トリッパーズ!

有喜多亜里

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第一話 召喚・勇者・そしてチート

25 推論推論推論

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「死体入れ……」
「棺桶ですらないんだね」

 鼻で笑った皆本は、黒い馬車を振り返った。
 二頭の茶色い馬は、停車した場所におとなしく立ちつづけていた。
 あいつらもアルガスのことはどうでもいいんだな。何となくそう思った。

「最初見たとき、霊柩車みてえだなって思ったんだよな」
「もしかして、あの馬車?」
「ああ。あの馬車」
「あながち、間違っていなかったね。ここは停車場で、勇者の屠殺場だった」
「皆本……おまえ、最初から全部知ってたのか?」

 思わずそう訊ねると、おどけたように肩をすくめられる。

「まさか! 僕は異世界トリップのお約束を踏まえて、推論に推論を重ねただけだよ。さっきは後回しにしたけど、あの魔王城は魔王が住んでいる城ではなくて、一種の象徴みたいなものだと僕は思ってる」
「象徴?」
「だいたい、夜がずっと続くなんておかしいと思わない?」

 皆本は苛立たしげにこの国の歴史を全否定した。

「地球で言ったら、自転が止まってるようなもんだよ? この国だってどっかの惑星の上にあるんだろうから、そんなことはありえない。だから、僕はこう推論する。――この国には百年ごとに稼働する、装置のようなものがある。それが稼働すると、一見、昼がなくなったように見えるが、国外に出ればちゃんと昼夜はある。僕はこの国全体を覆う半円状の結界のようなものを想像したけど、まあ、今となっては検証のしようもないからどうでもいい。重要なのは、その装置の象徴があの魔王城で、魔王城に対して何らかの外圧をかければ、一時的に装置は停止するっていうことだ。で、百年後に再稼働。以下略」
「あー……確かに作り物っぽい月だなあとは思ってたけど……でも、何でそんなもんが?」
「さあ? それは知らないよ。ただ、魔法系の何かじゃないかとは思ってる。魔王城が出現する場所を調査したら、きっと何かが見つかるだろうけど、そんな気概も好奇心もこの国にはなかったんだろうね。あと、魔物との関連も僕には不明。勇者を召喚すると一日だけ魔物が活動を停止するっていうところも含めて、ものすごく作為的な感じのする〝魔王降臨〟だよね。まるで誰かが作ったゲームみたいだ」
「ゲーム……」
「でも、本来ならこの世界とは関係ない、異世界の人間を巻きこむゲームなんて、とんだクソゲーだよ」

 吐き捨てるようにそう言うと、アルガスが持っている剣に目を落とす。

「それ、たぶん〝勇者の剣〟に似せて作られたんだよね? でも、その剣で切ったのは魔王城じゃなくて、魔王城を切ってくれた無抵抗の勇者だけだったんだ。――とことんクズだね」

 アルガスはちらっと自分の剣を見てから、傷口に消毒薬を流しこまれたみたいに顔を歪めた。
 その反応からすると、皆本の推測は当たっていたようだ。あと、似ていると思ったのは俺の気のせいじゃなかったことがわかった。
 でも、何で似せたんだろうな? 殺す相手の剣と似た剣なんて、俺には験が悪いとしか思えないんだが。
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