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砲撃のパラディン大佐隊編(【05】の裏)

182【交換ついでに合同演習編87】訓練二日目:一班一号待機室の親切

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【パラディン大佐隊・第一班第一号待機室】

ロノウェ
「一班……面目ねえ! どうしてもレラージュには逆らえなくて……!」

フィリップス
「わかるわかる。レラージュ副長には逆らえない。うちもきっと逆らえない」

ハワード
「タイミングが合えば、元四班長にも会えたんだがな。俺たちがまだミーティング室にいる間に、一度ここに戻ってはきたが、すぐに帰ってしまったそうだ」

ロノウェ
「いや、それでよかった。こんなのエリゴールに知られたら、いったい何を言われるか……」

フィリップス
「それは確かに。……ほい、終わった。一応確認はしたけど、もし異常があったらまた連絡ちょうだい」

ロノウェ
「一班! 恩に着る!」

フィリップス
「いや、うちはいいけど……班長なのに〝お使い〟大変だね」

ロノウェ
「レラージュに言わせると、俺の存在意義はそれらしい」

ハワード
「うっ、身につまされる!」

フィリップス
「俺はおとっつぁんを〝お使い〟に出したことはねえだろ」

ロノウェ
「……一班。今日、十班が撮った〝移動しながら縦〟のエキシビションなんだが……」

フィリップス
「ああ、あれ。元四班長、出だしだけ見て終わりにしちゃったから、まだ全部見てないな」

ロノウェ
「じゃあ今、全部見てもらえねえか。あんたらの感想を聞きてえ」

ハワード・フィリップス
「感想?」




フィリップス
「うーん……」

ハワード
「まあ、撮れてはいるけどな……」

ロノウェ
「そうなんだよ。撮れてはいるんだよ。でも、うちのレラージュは不満たらたらでな。他に撮ってた班はいなかったかとまで言い出してきた。しまいには、六班以外にもう一つ撮影班が必要だと」

フィリップス
「ああ、それは同感だ。確かに六班以外にも撮影班は欲しい」

ロノウェ
「実際問題、あのときあれを撮ってた班なんているか?」

フィリップス
「いないことはないと思うが……まだ班長残ってるかな。……おとっつぁん、あんたの出番だ。一班長特権で、二班から五班、七班から九班の班長たちに電話かけて訊いてみてくれ。で、もし撮ってたらここに送信させる」

ハワード
「うう……これでも使われてないっていうのか……」

フィリップス
「ただ電話かけるだけじゃねえか。十一班長はわざわざここまで車飛ばして来たんだぞ。それに比べたら楽なもんだろ」

ロノウェ
「……ここもそうだったのか……」

フィリップス
「え、何か言った?」

ロノウェ
「いや、別に……」




フィリップス
「どうだった、おとっつぁん」

ハワード
「……いた。それも三班も」

フィリップス
「三班?」

ハワード
「七班、〝無旋回〟、九班。三班ともこっちにメール添付で送信してくれるそうだ」

フィリップス
「何、〝無旋回〟まで!?」

ハワード
「まあ、若い班長は〝移動しながら縦〟に興味は持ってるってことだな。元四班長を一日ずつ派遣したら、三班とも〝移動しながら縦〟ができるようになるかもしれん」

フィリップス
「家庭教師か」

班員A
「……班長! メール届きました!」

ハワード
「どこだ?」

班員A
「八班です!」

フィリップス
「……タイム遅いけど、仕事は早いな、〝無旋回〟……」

ハワード
「さっき、あれだけおまえたちにいじめられたのにな……」

フィリップス
「だって、〝炙り撃ち〟で〝飴ちゃん〟一個はないだろ」

ハワード
「〝飴ちゃん〟渡したのは元四班長だろ。〝無旋回〟だって、まさかあれで〝飴ちゃん〟もらえるとは思ってなかったんじゃないのか?」

フィリップス
「ああ……そういや元四班長、昨日言ってたっけ。〝飴ちゃん〟は狙ってやってる奴にはなるべくやらないようにしてるって。あのサンドイッチ作戦、狙ってたのを見透かされてたか、ちっ」

ロノウェ
「サンドイッチ作戦って……今日の後半で〝ファイアー・ウォール〟二列にしたあれか?」

フィリップス
「まさにあれ」

ロノウェ
「誰が考えたんだ、あれ」

フィリップス
「いま話題の〝無旋回〟」

ロノウェ
「なるほどな……あんたらもよく採用したな……」

フィリップス
「まあ、元四班長のウケ狙いなとこもあったけど、アイデアとしては面白いなと思ってさ。何しろ〝ファイアー・ウォール〟が動いて追っかけてくるんだぜ。笑えるけど怖いだろ」

