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砲撃のパラディン大佐隊編(【05】の裏)

63【異動編12】訓練一日目:班長会議プラス1

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【パラディン大佐隊・ミーティング室】

一班長・ハワード
「みんな、今日はお疲れさん。明日は一班でも多く十一班のタイムを上回れるようベストを尽くそう。ところで、明日行う予定の移動隊形から護衛隊形への変形方法だが、護衛の大佐隊のそれと区別するため、わかりやすくて覚えやすい名前をつけておきたい。何かいいのはないか?」

フィリップス
「ちなみに、一班長は〝開脚屈伸〟と命名して元四班長に却下されたので、同じ名前はつけないように」

一班長・ハワード
「おまえ、人が言わないでおこうとしたことを……!」

フィリップス
「まずかぶることはないと思うが、万が一ってこともあるだろ」

二班長・キャンベル
「〝開脚屈伸〟……」

四班長・ワンドレイ
「それはないよな」

五班長・ロング
「ないない」

六班長・ラムレイ
「一班長にはあれが足に見えたのか……俺には手に見えたが」

七班長・カットナー
「……足フェチ?」

一班長・ハワード
「俺の嗜好の分析はしなくていい」

八班長・ブロック
「うーん……普通は副班長隊が一八〇度旋回して護衛隊形を作るんだよな。でも、あれの場合は全然旋回してないから〝無旋回〟……なんてのはあまりにも単純すぎるか!」

フィリップス
「……それだ」

八班長・ブロック
「え?」

フィリップス
「〝旋回や反転の必要がない〟。それがこの方法の最大の売りだ。三班はこれが苦手でこの方法をとらざるを得なかった」

三班長・プライス
「頼む……それはもう言わないでくれ……」

フィリップス
「俺はいいと思うが……元四班長はどうだ?」

エリゴール
「そうだな。〝開脚屈伸〟よりはいいな」

一班長・ハワード
「悪かったな……センスなくて……」

五班長・ロング
「〝無旋回〟か……分類としては間違ってないが、名前としてはいまいちだな」

九班長・ビショップ
「んー……俺の勝手な印象なんだけど、普通のは〝蝶〟、〝無旋回〟は〝蛇〟に見えるんだよな……」

十班長・ヒールド
「蛇……」

七班長・カットナー
「そう言われてみれば、横向いた蛇に見えないこともない」

九班長・ビショップ
「まあ、ただそれだけのことなんだけど、〝無旋回〟は二隊がいったん蛇みたいにまっすぐになるから、〝蛇〟でもいいんじゃないかなって」

七班長・カットナー
「生き物シリーズか」

六班長・ラムレイ
「新しい視点だな」

七班長・カットナー
「もしまたこんなふうに名前をつけることがあったら、今後は少しは考えるのが楽になるな」

八班長・ブロック
「あるかな、そんなこと」

フィリップス
「元四班長はどう思う?」

エリゴール
「……なるほど。まっすぐになるから〝蛇〟か。確かにそれも特徴の一つではある。……〝無旋回〟も悪くないが、味気ないから〝蛇〟のほうがいいんじゃないか?」

九班長・ビショップ
「……え?」

フィリップス
「というわけで〝蛇〟に決定。採用おめでとう。ただし、金一封はない」

四班長・ワンドレイ
「そりゃそうだ」

エリゴール
「金一封はないが、こんなものでよければやるぞ」

 エリゴール、上着のポケットから個別包装された飴を取り出す。

フィリップス
「……飴?」

エリゴール
「飴は飴でもただの飴じゃない。……パラディン大佐からもらった〝飴ちゃん〟だ」

エリゴール以外
「ええっ!?」

エリゴール
「あの人はいつもこんな飴を持ち歩いてて、気が向くと俺にもくれた。いらないって言っても強引に押しつけてきた」

フィリップス
「大佐、おばちゃんっ!?」

エリゴール
「仕方がないからとりあえずもらっておいて、非常食がわりにポケットに入れていた。……九班長の〝蛇〟には三個、八班長の〝無旋回〟にも参加賞で一個な。帰りに渡すから持っていけ」

八班長・ブロック
「ただ思いつきを口にしただけなのにっ!」

九班長・ビショップ
「あ、ありがとうございますっ! 元四班長っ!」

七班長・カットナー
「そ、そんな! そんなすごいものがもらえるとわかってたら真剣に考えたのに!」

四班長・ワンドレイ
「これからは真面目に考える!」

フィリップス
「……すごいね、おとっつぁん。本当に大佐からもらった飴かどうかもわからないのに、本気で悔しがってるよ」

一班長・ハワード
「元四班長はそこまで悪質な嘘はつかないだろう。だが、これでうちの班長たちは今まで以上に彼の言いなりになる。鞭の後に本当に飴! まさに調教!」

フィリップス
「さすが元四班長! でも、あの〝飴ちゃん〟、本物だったら俺も欲しいな……」

一班長・ハワード
「……俺にも参加賞で一個くれないかな」

フィリップス
「〝開脚屈伸〟じゃくれないよ。そもそも、それが却下されたからこうなったんだろ」

一班長・ハワード
「実は今でも〝開脚屈伸〟のどこがいけないのかわからない……」

フィリップス
「それは元四班長には一生言わないでおこうね、おとっつぁん」

六班長・ラムレイ
「元四班長っ! 実は今日、最後に一班が単独でした〝ファイアー・ウォール〟、うちの班で撮影してましたっ!」

フィリップス
「何!?」

五班長・ロング
「おお、あれか。あれは本当にすごかった」

一班長・ハワード
「……フィリップス。おまえが六班に頼んだのか?」

フィリップス
「いや、俺は……たぶん、うちの班の誰かだな。六班長問いつめれば、簡単に口は割ると思うけど」

一班長・ハワード
「別に悪いことしたわけじゃないけどな。……あとで確認はしておこう」

エリゴール
「その映像、いま見られるのか?」

フィリップス
「元四班長が食いついた!」

六班長・ラムレイ
「もちろんです! そのために帰還中、必死で編集しました!」

 ラムレイ、ノートパソコンを取り出して机上に置く。

六班長・ラムレイ
「それじゃ再生します!」

七班長・カットナー
「……『オープン・ザ・〝ファイアー・ウォール〟』?」

八班長・ブロック
「本来なら開けちゃいけない壁だね」

七班長・カットナー
「……おお、横から縦に!」

九班長・ビショップ
「ちゃんとカット割りもしてあるぞ!」

八班長・ブロック
「そして〝ファイアーウォール〟が〝オープン〟……」

七班長・カットナー
「確かに〝蛇〟は早く作れるけど、こっちは何というか……かっこいいよな」

八班長・ブロック
「極めれば、もっと早くきれいに〝オープン〟できるようになれるかな」

エリゴール
「……六班長。これのコピー、もらえるか?」

フィリップス
「元四班長が欲しがった!」

一班長・ハワード
「まあ、考案者だしな。俺だって、できたら欲しい」

六班長・ラムレイ
「はい、これがそうです! ほんとはBGMまでつけたかったんですけど、どうぞ!」

 ラムレイ、メモリカードを取り出すと、右回りでエリゴールに渡しに行く。

七班長・カットナー
「すでに用意してた! ……自信作?」

八班長・ブロック
「BGM、つけたかったのか……」

七班長・カットナー
「つけるとしたら何だ?」

八班長・ブロック
「うーん……アニソン?」

エリゴール
「ありがとう、六班長。……〝飴ちゃん〟十個進呈だ」

 エリゴール、ポケットから無造作に飴を取り出してラムレイに手渡す。
 ちゃんときっちり十個ある。

六班長・ラムレイ
「ええっ!」

エリゴール
「一隻につき一個計算だ。分け方はそっちで決めてくれ」

六班長・ラムレイ
「あ……ありがとうございますっ!」

八班長・ブロック
「元四班長……今〝飴ちゃん〟何個持ってんだろう……」

九班長・ビショップ
「俺はそれより、あのたった十個の〝飴ちゃん〟を、六班がどう分け合うのかのほうが気になる」

十班長・ヒールド
軍艦ふねごとにジャンケン大会でもするんじゃないのか?」

九班長・ビショップ
「トーナメント方式か? 全員いっぺんにやったら、なかなか決着つかないだろ」

八班長・ブロック
「俺はくじ引きのほうが平等だと思うけどなあ」

九班長・ビショップ
「くじ引く順番で不平等が発生しないか?」

フィリップス
「おとっつぁん……うちは〝凡人集団〟から、完全にもう〝馬鹿集団〟と化したね」

一班長・ハワード
「だが、〝凡人〟より〝馬鹿〟のほうが幸せかもしれないと、最近強く思うようになった」

フィリップス
「それは俺も思わないでもないけど、それでもやっぱり〝開脚屈伸〟は馬鹿すぎるよ、おとっつぁん」
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