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護衛のパラディン大佐隊編(【04】の裏)
10 円錐陣形の裏(ヴァッサゴ視点)
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初めて十二班の第一号――ムルムスの死後、同型の軍艦と入れ替えられた――に搭乗することになったとき、ヴァッサゴは文字どおり、自分の立ち位置に悩んだ。
十二班の班長であるザボエスとは、一応元班長仲間なので対等には話せる(ムルムスの二の舞にならないよう気を遣ってはいるが)。階級も同じ中佐だ。
しかし、肩書的にはヴァッサゴは十二班の平班員である。おまけに、何の仕事も割り振られていない。いったい自分は第一号のどこにいればいいのか。
(まさか、艦長席の前だとは思わなかったよな……)
正確に言うなら、艦長席の前に設られた、受付カウンターのような席である。
ザボエスの命令で十二班内の技術班が設置したのだろう。モニタと端末はあるが、ほとんど閲覧用だ。
そして、艦長席に座っているのが苦手なザボエスは、戦闘中でもこの席に来て寄りかかり、気ままにヴァッサゴに話しかけてくるのだ。
この席にいると、まるで自分がバーのマスターにでもなったような気分になる。ザボエスはもちろん客だ。
結局、十二班内におけるヴァッサゴの立ち位置とは、待機室だろうが軍艦だろうが、ザボエスの近くであるらしい。
もとより、ヴァッサゴに拒否する自由はないが、地雷さえ踏まなければ、ザボエスは陽気で有能な班長ではあった。
「円錐陣形ときたか」
今回の「連合」の陣形を知った直後、面白そうにザボエスは笑った。
笑い事ではないだろうとヴァッサゴは思ったが、この艦隊の護衛ならば「連合」と直接対峙することはありえない。そうなる前に〈フラガラック〉を護衛して撤退しているだろう。
「どうせ〝全艦殲滅〟されるんなら、最初から三〇〇〇隻で突っこんだほうがいいんじゃねえかと思ったこともあったが……本当にそうされると、正気の沙汰じゃねえと思うな」
「たぶん、正気じゃないだろ」
我知らず、ヴァッサゴは顔をしかめた。
「ここであんな陣形とったって、こっちが散開したら意味がない」
ザボエスからの返事はなかった。
不思議に思って目を上げると、ザボエスは驚いたような感心したような顔をしてヴァッサゴを見ていた。
「どうした?」
何かまずいことを言ってしまったかと内心ヒヤヒヤしながら訊ねれば、ザボエスはからかうようにニヤニヤした。
「いや、おまえにもそれはわかるんだな。安心した」
「一応士官学校出てるんだ、俺もそこまで馬鹿じゃない」
「悪かった、悪かった」
さすがに機嫌を損ねたヴァッサゴに、ザボエスは苦笑いして巨大な両手を上げた。
「でも、いくら士官学校出てようが、わからねえ奴はわからねえからな。きっと今、ロノウェはレラージュに解説してもらってる」
「そうか……ロノウェも士官学校出てるんだよな……」
「アンドラスでさえ出られたんだから、ロノウェはもっと出られるだろ」
「それもそうだな。アンドラスのほうがロノウェより疑わしいな」
「まあ、俺らにもわかるんだから、殿下はすぐにわかるだろ……」
ザボエスがそう言いかけたときだった。
「班長!」
オペレータの一人が、ザボエスを振り返って絶叫した。
「〈フラガラック〉が……〈フラガラック〉が……!」
この第一号のブリッジクルーは、十二班の中でも優秀な者ばかりだ(口の堅さ含む)。その一人がこれほど取り乱しているのだ、円錐陣形に匹敵するほどの非常事態が起こったのだろう。ザボエスはそのオペレータを咎めることはせず、鷹揚に促した。
「〈フラガラック〉がどうした? 粒子砲発射の準備でも始めたか?」
「い、いえ! 後退しはじめました! しかも、回頭しないまま!」
「何ィ?」
一瞬、ザボエスは唖然としたが、すぐにヴァッサゴの前にあるモニタを覗きこんだ。
「後退するのはわかるが……何で回頭しないんだ?」
呆れてヴァッサゴが呟けば、ザボエスは意地の悪い笑みを浮かべた。