ロノウェ
「ああ……確かに、六班と七班は怖かっただろうな……」

ハワード
「うちは三班が怖かったけどな」

フィリップス
「あれ、実は今でも捨てがたいと思ってるんだけど、縦置きだから外側に迂回されちゃうのが最大のネックなんだよな。今日は三班に〝側面撃ち〟されたけど、それは最初から『連合』側に艦首向けとけば対応できると思うんだよ。どうにかなんねえかなあ」

ハワード
「たとえどうにかなっても、あれは実戦では使えないだろ。馬鹿馬鹿しすぎて」

フィリップス
「まあ、確かに馬鹿だな。十一班長もそう思っただろ?」

ロノウェ
「いや、馬鹿とは思わなかったが……思いきったなとは思った」

班員A
「班長! 七班と九班からもメールが届きました!」

ハワード
「そうか。じゃあ、添付された映像をメモリカードにコピーしてこっちに持ってきてくれ。どこの班のかわかるようにしてな。ついでに、簡単でいいから謝礼メールを各班に返信」

班員A
「了解」




フィリップス
「さて、これで三班、全部見終わった。どの班のがいちばんよかったか、まずは十一班長、ズバリどうぞ」

ロノウェ
「うーん……九班かねえ……とにかくぶれてない感じが」

フィリップス
「おとっつぁんは?」

ハワード
「俺もしいて言うなら九班だな。正直、この三班に大差はないが、少なくとも皆十班よりはうまく撮れてる気がする」

ロノウェ
「一班長、それは俺も同感だ」

フィリップス
「十班長……かわいそうに……」

ハワード
「フィリップス、おまえは?」

フィリップス
「俺? 俺は身びいきかもしれないけど〝無旋回〟」

ハワード
「ひいきしてたのか……」

フィリップス
「一応。別に〝無旋回〟本人が撮ったわけじゃないだろうけど、何か感情の動きみたいなのを感じる。あー〝魚〟になったー、かっこいいなー、みたいな」

ハワード
「結局、〝無旋回〟を馬鹿にしてないか?」

ロノウェ
「そういや、ずっと気になってたが、どうして八班は〝無旋回〟なんだ? あだ名にしては妙すぎるだろ」

フィリップス
「ああ、そうか。〝護衛隊〟は知らないか。あの護衛隊形の〝蛇〟の名前決めるとき、最初に〝無旋回〟が〝無旋回〟って言ったんだ。〝旋回しないで護衛隊形になるから〟ってさ。おとっつぁんはけっこう気に入ってたけど、その後、九班長が〝蛇〟って言って、元四班長が〝蛇〟のほうを採用した。でも、あのときから〝無旋回〟、参加賞とか言われて元四班長から〝飴ちゃん〟もらってたよな?」

ハワード
「まあな。しかし、最初にそう言ってしまったせいで、〝無旋回〟は元四班長だけでなく、俺たちからも〝無旋回〟と呼ばれることになった」

フィリップス
「何でも最初が肝心だね」

ロノウェ
「なるほど。そりゃ気の毒だが、エリゴールにはとても気に入られてるな。あいつはあだ名で人は滅多に呼ばねえ」

フィリップス
「え、やっぱりそうなのか! 〝無旋回〟はとても気に入られてるのか! くそう、ジェラシー!」

ロノウェ
「フィリップス副長。そう言うあんたもエリゴールにずいぶん気に入られてると思うが」

フィリップス
「俺? あだ名はつけられてないけど?」

ロノウェ
「別に気に入った人間全部にあだ名つけてるわけじゃねえから。……〝砲撃隊〟の中でも、特にあんたとは気楽にしゃべってるような気がする」

フィリップス
「元四班長、〝護衛隊〟にいた頃はそんなに緊張してたのか? 嫉妬が怖くて?」

ロノウェ
「あいつがそんなこと怖がるタマか。……今のあいつには、マクスウェル大佐隊にいた頃をよく知ってる人間がいるとこより、ほとんど何も知らない人間がいるとこのほうが居心地いいんじゃねえのか?」

フィリップス
「十一班長……こういうことに関しては馬鹿じゃないな」

ロノウェ
「面と向かってそう言えるとこを、たぶんエリゴールは気に入ってるんだろ」

ハワード
「そういえばこいつ、十二班長にも気に入られてるぞ。罵るたびに嬉しがられてるからな」

フィリップス
「おとっつぁん、余計なことを!」

ロノウェ
「ザボエスを罵った?」

フィリップス
「いや、今日の延長戦でいきなり三班に全滅させられてたから、腹立ちまぎれに『役立たず』って罵ったら、どこまで本気かわからないが、腹を立てるどころか喜び出して。今じゃ『役立たず』で返事する。……十一班長、十二班長は本当に変態なのか?」

