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【03】マクスウェルの悪魔たち(下)
26 悪魔がいました(前)
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「ムルムスが自殺したぞ」
パラディン大佐隊十二班第一号の待機室に入室したアンドラスは、すでに自分専用の椅子に座っていたザボエスに開口一番そう言われ、何と答えればいいのか一瞬迷った。
そのことはエリゴールからの電話でとうに知っている。しかし、それをこの男に明かしてしまっていいのか? 犬猿の仲のはずのエリゴールとつながっていることは、隠しておいたほうがいいのではないか?
だが、アンドラスが出方を決めるより先に、ザボエスのほうが彼の表情から〝答え〟を読みとった。
「ああ、もう知ってたか。別に口止めしてたわけじゃねえしなあ」
「あ、ああ……」
これ幸いとばかりに、アンドラスはあわててうなずく。彼にそのことを教えた者は、エリゴール以外誰もいなかったが――自宅待機となってからは、彼の元部下たちでさえ、電話一本メール一通、よこしてはこなかった――ザボエスが勝手にそう思ってくれるなら、わざわざ訂正する必要はない。
「俺らも驚いたが、まあ、死にてえ奴は死にてえときに死ねたほうが幸せかもな。大佐や俺らには大迷惑だったけどよ」
「何か処分を受けたのか?」
「いや。俺らには何もなかったが、もしかしたら、大佐はこっそり受けてるかもしれねえな。……あ、大佐で思い出した。おまえが来たら、すぐに大佐の執務室に来るようにって伝言されてたんだった。何の用かは聞いてねえが、今すぐ行ってこい」
「大佐が?」
思わず声が跳ね上がった。
パラディンが自分を? いったい何の用で? 予定では、呼び出しを受けるのは自分ではなくヴァッサゴのはずだ。そこまで考えて、アンドラスは待機室内を見渡した。
「何だ? どした?」
「いや……ヴァッサゴは……まだ来てねえのか?」
「ああ、ヴァッサゴか。あいつは大佐の指示で、今日は朝からロノウェんとこに〝出向〟だそうだ。本人も不思議がってたが、〝上官命令〟にゃ逆らえねえからな」
ザボエスは意味ありげに笑うと、ほら早く行けよと巨大な親指を待機室の自動ドアに向けた。
釈然としないものを感じたが、確かに〝上官命令〟には逆らえない。後ろ暗いところのあるアンドラスは、不安に震えながらも、パラディンの執務室に向かった。
「おはよう」
まだ若く美しい黒髪の〝大佐〟は、執務机から立ち上がることなく、鷹揚にアンドラスを迎え入れた。
「こみいった話ではないから、そこで立ったまま聞いてもらえるかな。これなんだが、書いたのは君だね?」
そう言いながら、パラディンが右手で掲げてみせたのは、透明なビニール袋に入れられた転属願と封筒だった。
その瞬間、アンドラスの心臓は目に見えない冷たい手に鷲づかみにされた。
なぜだ? 自分はエリゴールに言われたとおりにしたのに、なぜパラディンにばれた?
「ずいぶん驚いた顔をしているね。私には君のその驚きのほうが驚きだよ。そもそも、ばれないはずがないだろう? これが総務から届けられてすぐ、ヴァッサゴ中佐に確認をとった。彼はもちろんこんなものは出した覚えはないと答えた。これがヴァッサゴ中佐が書いたものではないことは、うちにある彼の転属願の写しの筆跡で我々にもわかる。では、誰がこんなに幼稚で悪質な悪戯をしたのか? たぶん、うちの隊員の誰かじゃないかと当たりをつけて、うちの調査班にこの封筒と転属願に付着していた指紋を調べさせたら、あっというまに判明したよ。……アンドラス中佐。君だって」
――筆跡! 指紋!
アンドラスは薄青の目を剥いて、自分が書いた転属願と封筒を凝視した。
まったく、口に出すのも馬鹿馬鹿しいくらい当たり前のことだった。せめて、ヴァッサゴの筆跡を真似て書き、指紋もいっさい残さないようにしなければ、すぐにこうしてばれるに決まっている。
そして、このような〝幼稚で悪質な悪戯〟をした男を、〝マクスウェルよりはまし〟なこの大佐が、班長どころか副班長にも任命するはずがない。彼の鋭い金色の目が、はっきりそう告げている。
「アンドラス中佐。君が何の目的でこんなことをしたのかはあえて訊かない」
パラディンはビニール袋を執務机の上に戻すと、両手を組んでその上に細い顎を載せた。
「そのかわり、君に三つの選択肢を提示する。一。今度は君の名前でコールタン大佐隊に転属願を出す。向こうには必ず受理してくれるようメールを入れておくから、絶対に却下されることはない。二。今日中に私に退役願を提出する。もちろん私はすぐに受理して、君の都合のいいように処理しよう。そして、最後の三。君が先の一も二も選択しなかった場合、私は君がしたことを公にして、どんな手段を使ってでも除隊に追いこむ」
ごくりとアンドラスは喉を鳴らした。パラディンにはもうアンドラスを自隊に残すつもりはまったくない。コールタン大佐隊への転属も選択肢に入れてはいるが、本命は二――〝自己都合退職〟だ。
アンドラスにとっても、この二がいちばん有利だろう。コールタンのところでは、こことは比較にならないくらいひどい扱いをされるのは目に見えている。
しかし、この艦隊で生き残るためになりふりかまわずやってきたというのに、よりにもよってこんな終わり方をさせられるなど、あまりにも悔しすぎる。そう思ったとき、アンドラスの中で何かがぷつんと切れた。
「エリゴールが……エリゴールが言ったんです!」
気づいたときには、アンドラスはそう叫んでいた。パラディンは軽く目を見張ったが、アンドラスに黙れとは命じなかった。
「出撃前にエリゴールが電話してきて、ヴァッサゴの転属願書いて総務に郵送しろって俺に言ったんです! 俺をクビにするんなら、あいつもクビにしてください! いや、あいつが俺を騙したんです! あいつはそういう奴なんです! 〝人切り〟なんです、悪魔なんです! 俺はあいつにはめられただけなんです!」
そうだ。エリゴールは自分を罠にはめたのだ。こうして〝自己都合退職〟させるために、副班長の話をちらつかせて自分の判断力を鈍らせ、筆跡にも指紋にも言及せずに偽の転属願を書かせたのだ。
ヴァッサゴにとっては自分は〝加害者〟かもしれないが、自分もまた〝被害者〟である。本当の〝加害者〟であるエリゴールこそ、真っ先に罰せられるべきだ。
そこそこ整った顔を歪ませて狂ったように叫ぶ男を、パラディンはじっと無表情に眺めていた。副官用の執務机にいたパラディンの副官はひそかに麻酔銃を用意して、いつでもアンドラスを撃てる態勢をとっていたが、そのことにはアンドラスは最後まで気づかなかった。
「そうか」
叫び終えて息を弾ませているアンドラスに、パラディンは静かにそう言った。
「君の言い分はよくわかった。その上で君に訊ねたい。……君はエリゴール中佐にそう言われたとき、なぜそんなことはできないと断らなかったのかね? 何か断れない、特別な事情でもあったのかな?」
アンドラスは呼吸をすることを忘れて、重厚な執務机の向こう側にいる〝大佐〟を見た。
組んだ両手に顎を載せた格好のまま、パラディンは薄く微笑みかける。
「どうした? エリゴール中佐は君を騙したんだろう? 具体的に何と言って騙したんだい? それとも、ここにエリゴール中佐を呼び出して、直接彼から訊いたほうが早いかな? 彼はすでに退役を願い出ているから、何でも包み隠さず話してくれるだろう」
アンドラスは何度か唇を動かして、ようやくこれだけ言うことができた。
「た……退役……?」
「そう。君に言われるまでもなく、エリゴール中佐は退役を希望している。君の言を信じるなら、エリゴール中佐は君を道連れにしたんだ。彼を〝人切り〟と非難するなら、その〝人切り〟に従わざるを得なかった君の事情を教えてもらいたい。その内容如何によっては、彼も処罰しなくてはならないからね」
言えるわけがない。アンドラスは爪が食いこむほど強く両手を握りしめ、固く目を閉じてうつむいた。
エリゴールに逆らえなかった本当の理由を話すくらいなら、あの二を選択して退役したほうがいい。たぶん、エリゴールはパラディンに問われても話さない。話せば、マクスウェル大佐隊の闇と自分の悪行も語らなければならない。
「……今日中に、退役願を、提出します……」
目はつぶったまま、アンドラスは途切れ途切れにそう言った。
これ以上何も話さず、このままこの艦隊を去ったほうが、自分にとっても得策。
アンドラスの判断力は、退役せざるを得なくなってから、ようやく〝人並み〟になったのだった。
「わかった。それなら、君のその〝事情〟についても追及はしないでおこう」
パラディンの明るい声に、アンドラスは思わず瞼を上げる。パラディンは組んでいた両手を机上に置いていて、先ほどまでとは別人のようににこやかに笑っていた。
本当はすでにすべて知っているのではないか? ふとそんな疑惑にかられて、アンドラスはぞっとする。いや、それどころか、エリゴールとこの大佐はグルで、二人で共謀して自分を罠にはめたのではないか?
