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3.よろしくお願いします
しおりを挟む「私、正宗君が思っているような人間じゃないよ。だからごめん」
私は正宗君に背を向けて出口へ向かって歩き出した。
ごめんね、正宗君。気持ちはとても嬉しいの。
でもあなたが思うより私は可愛くない。可愛いのはそう見せているだけで、中身は欲望のままに突き進む淫乱な女。
本当の私を見たらきっと失望してしまう。特に正宗君は真面目で誠実な人だから本当の私を知ったら幻滅すると思う。
「待ってくれ!!」
去ろうとする私の背中に向かって正宗君が大きな声で叫んだ。
「で、でも、俺は君のことをもっと知りたいっ!!!」
そう叫び終わると整った眉をハの字に曲げて瞳に悲哀の色を浮かべながら私に語りかける。
「しつこかったらすまない……でも俺は、知らないからという理由で諦めることはできない……こんなにも人を好きになったのは初めてなんだ」
そのまま少しずつ私の方へ向かって歩を進める。
「知らないというなら俺は知りたい……自分が今無理なことを言っているのは十分承知の上だ。君は異性が苦手だということは知っていたからゆっくりお互いのことを知ってからと思っていたんだが」
正宗君は私から少し離れたところで止まるとこう続けた。
「誰かに先を越されてしまったらと思ったらいてもたってもいられなくなってしまった……」
正宗君の私を見つめる切ない眼差しが私の胸に突きささる。
こんなにも誰かから真っ直ぐに想いをぶつけられたのははじめてで、私の心臓はどきどきと早鐘を鳴らす。
「俺も彩さんが思っているような人間ではないんだ。余裕のないカッコ悪い男で……でも、今、君がこの手を払ったら諦める。約束する」
そう言うと正宗君は下を向いて私にそっと手を差し伸べた。
この時も時計は1分1秒狂いなく進んでいたのに、私と正宗君の間では時間が止まっていたような感覚がした。
いつもの私だったら手を払うどころか、相手から背を向けてその場を去っていただろう。
でも、その時の私は違った。真剣に想いを寄せてくれる正宗君とならもしかしてと思ってしまった。
もしかしたら、私も性欲と関係なく誰かを愛することができるかもしれない。
私はそんな想いに駆られていつの間にか正宗君の大きな手を取っていた。
「ありがとう。こんなふうに私のことを想ってくれて……だから私も正宗君のことを知りたいと思う。私、正宗君とお付き合いしたいです」
正宗君は自分の手を握る私の手を見つめると目を大きくさせて、今までに見たことがないほど慌てはじめた。
「ほ、ほんとか!?今起こってることは俺の幻じゃないよな!?」
「幻じゃないよ。ほら、私の手、ちゃんとあったかいでしょ?」
そう言って私は正宗君の手を両手で包み込む。
正宗君はしばらく呆然としていたが、目の端に涙を浮かばせてくしゃっと私に笑いかける。
「本当だ。本当なんだ……ありがとう、彩さん。俺、今、人生で1番嬉しい……これから彩さんを大事にする。約束するよ」
正宗君の突然の告白をきっかけに、この日から私と正宗君のお付き合いは始まったのだった。
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