ロノウェ
「……まあ、うちの隊、もともとマゾっ気あるから……」

フィリップス
「ええっ! 実はうちとおんなじ!?」

ハワード
「フィリップス。……おまえは違うだろ」

ロノウェ
「まあ、あれでもザボエスはうちの隊の中では〝行儀がいい〟から、直接あんたに何かしてくることはねえと思うが……今後はなるべく罵らねえことだな。それでも絡んでくるようだったらエリゴールに言え」

フィリップス
「元四班長に? ……何か恐ろしいことになりそうな予感……」

ハワード
「そういえば、たぶん冗談だと思うが、昨日、元四班長がおまえのことを『本当にいい〝息子〟だな。俺の養子にしたいくらいだ』って言ってたぞ」

フィリップス
「え、元四班長が? ……元四班長の養子にならなってもいいな」

ハワード
「おいおい」

ロノウェ
「養子……」

フィリップス
「十一班長、そんな真顔にならなくても、冗談に決まってるだろ。じゃあ、このメモリカード三枚あげるから、レラージュ副長に見てもらって、撮影班候補決めてちょうだい。レラージュ副長からの要請なら、絶対どの班も断らない」

ハワード
「ああ、むしろ喜んで応じるな」

ロノウェ
「そうか……なら、ありがたくもらっとく。……一班、今日は対抗戦でいろいろあったのにすまなかったな。こんなもんで申し訳ねえが、ささやかな礼だ。受け取ってくれ」

フィリップス
「……徳用チョコレート詰め合わせ……」

ロノウェ
「安物ですまねえが、これなら確実に待機室の人間全員に配れるってレラージュがな。あいつが好きでいつも食ってるから、まずくはねえはずだ」

フィリップス
「え、レラージュ副長、チョコレート好きなの⁉」

ロノウェ
「ああ、しかも、こういう安物のチョコが好きだ。小腹が空くとボリボリ食ってる」

フィリップス
「うーん……レラージュ副長にチョコは似合うけど、できたら超有名店の高級チョコを優雅に食べていてほしかった……」

ロノウェ
「ああ、ああいうチョコはぼったくりで、大してうまくねえってレラージュは言ってる」

フィリップス
「ぼったくり……やっぱり元マクスウェル大佐隊……」

ハワード
「でも、ぼったくりっていうのには共感できるな」

フィリップス
「共感できるほど、おとっつぁんは高級チョコなんか食ってないだろ」




フィリップス
「十一班長、実はそんなに馬鹿じゃなかったな」

ハワード
「おまえはまた失礼なことを……あのマクスウェル大佐隊で班長やってたんだから、本物の馬鹿ではないだろ」

フィリップス
「おとっつぁんもさりげなく失礼なこと言ってるな。……とにかく、せっかくもらったチョコレートだ! 元四班長に知られる前に証拠隠滅するぞ! みんな! 最初は一個ずつ取れ!」

班員A
「やった! まだ帰らなくてよかった!」

班員B
ヒラの俺たちには、大佐の〝飴ちゃん〟より、レラージュ副長の〝チョコちゃん〟!」

班員C
「チョコに〝ちゃん〟つけるな」

フィリップス
「ところで、おとっつぁん。……俺たちはいつ帰るんだ?」

ハワード
「そうだな。いっそもう、ここで仮眠しちまうか。何かもう、家に帰るのが面倒くさくなってきた」

フィリップス
「せっかく今日は元四班長が早めに切り上げてくれたのに」

ハワード
「ミーティング室で、メモリカード配りの練習始めちまったのがいけなかったな」

フィリップス
「しかし、メモリカードがあんなによく滑るもんだとは知らなかった。元四班長、絶対自分で試したことあるな」

ハワード
「自主練したのか。……笑える」

班員A
「班長! 全員一個ずつ食べられましたが、まだチョコは残っています! しかし、今度は全員に行き渡りそうにありません!」

ハワード
「そうか。……フィリップス、どうする?」

フィリップス
「よし、じゃあ、二個目が欲しい奴は並んで俺とジャンケンしろ。勝ったらチョコをやる。もちろん、チョコがなくなった時点で終了だ」

班員A
「なら、早く並んだほうが有利!」

フィリップス
「フッ、そう簡単に勝たせはしねえぜ!」

ハワード
「……十一班長より俺たちのほうが大馬鹿だ……」
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