だが、たとえそうだったとしても、もうどうにもならない。退役するのはヴァッサゴではなく自分なのだ。
「それでは、アンドラス中佐。今から十二班の待機室に戻って退役願を書く……というのはあまりにもつらすぎるだろうから、ここからまっすぐ自宅に帰って、じっくり時間をかけて書いておいで。ここへの提出は午後五時だ。そのとき、今後のこともよく話しあおう。実にわずかな間だったが、君の存在は大変興味深かった。アンドラス中佐。君は班長にしてもらう代償に何を差し出した?」
それはパラディンが最後に仕掛けた〝罠〟だった。しかし、そのことに気づくより先に、言葉が口を突いて出ていた。
「エリゴールが言ったんですか!?」
パラディンは答えず、侮蔑に満ちた笑みを浮かべる。それを見て、アンドラスはまた自分が言ってはならないことを言ってしまったことを悟った。
「残念ながら、君のような人間でも班長になれた時代はもう終わった」
なぜそこでエリゴールの名前を出すのかと問い返すかわりに、パラディンは哀れむようにそう言った。
「君もまた〝被害者〟の一人だろうが、君が周囲に与えた〝被害〟も少なくはなさそうだ。ちなみに、エリゴール中佐が君に関して言ったのは、君をまた班長にすることのほうがまずいの一言だけだ。私にも君を班長にする気はなかったが、エリゴール中佐は正しかった。同僚に騙されて偽の転属願を書いたなどと恥ずかしげもなく言える人間など、班長どころか平でもここに置きたくはない」
パラディンの口調はむしろ穏やかだった。だが、それがかえってアンドラスには応えた。いっそ額に青筋を立てて喚き散らしてほしい。そういう〝大佐〟になら慣れている。
「退役願はここに郵送してもらえるかな。君とはもう、顔を見るのも話をするのも嫌になった。手続きが完了するまで、君は自宅待機ということにしておくから、その間に荷造りや大掃除、その他もろもろ済ませておいて。ああ、ここを出た後のことも真剣に考えておいたほうがいいよ。不名誉除隊ではないから、就職はしやすいとは思うけどね」
しかし、パラディンは嫌がらせのようににっこり笑うと、右手を上げて自動ドアのほうを指した。
「結局、こみいった話になってしまったね。申し訳ない。ただちに退室してくれ。……あ、老婆心ながら、最後に忠告。ここを出たら詐欺には気をつけて。君なんかいいカモだよ」
* * *
「本当に、〝いい性格〟をしてますね……」
安全装置を掛け直した麻酔銃を執務机の引き出しの中にしまいこんでから、モルトヴァンはしみじみと言った。
蒼白な顔をして逃げるように退室していったアンドラスを見送っていたパラディンは、少々不服そうな視線をモルトヴァンに投げてよこした。
「何を言う。私が〝いい性格〟なら、あのアンドラス中佐は〝超絶いい性格〟じゃないか」
「ああ、あれは確かに、もうここを辞めてもらうしかないレベルですね」
一言で表現するなら、アンドラスは劣化したムルムスだ。あんな男がごく最近までエリゴールやザボエスたちと同じ班長をしていたとはとても信じられない。アンドラスが差し出した〝代償〟とやらはよほど大きかったのだろう。
「しかし、その愚鈍さゆえに、彼は命拾いした。何を言われたか知らないが、エリゴール中佐に騙されたおかげで、ここから穏便に退役することができる」
「穏便ですか……」
「穏便だろう。もっとも、彼が今の話を十二班長に漏らしたら、穏便ではなくなってしまうかもしれないがね」
それを聞いて、モルトヴァンの表情筋は一瞬にして硬直する。
「……笑えませんね……」
「ああ。十二班長なら、今度は自宅でアンドラス中佐を〝自殺〟させてしまいそうだ。十二班長は本当にやり手だね。遺書はあえて捏造せず、不都合なことが書かれていそうなものを消し去って、自分たちのきわめて主観的な証言だけで、ムルムス中佐が自殺を考えていたことにしてしまった。私など足元にも及ばないほどの〝いい性格〟だよ」
「ええ……その点では大佐を凌駕していると思います……」
口ではそう答えたが、ザボエスの犯罪行為を褒めたたえているパラディンのほうがやはり〝いい性格〟だとモルトヴァンは思っていた。
アンドラスが偽造したヴァッサゴの転属願が総務部から送られてきたのは、総司令部にムルムスの〝自殺〟に関する報告書を上げてからまもなくのことだった。記載事項に不備があったため、総務部で容赦なくはじかれて、転属元であるパラディンのところに届けられたのだ。
モルトヴァンもパラディンも寝不足で、頭の回転率はかなり低下していたが、それでもこれがエリゴールの来週中に退役願を提出できる理由なのだと一目でわかった。
すぐに自宅待機中のヴァッサゴに電話を入れ、一応彼が書いて出したものではないことを確認してから、ムルムスの件でかなりこき使った調査班をさらにこき使った。そして、二人が想像していたとおり、その偽転属願の作成者がアンドラスであることを突き止めたのである。