「回頭したら後退じゃなくて撤退になるからじゃねえのか? 殿下的に」
「ああ、それはあるかもな。殿下的に」
「とりあえず、俺らはパラディン大佐の指示待ちだ。ここに残るか、殿下を追うか」
「いや、あれに追いつくのは無理だろ。軍艦のスペックが違いすぎる」
「と、パラディン大佐もコールタン大佐も思うんじゃねえかなと俺も思うがな。……おう。今日は無人護衛艦の壁を厚くしてくれるみたいだ。よかったな」
「壁?」
「中央の無人砲撃艦群が移動してる」
ザボエスの言うとおりだった。
無人護衛艦群一〇〇隻の前方で、すでに配置についていた無人砲撃艦群三〇〇隻が、まるで解散を命じられたかのように移動を開始していた。
一部は両翼の無人砲撃艦群と合流したが、大部分は無人護衛艦群に向かって飛ぶと、再び艦首を敵陣に向け、無人護衛艦群一〇〇隻の前に〝壁〟を二枚作り上げていった。
「班長! 〈オートクレール〉より伝達! フォーメーションB!」
〝壁〟の完成を待っていたかのように通信士が叫ぶ。
それを聞いてザボエスは我が意を得たりとニヤリと笑った。
「やっぱり殿下は追っかけねえで、ここで展開するか。……了解! カウントダウン、十秒から開始!」
「了解!」
「畜生! エリゴールの奴、こうなること見越して十班と入れ替えたんじゃねえだろうな! 俺らはいちばん危険な中央寄りだ!」
口ではそんなことを言っているが、ザボエスもブリッジクルーも楽しげだ。隙あらば、砲撃までしだしそうである。
ブリッジのスクリーンに大きく表示されたカウンターがゼロになり、第一号が移動を開始する。
それに合わせて、十二班だけでなく、他の班も動き出す。
今頃、レラージュが悔しがっていそうだが、文句はエリゴールに言ってもらいたい。
「どうやら、コールタン大佐も同じ結論を出したみてえだな。やっぱ護衛の〝大佐〟は賢いわ」
両腕を組んでモニタを眺めながら、ザボエスが暗にアルスターをせせら笑う。
賢いかどうかはともかく、これほど短時間で両翼が対称になるように――中央の無人艦群を挟んで扇形になるように展開できるのはやはり凄い。コールタンが〝護衛なめんな、砲撃馬鹿野郎ども〟と言っている(エリゴール談)というのもむべなるかな。
(でも、護衛は置物のままでいつづけてほしいよな……この艦隊的に)
口に出したら叶わないような気がして、ヴァッサゴは心の中でひっそりと祈った。
十二班の班長であるザボエスとは、一応元班長仲間なので対等には話せる(ムルムスの二の舞にならないよう気を遣ってはいるが)。階級も同じ中佐だ。
しかし、肩書的にはヴァッサゴは十二班の平班員である。おまけに、何の仕事も割り振られていない。いったい自分は第一号のどこにいればいいのか。
(まさか、艦長席の前だとは思わなかったよな……)
正確に言うなら、艦長席の前に設られた、受付カウンターのような席である。
ザボエスの命令で十二班内の技術班が設置したのだろう。モニタと端末はあるが、ほとんど閲覧用だ。
そして、艦長席に座っているのが苦手なザボエスは、戦闘中でもこの席に来て寄りかかり、気ままにヴァッサゴに話しかけてくるのだ。
この席にいると、まるで自分がバーのマスターにでもなったような気分になる。ザボエスはもちろん客だ。
結局、十二班内におけるヴァッサゴの立ち位置とは、待機室だろうが軍艦だろうが、ザボエスの近くであるらしい。
もとより、ヴァッサゴに拒否する自由はないが、地雷さえ踏まなければ、ザボエスは陽気で有能な班長ではあった。
「円錐陣形ときたか」
今回の「連合」の陣形を知った直後、面白そうにザボエスは笑った。
笑い事ではないだろうとヴァッサゴは思ったが、この艦隊の護衛ならば「連合」と直接対峙することはありえない。そうなる前に〈フラガラック〉を護衛して撤退しているだろう。
「どうせ〝全艦殲滅〟されるんなら、最初から三〇〇〇隻で突っこんだほうがいいんじゃねえかと思ったこともあったが……本当にそうされると、正気の沙汰じゃねえと思うな」
「たぶん、正気じゃないだろ」
我知らず、ヴァッサゴは顔をしかめた。
「ここであんな陣形とったって、こっちが散開したら意味がない」
ザボエスからの返事はなかった。
