊・第三班小会議室】

 第三班第一号の副長・ホフマンに促されて、一班長・ハワード、フィリップス、最後にエリゴールが入室。
 エリゴールと視線が合った瞬間、震える三班長・プライスと副班長。
 とっさに立ち上がろうとするが、エリゴールに片手で制止される。

エリゴール
「ああ、そのままでいい。いきなり押しかけてきて悪かった」

プライス・副班長
「はぁ……」

フィリップス
「いつものことながら、おとっつぁんより班長らしい」

ハワード
「やっぱり俺は……!」

フィリップス
「はいはい。続きは待機室おうちに帰ってからしましょうね」

ホフマン
「今、コーヒーをお持ちします!」

 と、あくまでエリゴールに対して発言するホフマン。

エリゴール
「いや、長居はしないから必要ない。案内、ご苦労だったな。もう帰っていいぞ」

ホフマン
「そうですか……それでは、失礼いたします……」

 露骨にがっかりして立ち去っていくホフマン。
 それを見送ってから囁き合うハワードとフィリップス。

ハワード
「元四班長……実は〝人切り〟じゃなくて〝人たらし〟なんじゃないのか?」

フィリップス
「それも調教には必要不可欠な能力なんだよ、おとっつぁん」

エリゴール
「それじゃ、無駄な挨拶は抜きにして、とっとと本題に入ろうか」

 エリゴール、プライスと副班長の対面の椅子にさっさと座る。
 ハワードとフィリップスは顔を見合わせて、エリゴールとは少し離れた席に並んで座る。

プライス
「ほ、本題?」

エリゴール
「三班長。あんたが昨日、解任と退役を希望したことは一班長たちから訊いた。それに関連して、二つだけ確認しておきたいことがある」

プライス
「確認……?」

エリゴール
「まず一つ。今回の合同演習、あんたは班長の自覚をもって、悔いなくやりぬいたか?」

プライス
「……ああ。悔いはない」

エリゴール
「そうか。悔いはないか。では、あと一つ。……昨日の三班第二号についてはどう思っている?」

プライス
「どう……?」

エリゴール
「艦長はショックで寝こんだそうだが、第二号が〈オートクレール〉を撃ってくれたから、一応うちが勝ったことになったんだ。間違いなく、昨日の最大の立役者だろうが」

プライス
「確かにそうだが……そうするように命令したのは、元四班長だろう?」

 一瞬にして、張りつめる空気。
 しかし、エリゴールの表情は変わらない。

エリゴール
「艦長がそう言ったのか?」

プライス
「いや……あくまで自分の独断だと言っているらしい……」

エリゴール
「らしい?」

プライス
「あいつとはまだ直接話していない……今日も休ませている……」

エリゴール
「そうか。なら、『よくやった』の一言すら言っていないのか」

 プライス、怪訝そうに。

プライス
「『よくやった』? 俺はそんな命令はしていない……」

エリゴール
「そうか。よくわかった。もういい」

プライス
「元四班長?」

 明らかに苛立っているエリゴールに怯えるプライス。
 プライスにはエリゴールが何に怒っているかわからない。
 しかし、わかっているハワードとフィリップスと副班長は、哀れむような眼差しをプライスに向ける。

エリゴール
「三班長。あんたは班長も護衛艦隊も今すぐ辞めろ。人生やり直すなら、護衛艦隊の外でしろ。ここはあんたの職業訓練所じゃない」

プライス
「な……!」

エリゴール
「何だ? 本当はまだ班長を続けたかったのか? ……安心しろ。俺も含めて、班長の代わりなんていくらでもいる。唯一無二の存在なんていない」

 プライス、反論しようと口をパクパクさせるが、結局何も言えなくて下を向く。

プライス
「……そうだな。そのとおりだ……」

エリゴール
「ちなみに、俺が二号の艦長に頼んだのは、〈オートクレール〉を撃つことだけだ」

プライス・副班長・ハワード
「頼んだ……」

フィリップス
「あれが〝頼んだ〟……あれが……」

エリゴール
「三班長。参考までに訊いておくが、次の班長に推したい人間はいるか?」

プライス
「そ、それなら、この副班長を……」

副班長
「班長!」

エリゴール
「副班長にはその気はなさそうだが、まあ、それも大佐が決めることだな。とにかく、あんたは明日、大佐に退役願を提出しろ。あ、もちろんアポはとってから行けよ。一人で行くのが不安だったら、一班長に付き添ってもらえ。たぶん、暇だ」

ハワード
「元四班長!?」

プライス
「……いや。一人で行く」

エリゴール
「そうか。それなら、俺の用事はもう済んだ。……一班長。立会人として何か言いたいことはあるか?」

ハワード
「……プライス。本当に後悔はないのか?」

プライス
「ああ。……ない」

 それを聞き届けてから、エリゴールは立ち上がる。

エリゴール
「一班長、フィリップス副長。俺は先に車に戻ってる。……副班長。俺一人じゃエントランスから出られないから、一緒に来てくれ」

副班長
「は、はい!」

 反射的に立ち上がってしまうが、プライスの反応が気になり、横目で窺う。
 プライスはうつむいたまま、無反応。

エリゴール
「じゃ、お先」

 軽く手を挙げて、さっさと小会議室を出ていくエリゴール。
 副班長はあわてながらも、きちんと一礼してから、エリゴールの後を追う。

フィリップス
「後は任せた……ってとこかな?」

ハワード
「あからさまに丸投げしたな」

プライス
「……ハワード」

ハワード
「何だ?」

プライス
「俺は……何て答えればよかったんだ?」

ハワード
「……正解はない。ただ、元四班長を怒らせたくなかったんなら、部下の気遣いを否定するようなことは言わないほうがよかったな」

プライス
「気遣い?」

ハワード
「二号の艦長は、自分の独断でやったと大佐にも報告したんだろう? まあ、大佐も信じてはいないだろうが、対外的には、おまえも元四班長も関与していないことにしたんだ。しかし、おまえはそこも無視して、元四班長の命令で動いたことだけを重視した」

プライス
「でも……それが真実だろう?」

 ハワード、やりきれないように溜め息をつく。

ハワード
「そうだな。元四班長はおまえよりも三班を把握していて、二号の艦長が〝死んだふり〟をしているんじゃないかと探りを入れた。……それが真実だ」

プライス
「そんな……たった一日で……」

ハワード
「元四班長にはその一日で充分だったらしい。俺も自分は班長の器じゃないとちょくちょく落ちこんでるが、それでも、元四班長がおまえの何に怒ったのかはわかったぞ」

プライス
「俺が……二号の艦長を褒めなかったから……か?」

ハワード
「平たく言えばそうなるな。二号が〈オートクレール〉を撃った後、元四班長は『よくやった』と艦長を労っていた。きっと、艦長はそれだけで満足しただろう。上官であるおまえに認められなくてもかまわないくらい」

プライス
「……退役を希望しても、元四班長は俺を〝切る〟んだな……」

ハワード
「〝切る〟前に、ちゃんと確認しただろう? おまえの答え如何によっては、退役はするなと言ったかもしれない」

プライス
「それはどうかな……」

ハワード
「おまえがそう思うんなら、俺からはもう何も言うことはない。大佐に退役願を出して沙汰を待て」

フィリップス
「……三班長」

プライス
「何だ?」

フィリップス
「俺も立会人の一人なんで、最後に一つだけ。……今、元四班長を恨んでいるか?」

ハワード
「フィリップス!」

プライス
「そうだな……正直に言えば、恨んでいるかな。でも、この隊に元四班長たちが来てくれていなかったら、俺たちはアルスターに殺されていただろう」

フィリップス
「そこはわかってくれてて安心したよ。あんたがわからなかったのは、部下の気持ちだけだったんだな」

プライス
「……元四班長より辛辣だな」

フィリップス
「元四班長より率直なだけだよ。賭けてもいいが、あんたが退役していちばん喜ぶのはこの班の班員だ。特に、ここまで案内してくれた副長は喜ぶかもな。……あんたが青い顔をしてここに座っていても、まったく気にも留めていなかった」

 ***

【パラディン大佐隊・第三班ドック・中央エントランス】

副班長
「あの……元四班長!」

エリゴール
「何だ?」

副班長
「……班長と同じく、自分もアルスター大佐に任命されていて……」

エリゴール
「そうか。……おまえは今回の合同演習の結果に満足してるか?」

副班長
「いえ! 一昨日はともかく、昨日は……! 実は二号の艦長は自分の同期なのですが、その手があったかと悔しくて、ろくに眠れませんでした……!」

エリゴール
「そうか。なら、ここに残って、いつかそいつを見返してやれ」

副班長
「……はい?」

エリゴール
「付き合いで退役する必要はない。班長職が重くて逃げる男に、おまえの人生を背負わせるな」
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