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【03】マクスウェルの悪魔たち(下)
10 悪魔が囁いていました
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――護衛上がりをからかってやろうぜ。
整列して待機しているようダーナに命じられていたあの日、最初にそう言い出したのはロノウェだったような気がする。
――たかが整列してなかったくれえで、まさかクビにはしねえだろ。せいぜい、謹慎か減給だ。
それにザボエスが賛同し、彼がそう言うならと、一班長、二班長、そして五班長――アンドラスが追随した。
しかし、ヴァラクがダーナの伝言を伝えにミーティング室に来たとき、そこにロノウェとザボエスの姿はなく、かわりに彼らの班員が何人か、何食わぬ顔をしてまぎれこんでいた。おそらくは、整列しなかった後のことを自分たちの班長に報告するためだけに。
いま思えば、ロノウェとザボエスは、ダーナ大佐隊から排除されるために整列しないことをあえて選択したのだ。まさか、転属願を出させられることになるとまでは予想していなかっただろうが、彼らにしてみれば好都合な展開だったに違いない。実際、希望どおりにパラディン大佐隊に転属となった。
だから、転属願をまた出せとエリゴールに言われたとき――あの男のことは確かに大嫌いだが、自分たちよりはるかに頭の出来がいいことは認めざるを得ない――もしかしたら、自分もロノウェたちと同じように転属されるかもしれないと思い、転属希望先をパラディン大佐隊にした。結局は、どこを希望先にしても、行き先はパラディン大佐隊になってしまったが。
――出撃当日は自宅待機。
ザボエスを通してパラディンからそう指示されたとき、アンドラスは屈辱より先に安堵を覚えた。護衛ならまず戦死することはないだろうが、出撃しなければその可能性はゼロになる。ことに〝平〟である今は、出撃となったら何をさせられるかわからない。おそらく〝元班長〟にふさわしい扱いはされないだろう。少なくとも、アンドラスがザボエスの立場だったら〝下っ端〟以下に扱う。
だが、アンドラスと同じく自宅待機となったヴァッサゴも、ザボエスと共に出撃することになったムルムスも、そろって不安そうな表情をした。アンドラスと同じことを考えていたのはムルムスのほうだったようだ。
いったい何をしでかしたのか、ヴァラクによって元マクスウェル大佐隊から追い出され(たのだろう)、アンドラスたちが押しこめられていたダーナ大佐隊の予備ドックに異動してきたムルムスとヴァッサゴは、すっかり顔色を失っていた。
今までさんざん虚仮にしてきた分、アンドラスたちにその報復をされるのではないかと思ったのだろう。しかし、彼らと共に異動してきたエリゴールだけは、以前と変わらず毅然としていた。もし、ムルムスとヴァッサゴだけが異動していたなら、無傷のままではいられなかったはずだ。
だが、アンドラスたちの後を追うようにパラディン大佐隊に転属されてきたムルムスは、〝仲間〟だったはずのヴァッサゴも恐れるようになっていた。アンドラスたちがあの予備ドックを無断で出た後、ムルムスとヴァッサゴ――いや、ムルムスとエリゴール(+ヴァッサゴ)との間で何かトラブルが起こったのだ。それくらいの見当はアンドラスにもついたが、そのトラブルの内容まではわからなかった。
いずれにせよ、ここに転属されてきた元マクスウェル大佐隊元班長たちの中で、今いちばん立場が〝最弱〟なのは、自分ではなくムルムスだ。なぜムルムス一人だけが出撃するよう命じられたのかはわからないが、今回のような急な出撃など〝貧乏くじ〟としか思えない。アンドラスの鬱屈はムルムスのおかげで少しだけ晴れた。
出撃準備に追われる十二班員たちを尻目に、アンドラスとヴァッサゴは終業時刻に待機室を出た。外に出たら人目のないところでヴァッサゴをいたぶってやろうと狙っていたのだが、それを察知していたのかどうなのか、ザボエスがすぐに後を追いかけてきて、ヴァッサゴだけを話があるからと引き止めた。アンドラスは胸の中で舌打ちし、一人でドックを後にした。
しかし、その日の深夜、自重して真面目に自宅待機していたアンドラスのプライベート用の携帯電話に、思いもかけない人物がかけてきた。
――元マクスウェル大佐隊元四班長エリゴール。
〝かけ間違いか?〟くらい言えればよかったのだが、起き抜けのせいもあり、とっさには言葉が出てこなかった。だが、その隙を突いたようにエリゴールは甘い低音でアンドラスに囁いた。おまえ、十二班の副班長になりたくないか、と。
