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護衛のパラディン大佐隊編(【04】の裏)

09 願い(ヴァッサゴ視点)

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 ようやくパラディンに退役願を押しつけることに成功したと報告してきた数日後。
 エリゴールは憤然として十二班の第一号待機室に乱入してきた。
 無論、ヴァッサゴとザボエス以外の班員たちは緊急退避。そのザボエスも、触らぬ神に祟りなしとばかりに、何も言わずににやにやしていた。

「くそ! せっかく渡せたと思ったら郵送で返却された!」
「渡せたって……勝手に机の上に置いてきただけだろうが」

 無視するわけにもいかず、ヴァッサゴはツッコミを入れたが、エリゴールには無視された。

「まったく……いつになったら諦めてくれるんだ?」
「向こうもきっとそう思ってるぞ」
「おまけに、わけのわからない書きこみして返してきた」
「書きこみ?」

 本当に自分の言いたいことしか言わないなと思いつつ促すと、エリゴールは上着の内ポケットから白い封筒を取り出し、ヴァッサゴに突き出した。

「これだ」

 自分が見てもいいのだろうかと思ったが、こうして自ら出してくるということは、自分に見てもらいたいのだろう。
 仕方なく、開封済みのその封筒を受け取ったヴァッサゴは、中から退役願を引き抜くと、そこの余白に書かれているきれいな手書き文字を何となく読み上げた。

「……〝退役以外に願うことはないのか?〟」
「〝退役願〟なんだから、それ以外ないだろ」

 吐き捨てるようにエリゴールは言ったが、ヴァッサゴからすれば、パラディンの書きこみのほうに共感できる。
 だが、正直にそう言えば、ただでさえよくないエリゴールの機嫌が悪化するのは目に見えている。
 ヴァッサゴは退役願を封筒に戻すと、エリゴールの前のテーブルの上に静かに置いた。

「とにかくまあ、今はおまえに退役されたくないんだろ。マクスウェル大佐隊時代の罪滅ぼしだと思って、滅私奉公してやれよ」

 特に深く考えてした発言ではなかったが、意外なことにエリゴールは興味深そうに目を細めた。

「〝罪滅ぼし〟か。なかなかいいこと言うな。おまえ、こっちに来てから賢くなったな」
「おまえは逆にある部分、馬鹿になったような気がするよ……」

 しみじみそう言うと、一転してエリゴールは不快そうに顔をしかめた。

「ある部分? 大部分だろ」

 すかさず、ヴァッサゴは呟いた。

「〝すっかりひねくれちゃって〟」
「そのセリフを言うな!」

 班員たちは無関係なのに震え上がったが、怒鳴られたヴァッサゴは冷静に一言評した。

「トラウマだな」

 ――ヴァラクに切り捨てられたエリゴールの傷は深い。
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