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【03】マクスウェルの悪魔たち(下)
05 やらかされました
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マッカラルがダーナの執務室に戻ると、執務机にいたダーナはすぐにマッカラルの背後を見やり、訝しそうに眉をひそめた。
「七班長たちは?」
案の定な質問に、マッカラルは呆れた表情を隠せなかったが、上官の質問には端的に答えた。
「ドックから直接元マクスウェル大佐隊の軍港に戻りました」
「戻った? 私に挨拶せずに?」
信じられないようにマッカラルを凝視する。
「私も一応言いましたが、そこは〝七班長〟ですので……『大佐殿はお忙しいでしょうから〝ありがとうございました〟とよろしくお伝えください』と命令……あ、いえ、言伝を頼まれました」
「それらしいことを……」
悔しげにダーナは呟いたが、ヴァラクに来てもらいたかったらはっきりそう命じなくてはならないと、隊員名簿の件で嫌と言うほど思い知らされたはずである。やはり、ヴァラクの言うとおり〝馬鹿大佐〟かもしれないと、このときマッカラルはちらっと思った。
「あ、それより大佐! 予備ドックが今大変なことに……!」
はっと我に返って、いま見てきたばかりのドックの現況を報告しようとすると、ダーナに冷静に遮られた。
「元マクスウェル大佐隊の三〇〇人が無断欠勤していたのだろう?」
拍子抜けしてマッカラルは問い返す。
「ご存じだったんですか?」
「いや。我ながら間抜けとしか言いようがないが……ここに戻って、殿下とパラディン大佐のメールを見て知った」
司令官や大佐からのメールは、原則この執務室の端末でしか閲覧できない。とは言うものの、確かに間抜けだ。しかし、それはダーナの副官である自分にも言える。
「殿下からメールって……まさか、〝栄転〟ですか!?」
とっさにそう叫んでしまってから、それにしてはダーナの態度が普段どおりだと思い直した。ヴァラクのことを気にかける余裕もあったくらいである。
「いや。〝栄転〟の辞令ではなかった。――昨日以降、私の隊で元マクスウェル大佐隊員が転属願を提出した場合、その希望先の如何を問わず、無条件にパラディン大佐隊に転属させる。パラディン大佐が私にメールを送ってよこしたのは、彼のところにもこれと同じメールが殿下から送信されたからだ」
「……は?」
ひとまず〝栄転〟でなかったのはよかったが、メール内容の意味がわからず、マッカラルは呆けた声を漏らした。
「最初は私も意味がわからなかった」
さすがに自分の副官の考えていることはわかったのか、苦々しくダーナが笑う。
「だが、もしやと思い、あのドックの認証装置の記録を調べてみて、奴らが無断欠勤していると知った。総務に問い合わせてみたところ、奴らは昨日今日と、再び転属願を提出しているそうだ。おそらく、殿下は総務から報告を受けられたのだろう。……まったく、これでよく〝栄転〟にならないものだ」
言葉にはしなかったが、それにはマッカラルも同感だった。転属願はともかく、無断欠勤しているのを把握できていなかったということが何よりまずい。やはり、監視を置いておくべきだったと考えたとき、マッカラルは先ほど会った三人の班長たち――途中から二人になったが――の存在を思い出した。
「大佐。認証装置の記録を調べられたということは、あそこに異動させた班長たちは出勤していることはご存じですね?」
「ああ。……彼らが転属願を提出して無断欠勤するよう唆したのだろう? 七班長と何を話した?」
「あ、はい……」
あの予備ドック内で起こったことを、簡潔かつ正確にまとめて話す。ダーナは両腕を組んでそれに耳を傾けていたが、最後まで聞き終えると苦笑をこぼした。
「恐ろしいな」
「何がですか?」
「七班長も、その七班長が来る前に転属願を出させていた十二班長も。だが、彼らにとっては、それが〝当たり前〟なのだろうな。とても〝馬鹿大佐〟の手には負えん」
そうですねとつい言いそうになってしまったマッカラルだったが、何とかこらえて別の話題を口にした。
「それにしても、なぜ殿下はそのようなメールを?」
「わからん」
開き直ったのか、〝馬鹿大佐〟はそう即答した。
「確かに、奴らは護衛担当の隊に置いておくのがいちばん邪魔にならないが、なぜパラディン大佐隊に限定するのか。あそこにはすでに元マクスウェル大佐隊員が約八十人いる。今回の分を足したら約三八〇人。軽く三班作れてしまうぞ」
「パラディン大佐は何と?」
「やはりわからないと。いずれにせよ、私はもうあの三〇〇人を飼っておかなくてもよくなった。……ありがたいことだな」
言葉とは裏腹にダーナは無表情だった。今回も自力で解決したわけではないからだろう。
「パラディン大佐は、あの三〇〇人を引き受けますか?」
「引き受けたくなくとも、殿下の命令ならば引き受けざるを得ないだろう。……今回の転属騒ぎで、私は他の大佐たちに借りばかり作ったが、特にパラディン大佐に対するそれは膨大なものになってしまうな。だが、殿下の真意がわからない以上、うかつにメールで謝罪することもできん」
また苦笑いして、ダーナは端末を見やる。
「殿下は私の管理責任については問われていないからな。今のところ」
「あ……管理と言えば、十一班長と十二班長の処遇はどうされますか?」
ダーナは少しだけ考える間をおき、マッカラルにこう命じた。
「ここに呼べ。殿下からの通知を伝える。その上で改めて問う。ここに残るか。パラディン大佐隊に転属を希望するか」
* * *
「モルトヴァン……」
端末のディスプレイを見つめたまま、パラディンは自分の副官の名前を呼んだ。
「私は何か、殿下を怒らせるようなことをしただろうか……?」
「いえ、そんなことはないと思いますが……」
褐色の髪と濃茶の目をした青年――モルトヴァンも、なぜ司令官にこのような仕打ちをされなければならないのか皆目見当がつかず、そんな答えになっていない答えを返すことしかできなかった。
「まあ、ダーナ大佐を助けるためと思えば何とかするが……心当たりが思いつかない」
パラディンは嘆息して肩を落とす。
「しかし、約三八〇人。いったいどう扱ったら?」
「ただ遊ばせておくわけにもいくまい。……うちには護衛艦の予備が二十隻ほどある。それらに彼らを振りわけて乗せて、護衛として使えるようにする。うまくすれば、うちの班は順繰りに出撃しなくて済むようになる」
本気なのか自棄なのか、パラディンは金の瞳を眇めて笑った。
「ダーナ大佐隊の〝お古〟ですね。……まさか、殿下はそれを見越して、このような命令を?」
「それはどうかな。予備ならコールタン大佐のところにもある。理由を殿下に訊ねてみたいが……藪蛇になりそうで怖い」
「……ドレイク大佐に相談してみますか?」
「メールでか? それはもっと怖い。殿下は間違いなくメールの〝検閲〟をしている。たとえ相手がドレイク大佐でなくても、殿下の命令について云々するわけにはいかないだろう」
「ああ……本当に頼りたいときには頼れない……」
自分では上の下だと思っているが、パラディンのそばにいると並になる顔を両手で覆い、モルトヴァンは嘆く。
「とにかく、我々が早急にすべきことは、元マクスウェル大佐隊員約三八〇人を受け入れて、ダーナ大佐隊を身軽にしてやることだ。我々は〈フラガラック〉に護衛されているのだからな」
パラディンは自嘲すると、手始めに、元マクスウェル大佐隊員約三八〇人分の隊員名簿作成をモルトヴァンに命じた。
* * *
「こりゃいじめだね、完全に」
独自の情報網から司令官の命令内容を知ったコールタンは、自分の端末の前で呆れたように一笑した。
「パラディン大佐に、誰がですか?」
副官用の執務机で事務仕事をしていた金髪の童顔の青年――クルタナは、青い目を見張ってコールタンに訊ねる。
「決まってるだろ」
コールタンはさらに呆れたような顔をした。
「〝大佐〟の俺たちに命令できる、唯一の上官だよ」
「殿下? 何でまた?」
「ドレイク大佐が、ダーナの次に気に入ってるのがパラディンだからさ」
「え……そんな理由で?」
「そんな理由で。でも、殿下は頭のいい子供だから、あえて何の説明もしないでごまかしちゃう。パラディンもパラディンで、どんなに理不尽な仕打ちに思えても、才覚で乗りこえちゃう」
「パラディン大佐はともかく、殿下……」
「最近、ドレイク大佐にかまってもらえてないんだろ。ドレイク大佐は殿下のために戦ってんのにな。皮肉なもんだ」
「あの……このままでいいんでしょうか……?」
「まあ、パラディンには気の毒としか言いようがないが、殿下の命令自体は合理的だ。そこがまた厄介なところだが。ところで、今うちにいる元マクスウェル大佐隊員は何人だ?」
「ちょうど二十人になりました」
「ということは、三分の一以下まで減らせたか。なら、そろそろやめるか。新入りいびり」
赤毛の〝大佐〟は屈託なく笑い、クルタナの耳にかすかに届く声で呟いた。
「〝護衛なめんな、砲撃馬鹿野郎ども〟」
* * *
「……悔しいです」
事務仕事の手を止めて、イルホンはまた奥歯を強く噛みしめた。
「転属願のことを、総務より先にオールディスさんから知らされるなんて……!」
「そんなことで張り合わないでよ」
さすがにドレイクもうんざりしたように、執務机にいるイルホンをソファから顧みる。
「そもそも、いくら君が元総務でも、うちには関係ない転属願のことを教えてもらえるなんて、ほんとはあっちゃいけないことでしょ」
「なら、オールディスさんはどうして……!」
「あー……それは俺にも謎だな」
激薄コーヒーを飲みながら、ドレイクはにやにやする。
「総務にもコネがあるのかな。イルホンくんよりも強力な」
「そっちのほうが余計悔しいです!」
「まあまあ。そんな男がうちにいると思えば心強いじゃないの。人生、時には割りきりも必要よ?」
「この件に関しては割りきれないです」
「円周率みたいだな。およそ三にしときなよ」
「それは割りきりすぎです」
イルホンたちがその件について知ったのは、今日の午後、ドレイクいわく〝〈新型〉の抜き打ちチェック(二回目)〟をしに行ったときのことである。一回目で学習したのか、セイル以外も〝真面目に訓練〟していたが、オールディスはドレイクが来たことを知ると、実に嬉しそうに口角を上げ、勝手に席を離れて、彼のそばに歩み寄ってきたのだった。
「大佐。すでにご存じでしたら申し訳ありません。……ダーナ大佐のところで、第二次転属騒動が勃発しましたよ」
「何?」
と言ってドレイクより先に反応したのは、操縦席に座っていたセイルだった。
「第二次転属騒動?」
セイルにちらりと目はやったものの、ドレイクはすぐにオールディスに視線を戻した。
「はい。ダーナ大佐隊の予備ドックに隔離されてた元マクスウェル大佐隊員たちが、昨日今日と大挙して総務に転属願を提出しているそうです。でも、どこを転属希望先にしていても、強制的にパラディン大佐隊に転属させると殿下に通知されたそうで、結局、隊員たちはそっくりそのまま、パラディン大佐隊に行くことになりそうです」
「どうしてあなたがそんなことを知っているんですか!?」
ドレイクよりもセイルよりも誰よりも早くイルホンは叫んだ。その声に驚かなかったのは、叫ばれた当人であるオールディスだけである。彼はどこにでもいそうな平凡な顔でにたりと笑った。
「どうしてって……それは秘密」
「それはもう秘密で済むレベルじゃないでしょう!」
「イルホンくん、俺より先に切れないでよ」
ドレイクが苦笑して、イルホンの右肩をぽんぽん叩く。
「俺もイルホンくんと気持ちは同じだが、とりあえず、その殿下の命令っていうのは確かなのか?」
「確かですよ。何でしたら、大佐が直接殿下に訊ねられてみては?」
「できるか、そんなこと」
顔をしかめてドレイクは言い返す。
「俺は余計なことには、極力関わりたくないんだよ」
「余計なことじゃないでしょ、余計なことじゃ!」
イルホンは今度はドレイクに噛みついたが、彼はそれを笑っていなした。
「余計なことだよ。俺らは今回は完全に部外者。……六班長。わざわざ元同僚に確認とる必要ないぞ。それよりこれの操縦、一分一秒でも早く物にしろ。出撃までに間に合わなかったら、ダーナ大佐隊に差し戻す」
――差し戻すって……
怒りを忘れてイルホンは脱力する。だが、セイルにとってその一言は、魔法の呪文にも等しかった。
「了解しましたッ!」
先ほどのイルホンよりも大きな声で叫び返すと、シートが壊れそうな勢いで正面に向き直ったのである。
「あ、言い忘れてたけど、軍艦の中では『イエッサー』ね。俺がいい気になれるから」
「イエッサーッ!」
「よしよし、いい返事だ」
満足げにうなずいたドレイクは、あっけにとられてセイルを見ていた艦長席のバラードに目を巡らせた。
「んじゃあ、バラード。あとは任せた。おまえらも適当に訓練しててくれ」
「俺たちは適当ですか」
しかし、たった一週間ですっかりドレイク式に馴染んでしまったバラードは、呆れたようにそう言いながらも、「イエッサー」と返答した。
それからドレイクと共に執務室に戻ったイルホンは、真っ先に総務に電話してオールディスから聞かされた話がすべて事実であることを確認し、悔しさのあまり、歯ぎしりしていたのだった。
「オールディスさんが誰とどうつながっているのかはともかくとして、殿下はどうしてこんな命令を出されたんでしょう?」
円周率三・一四程度の割りきりを選択した結果、イルホンの疑問はこの一点に集約された。
「さあてねえ……とりあえず、砲撃担当の邪魔にならないところにまとめて置いときたかったんじゃないのかねえ……少なくとも、今度の戦闘が終わるまでは」
コーヒーを啜りながら、ドレイクはのんびりと答える。
「でも……それならパラディン大佐一人に押しつけなくても……コールタン大佐と〝半分コ〟してもいいんじゃないですか?」
「その〝半分コ〟の仕方を決めるのも面倒だと思ったんじゃない? 俺も一時的に預けるんだったら、パラディン大佐のほうにするな。俺の脱出ポッドも拾ってもらったし」
「それは関係ないでしょ」
「関係あるよ。拾った俺を〝人道的に〟扱ってくれたからね。……って言っても、気づいたときにはもうここの病院にいたんだけど」
「それにしても、どうしてパラディン大佐隊に拾われたことは、秘密にしておかなくちゃいけないんでしょうね」
ドレイクによると、彼が何度も訊ねてようやくそのことを教えてくれたというその医療関係者は、自分が話したことは絶対に他言するなと何度も念押ししてきたという。ドレイクは彼の名前は伏せた上で、自分の脱出ポッドを回収したのがパラディン大佐隊であることをイルホンにばらした。
――確かに約束は守っている。その医療関係者が約束の仕方を間違えたのだ。だが、イルホンは自分の身を守るため、その話は聞かされなかったことにしていた。
「だよね。その理由だけはそいつも教えてくれなかった。いずれにしろ、パラディン大佐にはいくらお礼言いたくても言えないから、俺が手助けできることだったら、いくらでも手助けしてやりたいが……残念ながら、今回はお手上げだ」
相変わらず前を向いたまま、ドレイクは本当に両手を上げてみせた。
「〝殿下命令〟には、誰も逆らえない」
――いや、大佐は逆らえるでしょ?
イルホンは心の中でツッコミを入れたが、実際のところ、あの命令の目的がドレイクの推測どおりなら、今回は逆らわないほうが賢明なのだ。
(でも、それならそうと、理由も説明すればいいのに。どうしてあんな命令の仕方するんだろう?)
元マクスウェル大佐隊員たちが無断欠勤していることは知らないイルホンは、眉をひそめて首をひねった。
* * *
――本当にやらかした。
ヴォルフは自分専用のソファから、執務机にいるアーウィンを睨みつけたが、彼はまったく意にも介していなかった。
「アーウィン……おまえ、それほどパラディンが嫌いなのか?」
「私は別に、自分の好悪でこのような判断を下したわけではないぞ」
涼しい顔でアーウィンは答える。
「もうこれ以上、元マクスウェル大佐隊員に、大佐たちや総務の手を煩わされたくなかっただけだ。……『連合』もそろそろ来る」
「パラディンの手を煩わせるのはいいのか」
「単純な消去法だ。奴らは護衛のあの男のところにまとめて置いておくのが、いちばん誰の邪魔にもならない」
「何が単純な消去法だ。何の根拠もないことをもっともらしく言いやがって。総務から転属願の報告受けたとき、これで奴らをパラディンに押しつけられるって内心喜んでただろ。前に転属できなかった隊員はパラディンが責任とって全員引き取ればいいとか言ってたしな」
図星すぎたのか、今度はアーウィンがヴォルフを鋭く睨み返す。ヴォルフやキャル――現在、自分の執務机でアーウィンの業務代行中――以外の人間がこうされていたら、恐怖ですくみ上がっていただろう。ドレイクだったら歓喜で震え上がっていたかもしれない。もっとも、今のアーウィンがドレイクにこんな目を向けることはまずないだろうが。
「まあ、コールタンのところに転属させたら〝冷遇〟で数減らされるから、パラディンだけに任せたほうがいいとは俺も思うが。でも、それならそうと、パラディンやダーナにはっきり説明してやったらどうだ?」
多少ヴォルフが妥協してやると、アーウィンは彼から目線をそらせてぼそりと言った。
「面倒だ」
「は?」
「〝大佐〟にいちいちこんなことを説明してやらなければならないのが面倒だ」
〝呆れて物が言えない〟ということがどういうことか、ヴォルフはこのとき心の底から実感した。
「毎日毎日、メールを検閲する時間はあるくせに、なんて勝手な……」
「それとこれとは話は別だ。私が説明などしなくても、あの二人ならそうとわかるだろう。特にパラディンはな。あの男は今の自分がすべきことを確実にするはずだ」
「……結局、パラディンを評価はしてるのか」
「あの変態にではなく、ダーナにだけメールしたことに関してはな。キャル、誰もあの変態にメール送信はしていないな?」
「はい、マスター」
急にアーウィンに訊ねられても、キャルは端末のディスプレイに目を落としたまま、まったく動じることなく応答する。
「誰もドレイク様にメール送信していません」
「変態もメール送信していないか?」
「されていません」
「……ドレイクなら今回の件、もう知っていそうな気はするけどな」
ヴォルフの呟きに、面白くなさそうな顔をしつつも、アーウィンはうなずいた。
「たぶん知っている。知っていて、傍観している。隊員を一気に九人も増やしたからな。今は他の隊のことに気を配っている余裕はないだろう」
「そうか。今度から三隻動かすのか。……動かせるのか?」
「できないことをできるとは、あの男は決して言わない」
一転して、アーウィンは我が事のように誇らしげに微笑んだ。
「二〇〇〇隻殲滅も〝クレー射撃〟も、やると言ってやりとげたぞ」
「七班長たちは?」
案の定な質問に、マッカラルは呆れた表情を隠せなかったが、上官の質問には端的に答えた。
「ドックから直接元マクスウェル大佐隊の軍港に戻りました」
「戻った? 私に挨拶せずに?」
信じられないようにマッカラルを凝視する。
「私も一応言いましたが、そこは〝七班長〟ですので……『大佐殿はお忙しいでしょうから〝ありがとうございました〟とよろしくお伝えください』と命令……あ、いえ、言伝を頼まれました」
「それらしいことを……」
悔しげにダーナは呟いたが、ヴァラクに来てもらいたかったらはっきりそう命じなくてはならないと、隊員名簿の件で嫌と言うほど思い知らされたはずである。やはり、ヴァラクの言うとおり〝馬鹿大佐〟かもしれないと、このときマッカラルはちらっと思った。
「あ、それより大佐! 予備ドックが今大変なことに……!」
はっと我に返って、いま見てきたばかりのドックの現況を報告しようとすると、ダーナに冷静に遮られた。
「元マクスウェル大佐隊の三〇〇人が無断欠勤していたのだろう?」
拍子抜けしてマッカラルは問い返す。
「ご存じだったんですか?」
「いや。我ながら間抜けとしか言いようがないが……ここに戻って、殿下とパラディン大佐のメールを見て知った」
司令官や大佐からのメールは、原則この執務室の端末でしか閲覧できない。とは言うものの、確かに間抜けだ。しかし、それはダーナの副官である自分にも言える。
「殿下からメールって……まさか、〝栄転〟ですか!?」
とっさにそう叫んでしまってから、それにしてはダーナの態度が普段どおりだと思い直した。ヴァラクのことを気にかける余裕もあったくらいである。
「いや。〝栄転〟の辞令ではなかった。――昨日以降、私の隊で元マクスウェル大佐隊員が転属願を提出した場合、その希望先の如何を問わず、無条件にパラディン大佐隊に転属させる。パラディン大佐が私にメールを送ってよこしたのは、彼のところにもこれと同じメールが殿下から送信されたからだ」
「……は?」
ひとまず〝栄転〟でなかったのはよかったが、メール内容の意味がわからず、マッカラルは呆けた声を漏らした。
「最初は私も意味がわからなかった」
さすがに自分の副官の考えていることはわかったのか、苦々しくダーナが笑う。
「だが、もしやと思い、あのドックの認証装置の記録を調べてみて、奴らが無断欠勤していると知った。総務に問い合わせてみたところ、奴らは昨日今日と、再び転属願を提出しているそうだ。おそらく、殿下は総務から報告を受けられたのだろう。……まったく、これでよく〝栄転〟にならないものだ」
言葉にはしなかったが、それにはマッカラルも同感だった。転属願はともかく、無断欠勤しているのを把握できていなかったということが何よりまずい。やはり、監視を置いておくべきだったと考えたとき、マッカラルは先ほど会った三人の班長たち――途中から二人になったが――の存在を思い出した。
「大佐。認証装置の記録を調べられたということは、あそこに異動させた班長たちは出勤していることはご存じですね?」
「ああ。……彼らが転属願を提出して無断欠勤するよう唆したのだろう? 七班長と何を話した?」
「あ、はい……」
あの予備ドック内で起こったことを、簡潔かつ正確にまとめて話す。ダーナは両腕を組んでそれに耳を傾けていたが、最後まで聞き終えると苦笑をこぼした。
「恐ろしいな」
「何がですか?」
「七班長も、その七班長が来る前に転属願を出させていた十二班長も。だが、彼らにとっては、それが〝当たり前〟なのだろうな。とても〝馬鹿大佐〟の手には負えん」
そうですねとつい言いそうになってしまったマッカラルだったが、何とかこらえて別の話題を口にした。
「それにしても、なぜ殿下はそのようなメールを?」
「わからん」
開き直ったのか、〝馬鹿大佐〟はそう即答した。
「確かに、奴らは護衛担当の隊に置いておくのがいちばん邪魔にならないが、なぜパラディン大佐隊に限定するのか。あそこにはすでに元マクスウェル大佐隊員が約八十人いる。今回の分を足したら約三八〇人。軽く三班作れてしまうぞ」
「パラディン大佐は何と?」
「やはりわからないと。いずれにせよ、私はもうあの三〇〇人を飼っておかなくてもよくなった。……ありがたいことだな」
言葉とは裏腹にダーナは無表情だった。今回も自力で解決したわけではないからだろう。
「パラディン大佐は、あの三〇〇人を引き受けますか?」
「引き受けたくなくとも、殿下の命令ならば引き受けざるを得ないだろう。……今回の転属騒ぎで、私は他の大佐たちに借りばかり作ったが、特にパラディン大佐に対するそれは膨大なものになってしまうな。だが、殿下の真意がわからない以上、うかつにメールで謝罪することもできん」
また苦笑いして、ダーナは端末を見やる。
「殿下は私の管理責任については問われていないからな。今のところ」
「あ……管理と言えば、十一班長と十二班長の処遇はどうされますか?」
ダーナは少しだけ考える間をおき、マッカラルにこう命じた。
「ここに呼べ。殿下からの通知を伝える。その上で改めて問う。ここに残るか。パラディン大佐隊に転属を希望するか」
* * *
「モルトヴァン……」
端末のディスプレイを見つめたまま、パラディンは自分の副官の名前を呼んだ。
「私は何か、殿下を怒らせるようなことをしただろうか……?」
「いえ、そんなことはないと思いますが……」
褐色の髪と濃茶の目をした青年――モルトヴァンも、なぜ司令官にこのような仕打ちをされなければならないのか皆目見当がつかず、そんな答えになっていない答えを返すことしかできなかった。
「まあ、ダーナ大佐を助けるためと思えば何とかするが……心当たりが思いつかない」
パラディンは嘆息して肩を落とす。
「しかし、約三八〇人。いったいどう扱ったら?」
「ただ遊ばせておくわけにもいくまい。……うちには護衛艦の予備が二十隻ほどある。それらに彼らを振りわけて乗せて、護衛として使えるようにする。うまくすれば、うちの班は順繰りに出撃しなくて済むようになる」
本気なのか自棄なのか、パラディンは金の瞳を眇めて笑った。
「ダーナ大佐隊の〝お古〟ですね。……まさか、殿下はそれを見越して、このような命令を?」
「それはどうかな。予備ならコールタン大佐のところにもある。理由を殿下に訊ねてみたいが……藪蛇になりそうで怖い」
「……ドレイク大佐に相談してみますか?」
「メールでか? それはもっと怖い。殿下は間違いなくメールの〝検閲〟をしている。たとえ相手がドレイク大佐でなくても、殿下の命令について云々するわけにはいかないだろう」
「ああ……本当に頼りたいときには頼れない……」
自分では上の下だと思っているが、パラディンのそばにいると並になる顔を両手で覆い、モルトヴァンは嘆く。
「とにかく、我々が早急にすべきことは、元マクスウェル大佐隊員約三八〇人を受け入れて、ダーナ大佐隊を身軽にしてやることだ。我々は〈フラガラック〉に護衛されているのだからな」
パラディンは自嘲すると、手始めに、元マクスウェル大佐隊員約三八〇人分の隊員名簿作成をモルトヴァンに命じた。
* * *
「こりゃいじめだね、完全に」
独自の情報網から司令官の命令内容を知ったコールタンは、自分の端末の前で呆れたように一笑した。
「パラディン大佐に、誰がですか?」
副官用の執務机で事務仕事をしていた金髪の童顔の青年――クルタナは、青い目を見張ってコールタンに訊ねる。
「決まってるだろ」
コールタンはさらに呆れたような顔をした。
「〝大佐〟の俺たちに命令できる、唯一の上官だよ」
「殿下? 何でまた?」
「ドレイク大佐が、ダーナの次に気に入ってるのがパラディンだからさ」
「え……そんな理由で?」
「そんな理由で。でも、殿下は頭のいい子供だから、あえて何の説明もしないでごまかしちゃう。パラディンもパラディンで、どんなに理不尽な仕打ちに思えても、才覚で乗りこえちゃう」
「パラディン大佐はともかく、殿下……」
「最近、ドレイク大佐にかまってもらえてないんだろ。ドレイク大佐は殿下のために戦ってんのにな。皮肉なもんだ」
「あの……このままでいいんでしょうか……?」
「まあ、パラディンには気の毒としか言いようがないが、殿下の命令自体は合理的だ。そこがまた厄介なところだが。ところで、今うちにいる元マクスウェル大佐隊員は何人だ?」
「ちょうど二十人になりました」
「ということは、三分の一以下まで減らせたか。なら、そろそろやめるか。新入りいびり」
赤毛の〝大佐〟は屈託なく笑い、クルタナの耳にかすかに届く声で呟いた。
「〝護衛なめんな、砲撃馬鹿野郎ども〟」
* * *
「……悔しいです」
事務仕事の手を止めて、イルホンはまた奥歯を強く噛みしめた。
「転属願のことを、総務より先にオールディスさんから知らされるなんて……!」
「そんなことで張り合わないでよ」
さすがにドレイクもうんざりしたように、執務机にいるイルホンをソファから顧みる。
「そもそも、いくら君が元総務でも、うちには関係ない転属願のことを教えてもらえるなんて、ほんとはあっちゃいけないことでしょ」
「なら、オールディスさんはどうして……!」
「あー……それは俺にも謎だな」
激薄コーヒーを飲みながら、ドレイクはにやにやする。
「総務にもコネがあるのかな。イルホンくんよりも強力な」
「そっちのほうが余計悔しいです!」
「まあまあ。そんな男がうちにいると思えば心強いじゃないの。人生、時には割りきりも必要よ?」
「この件に関しては割りきれないです」
「円周率みたいだな。およそ三にしときなよ」
「それは割りきりすぎです」
イルホンたちがその件について知ったのは、今日の午後、ドレイクいわく〝〈新型〉の抜き打ちチェック(二回目)〟をしに行ったときのことである。一回目で学習したのか、セイル以外も〝真面目に訓練〟していたが、オールディスはドレイクが来たことを知ると、実に嬉しそうに口角を上げ、勝手に席を離れて、彼のそばに歩み寄ってきたのだった。
「大佐。すでにご存じでしたら申し訳ありません。……ダーナ大佐のところで、第二次転属騒動が勃発しましたよ」
「何?」
と言ってドレイクより先に反応したのは、操縦席に座っていたセイルだった。
「第二次転属騒動?」
セイルにちらりと目はやったものの、ドレイクはすぐにオールディスに視線を戻した。
「はい。ダーナ大佐隊の予備ドックに隔離されてた元マクスウェル大佐隊員たちが、昨日今日と大挙して総務に転属願を提出しているそうです。でも、どこを転属希望先にしていても、強制的にパラディン大佐隊に転属させると殿下に通知されたそうで、結局、隊員たちはそっくりそのまま、パラディン大佐隊に行くことになりそうです」
「どうしてあなたがそんなことを知っているんですか!?」
ドレイクよりもセイルよりも誰よりも早くイルホンは叫んだ。その声に驚かなかったのは、叫ばれた当人であるオールディスだけである。彼はどこにでもいそうな平凡な顔でにたりと笑った。
「どうしてって……それは秘密」
「それはもう秘密で済むレベルじゃないでしょう!」
「イルホンくん、俺より先に切れないでよ」
ドレイクが苦笑して、イルホンの右肩をぽんぽん叩く。
「俺もイルホンくんと気持ちは同じだが、とりあえず、その殿下の命令っていうのは確かなのか?」
「確かですよ。何でしたら、大佐が直接殿下に訊ねられてみては?」
「できるか、そんなこと」
顔をしかめてドレイクは言い返す。
「俺は余計なことには、極力関わりたくないんだよ」
「余計なことじゃないでしょ、余計なことじゃ!」
イルホンは今度はドレイクに噛みついたが、彼はそれを笑っていなした。
「余計なことだよ。俺らは今回は完全に部外者。……六班長。わざわざ元同僚に確認とる必要ないぞ。それよりこれの操縦、一分一秒でも早く物にしろ。出撃までに間に合わなかったら、ダーナ大佐隊に差し戻す」
――差し戻すって……
怒りを忘れてイルホンは脱力する。だが、セイルにとってその一言は、魔法の呪文にも等しかった。
「了解しましたッ!」
先ほどのイルホンよりも大きな声で叫び返すと、シートが壊れそうな勢いで正面に向き直ったのである。
「あ、言い忘れてたけど、軍艦の中では『イエッサー』ね。俺がいい気になれるから」
「イエッサーッ!」
「よしよし、いい返事だ」
満足げにうなずいたドレイクは、あっけにとられてセイルを見ていた艦長席のバラードに目を巡らせた。
「んじゃあ、バラード。あとは任せた。おまえらも適当に訓練しててくれ」
「俺たちは適当ですか」
しかし、たった一週間ですっかりドレイク式に馴染んでしまったバラードは、呆れたようにそう言いながらも、「イエッサー」と返答した。
それからドレイクと共に執務室に戻ったイルホンは、真っ先に総務に電話してオールディスから聞かされた話がすべて事実であることを確認し、悔しさのあまり、歯ぎしりしていたのだった。
「オールディスさんが誰とどうつながっているのかはともかくとして、殿下はどうしてこんな命令を出されたんでしょう?」
円周率三・一四程度の割りきりを選択した結果、イルホンの疑問はこの一点に集約された。
「さあてねえ……とりあえず、砲撃担当の邪魔にならないところにまとめて置いときたかったんじゃないのかねえ……少なくとも、今度の戦闘が終わるまでは」
コーヒーを啜りながら、ドレイクはのんびりと答える。
「でも……それならパラディン大佐一人に押しつけなくても……コールタン大佐と〝半分コ〟してもいいんじゃないですか?」
「その〝半分コ〟の仕方を決めるのも面倒だと思ったんじゃない? 俺も一時的に預けるんだったら、パラディン大佐のほうにするな。俺の脱出ポッドも拾ってもらったし」
「それは関係ないでしょ」
「関係あるよ。拾った俺を〝人道的に〟扱ってくれたからね。……って言っても、気づいたときにはもうここの病院にいたんだけど」
「それにしても、どうしてパラディン大佐隊に拾われたことは、秘密にしておかなくちゃいけないんでしょうね」
ドレイクによると、彼が何度も訊ねてようやくそのことを教えてくれたというその医療関係者は、自分が話したことは絶対に他言するなと何度も念押ししてきたという。ドレイクは彼の名前は伏せた上で、自分の脱出ポッドを回収したのがパラディン大佐隊であることをイルホンにばらした。
――確かに約束は守っている。その医療関係者が約束の仕方を間違えたのだ。だが、イルホンは自分の身を守るため、その話は聞かされなかったことにしていた。
「だよね。その理由だけはそいつも教えてくれなかった。いずれにしろ、パラディン大佐にはいくらお礼言いたくても言えないから、俺が手助けできることだったら、いくらでも手助けしてやりたいが……残念ながら、今回はお手上げだ」
相変わらず前を向いたまま、ドレイクは本当に両手を上げてみせた。
「〝殿下命令〟には、誰も逆らえない」
――いや、大佐は逆らえるでしょ?
イルホンは心の中でツッコミを入れたが、実際のところ、あの命令の目的がドレイクの推測どおりなら、今回は逆らわないほうが賢明なのだ。
(でも、それならそうと、理由も説明すればいいのに。どうしてあんな命令の仕方するんだろう?)
元マクスウェル大佐隊員たちが無断欠勤していることは知らないイルホンは、眉をひそめて首をひねった。
* * *
――本当にやらかした。
ヴォルフは自分専用のソファから、執務机にいるアーウィンを睨みつけたが、彼はまったく意にも介していなかった。
「アーウィン……おまえ、それほどパラディンが嫌いなのか?」
「私は別に、自分の好悪でこのような判断を下したわけではないぞ」
涼しい顔でアーウィンは答える。
「もうこれ以上、元マクスウェル大佐隊員に、大佐たちや総務の手を煩わされたくなかっただけだ。……『連合』もそろそろ来る」
「パラディンの手を煩わせるのはいいのか」
「単純な消去法だ。奴らは護衛のあの男のところにまとめて置いておくのが、いちばん誰の邪魔にもならない」
「何が単純な消去法だ。何の根拠もないことをもっともらしく言いやがって。総務から転属願の報告受けたとき、これで奴らをパラディンに押しつけられるって内心喜んでただろ。前に転属できなかった隊員はパラディンが責任とって全員引き取ればいいとか言ってたしな」
図星すぎたのか、今度はアーウィンがヴォルフを鋭く睨み返す。ヴォルフやキャル――現在、自分の執務机でアーウィンの業務代行中――以外の人間がこうされていたら、恐怖ですくみ上がっていただろう。ドレイクだったら歓喜で震え上がっていたかもしれない。もっとも、今のアーウィンがドレイクにこんな目を向けることはまずないだろうが。
「まあ、コールタンのところに転属させたら〝冷遇〟で数減らされるから、パラディンだけに任せたほうがいいとは俺も思うが。でも、それならそうと、パラディンやダーナにはっきり説明してやったらどうだ?」
多少ヴォルフが妥協してやると、アーウィンは彼から目線をそらせてぼそりと言った。
「面倒だ」
「は?」
「〝大佐〟にいちいちこんなことを説明してやらなければならないのが面倒だ」
〝呆れて物が言えない〟ということがどういうことか、ヴォルフはこのとき心の底から実感した。
「毎日毎日、メールを検閲する時間はあるくせに、なんて勝手な……」
「それとこれとは話は別だ。私が説明などしなくても、あの二人ならそうとわかるだろう。特にパラディンはな。あの男は今の自分がすべきことを確実にするはずだ」
「……結局、パラディンを評価はしてるのか」
「あの変態にではなく、ダーナにだけメールしたことに関してはな。キャル、誰もあの変態にメール送信はしていないな?」
「はい、マスター」
急にアーウィンに訊ねられても、キャルは端末のディスプレイに目を落としたまま、まったく動じることなく応答する。
「誰もドレイク様にメール送信していません」
「変態もメール送信していないか?」
「されていません」
「……ドレイクなら今回の件、もう知っていそうな気はするけどな」
ヴォルフの呟きに、面白くなさそうな顔をしつつも、アーウィンはうなずいた。
「たぶん知っている。知っていて、傍観している。隊員を一気に九人も増やしたからな。今は他の隊のことに気を配っている余裕はないだろう」
「そうか。今度から三隻動かすのか。……動かせるのか?」
「できないことをできるとは、あの男は決して言わない」
一転して、アーウィンは我が事のように誇らしげに微笑んだ。
「二〇〇〇隻殲滅も〝クレー射撃〟も、やると言ってやりとげたぞ」
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