7 / 29
第一話 召喚・勇者・そしてチート
07 下の名前は知らなかった
しおりを挟む
不機嫌さを隠そうともしなくなった王様の前から、まるで罪人のように引っ立てられた俺たちは、またコミコスじいさんに先導されて(もちろん兵隊の監視つきで)、今度は地下にある秘密の武器庫とやらに案内された。
「勇者様専用の武器庫です。お好きなものをお一つだけお選びください」
うやうやしくじいさんに言われたが、正直言って俺は途方に暮れた。
「お好きなものって言われても……」
剣だの槍だの鎧だの、とにかく武器類には興味がない。有名なファンタジー映画の小道具展示会とかだったら、まだ真剣に見る気になったかもしれないが。
ここは王様と会った部屋よりははるかに狭いが、魔法円があったあの部屋よりはずっと広い。地下だから当然窓は一つもなく、明かりは壁に灯された松明とじいさんの素通し提灯だけだ。って言うか、地下じゃなくても、今んとこまだこの城内で窓は一つも見かけていない。寒いというほどではないが部屋の空気はひんやりしていて、防虫剤みたいな臭いもした。
ただでさえ興味も知識もないのに、炎の淡い光だけじゃ、何が何だかよくわからない。
でも、皆本ならわかるかも。とりあえず、俺より頭はいい。俺は俺以上に気のない様子で腕組みをしている皆本に声をかけた。
「おい、皆本」
皆本は一拍おいて俺を見た。
「僕の名前、知ってたんだ」
「はあ?」
てっきり皆本お得意の嫌味だと思って顔をしかめたが、よくよく観察してみれば、本気で驚いているようだった。
「そりゃ知ってるに決まってるだろ。同じクラスだぞ」
「そう? じゃあ、クラスメイトの名前、全員言える?」
もちろんだと答えようとしたが、手はじめに皆本の後ろの席にいた奴の名前を言おうと思った瞬間、俺はその気を失った。
「悪い。全員は無理だ」
「正直……いや、馬鹿正直だね」
「おまえこそ、俺の名前知ってるのか?」
ふと思いついて訊ね返したら、蔑むような眼差しを向けられた。
「君が僕の名前を知ってるなら、僕が知らないわけないじゃないか。……武村くんだろ。武村慶くん」
「ええ!?」
驚きのあまり、俺は二、三歩後ずさった。
「おまえ、俺の下の名前まで知ってるのか? 何で?」
「何でって……」
そんなことを訊かれるほうがわからないと言いたげな顔をしていた皆本だったが、急に合点がいったようにうなずいた。
「そうか。君は僕の下の名前は知らないんだね」
頭のいい奴はこれだから嫌いだ。
「まあ、知らないなら知らないでいいけど。僕、自分の名前は好きじゃないから」
そう言われたら、かえって知りたくなるのが人情だと思う。押すな押すなって言われたら、押してやるのがお約束ってもんだろう。
「じゃあ、呼ばないから教えてくれ」
俺としては最大限譲歩したつもりだったが、皆本はこの薄暗い部屋の中でもわかるくらい不愉快そうな表情を浮かべた。
「君は日本語もわからないの?」
「だから、呼ばないって言ってるじゃねえかよ」
「呼ばないなら知らなくてもいいじゃないか」
「おまえは俺の名前知ってるのに、俺が知らないのは不公平だろ」
そう反論してしまってから、自分でも頭の悪いことを言っているなと反省したが、意外なことに皆本は俺を馬鹿にはしなかった。
「まあ、一理あるね。なら教えるけど、約束どおり、絶対に呼ばないように」
真顔で念押しした後、いかにも不本意そうに皆本は言った。
「勇者様専用の武器庫です。お好きなものをお一つだけお選びください」
うやうやしくじいさんに言われたが、正直言って俺は途方に暮れた。
「お好きなものって言われても……」
剣だの槍だの鎧だの、とにかく武器類には興味がない。有名なファンタジー映画の小道具展示会とかだったら、まだ真剣に見る気になったかもしれないが。
ここは王様と会った部屋よりははるかに狭いが、魔法円があったあの部屋よりはずっと広い。地下だから当然窓は一つもなく、明かりは壁に灯された松明とじいさんの素通し提灯だけだ。って言うか、地下じゃなくても、今んとこまだこの城内で窓は一つも見かけていない。寒いというほどではないが部屋の空気はひんやりしていて、防虫剤みたいな臭いもした。
ただでさえ興味も知識もないのに、炎の淡い光だけじゃ、何が何だかよくわからない。
でも、皆本ならわかるかも。とりあえず、俺より頭はいい。俺は俺以上に気のない様子で腕組みをしている皆本に声をかけた。
「おい、皆本」
皆本は一拍おいて俺を見た。
「僕の名前、知ってたんだ」
「はあ?」
てっきり皆本お得意の嫌味だと思って顔をしかめたが、よくよく観察してみれば、本気で驚いているようだった。
「そりゃ知ってるに決まってるだろ。同じクラスだぞ」
「そう? じゃあ、クラスメイトの名前、全員言える?」
もちろんだと答えようとしたが、手はじめに皆本の後ろの席にいた奴の名前を言おうと思った瞬間、俺はその気を失った。
「悪い。全員は無理だ」
「正直……いや、馬鹿正直だね」
「おまえこそ、俺の名前知ってるのか?」
ふと思いついて訊ね返したら、蔑むような眼差しを向けられた。
「君が僕の名前を知ってるなら、僕が知らないわけないじゃないか。……武村くんだろ。武村慶くん」
「ええ!?」
驚きのあまり、俺は二、三歩後ずさった。
「おまえ、俺の下の名前まで知ってるのか? 何で?」
「何でって……」
そんなことを訊かれるほうがわからないと言いたげな顔をしていた皆本だったが、急に合点がいったようにうなずいた。
「そうか。君は僕の下の名前は知らないんだね」
頭のいい奴はこれだから嫌いだ。
「まあ、知らないなら知らないでいいけど。僕、自分の名前は好きじゃないから」
そう言われたら、かえって知りたくなるのが人情だと思う。押すな押すなって言われたら、押してやるのがお約束ってもんだろう。
「じゃあ、呼ばないから教えてくれ」
俺としては最大限譲歩したつもりだったが、皆本はこの薄暗い部屋の中でもわかるくらい不愉快そうな表情を浮かべた。
「君は日本語もわからないの?」
「だから、呼ばないって言ってるじゃねえかよ」
「呼ばないなら知らなくてもいいじゃないか」
「おまえは俺の名前知ってるのに、俺が知らないのは不公平だろ」
そう反論してしまってから、自分でも頭の悪いことを言っているなと反省したが、意外なことに皆本は俺を馬鹿にはしなかった。
「まあ、一理あるね。なら教えるけど、約束どおり、絶対に呼ばないように」
真顔で念押しした後、いかにも不本意そうに皆本は言った。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。



ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる