15 / 29
第一話 召喚・勇者・そしてチート
15 魔王城というよりシンデレラ城
しおりを挟む
霊柩車みたいな馬車には、透明なガラスが嵌めこまれた窓が三つあった。
まず、俺たちが使った左側の扉に一つ。その反対側にあった右側の扉にも一つ。残りの一つは正面にあって、アルガスのいる御者台と接していた。
城壁の扉がゆっくりと開かれ、その窓からアルガスの頭以外のものが見えたとき、思わず口から心の声がこぼれ出た。
「魔王城って、あれか?」
独り言みたいなもんだったから、皆本の答えは期待していなかったが、皆本は俺の右隣からそっけなく返してきた。
「あれだろうね。方角的に」
「何つーか……魔王城っていうより、シンデレラ城みてえだよな」
「あまり同意はしたくないけど、一言で言うとそれだね」
城壁のすぐ外にあったのは、湖のようにも見える広大な草原と、その草原を左右に区切っている幅広の白っぽい道――たぶん、例の〝勇者の道〟だった。
その道は、地平線を覆っている黒い固まり――ドームよりランドで換算したほうがよさそうな森に向かって一直線に伸びていて、その延長線上に、皆本も認めたシンデレラ城もどきがあった。
何というか、ミニチュアの富士山の山頂を縦に思いきり長くして、その上にやっぱりミニチュアのシンデレラ城をくっつけたみたいだ。ここからどれくらい離れているかわからないから、山の高さも城の大きさも俺にはわからないが、あのでかい月のせいで、まるで影絵みたいに見える。
と、馬車が動き出し、〝勇者の道〟の上を静かに走りはじめた。
道は平らな石と漆喰か何かで舗装してあるようだ。城壁の中にいるときより、乗り心地は格段によくなった。ひとまずそのことにほっとした俺は、改めて魔王城を見た。
「あの山……どうやって登ればいいんだ?」
いや、そもそもあんなところにあんな城をどうやって建てたのか。
ついついそんなことを考えていると、皆本が呆れたように「君が悩むの、そこなんだ」と言った。
「え? だって、ロープウェイもケーブルカーもなさそうだろ?」
「まあ、ないだろうね。たぶん、登山道も」
正面の窓の両脇には、コミコスじいさんの素通し提灯みたいなのが一個ずつぶら下げられている。車内をくまなく照らし出せるほど明るくはないが、皆本が哀れむような眼差しを俺に向けているのははっきりとわかった。
「でも、それ以前に、どうして僕らがそんなことを悩まなくちゃならないのかって疑問に思わない?」
「そりゃそうだけど、魔王倒さないと、帰してもらえないんだろ?」
「そう、そこも僕には疑問だよ」
そう言って、今は俺の膝の上にある〝勇者の剣〟に目を移す。武器庫から持ち出すとき、何となくまた元のように布でぐるぐる巻きにした。
「君、その剣で魔王を倒せるって本気で思ってるの? っていうか、君は魔王が怖くはないの?」
「怖い……」
そういえばそうだな。呟いてみて、初めて気がついた。
まず、俺たちが使った左側の扉に一つ。その反対側にあった右側の扉にも一つ。残りの一つは正面にあって、アルガスのいる御者台と接していた。
城壁の扉がゆっくりと開かれ、その窓からアルガスの頭以外のものが見えたとき、思わず口から心の声がこぼれ出た。
「魔王城って、あれか?」
独り言みたいなもんだったから、皆本の答えは期待していなかったが、皆本は俺の右隣からそっけなく返してきた。
「あれだろうね。方角的に」
「何つーか……魔王城っていうより、シンデレラ城みてえだよな」
「あまり同意はしたくないけど、一言で言うとそれだね」
城壁のすぐ外にあったのは、湖のようにも見える広大な草原と、その草原を左右に区切っている幅広の白っぽい道――たぶん、例の〝勇者の道〟だった。
その道は、地平線を覆っている黒い固まり――ドームよりランドで換算したほうがよさそうな森に向かって一直線に伸びていて、その延長線上に、皆本も認めたシンデレラ城もどきがあった。
何というか、ミニチュアの富士山の山頂を縦に思いきり長くして、その上にやっぱりミニチュアのシンデレラ城をくっつけたみたいだ。ここからどれくらい離れているかわからないから、山の高さも城の大きさも俺にはわからないが、あのでかい月のせいで、まるで影絵みたいに見える。
と、馬車が動き出し、〝勇者の道〟の上を静かに走りはじめた。
道は平らな石と漆喰か何かで舗装してあるようだ。城壁の中にいるときより、乗り心地は格段によくなった。ひとまずそのことにほっとした俺は、改めて魔王城を見た。
「あの山……どうやって登ればいいんだ?」
いや、そもそもあんなところにあんな城をどうやって建てたのか。
ついついそんなことを考えていると、皆本が呆れたように「君が悩むの、そこなんだ」と言った。
「え? だって、ロープウェイもケーブルカーもなさそうだろ?」
「まあ、ないだろうね。たぶん、登山道も」
正面の窓の両脇には、コミコスじいさんの素通し提灯みたいなのが一個ずつぶら下げられている。車内をくまなく照らし出せるほど明るくはないが、皆本が哀れむような眼差しを俺に向けているのははっきりとわかった。
「でも、それ以前に、どうして僕らがそんなことを悩まなくちゃならないのかって疑問に思わない?」
「そりゃそうだけど、魔王倒さないと、帰してもらえないんだろ?」
「そう、そこも僕には疑問だよ」
そう言って、今は俺の膝の上にある〝勇者の剣〟に目を移す。武器庫から持ち出すとき、何となくまた元のように布でぐるぐる巻きにした。
「君、その剣で魔王を倒せるって本気で思ってるの? っていうか、君は魔王が怖くはないの?」
「怖い……」
そういえばそうだな。呟いてみて、初めて気がついた。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
視線の先
茉莉花 香乃
BL
放課後、僕はあいつに声をかけられた。
「セーラー服着た写真撮らせて?」
……からかわれてるんだ…そう思ったけど…あいつは本気だった
ハッピーエンド
他サイトにも公開しています
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
台風の目はどこだ
あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。
政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。
そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。
✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台
✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました)
✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様
✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様
✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様
✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様
✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。
✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる