1 / 29
第一話 召喚・勇者・そしてチート
01 イセカイとリップ?
しおりを挟む
椅子があるつもりで後ろを見ないで座ったらなかった。ちょうどあんな感じだった。
「いってえッ!」
尾てい骨を思いきり打って、俺は思いきり叫んだ。が、前方に立っているものが視界に入った瞬間、その痛みを忘れた。
全身黒ずくめの、いかにも魔法使いって格好をしたサンタクロース顔のじいさん。俺以上に驚いた様子で青い目を見張っていた。
お互い、何か言いたくても言い出せない。そのとき、俺の右隣から醒めた声が降ってきた。
「君がM字開脚しても、あの人はきっと喜んでくれないと思うよ」
はっとして見上げれば、腕組みをした皆本が無表情に俺を見下ろしていた。
言いたいことはいくらでもあったが――おまえ、よりにもよって第一声がそれかよとか――その前にあわてて両足を引き寄せてあぐらをかいた。ちなみに、俺は皆本と同じく、制服のグレーのブレザーを着ている。当然、ズボンも穿いている。断じてマッパじゃない。
「おまえ、何でここに?」
改めてそう訊ねると、皆本は銀縁眼鏡を掛けた目をじいさんに向けた。
「それはあの人に訊いてよ。あの人が原因らしいから」
俺は皆本からじいさんに視線を戻した。
「そんな……勇者が二人……!?」
信じられないように呟くじいさんの言葉は、間違いなく日本語だった。
「どう見ても外人なのに、日本語うまいな」
じいさんには聞こえないように小声で言ったら、皆本が同じくらいの声量で囁き返してきた。
「たぶん、向こうは日本語しゃべってないよ。僕らのほうが向こうに合わせて会話できるようになったんだよ」
「何で!?」
驚いてまた皆本を見上げると、皆本は眼鏡の真ん中(正式名称はあるんだろうが俺は知らない)を右の人差指で持ち上げてから答えた。
「それはもう、異世界トリップのお約束だよ」
「イセカイトリップ?」
何じゃそりゃ? イセカイとリップ?
俺の表情で意味がわかっていないことがわかったのか、皆本は眼鏡の奥の細い目をさらに細めた。
「君、『トリップ』って言葉の意味、知ってる?」
「トリップ……ストリップとは関係ないよな?」
「それでよく高校入れたね」
「俺の学力は入学試験中がマックスだった」
「そのマックスは常人のミニマムだったんじゃないかと思うけど。……麻薬や覚醒剤の幻覚症状のこともそう言うけど、一般的には『旅行』とか『小旅行』っていう意味だよ」
「じゃあ、イセカイってのは?」
「〝異なる世界〟。つまり、何らかの原因で、今までいた世界とは違う世界に行ってしまうことを〝異世界トリップ〟って言うんだ」
俺は少し考えてから、また皆本に訊ねた。
「何らかの原因って?」
もう口で答えるのが面倒になったのか、皆本は人差指で床を指した。
その指先を追って木製の床に目を落とすと、見るからに怪しげな赤黒い模様が、俺たちを囲いこむように円形に描かれていた。
まるで魔法使いが描いた魔法円みたいな……って、もしかして、そうなのか?
「いってえッ!」
尾てい骨を思いきり打って、俺は思いきり叫んだ。が、前方に立っているものが視界に入った瞬間、その痛みを忘れた。
全身黒ずくめの、いかにも魔法使いって格好をしたサンタクロース顔のじいさん。俺以上に驚いた様子で青い目を見張っていた。
お互い、何か言いたくても言い出せない。そのとき、俺の右隣から醒めた声が降ってきた。
「君がM字開脚しても、あの人はきっと喜んでくれないと思うよ」
はっとして見上げれば、腕組みをした皆本が無表情に俺を見下ろしていた。
言いたいことはいくらでもあったが――おまえ、よりにもよって第一声がそれかよとか――その前にあわてて両足を引き寄せてあぐらをかいた。ちなみに、俺は皆本と同じく、制服のグレーのブレザーを着ている。当然、ズボンも穿いている。断じてマッパじゃない。
「おまえ、何でここに?」
改めてそう訊ねると、皆本は銀縁眼鏡を掛けた目をじいさんに向けた。
「それはあの人に訊いてよ。あの人が原因らしいから」
俺は皆本からじいさんに視線を戻した。
「そんな……勇者が二人……!?」
信じられないように呟くじいさんの言葉は、間違いなく日本語だった。
「どう見ても外人なのに、日本語うまいな」
じいさんには聞こえないように小声で言ったら、皆本が同じくらいの声量で囁き返してきた。
「たぶん、向こうは日本語しゃべってないよ。僕らのほうが向こうに合わせて会話できるようになったんだよ」
「何で!?」
驚いてまた皆本を見上げると、皆本は眼鏡の真ん中(正式名称はあるんだろうが俺は知らない)を右の人差指で持ち上げてから答えた。
「それはもう、異世界トリップのお約束だよ」
「イセカイトリップ?」
何じゃそりゃ? イセカイとリップ?
俺の表情で意味がわかっていないことがわかったのか、皆本は眼鏡の奥の細い目をさらに細めた。
「君、『トリップ』って言葉の意味、知ってる?」
「トリップ……ストリップとは関係ないよな?」
「それでよく高校入れたね」
「俺の学力は入学試験中がマックスだった」
「そのマックスは常人のミニマムだったんじゃないかと思うけど。……麻薬や覚醒剤の幻覚症状のこともそう言うけど、一般的には『旅行』とか『小旅行』っていう意味だよ」
「じゃあ、イセカイってのは?」
「〝異なる世界〟。つまり、何らかの原因で、今までいた世界とは違う世界に行ってしまうことを〝異世界トリップ〟って言うんだ」
俺は少し考えてから、また皆本に訊ねた。
「何らかの原因って?」
もう口で答えるのが面倒になったのか、皆本は人差指で床を指した。
その指先を追って木製の床に目を落とすと、見るからに怪しげな赤黒い模様が、俺たちを囲いこむように円形に描かれていた。
まるで魔法使いが描いた魔法円みたいな……って、もしかして、そうなのか?
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話
みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。
数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品
風紀“副”委員長はギリギリモブです
柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。
俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。
そう、“副”だ。あくまでも“副”。
だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに!
BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。
百色学園高等部
shine
BL
やっほー
俺、唯利。
フランス語と英語と日本語が話せる、
チャラ男だよっ。
ま、演技に近いんだけどね~
だってさ、皆と仲良くしたいじゃん。元気に振る舞った方が、印象良いじゃん?いじめられるのとか怖くてやだしー
そんでもって、ユイリーンって何故か女の子っぽい名前でよばれちゃってるけどぉ~
俺はいじられてるの?ま、いっか。あだ名つけてもらったってことにしよ。
うんうん。あだ名つけるのは仲良くなった証拠だっていうしねー
俺は実は病気なの??
変なこというと皆に避けられそうだから、隠しとこー
ってな感じで~
物語スタート~!!
更新は不定期まじごめ。ストーリーのストックがなくなっちゃって…………涙。暫く書きだめたら、公開するね。これは質のいいストーリーを皆に提供するためなんよ!!ゆるしてぇ~R15は保険だ。
病弱、無自覚、トリリンガル、美少年が、総受けって話にしたかったんだけど、キャラが暴走しだしたから……どうやら、……うん。切ない系とかがはいりそうだなぁ……
俺にはラブラブな超絶イケメンのスパダリ彼氏がいるので、王道学園とやらに無理やり巻き込まないでくださいっ!!
しおりんごん
BL
俺の名前は 笹島 小太郎
高校2年生のちょっと激しめの甘党
顔は可もなく不可もなく、、、と思いたい
身長は170、、、行ってる、、、し
ウルセェ!本人が言ってるんだからほんとなんだよ!
そんな比較的どこにでもいそうな人柄の俺だが少し周りと違うことがあって、、、
それは、、、
俺には超絶ラブラブなイケメン彼氏がいるのだ!!!
容姿端麗、文武両道
金髪碧眼(ロシアの血が多く入ってるかららしい)
一つ下の学年で、通ってる高校は違うけど、一週間に一度は放課後デートを欠かさないそんなスパダリ完璧彼氏!
名前を堂坂レオンくん!
俺はレオンが大好きだし、レオンも俺が大好きで
(自己肯定感が高すぎるって?
実は付き合いたての時に、なんで俺なんか、、、って1人で考えて喧嘩して
結局レオンからわからせという名のおしお、(re
、、、ま、まぁレオンからわかりやすすぎる愛情を一思いに受けてたらそりゃ自身も出るわなっていうこと!)
ちょうどこの春レオンが高校に上がって、それでも変わりないラブラブな生活を送っていたんだけど
なんとある日空から人が降って来て!
※ファンタジーでもなんでもなく、物理的に降って来たんだ
信じられるか?いや、信じろ
腐ってる姉さんたちが言うには、そいつはみんな大好き王道転校生!
、、、ってなんだ?
兎にも角にも、そいつが現れてから俺の高校がおかしくなってる?
いやなんだよ平凡巻き込まれ役って!
あーもう!そんな睨むな!牽制するな!
俺には超絶ラブラブな彼氏がいるからそっちのいざこざに巻き込まないでくださいっ!!!
※主人公は固定カプ、、、というか、初っ端から2人でイチャイチャしてるし、ずっと変わりません
※同姓同士の婚姻が認められている世界線での話です
※王道学園とはなんぞや?という人のために一応説明を載せていますが、私には文才が圧倒的に足りないのでわからないままでしたら、他の方の作品を参照していただきたいです🙇♀️
※シリアスは皆無です
終始ドタバタイチャイチャラブコメディでおとどけします
BL学園の姫になってしまいました!
内田ぴえろ
BL
人里離れた場所にある全寮制の男子校、私立百華咲学園。
その学園で、姫として生徒から持て囃されているのは、高等部の2年生である白川 雪月(しらかわ ゆづき)。
彼は、前世の記憶を持つ転生者で、前世ではオタクで腐女子だった。
何の因果か、男に生まれ変わって男子校に入学してしまい、同じ転生者&前世の魂の双子であり、今世では黒騎士と呼ばれている、黒瀬 凪(くろせ なぎ)と共に学園生活を送ることに。
歓喜に震えながらも姫としての体裁を守るために腐っていることを隠しつつ、今世で出来たリアルの推しに貢ぐことをやめない、波乱万丈なオタ活BL学園ライフが今始まる!
元会計には首輪がついている
笹坂寧
BL
【帝華学園】の生徒会会計を務め、無事卒業した俺。
こんな恐ろしい学園とっとと離れてやる、とばかりに一般入試を受けて遠く遠くの公立高校に入学し、無事、魔の学園から逃げ果すことが出来た。
卒業式から入学式前日まで、誘拐やらなんやらされて無理くり連れ戻されでもしないか戦々恐々としながら前後左右全ての気配を探って生き抜いた毎日が今では懐かしい。
俺は無事高校に入学を果たし、無事毎日登学して講義を受け、無事部活に入って友人を作り、無事彼女まで手に入れることが出来たのだ。
なのに。
「逃げられると思ったか?颯夏」
「ーーな、んで」
目の前に立つ恐ろしい男を前にして、こうも身体が動かないなんて。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる