トリッパーズ!

有喜多亜里

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第一話 召喚・勇者・そしてチート

22 ぐっさりざっくり

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「何で俺を殺そうとしたんだ?」

 俺はアルガスに訊ねたのだが、それに答えたのは皆本だった。

「それがこの男の真の〝お役目〟だからだよ。御者役はついでだ。この国、本当に経費ケチるよね。御者くらい、別につけたらいいのに」
「いや、だから何のために」
「嫌な予感はしてたんだよな……」

 俺の問いを打ち消すように、今までずっと沈黙していたアルガスが口を開いた。

「今回は勇者が二人だって聞かされたときに……でも、殺さなきゃ殺されるからな……他に選択肢はなかった……」

 脂汗を流してはいるが、顔は自嘲するように笑っていて、口調もしっかりしている。心臓ぐっさり刺されてるのに、何でまだ生きてるんだろう。この世界の人間、俺たちよりも頑丈なのか?

「そんなの、僕らの知ったこっちゃないよ」

 吐き捨てるように皆本が言った。一瞬にしてアルガスから表情が消える。
 どうやら皆本の地雷を踏み抜いてしまったようだ。これほど激怒している皆本は初めて見た。俺にはどこが地雷だったのかよくわからないが。

「こっちにはあんたを生かしてやらなきゃならない義務も義理もない。まあ、いずれにしろ、勇者殺しに失敗したあんたは殺されるかな。勇者を殺さなきゃ殺されるんなら、勇者を殺せなくても殺されるよね?」
「勇者殺し?」

 アルガスを嘲笑う皆本にびびりつつも、俺的に引っかかった言葉を口にしたら、横目で皆本に睨みつけられた。――ひい! こええ!

「本当はこの〝顔だけ勇者〟に説明させたほうが早いんだろうけど、こいつの話を聞いてたらうっかり殺してしまうかもしれないから、先に僕の推論をざっくり話すよ」
「お、おう……お願いします……」

 あくまで推論だけど、と皆本は前置きした。アルガスは青くなってうつむいている。ざまあみろと笑いたいが笑えない。俺も今、あんな顔色してそうだ。

「昔、この国の誰かが異世界の人間を召喚した。本当は別のものを召喚しようとしたのかもしれないけど、とにかくその人間を魔王討伐に行かせたら、あっという間に魔王を倒して帰ってきた。僕は魔王イコールあの魔王城じゃないかと思ってるけど、それはひとまず置いといて、異世界の人間ならこんなに簡単に魔王を倒せると知ったこの国の人間たちは、今後は異世界の人間を召喚して魔王討伐をさせようと考えた。でも、いざ召喚してみたら、その人間はまったく使い物にならなくて、たぶん魔物か何かに殺されてしまった。その後、何人も召喚したが、やっぱり魔王は倒せない。普通だったらそこであきらめるところだけど、無駄に頭のいい奴がとんでもないことを思いついた。――異世界の人間なら誰でも魔王を倒せるわけではない。それなら、魔王を倒せたあの人間をもう一度召喚して、魔王討伐に行かせよう」

 ぶっちゃけ、皆本の話は立て板に水すぎて、途中でついていけなくなった。
 でも、最後の部分だけは、俺の残念な脳みそでも何とかわかった。
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