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言質 ハル視点

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まさか自分の弟が爺さんの姿でいるなんて思っていなかったから気付いた時には驚いた。
帰り行く招待客の中、1人帰らない部外者…その人物をよく見るとダニーだったのだから。
心配しているイオに直ぐに告げなかったのは本当に申し訳ないと思っている。
ただ俺も信じられなくて…まぁ両親は早くから気付いていたようだけど。
さすが親だと思ったよ。

「なかなか似合ってるぞ。」

「ハル兄、絶対面白がってるだろう。俺だってこんな格好するなんて聞いてなかったよ。でも、こうでもしないと紛れ込めなかったから…」

ダニーの頬は髭を取った事で赤黒くなってるのが分かる。
殴られた後が痛々しい。
恐らくその跡を隠すのにも変装が丁度良かったのだろう。
誰にやられたかは分からないが、見つかったら命の保証がなかったということだ。
でも、ダニーが自分からそんな格好をするか?

「仕方なかったのは分かるが、どうしてその格好にすることにしたんだ?追われていたのによく準備できたな…」

「それは…」

「それについては私から説明させていただきます。この場では落ち着きませんので場所を移動しましょうか。そこに会わせたい者もおりますので。」

会わせたいもの?

「あの…ダニー様、大丈夫ですか?」

「…うん。大丈夫だよ。イオは大丈夫だった?」

「はい。私はハル様が助けに来てくださいましたので…」

伏し目がちにそう話すイオは俺の告白を思い出してくれているのだろうか?
早くイオに俺の気持ちをもう一度聞いてもらって、イオの気持ちを聞きたいと願う一方で聞くのが怖いとも思い始めている。
でも、イオと共に生きていきたいと思うから早く終わらせないとな。

「イオ移動しようか。」

「あっ、はい。」

「ダニーも…傷の手当ても必要だろ。」

「うん。」

俺達は公爵夫人の案内である部屋に移動した。
移動中はとにかくエドがやかましかった。
いや仕方ないと思っている。
エドは気づいていなかったのだから。
だから何があったのかとか気になって仕方ないのだろう。
それにイザベル嬢への態度があからさまに想いを寄せるもののそれになっている。
それはイザベル嬢が晴れて婚約破棄の運びにはなることが実質確定したからだろう。
ラグデル家が処罰を受けるのだから当然のことだ。
だが、イザベル嬢は当主を継承したのだからエドとの関係を進展させるのは簡単なことではないはずだ。
現にイザベル嬢は困惑を隠せないでいる。

「エド、イザベル嬢とのことだけど…」

「大丈夫だ。分かっている。だから俺はサミュエル家も王家も継がない。それが一番手っ取り早いだろう?」

なるほど…エドはエドガード・レナイトになる覚悟があるということか…つまり俺かダニーがサミュエル家か王家を継ぐということか。

「それにハルの方が前途多難になったんじゃないか?」

「え?」

「だってイオはこの国の王女になるわけだ。つまり王家は“俺達が継がなくても良くなった“わけだ。意味分かるか?」

「あぁ…」

「そして今後の最大の障害になるのは間違いなく伯父だ。勝てるか?」

「勝たなきゃイオと一緒にいられないなら。絶対に勝つ。まぁ、その前にイオの気持ちを確かめなくちゃいけないけどな。」

「そうか。それならダニーにサミュエル家を継いでもらうしかないな。」

「え?」

「だって伯父に認められるように頑張るんだろう?」

やられた。
俺からその言質を取りたかったのか。
エドがそんなことを考えてくるなんて思ってなかったから脇が甘くなった。
まぁそれだけエドも今後について真剣に考えているってことだよな…
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