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02 第三者視点
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航法コンピュータ技師――ハリー・キャンベルは、人懐っこいようでいて、実は人見知りである。
ゆえに、同じ〝出向部下〟の一人である通信技師は、船長の次に彼に話しかけられていた。
しかし、たまたまハリーと二人だけで通信機器のチェック作業をしていた昼下がり、唐突にハリーにこう訊ねられ、あと少しで押してはならないボタンを押しそうになった。
「なあ。俺、船長に嫌われてる?」
「いったい何を根拠に……」
心を落ち着かせてから問い返すと、〝人見知り〟はしゅんとした様子で褐色の頭を下げた。
「何か最近、船長に避けられてるような気がして……仕事の話は聞いてくれるけど、それ以外のこと話そうとすると、すぐ逃げられちゃうし……」
「そりゃ、向こうは船長なんだから、おまえの無駄話に付き合ってる暇なんかないだろ。でも、嫌ってはいないと思うぞ。……たぶん」
「嫌ってるから無駄話に付き合ってくれないんだと思うんだけど……」
ハリーがぼそぼそ言うのを聞いて、正直、通信技師は一理あると思った。
「おまえ、そんなにあの船長に嫌われたくないのか? あの人は期間限定の上司だぞ? もし本当に嫌われてたとしても、この試験航海が終わったら、まず会うことはない」
「そうだけど……だから余計に嫌われたくないっていうか……船長、かっこいいだろ?」
通信技師は言葉を失ったが、子供のように瞳を輝かせているハリーを見て、ようよう答えた。
「まあ……確かにな。まだ若いのに、風格あるよな。ガタイもいいし、動作もきびきびしてるし」
「声もすごくいいんだ。……俺とはあんまりしゃべってくれないけど」
そこで、ハリーは再び落ちこんで、深くうつむいてしまった。
「うーん……好かれたくていろいろしてみても、かえって裏目に出ることのほうが多いからなあ……仕事の話はできるんだから、現状維持でいいんじゃないか現状維持で」
「俺のどこが嫌いなんだろう……顔がガキっぽいとこ?」
「おーい、俺の話、聞いてるかー? それに、〝嫌い〟かどうかはまだ未確定だろうが」
「確定しちゃったら、たぶん俺、試験航海が終わるまで、自分の部屋から出てこれなくなる……」
内心、面倒くさい奴だと通信技師は舌打ちしたが、〝動く密室〟である宇宙船の中で、そのトップである船長に嫌われているかもしれないというのは、充分不安材料となる。気持ちはわからないでもなかった。
「じゃあ、未確定のまま、試験航海終了まで耐えてろよ。ところでおまえ、もう少し他の船員たちとも話したらどうだ? 向こうは明らかにおまえに対して好意的だろ。船長とは違って」
ついでにそう注意すると、ハリーは困惑した顔を通信技師に向けた。
「話が続かないんだ」
「は?」
「家族はもう全員死んでるし、これといった趣味もないし……他に話題も思いつかなくて、話が続かない」
「船長とは話したいんだろ? 同じこと、話題にしたらいいんじゃないのか?」
「たとえばだけど、船長が好きな食べ物のことを船員さんたちに訊くのは、船長にも船員さんたちにも失礼にあたらないかな?」
「おまえも気は遣ってるんだな。それなりに」
通信技師はおざなりにそう答えて、この埒が明かない相談を一方的に打ち切った。
ゆえに、同じ〝出向部下〟の一人である通信技師は、船長の次に彼に話しかけられていた。
しかし、たまたまハリーと二人だけで通信機器のチェック作業をしていた昼下がり、唐突にハリーにこう訊ねられ、あと少しで押してはならないボタンを押しそうになった。
「なあ。俺、船長に嫌われてる?」
「いったい何を根拠に……」
心を落ち着かせてから問い返すと、〝人見知り〟はしゅんとした様子で褐色の頭を下げた。
「何か最近、船長に避けられてるような気がして……仕事の話は聞いてくれるけど、それ以外のこと話そうとすると、すぐ逃げられちゃうし……」
「そりゃ、向こうは船長なんだから、おまえの無駄話に付き合ってる暇なんかないだろ。でも、嫌ってはいないと思うぞ。……たぶん」
「嫌ってるから無駄話に付き合ってくれないんだと思うんだけど……」
ハリーがぼそぼそ言うのを聞いて、正直、通信技師は一理あると思った。
「おまえ、そんなにあの船長に嫌われたくないのか? あの人は期間限定の上司だぞ? もし本当に嫌われてたとしても、この試験航海が終わったら、まず会うことはない」
「そうだけど……だから余計に嫌われたくないっていうか……船長、かっこいいだろ?」
通信技師は言葉を失ったが、子供のように瞳を輝かせているハリーを見て、ようよう答えた。
「まあ……確かにな。まだ若いのに、風格あるよな。ガタイもいいし、動作もきびきびしてるし」
「声もすごくいいんだ。……俺とはあんまりしゃべってくれないけど」
そこで、ハリーは再び落ちこんで、深くうつむいてしまった。
「うーん……好かれたくていろいろしてみても、かえって裏目に出ることのほうが多いからなあ……仕事の話はできるんだから、現状維持でいいんじゃないか現状維持で」
「俺のどこが嫌いなんだろう……顔がガキっぽいとこ?」
「おーい、俺の話、聞いてるかー? それに、〝嫌い〟かどうかはまだ未確定だろうが」
「確定しちゃったら、たぶん俺、試験航海が終わるまで、自分の部屋から出てこれなくなる……」
内心、面倒くさい奴だと通信技師は舌打ちしたが、〝動く密室〟である宇宙船の中で、そのトップである船長に嫌われているかもしれないというのは、充分不安材料となる。気持ちはわからないでもなかった。
「じゃあ、未確定のまま、試験航海終了まで耐えてろよ。ところでおまえ、もう少し他の船員たちとも話したらどうだ? 向こうは明らかにおまえに対して好意的だろ。船長とは違って」
ついでにそう注意すると、ハリーは困惑した顔を通信技師に向けた。
「話が続かないんだ」
「は?」
「家族はもう全員死んでるし、これといった趣味もないし……他に話題も思いつかなくて、話が続かない」
「船長とは話したいんだろ? 同じこと、話題にしたらいいんじゃないのか?」
「たとえばだけど、船長が好きな食べ物のことを船員さんたちに訊くのは、船長にも船員さんたちにも失礼にあたらないかな?」
「おまえも気は遣ってるんだな。それなりに」
通信技師はおざなりにそう答えて、この埒が明かない相談を一方的に打ち切った。
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