エリゴールによれば、ヴァッサゴはエリゴールとムルムス双方の弱みを握っている。今回、いきなり十一班・十二班が出撃することになったのも、ムルムスだけがザボエスの軍艦に同乗することになったのも、エリゴールがヴァッサゴに脅されて、パラディンを唆したからである――
何を馬鹿なと一笑したかったが、一応、話の筋は通っていた。エリゴールの弱み。確かにそれさえ知っていれば、自分やムルムスなど恐れる気にもならないだろう。
では、その弱みというのは何なのか。駄目元で訊ねてみたが、やはり駄目だった。ただ、パラディン大佐隊からヴァッサゴを排除できれば、アンドラスを十二班の副班長にするために尽力すると言った。
現在、自宅待機中の仮十二班員――つまり元十班員以外の班員たちの中に元班長はいない。彼らをうまくとりまとめて、自分の派閥を作り上げてしまえば、ザボエスもこれまでのようにおまえを軽視できなくなるだろう。もちろん、自分はその派閥作りにも進んで協力する。頃合いを見て、おまえを十二班の副班長に任命するよう、パラディンに進言もしよう。
最初は冗談半分に聞いていたアンドラスだったが、その頃にはそうかもしれないとまで思うようになっていた。客観的に見れば、ヴァッサゴが消えることによって確実に利益を得るのはエリゴールとムルムスだけであり、アンドラスは班員たちをとりまとめることができなければ、これまでどおりザボエスに軽視されつづける。そもそも、ヴァッサゴという邪魔者がいなくなったムルムスのほうが、アンドラスよりも巧みに班員たちを取りこむことができるかもしれないのだ。しかし、アンドラスはそのことには思い至らないまま、パラディン大佐隊からヴァッサゴを追い出すための具体的な方法をエリゴールに訊いた。
『簡単だ。ヴァッサゴの転属願を総務に提出すればいい』
文字どおり簡単にエリゴールはそう答え、アンドラスは数秒経ってから呆けた声を出した。
「……は?」
『正確には、総務に郵送だな。今は委任状がないと、他人の転属願は総務の窓口で受理してもらえなくなった。でも、郵送は別だ。誰が出そうが総務は受理する』
「いや、そりゃ受理はされるだろうが……それでほんとに転属ってことにはならねえだろ」
さすがにそれは無理だろうとアンドラスにもすぐにわかった。だが、エリゴールはアンドラスには一生かかっても思いつけないようなことを口にした。
『本当に転属されなくてもいいんだ。ヴァッサゴが他の隊に転属希望したってことがパラディン大佐にわかればいい。きっとヴァッサゴはうまく弁明できなくて退役する。もし奇跡が起こって本当に転属されたら、それはそれでかまわない』
――そんなにうまくいくか?
心の中ではそう思いながらも、アンドラスはさらに詳細を訊ねる。
「転属希望先はどこにすりゃいいんだ?」
『そうだな……コールタン大佐隊だな。元上官のよしみで受け入れても、いびって辞めさせてくれそうだ』
「ああ……あの大佐ならそうするな……」
彼の指揮下にいたときのことを思い出して、アンドラスはつい小声になった。
『とにかく、早く書いて早く出せ。ヴァッサゴが自宅待機中に投函したように見せかけるんだ』
「あ、ああ……」
言われるがままアンドラスはうなずき、転属願を書くのに必要なヴァッサゴの個人情報を手近な紙に書き留めた。
あれほど警戒していたのにもかかわらず、アンドラスはエリゴールの話術の罠にすっかりはまりこんでいた。
ヴァッサゴを排除したいのは、アンドラスではなくエリゴールとムルムスだ。そんな転属願は二人のうちのどちらかが書いて出せばいい。
しかし、エリゴールの〝十二班の副班長になれるかもしれない〟という不確かな甘言――〝十二班の副班長にしてやる〟とは確約していない――が、ただでさえお粗末なアンドラスの判断力を鈍らせていた。このときの彼は、それは自分のすべき仕事だと信じて疑っていなかったのである。
さらに、最後のこの一言が、アンドラスをそうせざるを得ない状況に追いこんだ。
『じゃあ、頼んだぞ。基地に帰還したら、すぐに確認するからな』
アンドラス以外の人間だったら、今のエリゴールとの会話を録音し、それをヴァッサゴに聞かせて彼に取り入り、共にエリゴールを脅して利用しようと考えたかもしれない。あるいは、その録音を盾にとり、自分もヴァッサゴのようにエリゴールを脅そうとも。
だが、ヴァラクの場合と同様、大嫌いだがエリゴールの〝命令〟に従えば間違いはない――直近では、エリゴールに言われるまま転属願を出したら、パラディン大佐隊に転属になった――というこれまでの成功体験が、アンドラスからエリゴールに逆らうという選択肢を消し去っていた。
――ヴァッサゴの転属願を郵送するだけで、自分は十二班の副班長になれる。
予備としてプリントアウトしてあった白紙の転属願を手にしたとき、アンドラスの頭の中ではそこまで短絡化されていた。
そして、その頭の中に、筆跡や指紋で自分が書いたことはすぐにばれるかもしれないという懸念は、まったく存在していなかったのである。
* * *
「何も、俺の前でそんな電話しなくても……」
エリゴールがプライベート用の携帯電話の電源を切ったのを見届けてから、ヴァッサゴは大きく息を吐き出した。
エリゴールの話の恐ろしいところは、そのような事実はないとわかっているはずの自分が、もしかしたらそうかもしれないと思わされてしまうところだ。――エリゴールを脅す? 自殺行為だ。エリゴールなら脅されたことをネタに脅し返す。
「おまえは俺の弱みを全部知ってる設定だからな。聞いといてもらわないと困る」
エリゴールはにやりと笑うと、自分の手の中にある携帯電話を上着の内ポケットにしまいこんだ。
「今の俺は、自宅で待機中のはずなんだけどな……」
現在、ヴァッサゴはエリゴールと共に十二班第六号待機室にいる。第一号待機室の主であるザボエスは、護衛艦の中でヴァッサゴの代わりにムルムスを監視中だ。
結局、十一班も十二班も、徹夜で出撃する羽目になりそうである。自分の前で悠然と腕組みをして座っている金髪男の気まぐれのせいで。
「仕方ねえだろ。ここがいちばん〝安全〟なんだ」
アンドラスを口車に乗せるのがよほど楽しかったのか、エリゴールはにやにやして目を細めた。
「何だったら、今夜はこのままここに待機して、朝になったら本当に自宅で待機したらどうだ? ムルムスと鉢合わせすることはねえだろ」
「……そうだな。そうさせてもらう」
正直言って、もう眠かった。ザボエスたちには申し訳ないが、ここの仮眠室でこっそり休ませてもらおう。幸い、掃除もしっかりされていて、備品もそろっているようだし。
「ところで、おまえは今ここにいていいのか? 大佐の軍艦に乗るんだろ?」
ふと気になって訊ねると、エリゴールはたちまち渋い顔になった。
「こっちの状況が気になるからって、何とか抜け出してきたんだ。あの大佐、何で自宅に帰らねえんだ?」
「それはおまえと一緒で、ちゃんと出撃できるかどうか心配だからじゃないのか?」
「本当に心配してたらこっちの様子、一度くらいは見に来るだろ」
「……確かにな」
「それだけ自分の部下や俺らを信じてくれてるってことかもしれねえが……やっぱり、護衛の〝大佐〟は一筋縄ではいかねえ……」
眉間に縦皺を寄せて呻くエリゴールの脳裏には、現在の上官であるパラディンの他に、コールタンや元護衛のダーナも浮かんでいるに違いない。
元三班長であるヴァッサゴは、当然コールタンのことも知っているが――彼の指揮下にいたときには、エリゴールが〝四班長〟でよかったと心から思った――一筋縄でいかないという点では、やはり前上官のダーナが飛び抜けていたと思う。
昨日、ダーナに執務室に呼び出され、元マクスウェル大佐隊員たちに転属願を出させた上、無断欠勤までさせていたことを指摘されても、エリゴールは顔色ひとつ変えず、言い訳ひとつしなかった。
しかし、エリゴールにそんな態度をとられても、なおダーナが怒りの感情をまったく見せなかったことのほうが、ヴァッサゴには逆に恐ろしかった。
淡々と事実確認をされた後も、ヴァッサゴたちは責められなかった。が、司令官から下されたという〝命令〟のことを伝えられ、このまま自分の隊に残るか、パラディン大佐隊に転属希望するかと選択を迫られた。
はっきり言って、転属以外に選択の余地はなかった。いっそはっきりそう命じてくれと心の中でヴァッサゴは叫んでいたが、ダーナの立場上、強制することはできなかったのだろう。無論、エリゴールもヴァッサゴも迷うことなく転属を選び、非常に不本意ながらも、これまで大変お世話になりましたと礼を言った。
ダーナも嫌味に思っただろうが――事実、嫌味だ――やはり、顔には出さずにこちらこそと応じ、ヴァッサゴが想像もしなかったあの一言を口にしたのだった。
――エリゴール中佐。パラディン大佐を頼む。
ダーナの執務室に入室してから、ずっと無表情でいたエリゴールが、このとき初めて感情をあらわにした。
――それは、命令ですか?
苦く笑ってダーナに問う。ダーナもかすかに苦笑に近いものを浮かべていた。
――いや。命令ではない。希望だ。彼はきっとおまえを必要としている。
それに対して、エリゴールは何も答えなかった。また元の無表情に戻ると、ただ深く一礼して、そのまま退室したのだった。
きっと、エリゴールもヴァッサゴと同じことを思い出していたのだろう。突然噴き出すと、天井を見上げておどけたように言った。
「まったく、ダーナ大佐は天才だ。俺はプライドないから、いいと思ったものは節操なくパクる」
賞賛と皮肉と自虐が複雑に入り交じった言葉と口調。ヴァラクに切られる前には、絶対にしなかった。
だが、〝プライドがないから〟というのは違うのではないか。逆に、まだエリゴールの中に元マクスウェル大佐隊四班長としてのプライドが残っているから、〝プライドを捨てて〟、今の転属願の件だけでなく、例の十一班長・十二班長の命名の件でもダーナの手法を真似たのではないか。
エリゴールが本当はダーナのことをどう思っているのか、ヴァッサゴにはわからない。もしかしたら、エリゴール自身、わかっていないのかもしれない。
確かなのは、ヴァラクが真の意味でダーナを自分の上官とすることを決断し、それゆえに、エリゴールはあの件をダーナに対する脅迫ネタには使用していないということだ。非はあんな〝上官命令〟をしたダーナのほうに完全にあるのに。
「あー……さすがにもう眠いな。十一班の待機室戻って、少し寝るか」
本当に眠そうにエリゴールが呟いた、と、まさにその眠気を覚まそうとするかのように、彼の胸のあたりから優雅なクラシック音楽が流れ出した。
「な、何だ?」
携帯電話の着信メロディなのだろうが、ヴァッサゴが知るかぎり、エリゴールにはそのような設定をする趣味はない。眠いせいか、それまでヴァッサゴが見てきた中で五本の指に入るくらい凶悪に不機嫌そうな顔をして、自分の胸ポケットを睨みつける。
男前は得だ。そんな表情をしても男前のままだ。内心、とても腹立たしい。
「今日、大佐から渡された携帯だ。渡されたときにはもう、この着メロが設定されてた」
「え?」
携帯電話を渡されたというのは不自然なことではない。この艦隊の隊員たちは、原則一人一台、業務用に携帯電話を貸与されているが、転属の際にはそれを返却し、転属先でまた別のそれを使用することになっている。
ヴァッサゴとエリゴールは、転属される前にマクスウェル大佐隊時代の携帯電話をダーナに返却したが、ダーナ大佐隊の予備ドックにいた元マクスウェル大佐隊員たち(ムルムス含む)は、返却する機会がなかったため、まだそれを所持しているはずだ。
パラディンから携帯電話を渡されたということは、エリゴールは十一班所属で確定したのだろう。しかし、着信メロディを設定されて携帯電話を渡されたというのは初めて聞いた。
「と、とにかく早く出たら……」
「この着メロは大佐だ。……出たくねえ」
「いや、大佐だったら余計出ないとまずいだろ!」
胸ポケットに手を伸ばしもしないエリゴールに、ヴァッサゴのほうがあせりまくる。
「あー……電源切っときゃよかった」
ぶつくさ言いながらも、ようやくエリゴールはいっこうに鳴りやまない携帯電話を取り出し、通話開始ボタンを押した瞬間に対上官用の笑みを作った。
「申し訳ありません。ドックの騒音がひどくて、気づくのが遅くなりました」
――相変わらず、切替はええ……
ヴァラクもセイルもこれは得意だったが、やはりこのエリゴールが断トツだと思う。ある意味、プロだ。
「……はい、ああ、いえ、自分は十一班の待機室で仮眠をとらせていただこうかと……」
だが、そのプロにも限界はあるようで、鉄壁のはずの作り笑顔が少しずつ少しずつ崩れていっている。いったい何を言われているのだろうか。
「……いえ、自分はやはり十一班におります。大佐殿の軍艦に乗せていただくまでは、十一班長の補佐ですので。それでは失礼いたします」
最後のほうには明らかにぶち切れ寸前になっていた。通話終了ボタンを押したエリゴールの顔は、電話に出る前よりいっそう険しくなっている。
「な……何言われたんだ?」
おそるおそる訊ねると、エリゴールは吐き捨てるように答えた。
「仮眠するなら〝大佐棟〟でしろだと」
「……え?」
「その前には食事も誘われたが断った。あの大佐はどうも苦手だ。同じ護衛ならコールタン大佐のほうがずっといい」
「ええっ!?」
パラディン大佐が苦手で、彼よりコールタン大佐のほうがずっといい。ヴァッサゴにはどちらも到底信じられなかった。特に後者。
「とにかく、十一班に避難する。まずないとは思うが、アンドラスが接触しようとしてきても相手にするな。来週には消える」
「え?」
しかし、そのときにはエリゴールは椅子から立ち上がっていて、通路側の自動ドアに向かって歩いていた。
ダーナはパラディンがエリゴールを必要としていると言った。その根拠となったものは何だったのだろう。エリゴールの〝人切り〟をダーナが知っていたとは思えないのだが。
「……もしかして、顔?」
ヴァッサゴがそう独りごちたとき、エリゴールは自動ドアの向こうに消えていた。
整列して待機しているようダーナに命じられていたあの日、最初にそう言い出したのはロノウェだったような気がする。
――たかが整列してなかったくれえで、まさかクビにはしねえだろ。せいぜい、謹慎か減給だ。
それにザボエスが賛同し、彼がそう言うならと、一班長、二班長、そして五班長――アンドラスが追随した。
しかし、ヴァラクがダーナの伝言を伝えにミーティング室に来たとき、そこにロノウェとザボエスの姿はなく、かわりに彼らの班員が何人か、何食わぬ顔をしてまぎれこんでいた。おそらくは、整列しなかった後のことを自分たちの班長に報告するためだけに。
いま思えば、ロノウェとザボエスは、ダーナ大佐隊から排除されるために整列しないことをあえて選択したのだ。まさか、転属願を出させられることになるとまでは予想していなかっただろうが、彼らにしてみれば好都合な展開だったに違いない。実際、希望どおりにパラディン大佐隊に転属となった。
だから、転属願をまた出せとエリゴールに言われたとき――あの男のことは確かに大嫌いだが、自分たちよりはるかに頭の出来がいいことは認めざるを得ない――もしかしたら、自分もロノウェたちと同じように転属されるかもしれないと思い、転属希望先をパラディン大佐隊にした。結局は、どこを希望先にしても、行き先はパラディン大佐隊になってしまったが。
――出撃当日は自宅待機。
ザボエスを通してパラディンからそう指示されたとき、アンドラスは屈辱より先に安堵を覚えた。護衛ならまず戦死することはないだろうが、出撃しなければその可能性はゼロになる。ことに〝平〟である今は、出撃となったら何をさせられるかわからない。おそらく〝元班長〟にふさわしい扱いはされないだろう。少なくとも、アンドラスがザボエスの立場だったら〝下っ端〟以下に扱う。
だが、アンドラスと同じく自宅待機となったヴァッサゴも、ザボエスと共に出撃することになったムルムスも、そろって不安そうな表情をした。アンドラスと同じことを考えていたのはムルムスのほうだったようだ。
いったい何をしでかしたのか、ヴァラクによって元マクスウェル大佐隊から追い出され(たのだろう)、アンドラスたちが押しこめられていたダーナ大佐隊の予備ドックに異動してきたムルムスとヴァッサゴは、すっかり顔色を失っていた。
今までさんざん虚仮にしてきた分、アンドラスたちにその報復をされるのではないかと思ったのだろう。しかし、彼らと共に異動してきたエリゴールだけは、以前と変わらず毅然としていた。もし、ムルムスとヴァッサゴだけが異動していたなら、無傷のままではいられなかったはずだ。
だが、アンドラスたちの後を追うようにパラディン大佐隊に転属されてきたムルムスは、〝仲間〟だったはずのヴァッサゴも恐れるようになっていた。アンドラスたちがあの予備ドックを無断で出た後、ムルムスとヴァッサゴ――いや、ムルムスとエリゴール(+ヴァッサゴ)との間で何かトラブルが起こったのだ。それくらいの見当はアンドラスにもついたが、そのトラブルの内容まではわからなかった。
いずれにせよ、ここに転属されてきた元マクスウェル大佐隊元班長たちの中で、今いちばん立場が〝最弱〟なのは、自分ではなくムルムスだ。なぜムルムス一人だけが出撃するよう命じられたのかはわからないが、今回のような急な出撃など〝貧乏くじ〟としか思えない。アンドラスの鬱屈はムルムスのおかげで少しだけ晴れた。
出撃準備に追われる十二班員たちを尻目に、アンドラスとヴァッサゴは終業時刻に待機室を出た。外に出たら人目のないところでヴァッサゴをいたぶってやろうと狙っていたのだが、それを察知していたのかどうなのか、ザボエスがすぐに後を追いかけてきて、ヴァッサゴだけを話があるからと引き止めた。アンドラスは胸の中で舌打ちし、一人でドックを後にした。
しかし、その日の深夜、自重して真面目に自宅待機していたアンドラスのプライベート用の携帯電話に、思いもかけない人物がかけてきた。
――元マクスウェル大佐隊元四班長エリゴール。
〝かけ間違いか?〟くらい言えればよかったのだが、起き抜けのせいもあり、とっさには言葉が出てこなかった。だが、その隙を突いたようにエリゴールは甘い低音でアンドラスに囁いた。おまえ、十二班の副班長になりたくないか、と。
エリゴールによれば、ヴァッサゴはエリゴールとムルムス双方の弱みを握っている。今回、いきなり十一班・十二班が出撃することになったのも、ムルムスだけがザボエスの軍艦に同乗することになったのも、エリゴールがヴァッサゴに脅されて、パラディンを唆したからである――
何を馬鹿なと一笑したかったが、一応、話の筋は通っていた。エリゴールの弱み。確かにそれさえ知っていれば、自分やムルムスなど恐れる気にもならないだろう。
では、その弱みというのは何なのか。駄目元で訊ねてみたが、やはり駄目だった。ただ、パラディン大佐隊からヴァッサゴを排除できれば、アンドラスを十二班の副班長にするために尽力すると言った。
現在、自宅待機中の仮十二班員――つまり元十班員以外の班員たちの中に元班長はいない。彼らをうまくとりまとめて、自分の派閥を作り上げてしまえば、ザボエスもこれまでのようにおまえを軽視できなくなるだろう。もちろん、自分はその派閥作りにも進んで協力する。頃合いを見て、おまえを十二班の副班長に任命するよう、パラディンに進言もしよう。
最初は冗談半分に聞いていたアンドラスだったが、その頃にはそうかもしれないとまで思うようになっていた。客観的に見れば、ヴァッサゴが消えることによって確実に利益を得るのはエリゴールとムルムスだけであり、アンドラスは班員たちをとりまとめることができなければ、これまでどおりザボエスに軽視されつづける。そもそも、ヴァッサゴという邪魔者がいなくなったムルムスのほうが、アンドラスよりも巧みに班員たちを取りこむことができるかもしれないのだ。しかし、アンドラスはそのことには思い至らないまま、パラディン大佐隊からヴァッサゴを追い出すための具体的な方法をエリゴールに訊いた。
『簡単だ。ヴァッサゴの転属願を総務に提出すればいい』
文字どおり簡単にエリゴールはそう答え、アンドラスは数秒経ってから呆けた声を出した。
「……は?」
『正確には、総務に郵送だな。今は委任状がないと、他人の転属願は総務の窓口で受理してもらえなくなった。でも、郵送は別だ。誰が出そうが総務は受理する』
「いや、そりゃ受理はされるだろうが……それでほんとに転属ってことにはならねえだろ」
さすがにそれは無理だろうとアンドラスにもすぐにわかった。だが、エリゴールはアンドラスには一生かかっても思いつけないようなことを口にした。
『本当に転属されなくてもいいんだ。ヴァッサゴが他の隊に転属希望したってことがパラディン大佐にわかればいい。きっとヴァッサゴはうまく弁明できなくて退役する。もし奇跡が起こって本当に転属されたら、それはそれでかまわない』
――そんなにうまくいくか?
心の中ではそう思いながらも、アンドラスはさらに詳細を訊ねる。
「転属希望先はどこにすりゃいいんだ?」
『そうだな……コールタン大佐隊だな。元上官のよしみで受け入れても、いびって辞めさせてくれそうだ』
「ああ……あの大佐ならそうするな……」
彼の指揮下にいたときのことを思い出して、アンドラスはつい小声になった。
『とにかく、早く書いて早く出せ。ヴァッサゴが自宅待機中に投函したように見せかけるんだ』
「あ、ああ……」
言われるがままアンドラスはうなずき、転属願を書くのに必要なヴァッサゴの個人情報を手近な紙に書き留めた。
あれほど警戒していたのにもかかわらず、アンドラスはエリゴールの話術の罠にすっかりはまりこんでいた。
ヴァッサゴを排除したいのは、アンドラスではなくエリゴールとムルムスだ。そんな転属願は二人のうちのどちらかが書いて出せばいい。
しかし、エリゴールの〝十二班の副班長になれるかもしれない〟という不確かな甘言――〝十二班の副班長にしてやる〟とは確約していない――が、ただでさえお粗末なアンドラスの判断力を鈍らせていた。このときの彼は、それは自分のすべき仕事だと信じて疑っていなかったのである。
さらに、最後のこの一言が、アンドラスをそうせざるを得ない状況に追いこんだ。
『じゃあ、頼んだぞ。基地に帰還したら、すぐに確認するからな』
アンドラス以外の人間だったら、今のエリゴールとの会話を録音し、それをヴァッサゴに聞かせて彼に取り入り、共にエリゴールを脅して利用しようと考えたかもしれない。あるいは、その録音を盾にとり、自分もヴァッサゴのようにエリゴールを脅そうとも。