「しかし、エリゴール中佐も、自分がはめられた転属願で同僚をはめるなんて、粋なことをするなあ」
例のビニール袋を持ち上げて、惚れ惚れしたようにパラディンが言う。モルトヴァンにはどうしても粋とは思えなかったが――何かこう、どす黒い、どろどろしたものを感じる――わざわざ否定するまでもないことだと聞き流し、自分が訊きたかったことを口にした。
「大佐。エリゴール中佐にこの件について審問はされるんですか?」
「審問? いや?」
パラディンはビニール袋を机上に戻すと、不思議そうにモルトヴァンを見つめ返す。
「アンドラス中佐が退役することは言うけど、この偽転属願の件についてはいっさい触れるつもりはないよ。私がわざわざ言わなくても、もうエリゴール中佐はこの偽転属願が原因で彼が退役することを確信しているだろうからね。我々から確認の電話があったことをヴァッサゴ中佐から知らされた時点で」
「はあ……え?」
反射的にうなずきかけたモルトヴァンは、はっと気づいて絶叫した。
「まさか、ヴァッサゴ中佐までグルなんですか!?」
「グルって……人聞きの悪い。でも、彼はダーナ大佐の例の件も知っているし、エリゴール中佐推しもしていたから、このアンドラス中佐の偽転属願の件に関してだけは、エリゴール中佐から知らされていてもおかしくはないと思うよ。アンドラス中佐が彼の個人情報を知っていたのも、きっとエリゴール中佐が彼から聞いたことをそのまま伝えたからだろうしね。ただ一箇所、生年月日だけはわざと変えて」
「え? あれって、アンドラス中佐が書き間違えたんじゃないんですか?」
「まあ、もしかしたらそうかもしれないが、確実に総務で却下されるためには、本人だったらまず間違えるはずのない、しかし、アンドラス中佐には正誤がわからなそうな、ヴァッサゴ中佐の生年月日を間違えさせるのが、いちばん手っ取り早いじゃないか」
パラディンは愉快そうににやにやしたが、モルトヴァンはやはり笑えなかった。
「私はエリゴール中佐を〝悪魔〟だとは思いませんが……アンドラス中佐からしてみれば、〝悪魔〟のように思えるかもしれませんね……」
「私からしてみれば、アンドラス中佐が馬鹿すぎただけだよ」
「そんなはっきり」
「しかし、私も馬鹿だった」
一転して、パラディンは自虐的に笑って目を伏せる。
「あの大佐会議で、マクスウェル大佐隊解体を安易に主張してしまった。いずれにしろ、十班分の人間に、マクスウェル大佐隊の軍港と軍艦を使わせなければならないのに」
「それはそうですが……ドレイク大佐以外は、皆、解体に賛成していたじゃないですか」
「そう。ドレイク大佐のおかげで、我々は貴重な時間を無駄遣いせずに済んだ。もしあのまま解体してしまっていたら、左翼も右翼もバラバラのまま、出撃する羽目に陥っていただろう。たぶん、粒子砲が復活していたね」
「でも……ダーナ大佐、結局〝解体〟しましたよね……?」
モルトヴァンが眉をひそめて確認すると、パラディンは軽く噴き出した。
「確かにそうだな。だが、〝解体〟というよりは〝分割〟だ。七班長派とそれ以外とに分けた。結果論だが、その選択は正しかった。マクスウェル大佐隊には、宝石と砕石が混在していた。私は殿下の命令で、大量の砕石を引き取らされた形だが……それを差し引いてもあまりある、超高価な宝石を手に入れた!」
握り拳を作って瞳を輝かせているパラディンに、モルトヴァンは生ぬるい眼差しを向けた。その〝超高価な宝石〟とやらが誰のことを指しているのかは訊くまでもない。よって、嫌味たらしくこう言ってやった。
「その超高価な宝石さんは、退役を強く望んでいらっしゃるようですが」
怒られるのも覚悟していたが、パラディンは機嫌を損ねた様子もなく、にやりと笑い返してきた。
「そのようだが、ここで自分がしてきたことを悔いているなら、それを償うことができるのもまたここしかないんじゃないかな」
予想外の答えにモルトヴァンは目を見開く。だが、パラディンはふと笑みを消すと、ソファセットのほうに顔を向けた。
「しかし、彼らはそうせざるを得なかった。……あの大佐を野放しにしていた我々のほうが、はるかに罪は重い」
「……そうですね」
モルトヴァンは粛然とうなだれる。
あのソファセットで〝超高価な宝石〟がした告白は、この艦隊が抱えていた――いや、今でも抱えているかもしれない闇の、それでもほんの一部なのだろう。
本物の〝悪魔〟は、決して〝悪魔〟とは名乗り出ない。
パラディン大佐隊十二班第一号の待機室に入室したアンドラスは、すでに自分専用の椅子に座っていたザボエスに開口一番そう言われ、何と答えればいいのか一瞬迷った。
そのことはエリゴールからの電話でとうに知っている。しかし、それをこの男に明かしてしまっていいのか? 犬猿の仲のはずのエリゴールとつながっていることは、隠しておいたほうがいいのではないか?
だが、アンドラスが出方を決めるより先に、ザボエスのほうが彼の表情から〝答え〟を読みとった。
「ああ、もう知ってたか。別に口止めしてたわけじゃねえしなあ」
「あ、ああ……」
これ幸いとばかりに、アンドラスはあわててうなずく。彼にそのことを教えた者は、エリゴール以外誰もいなかったが――自宅待機となってからは、彼の元部下たちでさえ、電話一本メール一通、よこしてはこなかった――ザボエスが勝手にそう思ってくれるなら、わざわざ訂正する必要はない。
「俺らも驚いたが、まあ、死にてえ奴は死にてえときに死ねたほうが幸せかもな。大佐や俺らには大迷惑だったけどよ」
「何か処分を受けたのか?」
「いや。俺らには何もなかったが、もしかしたら、大佐はこっそり受けてるかもしれねえな。……あ、大佐で思い出した。おまえが来たら、すぐに大佐の執務室に来るようにって伝言されてたんだった。何の用かは聞いてねえが、今すぐ行ってこい」
「大佐が?」
思わず声が跳ね上がった。
パラディンが自分を? いったい何の用で? 予定では、呼び出しを受けるのは自分ではなくヴァッサゴのはずだ。そこまで考えて、アンドラスは待機室内を見渡した。
「何だ? どした?」
「いや……ヴァッサゴは……まだ来てねえのか?」
「ああ、ヴァッサゴか。あいつは大佐の指示で、今日は朝からロノウェんとこに〝出向〟だそうだ。本人も不思議がってたが、〝上官命令〟にゃ逆らえねえからな」
ザボエスは意味ありげに笑うと、ほら早く行けよと巨大な親指を待機室の自動ドアに向けた。
釈然としないものを感じたが、確かに〝上官命令〟には逆らえない。後ろ暗いところのあるアンドラスは、不安に震えながらも、パラディンの執務室に向かった。
「おはよう」
まだ若く美しい黒髪の〝大佐〟は、執務机から立ち上がることなく、鷹揚にアンドラスを迎え入れた。
「こみいった話ではないから、そこで立ったまま聞いてもらえるかな。これなんだが、書いたのは君だね?」
そう言いながら、パラディンが右手で掲げてみせたのは、透明なビニール袋に入れられた転属願と封筒だった。
その瞬間、アンドラスの心臓は目に見えない冷たい手に鷲づかみにされた。
なぜだ? 自分はエリゴールに言われたとおりにしたのに、なぜパラディンにばれた?
「ずいぶん驚いた顔をしているね。私には君のその驚きのほうが驚きだよ。そもそも、ばれないはずがないだろう? これが総務から届けられてすぐ、ヴァッサゴ中佐に確認をとった。彼はもちろんこんなものは出した覚えはないと答えた。これがヴァッサゴ中佐が書いたものではないことは、うちにある彼の転属願の写しの筆跡で我々にもわかる。では、誰がこんなに幼稚で悪質な悪戯をしたのか? たぶん、うちの隊員の誰かじゃないかと当たりをつけて、うちの調査班にこの封筒と転属願に付着していた指紋を調べさせたら、あっというまに判明したよ。……アンドラス中佐。君だって」
――筆跡! 指紋!
アンドラスは薄青の目を剥いて、自分が書いた転属願と封筒を凝視した。
まったく、口に出すのも馬鹿馬鹿しいくらい当たり前のことだった。せめて、ヴァッサゴの筆跡を真似て書き、指紋もいっさい残さないようにしなければ、すぐにこうしてばれるに決まっている。
そして、このような〝幼稚で悪質な悪戯〟をした男を、〝マクスウェルよりはまし〟なこの大佐が、班長どころか副班長にも任命するはずがない。彼の鋭い金色の目が、はっきりそう告げている。
「アンドラス中佐。君が何の目的でこんなことをしたのかはあえて訊かない」
パラディンはビニール袋を執務机の上に戻すと、両手を組んでその上に細い顎を載せた。
「そのかわり、君に三つの選択肢を提示する。一。今度は君の名前でコールタン大佐隊に転属願を出す。向こうには必ず受理してくれるようメールを入れておくから、絶対に却下されることはない。二。今日中に私に退役願を提出する。もちろん私はすぐに受理して、君の都合のいいように処理しよう。そして、最後の三。君が先の一も二も選択しなかった場合、私は君がしたことを公にして、どんな手段を使ってでも除隊に追いこむ」
ごくりとアンドラスは喉を鳴らした。パラディンにはもうアンドラスを自隊に残すつもりはまったくない。コールタン大佐隊への転属も選択肢に入れてはいるが、本命は二――〝自己都合退職〟だ。
アンドラスにとっても、この二がいちばん有利だろう。コールタンのところでは、こことは比較にならないくらいひどい扱いをされるのは目に見えている。
しかし、この艦隊で生き残るためになりふりかまわずやってきたというのに、よりにもよってこんな終わり方をさせられるなど、あまりにも悔しすぎる。そう思ったとき、アンドラスの中で何かがぷつんと切れた。
「エリゴールが……エリゴールが言ったんです!」
気づいたときには、アンドラスはそう叫んでいた。パラディンは軽く目を見張ったが、アンドラスに黙れとは命じなかった。
「出撃前にエリゴールが電話してきて、ヴァッサゴの転属願書いて総務に郵送しろって俺に言ったんです! 俺をクビにするんなら、あいつもクビにしてください! いや、あいつが俺を騙したんです! あいつはそういう奴なんです! 〝人切り〟なんです、悪魔なんです! 俺はあいつにはめられただけなんです!」
そうだ。エリゴールは自分を罠にはめたのだ。こうして〝自己都合退職〟させるために、副班長の話をちらつかせて自分の判断力を鈍らせ、筆跡にも指紋にも言及せずに偽の転属願を書かせたのだ。
ヴァッサゴにとっては自分は〝加害者〟かもしれないが、自分もまた〝被害者〟である。本当の〝加害者〟であるエリゴールこそ、真っ先に罰せられるべきだ。
そこそこ整った顔を歪ませて狂ったように叫ぶ男を、パラディンはじっと無表情に眺めていた。副官用の執務机にいたパラディンの副官はひそかに麻酔銃を用意して、いつでもアンドラスを撃てる態勢をとっていたが、そのことにはアンドラスは最後まで気づかなかった。
「そうか」
叫び終えて息を弾ませているアンドラスに、パラディンは静かにそう言った。
「君の言い分はよくわかった。その上で君に訊ねたい。……君はエリゴール中佐にそう言われたとき、なぜそんなことはできないと断らなかったのかね? 何か断れない、特別な事情でもあったのかな?」
アンドラスは呼吸をすることを忘れて、重厚な執務机の向こう側にいる〝大佐〟を見た。
組んだ両手に顎を載せた格好のまま、パラディンは薄く微笑みかける。
「どうした? エリゴール中佐は君を騙したんだろう? 具体的に何と言って騙したんだい? それとも、ここにエリゴール中佐を呼び出して、直接彼から訊いたほうが早いかな? 彼はすでに退役を願い出ているから、何でも包み隠さず話してくれるだろう」
アンドラスは何度か唇を動かして、ようやくこれだけ言うことができた。
「た……退役……?」
「そう。君に言われるまでもなく、エリゴール中佐は退役を希望している。君の言を信じるなら、エリゴール中佐は君を道連れにしたんだ。彼を〝人切り〟と非難するなら、その〝人切り〟に従わざるを得なかった君の事情を教えてもらいたい。その内容如何によっては、彼も処罰しなくてはならないからね」
言えるわけがない。アンドラスは爪が食いこむほど強く両手を握りしめ、固く目を閉じてうつむいた。
エリゴールに逆らえなかった本当の理由を話すくらいなら、あの二を選択して退役したほうがいい。たぶん、エリゴールはパラディンに問われても話さない。話せば、マクスウェル大佐隊の闇と自分の悪行も語らなければならない。
「……今日中に、退役願を、提出します……」
目はつぶったまま、アンドラスは途切れ途切れにそう言った。
これ以上何も話さず、このままこの艦隊を去ったほうが、自分にとっても得策。
アンドラスの判断力は、退役せざるを得なくなってから、ようやく〝人並み〟になったのだった。
「わかった。それなら、君のその〝事情〟についても追及はしないでおこう」
パラディンの明るい声に、アンドラスは思わず瞼を上げる。パラディンは組んでいた両手を机上に置いていて、先ほどまでとは別人のようににこやかに笑っていた。
本当はすでにすべて知っているのではないか? ふとそんな疑惑にかられて、アンドラスはぞっとする。いや、それどころか、エリゴールとこの大佐はグルで、二人で共謀して自分を罠にはめたのではないか?
