19 / 38
【災難の船旅】第四幕 海賊船見学
0402 海賊より凶悪
しおりを挟む
「っ!」
海泥隊長は口を開けたまま、死んだ魚のような目で私たちを見つめる。
まだ状況を理解していないようだ。
「心配しないでください。乱暴なことをするつもりはありません」
藍は優しく微笑んで海泥に近づける。
「……?!」
「鞭、ナイフ、炭火、氷水などで人を拷問するような趣味はありません。人の手足を切り取って海に投げ出すようなことも全く考えていません。あなたを虐待しても、わたしにメリットがありませんから」
「じゃ、どっどっどうすっ、つもり……!?」
やっと状況が分かったのか、海泥は震えながら声を漏らした。
「そうですね。千本の針であなたを貫いても、何樽の海水を飲ませても、苦労以外に得られるものはありませんし。まず落ち着いて話をしましょう」
「だ、だから……一体、何を……」
「そのような目で見ないでください。お尻の傷に塩を撒くようなまねはしません。そこの若い紳士も、人の歯を一つ一つ叩き落とすようなことができない人間です」
藍はさわやかな顔で非人道的な行為を否定するたびに、海泥の体が縮まる。
「お、脅かしても無駄だ! もったいぶるな! 一体何がしたいんだ?!」
「脅かしではありません。道を尋ねに来ただけです。リラックスしてください」
「う、嘘だ!! 本当は、俺をぼこぼこしに来たんだろ!」
海泥の表情から推測すれば――
そのような非人道的なことをする意思がないなら、そもそも口にもしない!
そんな発言をした以上何を言われても信用できない!
とか考えているでしょう。
――普通に考えたら、確かに理に適っているけど。
優しい顔で残酷なことを話す人こそ一番怖い。
それ以外に、アルビンの短剣と凶悪な目線も、海泥をパニックにさせる原因の一つでしょう。
「どうやらかなり誤解されたようですね。悪魔を見るような目で見られたのはとても残念です。うちのお嬢様なら、皆を仲良くさせるためにどんな努力も惜しまない優しい人です。わたしもそれを見習うべきかもしれません」
「き、きさま、ら、なっ、なに、なにを……」
海泥は完全に遊ばれている……
「遊びはもういいでしょう。脅かしだけじゃなんにもならない。現実的なことをしましょう」
「げっ、現実的なことっ?!」
私の言葉から何か恐ろしい意味を解読したのか、海泥の顔色は真っ白になった。
「わかりました」
藍は頷いて、無垢と言えるほどの笑顔で海泥に迫った。
「ご迷惑をかけるかもしれませんが、これからの質問について教えていただければ、大変助かります。どうかご協力をお願いいたします」
「は、はい! きょっ、協力すんから! 俺に手を出さないでくれ!!」
——
——
藍が優しく質問する途中、海泥は何度も気絶しそうになったけど、聞かれたことに対して一つも残らずまともな返答をした。
姫様の居場所、船長室の場所、救命ボートの数と位置、食料の保存場所、船の配置図、海賊人員の情報、船の進行線路。
そして、自ら進んで航海図一枚とピクルスの缶詰め一つを差し出した。
「これはこれは、大変助かりました。どのように感謝すればいいでしょう」
感謝な言葉を言いながら、藍は航海図だけを受け取った。
「い、いや、もう、勘弁、してくれ……」
「もしも、わたしたちを見なかったことにしていただければ、更に深い感謝を申し上げます」
「そ、そんなことをおっしゃらないでください! かっ、感謝だなんて……俺も、俺も好きで海賊をやってるわけではござせぇん……感謝は、要らぬ……でござる」
藍に何回も感謝された結果、海泥はさらにおかしくなった。
その「感謝」の裏に、きっと悪魔の罠が仕掛けられている!
と海泥の泣き顔にそう書いている。
「そうはいけません。助けていただいたのに、感謝一つも申し上げないようなこと、うちのお嬢様は許しません」
藍はまた固執的に話を伸ばした。
海泥遊びを楽しんでいるみたい。姫様のところへ急ぐんないの?
「だ、だったら、俺を俺を……倒してくれ!!」
いきなり、海泥は藍の腕に抱きついて悲鳴をあげた。
「それは感謝では……」
「お願い! お願いすんから! 姉貴や船長にバレたら、俺は、俺は……」
なるほど、海泥が異常に怯える原因は、恐るべし藍と恐るべし上司の間に挟まれているということか。
「大丈夫です。わたしから事情を説明します。きっとわかってくれます。乱暴なことをしないと約束した以上、あなたを傷つけることなどできません」
その慰めを聞いた海泥は安心するどころか、両手で頭を抱えて慟哭した。
「なにをやっている! 他の海賊に聞かれたらどうするんだ!」
茶番劇を見てられないアルビンはついに止めに入った。
「仕方がありません。では、ちょっとだけ、手加減な形で……」
藍はひとため息をついて、片手を海泥の目を覆った。
そのまま海泥の頭を親指と中指で軽く押したら――
ポンッと、海泥はベッドに倒れて気絶した。
その不思議な手法を見せられた私とアルビンは呆気にとられた。
——藍、やはりただの使用人ではない。
使用人よりボディーガードのほうは正しいかも……
「さて、これからどうしましょうか」
死んだ魚のように横になっている四つの体を目の前にして、張本人の藍は苦笑した。
「情報はもう十分集めた。さっさと行こう。さっきからさんざん遊んでて、ここをどこだと思ってるんだ!」
アルビンは不機嫌そうに催促した。
「しかし、その方は大丈夫ですか?」
アルビンの文句を無視して、藍は私に目を向けた。
その方というのは、まだ目覚めていない熱血探偵少年のことだ。
「海賊の話によると、起こせないじゃないの?」
ウィルフリードは一体どんな薬を使ったのか……
そういえば、彼の行方を聞くのを忘れた……
「試してみます」
そう言いながら、藍は片膝を床について少年の様子を観察する。
「なるほど、そういうことですね」
何かをわかったように呟いてから、藍は軽く少年の両頬を叩いた。
「起きてください。ここで寝たら風邪をひきますよ」
「……ん、ど、う……した……」
少年の口から声が漏れた。
「もう大丈夫です。海賊たちは起こす方法を間違えたから、起こせなかったのです」
起こす方法?
藍の説明とほぼ同時に、少年は頭を抑えながら上半身を起こした。
「カルロス公爵様曰く、人を動かせるには暴力より真心。海賊たちはそれがわからないから、この方を起こせなかったのです」
真心で起したと言いたいの?
なんの冗談……
「うわぁぁ! 全身びしょっ! なぜだ?!」
両足が地面についた途端に少年は大声を立てた。
「べっ! にがっ! はっ、はっ、はっしょうー!! くそうぉぉ! 寒っ! 痛てっ!」
その体のあちこちを叩いて確認する元気満々な様子、とってもいっぱいにやられた人に見えない。
「静かにしろ! ここはどこだと知ってるか!」
アルビンは少年の襟を掴んで警告した。
「どこ? 犯罪現場か? おっと、ことの人たちは?」
やっと三人の海賊に気づいた少年は目を大きく開けた。
「よく聞け、ここは海賊の……」
「全員じっとするんだ! 一歩も動くな! 現場を守ろ!」
「お前こそ黙れ! 海賊を呼び寄せるつもりか!」
……
起こすべきじゃなかった。
海賊に鞭を食わせてもお魚に食われてもいいのに。
「本当に、こんな荷物をうちの嬢様の前に連れて行ったら、公爵様に申し訳ないです」
藍は私の隣で困りそうに微笑んだ。
「想像した状況と大分違いますね。お嬢様はなにか対策がありますか?」
「対策?」
どんな状況を想像したのかわからないけど、こんな状況になったのは少年を勝手に起こした彼のせいでしょ。
「お前たちも何か言え! サーカスを見るために来たんじゃないだろう!」
「お前たち! 事件が発生する時の状況を説明しろ! ここにいる全員は容疑者だからな」
どいつもこいつも、自覚のない奴……
手は小さく震えている。
二人を海に落とせる衝動が胸に刺さる。
こいつらをなんとかしないと、できることもできなくなるような気がする。
そう思うと、ぐいっと探偵少年の襟を掴んだ。
「来い、英雄になるチャンスをあげる」
「別に英雄になりたいわけじゃない。人類のために少しでも貢献できたら俺は満足だ」
「それなら、この仕事はあなたにぴったりだわ」
ツッコミたい気持ちはいっぱいだけど、とりあえず海泥からもらった航海図と船の配置図を少年に押しつけた。
「運が良く、牢屋からここまでの道で海賊はいなかった。この地図を見ながら牢屋に行きなさい。なにかの探偵だったら……」
「フランディール帝国皇帝陛下に直属する秘密特別探偵、俺の名は……」
「そう、その探偵だったら、人質を解放するのもあなたの義務でしょ」
急いで少年の話を遮った。
「倉庫の牢屋にたくさんの人が囚われている。この航海図と船の配置図を客船の船長に渡して。チャンスを見て、救命ボートを奪って客船に戻るように準備しといて。客船にいる海賊は多くない。船員たちが戻ればなんとかなるはず」
「ちょっと待って、何がなんだか俺はさっぱり……」
「とにかく、偉いことです! 人々を救える、正義を称える、偉大なる使命です。道具や武器とかも必要から、まずあっちのタンスで探して見よう」
五里霧中の少年をタンスの前に押し込んで、もう一人の厄介物に向けた。
「アルビン、あなたも行きなさい」
「俺?! なぜだ、一緒にあの姫様のところに行くのでは……」
「その必要はない!」
口調を強くして、彼の話を断ち切った。
「状況確認ならもうできたでしょ。あなたは姫様に会う必要なんてどこにもない。気まぐれなことより、皆を助けて、ここから逃げるのを考えよう。叔母様と女子供たちを放といていいの? あなたも他人を捨て、自分のことだけを考える奴なの?」
「!」
私の話を聞いたアルビンは肩が小さく震えて、視線を下げた。
しばらくして、また視線をあげて私をまっすぐ見つめる。
「お前、やはり……」
「私は誰だって、皆もここで死んだら意味がない。知りたいことがあるなら――」
心底でため息をついた。
こう話さないと彼は観念しないでしょう。
「ここから逃げ出したら、なんでも答えてあげる」
「……本当か?」
「ええ、誓うわ」
できるだけ真面目に装って頷いた。
ここから逃げ出した後、また私に会えるからの話だけどね。
「わかった」
アルビンは肩を下ろし、その条件を呑んだ。
「自分の言ったことを忘れるな」
海泥隊長は口を開けたまま、死んだ魚のような目で私たちを見つめる。
まだ状況を理解していないようだ。
「心配しないでください。乱暴なことをするつもりはありません」
藍は優しく微笑んで海泥に近づける。
「……?!」
「鞭、ナイフ、炭火、氷水などで人を拷問するような趣味はありません。人の手足を切り取って海に投げ出すようなことも全く考えていません。あなたを虐待しても、わたしにメリットがありませんから」
「じゃ、どっどっどうすっ、つもり……!?」
やっと状況が分かったのか、海泥は震えながら声を漏らした。
「そうですね。千本の針であなたを貫いても、何樽の海水を飲ませても、苦労以外に得られるものはありませんし。まず落ち着いて話をしましょう」
「だ、だから……一体、何を……」
「そのような目で見ないでください。お尻の傷に塩を撒くようなまねはしません。そこの若い紳士も、人の歯を一つ一つ叩き落とすようなことができない人間です」
藍はさわやかな顔で非人道的な行為を否定するたびに、海泥の体が縮まる。
「お、脅かしても無駄だ! もったいぶるな! 一体何がしたいんだ?!」
「脅かしではありません。道を尋ねに来ただけです。リラックスしてください」
「う、嘘だ!! 本当は、俺をぼこぼこしに来たんだろ!」
海泥の表情から推測すれば――
そのような非人道的なことをする意思がないなら、そもそも口にもしない!
そんな発言をした以上何を言われても信用できない!