だが、ヴァラクの場合と同様、大嫌いだがエリゴールの〝命令〟に従えば間違いはない――直近では、エリゴールに言われるまま転属願を出したら、パラディン大佐隊に転属になった――というこれまでの成功体験が、アンドラスからエリゴールに逆らうという選択肢を消し去っていた。
――ヴァッサゴの転属願を郵送するだけで、自分は十二班の副班長になれる。
予備としてプリントアウトしてあった白紙の転属願を手にしたとき、アンドラスの頭の中ではそこまで短絡化されていた。
そして、その頭の中に、筆跡や指紋で自分が書いたことはすぐにばれるかもしれないという懸念は、まったく存在していなかったのである。
* * *
「何も、俺の前でそんな電話しなくても……」
エリゴールがプライベート用の携帯電話の電源を切ったのを見届けてから、ヴァッサゴは大きく息を吐き出した。
エリゴールの話の恐ろしいところは、そのような事実はないとわかっているはずの自分が、もしかしたらそうかもしれないと思わされてしまうところだ。――エリゴールを脅す? 自殺行為だ。エリゴールなら脅されたことをネタに脅し返す。
「おまえは俺の弱みを全部知ってる設定だからな。聞いといてもらわないと困る」
エリゴールはにやりと笑うと、自分の手の中にある携帯電話を上着の内ポケットにしまいこんだ。
「今の俺は、自宅で待機中のはずなんだけどな……」
現在、ヴァッサゴはエリゴールと共に十二班第六号待機室にいる。第一号待機室の主であるザボエスは、護衛艦の中でヴァッサゴの代わりにムルムスを監視中だ。
結局、十一班も十二班も、徹夜で出撃する羽目になりそうである。自分の前で悠然と腕組みをして座っている金髪男の気まぐれのせいで。
「仕方ねえだろ。ここがいちばん〝安全〟なんだ」
アンドラスを口車に乗せるのがよほど楽しかったのか、エリゴールはにやにやして目を細めた。
「何だったら、今夜はこのままここに待機して、朝になったら本当に自宅で待機したらどうだ? ムルムスと鉢合わせすることはねえだろ」
「……そうだな。そうさせてもらう」
正直言って、もう眠かった。ザボエスたちには申し訳ないが、ここの仮眠室でこっそり休ませてもらおう。幸い、掃除もしっかりされていて、備品もそろっているようだし。
「ところで、おまえは今ここにいていいのか? 大佐の軍艦に乗るんだろ?」
ふと気になって訊ねると、エリゴールはたちまち渋い顔になった。
「こっちの状況が気になるからって、何とか抜け出してきたんだ。あの大佐、何で自宅に帰らねえんだ?」
「それはおまえと一緒で、ちゃんと出撃できるかどうか心配だからじゃないのか?」
「本当に心配してたらこっちの様子、一度くらいは見に来るだろ」
「……確かにな」
「それだけ自分の部下や俺らを信じてくれてるってことかもしれねえが……やっぱり、護衛の〝大佐〟は一筋縄ではいかねえ……」
眉間に縦皺を寄せて呻くエリゴールの脳裏には、現在の上官であるパラディンの他に、コールタンや元護衛のダーナも浮かんでいるに違いない。
元三班長であるヴァッサゴは、当然コールタンのことも知っているが――彼の指揮下にいたときには、エリゴールが〝四班長〟でよかったと心から思った――一筋縄でいかないという点では、やはり前上官のダーナが飛び抜けていたと思う。
昨日、ダーナに執務室に呼び出され、元マクスウェル大佐隊員たちに転属願を出させた上、無断欠勤までさせていたことを指摘されても、エリゴールは顔色ひとつ変えず、言い訳ひとつしなかった。
しかし、エリゴールにそんな態度をとられても、なおダーナが怒りの感情をまったく見せなかったことのほうが、ヴァッサゴには逆に恐ろしかった。
淡々と事実確認をされた後も、ヴァッサゴたちは責められなかった。が、司令官から下されたという〝命令〟のことを伝えられ、このまま自分の隊に残るか、パラディン大佐隊に転属希望するかと選択を迫られた。
はっきり言って、転属以外に選択の余地はなかった。いっそはっきりそう命じてくれと心の中でヴァッサゴは叫んでいたが、ダーナの立場上、強制することはできなかったのだろう。無論、エリゴールもヴァッサゴも迷うことなく転属を選び、非常に不本意ながらも、これまで大変お世話になりましたと礼を言った。
ダーナも嫌味に思っただろうが――事実、嫌味だ――やはり、顔には出さずにこちらこそと応じ、ヴァッサゴが想像もしなかったあの一言を口にしたのだった。
――エリゴール中佐。パラディン大佐を頼む。
ダーナの執務室に入室してから、ずっと無表情でいたエリゴールが、このとき初めて感情をあらわにした。
――それは、命令ですか?
苦く笑ってダーナに問う。ダーナもかすかに苦笑に近いものを浮かべていた。
――いや。命令ではない。希望だ。彼はきっとおまえを必要としている。
それに対して、エリゴールは何も答えなかった。また元の無表情に戻ると、ただ深く一礼して、そのまま退室したのだった。
きっと、エリゴールもヴァッサゴと同じことを思い出していたのだろう。突然噴き出すと、天井を見上げておどけたように言った。
「まったく、ダーナ大佐は天才だ。俺はプライドないから、いいと思ったものは節操なくパクる」
賞賛と皮肉と自虐が複雑に入り交じった言葉と口調。ヴァラクに切られる前には、絶対にしなかった。
だが、〝プライドがないから〟というのは違うのではないか。逆に、まだエリゴールの中に元マクスウェル大佐隊四班長としてのプライドが残っているから、〝プライドを捨てて〟、今の転属願の件だけでなく、例の十一班長・十二班長の命名の件でもダーナの手法を真似たのではないか。
エリゴールが本当はダーナのことをどう思っているのか、ヴァッサゴにはわからない。もしかしたら、エリゴール自身、わかっていないのかもしれない。
確かなのは、ヴァラクが真の意味でダーナを自分の上官とすることを決断し、それゆえに、エリゴールはあの件をダーナに対する脅迫ネタには使用していないということだ。非はあんな〝上官命令〟をしたダーナのほうに完全にあるのに。
「あー……さすがにもう眠いな。十一班の待機室戻って、少し寝るか」
本当に眠そうにエリゴールが呟いた、と、まさにその眠気を覚まそうとするかのように、彼の胸のあたりから優雅なクラシック音楽が流れ出した。
「な、何だ?」
携帯電話の着信メロディなのだろうが、ヴァッサゴが知るかぎり、エリゴールにはそのような設定をする趣味はない。眠いせいか、それまでヴァッサゴが見てきた中で五本の指に入るくらい凶悪に不機嫌そうな顔をして、自分の胸ポケットを睨みつける。
男前は得だ。そんな表情をしても男前のままだ。内心、とても腹立たしい。
「今日、大佐から渡された携帯だ。渡されたときにはもう、この着メロが設定されてた」
「え?」
携帯電話を渡されたというのは不自然なことではない。この艦隊の隊員たちは、原則一人一台、業務用に携帯電話を貸与されているが、転属の際にはそれを返却し、転属先でまた別のそれを使用することになっている。
ヴァッサゴとエリゴールは、転属される前にマクスウェル大佐隊時代の携帯電話をダーナに返却したが、ダーナ大佐隊の予備ドックにいた元マクスウェル大佐隊員たち(ムルムス含む)は、返却する機会がなかったため、まだそれを所持しているはずだ。
パラディンから携帯電話を渡されたということは、エリゴールは十一班所属で確定したのだろう。しかし、着信メロディを設定されて携帯電話を渡されたというのは初めて聞いた。
「と、とにかく早く出たら……」
「この着メロは大佐だ。……出たくねえ」
「いや、大佐だったら余計出ないとまずいだろ!」
胸ポケットに手を伸ばしもしないエリゴールに、ヴァッサゴのほうがあせりまくる。
「あー……電源切っときゃよかった」
ぶつくさ言いながらも、ようやくエリゴールはいっこうに鳴りやまない携帯電話を取り出し、通話開始ボタンを押した瞬間に対上官用の笑みを作った。
「申し訳ありません。ドックの騒音がひどくて、気づくのが遅くなりました」
――相変わらず、切替はええ……
ヴァラクもセイルもこれは得意だったが、やはりこのエリゴールが断トツだと思う。ある意味、プロだ。
「……はい、ああ、いえ、自分は十一班の待機室で仮眠をとらせていただこうかと……」
だが、そのプロにも限界はあるようで、鉄壁のはずの作り笑顔が少しずつ少しずつ崩れていっている。いったい何を言われているのだろうか。
「……いえ、自分はやはり十一班におります。大佐殿の軍艦に乗せていただくまでは、十一班長の補佐ですので。それでは失礼いたします」
最後のほうには明らかにぶち切れ寸前になっていた。通話終了ボタンを押したエリゴールの顔は、電話に出る前よりいっそう険しくなっている。
「な……何言われたんだ?」
おそるおそる訊ねると、エリゴールは吐き捨てるように答えた。
「仮眠するなら〝大佐棟〟でしろだと」
「……え?」
「その前には食事も誘われたが断った。あの大佐はどうも苦手だ。同じ護衛ならコールタン大佐のほうがずっといい」
「ええっ!?」
パラディン大佐が苦手で、彼よりコールタン大佐のほうがずっといい。ヴァッサゴにはどちらも到底信じられなかった。特に後者。
「とにかく、十一班に避難する。まずないとは思うが、アンドラスが接触しようとしてきても相手にするな。来週には消える」
「え?」
しかし、そのときにはエリゴールは椅子から立ち上がっていて、通路側の自動ドアに向かって歩いていた。
ダーナはパラディンがエリゴールを必要としていると言った。その根拠となったものは何だったのだろう。エリゴールの〝人切り〟をダーナが知っていたとは思えないのだが。
「……もしかして、顔?」
ヴァッサゴがそう独りごちたとき、エリゴールは自動ドアの向こうに消えていた。
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