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第三章今川vs織田  怨恨渦巻く桶狭間

駆ける赤備え

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桶狭間、かつていや、遠い昔にあったかつての出来事。

 今川義元と織田信長という二人の人物の人生を変えた場所である。

 一人は命を失い、一人は名を上げ歴史的というより誰もが知る英雄へとなる。

 まさに全てがここから始まったというべき場所なのだ。

 だが今では開発が進んだのと同時に数多の戦争で荒廃し、今残っているのは殺風景な平原だけが残されていて、かつてのように奇襲できるような環境では無くなってしまっているのだ。

 「ホォー、見渡す限り何も無いとはなぁ流石にこれではいかに「龍」と「虎」とそれにあの有名な「相模の獅子」が揃ってもこの大軍に勝てる見込みはあるのですかな?」

 一面に広がる平原を見渡してから虎昌はこちらを試す様な視線を向ける。

 「叔父さん、いぢわるな事を言わないでください。大人げ無いですよ」

 近くにいた「綾」が虎昌を嗜める。

 「いや~スマン。流石にここまでの差になってくるとワシも不安でな、でもこうでも言わないとやる気が出ないんですよ、ワシとこの「虎」様は」

 明らかに挑発めいた言動ではあるが昔から気合を入れなければならない戦の時はこうした物言いになるのがこの男の癖だと既に俺は知っているからこそ。

 「心配ない、今回は慢心も油断もする気は無いさ。全力で奴等を叩くつもりだ!安心しろ虎昌」

 「そうですか!ならワシは持ち場に戻ります。赤備えの恐ろしさを奴らに見せてやるつもりですからな!!」

 豪快に笑いながら虎昌は馬に跨りすぐに走り去っていくのであった。

 「綾」

 走り去る、虎昌を観ながら近くにいた彼女を呼ぶ。

 「はい」

 「虎昌殿と「信房」の部隊があまり前に出過ぎない様に少しだけ警戒してほしい。特に虎昌殿は細心の注意を払ってよく見ていてほしいんだ」

 「はぁ、何故叔父さんに対してだけそこまでする必要があるのですか?」

 不思議がる、「綾」に対して俺は言うべきか、言わないでおくべきかと少しだけ考えてから俺は伝える事に決めた。

 「これは俺の勘ではあるのだがあの人はもしかしたらここで死ぬ気なのかもしれんと思ったからだ」

 その言葉に「綾」は驚き目を大きく見開いたのであった。

 「そんな!まさか叔父さんに限って死ぬ気だなんて有り得ないですよ!」

 彼女は真っ向から否定した、一番隣で彼の背中を追って槍術や軍の動かし方などを学んでいた事は知っていたからだ。

 「俺の勘違いならいいのだけどな。だがあの異様なやる気の出し方と赤備えの兵士の達がほとんど老練の兵ばかりであったからな少しだけ不安に感じてしまった」

 「確かに……いつもなら若い人達も混じっている筈なのに今回は本当に精鋭中の精鋭だけ連れているって事はやはり何かしらあるのかもしれませんね」

 「あぁ、だから少しだけ気にかけてくれないか?俺も見るようにはするしな。ここであの人を失うわけにはいかない」

 「はい!」

 彼女が持ち場に戻っていくのを確認してから改めて陣を確認する。

 「さて、こちらはどうするかだな?」

 左翼は「内藤」、「春日」虎昌といった武田の主力部隊に任せてある、右翼は氏康が担っているため大丈夫な筈なのだが問題は言うと。


 「やはり敵の部隊に誰がいるのかわからないってところがなかなかに辛いところだな一体どれだけの人材をここに投入しているのか気になるしな…」

 偵察の兵は未確認の何かにやられてしまい結局のところ詳しい事は分からずじまい、それでもわかることはざっくりとした兵数のみで誰がこの戦場に来ているのかわからない。

 「まぁ、「羽柴」、「滝川」、「明智」それに「丹羽、柴田」彼等が全員揃っていない事を祈るしかないか」

 少しだけ、呼吸を整えてから俺は伝令が来るのを待つ。

 少しだけ時が経ち、一人の兵士が後ろに控える。

 「全軍配置に着きました」

 淡々と短くそれだけ告げると兵士は足音を消しながらゆっくりと下がっていく。

 「よし!では開戦と行こうか!」

 軍配を手に持ち一気に振りかざす。

 同時に法螺貝が鳴き、一気に軍が動き出し始める。

 織田側も合わせてこちらに動き始めていたのだがどうやら少し動きがぎこちない。

 「赤備え隊、進め!」

 虎昌の号令と共に武田最強の騎馬隊が突撃を始める。
 
 総勢五百の精鋭の突撃は織田軍のを左翼突破する筈であったのだが。

 「やはり、敵の隊列の動きがおかしいまるで戦を知らない奴等が動かしている感じがするな」

 敵の動きに違和感を感じた虎昌は一旦動きを止める。

 そして彼が持っているスキル千里眼で敵兵をよく見て戦慄する。

 「これは!全軍!!防御の陣を構築と全身に防御魔術を使え!」

 うわずった声になっている、歴戦の将の声に赤備え隊は止まり、指示を実行に移す。

 「よし!これより我々は一陣の風になり全部隊の支援に回るとする!」

 いきなりすぎる方針の転換に流石の副将である「信房」が反対する。

 「いや、流石にそんな事をしてしまいますと敵兵に背後から襲われてしまいますぞ」

 「それは心配はいらない、どうやらこのままぶつかっていたらワシらの立場が危うくなるかもしれん。それに氏康隊や「昌豊」達が心配だ。このまま一気に早駆けして周りの味方を助けるとしよう」

 「いや、一体何を見たのですか!教えてください!」

 「言ってもいいが、あまり良いことではないからな全くこんなのが戦とは到底思えんのだがな」

 吐き捨てるようにそれだけ言うと虎昌率いる赤備えは駆け始める。

 「くっ、一体何を見たのですか?」

 彼女は慌ててついていきながら虎昌が見た方角を凝視し絶句する。

 そこにいたのはただ鎧を着せられた、一般市民達であった。それに何やら目の焦点があっておらずどうやら催眠術でもかけられた状態で突っ立っているようであったのだ。

 「確かに…このまま突撃していたら私達の立場が無い。なんて酷いやり方だ!」

 怒りに震えながらも「信房」は虎昌についていく。

 そして赤備え隊は味方を守るために駆けていく。いつもより赤くなっているように見えるのは彼らの怒りによるものかもしれない。

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