とか考えているでしょう。
――普通に考えたら、確かに理に適っているけど。
優しい顔で残酷なことを話す人こそ一番怖い。
それ以外に、アルビンの短剣と凶悪な目線も、海泥をパニックにさせる原因の一つでしょう。
「どうやらかなり誤解されたようですね。悪魔を見るような目で見られたのはとても残念です。うちのお嬢様なら、皆を仲良くさせるためにどんな努力も惜しまない優しい人です。わたしもそれを見習うべきかもしれません」
「き、きさま、ら、なっ、なに、なにを……」
海泥は完全に遊ばれている……
「遊びはもういいでしょう。脅かしだけじゃなんにもならない。現実的なことをしましょう」
「げっ、現実的なことっ?!」
私の言葉から何か恐ろしい意味を解読したのか、海泥の顔色は真っ白になった。
「わかりました」
藍は頷いて、無垢と言えるほどの笑顔で海泥に迫った。
「ご迷惑をかけるかもしれませんが、これからの質問について教えていただければ、大変助かります。どうかご協力をお願いいたします」
「は、はい! きょっ、協力すんから! 俺に手を出さないでくれ!!」
——
——
藍が優しく質問する途中、海泥は何度も気絶しそうになったけど、聞かれたことに対して一つも残らずまともな返答をした。
姫様の居場所、船長室の場所、救命ボートの数と位置、食料の保存場所、船の配置図、海賊人員の情報、船の進行線路。
そして、自ら進んで航海図一枚とピクルスの缶詰め一つを差し出した。
「これはこれは、大変助かりました。どのように感謝すればいいでしょう」
感謝な言葉を言いながら、藍は航海図だけを受け取った。
「い、いや、もう、勘弁、してくれ……」
「もしも、わたしたちを見なかったことにしていただければ、更に深い感謝を申し上げます」
「そ、そんなことをおっしゃらないでください! かっ、感謝だなんて……俺も、俺も好きで海賊をやってるわけではござせぇん……感謝は、要らぬ……でござる」
藍に何回も感謝された結果、海泥はさらにおかしくなった。
その「感謝」の裏に、きっと悪魔の罠が仕掛けられている!
と海泥の泣き顔にそう書いている。
「そうはいけません。助けていただいたのに、感謝一つも申し上げないようなこと、うちのお嬢様は許しません」
藍はまた固執的に話を伸ばした。
海泥遊びを楽しんでいるみたい。姫様のところへ急ぐんないの?
「だ、だったら、俺を俺を……倒してくれ!!」
いきなり、海泥は藍の腕に抱きついて悲鳴をあげた。
「それは感謝では……」
「お願い! お願いすんから! 姉貴や船長にバレたら、俺は、俺は……」
なるほど、海泥が異常に怯える原因は、恐るべし藍と恐るべし上司の間に挟まれているということか。
「大丈夫です。わたしから事情を説明します。きっとわかってくれます。乱暴なことをしないと約束した以上、あなたを傷つけることなどできません」
その慰めを聞いた海泥は安心するどころか、両手で頭を抱えて慟哭した。
「なにをやっている! 他の海賊に聞かれたらどうするんだ!」
茶番劇を見てられないアルビンはついに止めに入った。
「仕方がありません。では、ちょっとだけ、手加減な形で……」
藍はひとため息をついて、片手を海泥の目を覆った。
そのまま海泥の頭を親指と中指で軽く押したら――
ポンッと、海泥はベッドに倒れて気絶した。
その不思議な手法を見せられた私とアルビンは呆気にとられた。
——藍、やはりただの使用人ではない。
使用人よりボディーガードのほうは正しいかも……
「さて、これからどうしましょうか」
死んだ魚のように横になっている四つの体を目の前にして、張本人の藍は苦笑した。
「情報はもう十分集めた。さっさと行こう。さっきからさんざん遊んでて、ここをどこだと思ってるんだ!」
アルビンは不機嫌そうに催促した。
「しかし、その方は大丈夫ですか?」
アルビンの文句を無視して、藍は私に目を向けた。
その方というのは、まだ目覚めていない熱血探偵少年のことだ。
「海賊の話によると、起こせないじゃないの?」
ウィルフリードは一体どんな薬を使ったのか……
そういえば、彼の行方を聞くのを忘れた……
「試してみます」
そう言いながら、藍は片膝を床について少年の様子を観察する。
「なるほど、そういうことですね」
何かをわかったように呟いてから、藍は軽く少年の両頬を叩いた。
「起きてください。ここで寝たら風邪をひきますよ」
「……ん、ど、う……した……」
少年の口から声が漏れた。
「もう大丈夫です。海賊たちは起こす方法を間違えたから、起こせなかったのです」
起こす方法?
藍の説明とほぼ同時に、少年は頭を抑えながら上半身を起こした。
「カルロス公爵様曰く、人を動かせるには暴力より真心。海賊たちはそれがわからないから、この方を起こせなかったのです」
真心で起したと言いたいの?