不思議に思って目を上げると、ザボエスは驚いたような感心したような顔をしてヴァッサゴを見ていた。
「どうした?」
何かまずいことを言ってしまったかと内心ヒヤヒヤしながら訊ねれば、ザボエスはからかうようにニヤニヤした。
「いや、おまえにもそれはわかるんだな。安心した」
「一応士官学校出てるんだ、俺もそこまで馬鹿じゃない」
「悪かった、悪かった」
さすがに機嫌を損ねたヴァッサゴに、ザボエスは苦笑いして巨大な両手を上げた。
「でも、いくら士官学校出てようが、わからねえ奴はわからねえからな。きっと今、ロノウェはレラージュに解説してもらってる」
「そうか……ロノウェも士官学校出てるんだよな……」
「アンドラスでさえ出られたんだから、ロノウェはもっと出られるだろ」
「それもそうだな。アンドラスのほうがロノウェより疑わしいな」
「まあ、俺らにもわかるんだから、殿下はすぐにわかるだろ……」
ザボエスがそう言いかけたときだった。
「班長!」
オペレータの一人が、ザボエスを振り返って絶叫した。
「〈フラガラック〉が……〈フラガラック〉が……!」
この第一号のブリッジクルーは、十二班の中でも優秀な者ばかりだ(口の堅さ含む)。その一人がこれほど取り乱しているのだ、円錐陣形に匹敵するほどの非常事態が起こったのだろう。ザボエスはそのオペレータを咎めることはせず、鷹揚に促した。
「〈フラガラック〉がどうした? 粒子砲発射の準備でも始めたか?」
「い、いえ! 後退しはじめました! しかも、回頭しないまま!」
「何ィ?」
一瞬、ザボエスは唖然としたが、すぐにヴァッサゴの前にあるモニタを覗きこんだ。
「後退するのはわかるが……何で回頭しないんだ?」
呆れてヴァッサゴが呟けば、ザボエスは意地の悪い笑みを浮かべた。
「回頭したら後退じゃなくて撤退になるからじゃねえのか? 殿下的に」
「ああ、それはあるかもな。殿下的に」
「とりあえず、俺らはパラディン大佐の指示待ちだ。ここに残るか、殿下を追うか」
「いや、あれに追いつくのは無理だろ。軍艦のスペックが違いすぎる」
「と、パラディン大佐もコールタン大佐も思うんじゃねえかなと俺も思うがな。……おう。今日は無人護衛艦の壁を厚くしてくれるみたいだ。よかったな」
「壁?」
「中央の無人砲撃艦群が移動してる」
ザボエスの言うとおりだった。
無人護衛艦群一〇〇隻の前方で、すでに配置についていた無人砲撃艦群三〇〇隻が、まるで解散を命じられたかのように移動を開始していた。
一部は両翼の無人砲撃艦群と合流したが、大部分は無人護衛艦群に向かって飛ぶと、再び艦首を敵陣に向け、無人護衛艦群一〇〇隻の前に〝壁〟を二枚作り上げていった。
「班長! 〈オートクレール〉より伝達! フォーメーションB!」
〝壁〟の完成を待っていたかのように通信士が叫ぶ。
それを聞いてザボエスは我が意を得たりとニヤリと笑った。
「やっぱり殿下は追っかけねえで、ここで展開するか。……了解! カウントダウン、十秒から開始!」
「了解!」
「畜生! エリゴールの奴、こうなること見越して十班と入れ替えたんじゃねえだろうな! 俺らはいちばん危険な中央寄りだ!」
口ではそんなことを言っているが、ザボエスもブリッジクルーも楽しげだ。隙あらば、砲撃までしだしそうである。
ブリッジのスクリーンに大きく表示されたカウンターがゼロになり、第一号が移動を開始する。
それに合わせて、十二班だけでなく、他の班も動き出す。
今頃、レラージュが悔しがっていそうだが、文句はエリゴールに言ってもらいたい。
「どうやら、コールタン大佐も同じ結論を出したみてえだな。やっぱ護衛の〝大佐〟は賢いわ」
両腕を組んでモニタを眺めながら、ザボエスが暗にアルスターをせせら笑う。
賢いかどうかはともかく、これほど短時間で両翼が対称になるように――中央の無人艦群を挟んで扇形になるように展開できるのはやはり凄い。コールタンが〝護衛なめんな、砲撃馬鹿野郎ども〟と言っている(エリゴール談)というのもむべなるかな。
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