だが、たとえそうだったとしても、もうどうにもならない。退役するのはヴァッサゴではなく自分なのだ。
「それでは、アンドラス中佐。今から十二班の待機室に戻って退役願を書く……というのはあまりにもつらすぎるだろうから、ここからまっすぐ自宅に帰って、じっくり時間をかけて書いておいで。ここへの提出は午後五時だ。そのとき、今後のこともよく話しあおう。実にわずかな間だったが、君の存在は大変興味深かった。アンドラス中佐。君は班長にしてもらう代償に何を差し出した?」
それはパラディンが最後に仕掛けた〝罠〟だった。しかし、そのことに気づくより先に、言葉が口を突いて出ていた。
「エリゴールが言ったんですか!?」
パラディンは答えず、侮蔑に満ちた笑みを浮かべる。それを見て、アンドラスはまた自分が言ってはならないことを言ってしまったことを悟った。
「残念ながら、君のような人間でも班長になれた時代はもう終わった」
なぜそこでエリゴールの名前を出すのかと問い返すかわりに、パラディンは哀れむようにそう言った。
「君もまた〝被害者〟の一人だろうが、君が周囲に与えた〝被害〟も少なくはなさそうだ。ちなみに、エリゴール中佐が君に関して言ったのは、君をまた班長にすることのほうがまずいの一言だけだ。私にも君を班長にする気はなかったが、エリゴール中佐は正しかった。同僚に騙されて偽の転属願を書いたなどと恥ずかしげもなく言える人間など、班長どころか平でもここに置きたくはない」
パラディンの口調はむしろ穏やかだった。だが、それがかえってアンドラスには応えた。いっそ額に青筋を立てて喚き散らしてほしい。そういう〝大佐〟になら慣れている。
「退役願はここに郵送してもらえるかな。君とはもう、顔を見るのも話をするのも嫌になった。手続きが完了するまで、君は自宅待機ということにしておくから、その間に荷造りや大掃除、その他もろもろ済ませておいて。ああ、ここを出た後のことも真剣に考えておいたほうがいいよ。不名誉除隊ではないから、就職はしやすいとは思うけどね」
しかし、パラディンは嫌がらせのようににっこり笑うと、右手を上げて自動ドアのほうを指した。
「結局、こみいった話になってしまったね。申し訳ない。ただちに退室してくれ。……あ、老婆心ながら、最後に忠告。ここを出たら詐欺には気をつけて。君なんかいいカモだよ」
* * *
「本当に、〝いい性格〟をしてますね……」
安全装置を掛け直した麻酔銃を執務机の引き出しの中にしまいこんでから、モルトヴァンはしみじみと言った。
蒼白な顔をして逃げるように退室していったアンドラスを見送っていたパラディンは、少々不服そうな視線をモルトヴァンに投げてよこした。
「何を言う。私が〝いい性格〟なら、あのアンドラス中佐は〝超絶いい性格〟じゃないか」
「ああ、あれは確かに、もうここを辞めてもらうしかないレベルですね」
一言で表現するなら、アンドラスは劣化したムルムスだ。あんな男がごく最近までエリゴールやザボエスたちと同じ班長をしていたとはとても信じられない。アンドラスが差し出した〝代償〟とやらはよほど大きかったのだろう。
「しかし、その愚鈍さゆえに、彼は命拾いした。何を言われたか知らないが、エリゴール中佐に騙されたおかげで、ここから穏便に退役することができる」
「穏便ですか……」
「穏便だろう。もっとも、彼が今の話を十二班長に漏らしたら、穏便ではなくなってしまうかもしれないがね」
それを聞いて、モルトヴァンの表情筋は一瞬にして硬直する。
「……笑えませんね……」
「ああ。十二班長なら、今度は自宅でアンドラス中佐を〝自殺〟させてしまいそうだ。十二班長は本当にやり手だね。遺書はあえて捏造せず、不都合なことが書かれていそうなものを消し去って、自分たちのきわめて主観的な証言だけで、ムルムス中佐が自殺を考えていたことにしてしまった。私など足元にも及ばないほどの〝いい性格〟だよ」
「ええ……その点では大佐を凌駕していると思います……」
口ではそう答えたが、ザボエスの犯罪行為を褒めたたえているパラディンのほうがやはり〝いい性格〟だとモルトヴァンは思っていた。
アンドラスが偽造したヴァッサゴの転属願が総務部から送られてきたのは、総司令部にムルムスの〝自殺〟に関する報告書を上げてからまもなくのことだった。記載事項に不備があったため、総務部で容赦なくはじかれて、転属元であるパラディンのところに届けられたのだ。
モルトヴァンもパラディンも寝不足で、頭の回転率はかなり低下していたが、それでもこれがエリゴールの来週中に退役願を提出できる理由なのだと一目でわかった。
すぐに自宅待機中のヴァッサゴに電話を入れ、一応彼が書いて出したものではないことを確認してから、ムルムスの件でかなりこき使った調査班をさらにこき使った。そして、二人が想像していたとおり、その偽転属願の作成者がアンドラスであることを突き止めたのである。
「しかし、エリゴール中佐も、自分がはめられた転属願で同僚をはめるなんて、粋なことをするなあ」
例のビニール袋を持ち上げて、惚れ惚れしたようにパラディンが言う。モルトヴァンにはどうしても粋とは思えなかったが――何かこう、どす黒い、どろどろしたものを感じる――わざわざ否定するまでもないことだと聞き流し、自分が訊きたかったことを口にした。
「大佐。エリゴール中佐にこの件について審問はされるんですか?」
「審問? いや?」
パラディンはビニール袋を机上に戻すと、不思議そうにモルトヴァンを見つめ返す。
「アンドラス中佐が退役することは言うけど、この偽転属願の件についてはいっさい触れるつもりはないよ。私がわざわざ言わなくても、もうエリゴール中佐はこの偽転属願が原因で彼が退役することを確信しているだろうからね。我々から確認の電話があったことをヴァッサゴ中佐から知らされた時点で」
「はあ……え?」
反射的にうなずきかけたモルトヴァンは、はっと気づいて絶叫した。
「まさか、ヴァッサゴ中佐までグルなんですか!?」
「グルって……人聞きの悪い。でも、彼はダーナ大佐の例の件も知っているし、エリゴール中佐推しもしていたから、このアンドラス中佐の偽転属願の件に関してだけは、エリゴール中佐から知らされていてもおかしくはないと思うよ。アンドラス中佐が彼の個人情報を知っていたのも、きっとエリゴール中佐が彼から聞いたことをそのまま伝えたからだろうしね。ただ一箇所、生年月日だけはわざと変えて」
「え? あれって、アンドラス中佐が書き間違えたんじゃないんですか?」
「まあ、もしかしたらそうかもしれないが、確実に総務で却下されるためには、本人だったらまず間違えるはずのない、しかし、アンドラス中佐には正誤がわからなそうな、ヴァッサゴ中佐の生年月日を間違えさせるのが、いちばん手っ取り早いじゃないか」
パラディンは愉快そうににやにやしたが、モルトヴァンはやはり笑えなかった。
「私はエリゴール中佐を〝悪魔〟だとは思いませんが……アンドラス中佐からしてみれば、〝悪魔〟のように思えるかもしれませんね……」
「私からしてみれば、アンドラス中佐が馬鹿すぎただけだよ」
「そんなはっきり」
「しかし、私も馬鹿だった」
一転して、パラディンは自虐的に笑って目を伏せる。
「あの大佐会議で、マクスウェル大佐隊解体を安易に主張してしまった。いずれにしろ、十班分の人間に、マクスウェル大佐隊の軍港と軍艦を使わせなければならないのに」
「それはそうですが……ドレイク大佐以外は、皆、解体に賛成していたじゃないですか」
「そう。ドレイク大佐のおかげで、我々は貴重な時間を無駄遣いせずに済んだ。もしあのまま解体してしまっていたら、左翼も右翼もバラバラのまま、出撃する羽目に陥っていただろう。たぶん、粒子砲が復活していたね」
「でも……ダーナ大佐、結局〝解体〟しましたよね……?」
モルトヴァンが眉をひそめて確認すると、パラディンは軽く噴き出した。
「確かにそうだな。だが、〝解体〟というよりは〝分割〟だ。七班長派とそれ以外とに分けた。結果論だが、その選択は正しかった。マクスウェル大佐隊には、宝石と砕石が混在していた。私は殿下の命令で、大量の砕石を引き取らされた形だが……それを差し引いてもあまりある、超高価な宝石を手に入れた!」
握り拳を作って瞳を輝かせているパラディンに、モルトヴァンは生ぬるい眼差しを向けた。その〝超高価な宝石〟とやらが誰のことを指しているのかは訊くまでもない。よって、嫌味たらしくこう言ってやった。
「その超高価な宝石さんは、退役を強く望んでいらっしゃるようですが」
怒られるのも覚悟していたが、パラディンは機嫌を損ねた様子もなく、にやりと笑い返してきた。
「そのようだが、ここで自分がしてきたことを悔いているなら、それを償うことができるのもまたここしかないんじゃないかな」
予想外の答えにモルトヴァンは目を見開く。だが、パラディンはふと笑みを消すと、ソファセットのほうに顔を向けた。
「しかし、彼らはそうせざるを得なかった。……あの大佐を野放しにしていた我々のほうが、はるかに罪は重い」
「……そうですね」
モルトヴァンは粛然とうなだれる。
あのソファセットで〝超高価な宝石〟がした告白は、この艦隊が抱えていた――いや、今でも抱えているかもしれない闇の、それでもほんの一部なのだろう。
本物の〝悪魔〟は、決して〝悪魔〟とは名乗り出ない。
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