なんの冗談……
「うわぁぁ! 全身びしょっ! なぜだ?!」
両足が地面についた途端に少年は大声を立てた。
「べっ! にがっ! はっ、はっ、はっしょうー!! くそうぉぉ! 寒っ! 痛てっ!」
その体のあちこちを叩いて確認する元気満々な様子、とってもいっぱいにやられた人に見えない。
「静かにしろ! ここはどこだと知ってるか!」
アルビンは少年の襟を掴んで警告した。
「どこ? 犯罪現場か? おっと、ことの人たちは?」
やっと三人の海賊に気づいた少年は目を大きく開けた。
「よく聞け、ここは海賊の……」
「全員じっとするんだ! 一歩も動くな! 現場を守ろ!」
「お前こそ黙れ! 海賊を呼び寄せるつもりか!」
……
起こすべきじゃなかった。
海賊に鞭を食わせてもお魚に食われてもいいのに。
「本当に、こんな荷物をうちの嬢様の前に連れて行ったら、公爵様に申し訳ないです」
藍は私の隣で困りそうに微笑んだ。
「想像した状況と大分違いますね。お嬢様はなにか対策がありますか?」
「対策?」
どんな状況を想像したのかわからないけど、こんな状況になったのは少年を勝手に起こした彼のせいでしょ。
「お前たちも何か言え! サーカスを見るために来たんじゃないだろう!」
「お前たち! 事件が発生する時の状況を説明しろ! ここにいる全員は容疑者だからな」
どいつもこいつも、自覚のない奴……
手は小さく震えている。
二人を海に落とせる衝動が胸に刺さる。
こいつらをなんとかしないと、できることもできなくなるような気がする。
そう思うと、ぐいっと探偵少年の襟を掴んだ。
「来い、英雄になるチャンスをあげる」
「別に英雄になりたいわけじゃない。人類のために少しでも貢献できたら俺は満足だ」
「それなら、この仕事はあなたにぴったりだわ」
ツッコミたい気持ちはいっぱいだけど、とりあえず海泥からもらった航海図と船の配置図を少年に押しつけた。
「運が良く、牢屋からここまでの道で海賊はいなかった。この地図を見ながら牢屋に行きなさい。なにかの探偵だったら……」
「フランディール帝国皇帝陛下に直属する秘密特別探偵、俺の名は……」
「そう、その探偵だったら、人質を解放するのもあなたの義務でしょ」
急いで少年の話を遮った。
「倉庫の牢屋にたくさんの人が囚われている。この航海図と船の配置図を客船の船長に渡して。チャンスを見て、救命ボートを奪って客船に戻るように準備しといて。客船にいる海賊は多くない。船員たちが戻ればなんとかなるはず」
「ちょっと待って、何がなんだか俺はさっぱり……」
「とにかく、偉いことです! 人々を救える、正義を称える、偉大なる使命です。道具や武器とかも必要から、まずあっちのタンスで探して見よう」
五里霧中の少年をタンスの前に押し込んで、もう一人の厄介物に向けた。
「アルビン、あなたも行きなさい」
「俺?! なぜだ、一緒にあの姫様のところに行くのでは……」
「その必要はない!」
口調を強くして、彼の話を断ち切った。
「状況確認ならもうできたでしょ。あなたは姫様に会う必要なんてどこにもない。気まぐれなことより、皆を助けて、ここから逃げるのを考えよう。叔母様と女子供たちを放といていいの? あなたも他人を捨て、自分のことだけを考える奴なの?」
「!」
私の話を聞いたアルビンは肩が小さく震えて、視線を下げた。
しばらくして、また視線をあげて私をまっすぐ見つめる。
「お前、やはり……」
「私は誰だって、皆もここで死んだら意味がない。知りたいことがあるなら――」
心底でため息をついた。
こう話さないと彼は観念しないでしょう。
「ここから逃げ出したら、なんでも答えてあげる」
「……本当か?」
「ええ、誓うわ」
できるだけ真面目に装って頷いた。
ここから逃げ出した後、また私に会えるからの話だけどね。
「わかった」
アルビンは肩を下ろし、その条件を呑んだ。
「自分の言ったことを忘れるな」
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
さよなら私の愛しい人
ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。
※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます!
※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる