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第二王女との出会い
たとえどんなに無力でも その5
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夕食はカレイの煮付けと肉じゃがだった。それらの美味しさと、シオンの情報をつかんだ手応えから、食事の会話は弾んでいた。
「明日からは、私も捜索に加わるわ」
食事が終わり、一日の報告を済ませたあと、燈はおもむろに言い放った。
食事中のいい空気は退席し、居間に緊張が走る。八咫烏たちは顔を見合わせ、練馬は何か言いたげだ。
「燈様」
隊長を務める福富を先頭に、八咫烏全員が燈の前でひざまづいた。
「我々の力不足、誠に申し訳なく思っております。儀式までに我ら命をかけて天斬剣を見つけてみせますので、どうかご容赦くださいますよう」
平身低頭している様が痛々しい。目立たないよう別荘の中で指揮をとっているトップが前線に出ると言い出したのだ
先日自分の力不足を嘆いた宗次郎は、彼の気持ちがよくわかった。
また、燈の狙いもなんとなく察しがついた。
おそらく燈は自分を囮にする気だ。シオンの狙いは天斬剣そのものでも、儀式の失敗でもなく、燈の殺害なのだ。なら、出歩いてその身を晒し、隠れているシオンの方から出てきてもらえばいいと考えているのだろう。
ましてこの中に裏切り者がいるならば、燈が外に出る情報は必ずシオンに流れるのだから。
「あなたたちはよくやっているわ。仕事ぶりを責めるつもりはないの。勘違いしないように」
「では、理由をお聞かせいただいても?」
練馬がメガネをクイッとあげ、燈を見据える。生半可な理由では許可しないとそのオーラが語っていた。
「一つ目の理由は、単純に人手を増やしたいからよ」
「であれば燈様自らで歩く必要はありません。もし存在が公になればどうなるか、わからないわけではないでしょう」
練馬のいうことも一理ある。
燈が宗次郎を探した際には、フードをかぶって顔を見えなくしていた。その状態で歩いているだけでもだいぶ目立っていたのだ。人探しなどしていたら逆に通報されてしまいそうだ。
「二つ目の理由は、シオンが強敵だからよ。あなたたちがシオンを見つけても、逆に見つかって殺されたら意味がないでしょう」
「それは……」
練馬も流石に言葉に詰まっていた。これに関しては燈が正論を言っている。
燈はこの別荘にいるメンバーの中で一番強い。シオンはその燈と互角に戦えるのだ。戦闘をするのなら燈は絶対に必要になる。
「だから、明日からは私も捜索します。練馬は別荘にいて報告をまとめなさい。それから穂積宗次郎。あなたも捜索に参加すること」
「は、はい」
「待ってください。殿下」
話題を振られ慌てて返事をする宗次郎をよそに、練馬が平伏する。
「はやるお気持ちはお察しします。ですが、刀預神社の巫女五名を協力させると結衣殿から連絡がありました。明日で市内のほとんどを捜索できる手筈となっておりますので、何卒……」
必死に頭を下げ、まくし立てる練馬。神経質で冷静さを欠かないイメージとはかけ離れた行動に、少し度肝を抜かれる。
巫女も波動が使えるメンツを選出しているのだろう。人出が増えた分、より広範囲にわたってシオンや天斬剣の波動を探知できるはずだ。
「わかったわ。明日までは待ちましょう」
燈も練馬の気迫に押されて、自分の意見を曲げていた。
何はともあれ、人手が増えるのは大きい。神社側もどうにかして天斬剣を見つけだし、儀式を成功させたいのだろう。
「では、具体的な行動指針を固めましょう」
「御意」
頭を上げた八咫烏たちから安心が伝わる。明日で仕事を終わらせようとする強い意志が伝わってきた。
風が吹いてガラスが揺れる。大気が低いうなり声をあげ、嵐の予感を感じさせた。
━━━そういえば、明日は雨だったな。
天気予報を思い出しながら、宗次郎は明日こそシオンが見つかりますようにと強く祈った。
「明日からは、私も捜索に加わるわ」
食事が終わり、一日の報告を済ませたあと、燈はおもむろに言い放った。
食事中のいい空気は退席し、居間に緊張が走る。八咫烏たちは顔を見合わせ、練馬は何か言いたげだ。
「燈様」
隊長を務める福富を先頭に、八咫烏全員が燈の前でひざまづいた。
「我々の力不足、誠に申し訳なく思っております。儀式までに我ら命をかけて天斬剣を見つけてみせますので、どうかご容赦くださいますよう」
平身低頭している様が痛々しい。目立たないよう別荘の中で指揮をとっているトップが前線に出ると言い出したのだ
先日自分の力不足を嘆いた宗次郎は、彼の気持ちがよくわかった。
また、燈の狙いもなんとなく察しがついた。
おそらく燈は自分を囮にする気だ。シオンの狙いは天斬剣そのものでも、儀式の失敗でもなく、燈の殺害なのだ。なら、出歩いてその身を晒し、隠れているシオンの方から出てきてもらえばいいと考えているのだろう。
ましてこの中に裏切り者がいるならば、燈が外に出る情報は必ずシオンに流れるのだから。
「あなたたちはよくやっているわ。仕事ぶりを責めるつもりはないの。勘違いしないように」
「では、理由をお聞かせいただいても?」
練馬がメガネをクイッとあげ、燈を見据える。生半可な理由では許可しないとそのオーラが語っていた。
「一つ目の理由は、単純に人手を増やしたいからよ」
「であれば燈様自らで歩く必要はありません。もし存在が公になればどうなるか、わからないわけではないでしょう」
練馬のいうことも一理ある。
燈が宗次郎を探した際には、フードをかぶって顔を見えなくしていた。その状態で歩いているだけでもだいぶ目立っていたのだ。人探しなどしていたら逆に通報されてしまいそうだ。
「二つ目の理由は、シオンが強敵だからよ。あなたたちがシオンを見つけても、逆に見つかって殺されたら意味がないでしょう」
「それは……」
練馬も流石に言葉に詰まっていた。これに関しては燈が正論を言っている。
燈はこの別荘にいるメンバーの中で一番強い。シオンはその燈と互角に戦えるのだ。戦闘をするのなら燈は絶対に必要になる。
「だから、明日からは私も捜索します。練馬は別荘にいて報告をまとめなさい。それから穂積宗次郎。あなたも捜索に参加すること」
「は、はい」
「待ってください。殿下」
話題を振られ慌てて返事をする宗次郎をよそに、練馬が平伏する。
「はやるお気持ちはお察しします。ですが、刀預神社の巫女五名を協力させると結衣殿から連絡がありました。明日で市内のほとんどを捜索できる手筈となっておりますので、何卒……」
必死に頭を下げ、まくし立てる練馬。神経質で冷静さを欠かないイメージとはかけ離れた行動に、少し度肝を抜かれる。
巫女も波動が使えるメンツを選出しているのだろう。人出が増えた分、より広範囲にわたってシオンや天斬剣の波動を探知できるはずだ。
「わかったわ。明日までは待ちましょう」
燈も練馬の気迫に押されて、自分の意見を曲げていた。
何はともあれ、人手が増えるのは大きい。神社側もどうにかして天斬剣を見つけだし、儀式を成功させたいのだろう。
「では、具体的な行動指針を固めましょう」
「御意」
頭を上げた八咫烏たちから安心が伝わる。明日で仕事を終わらせようとする強い意志が伝わってきた。
風が吹いてガラスが揺れる。大気が低いうなり声をあげ、嵐の予感を感じさせた。
━━━そういえば、明日は雨だったな。
天気予報を思い出しながら、宗次郎は明日こそシオンが見つかりますようにと強く祈った。
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