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兄と弟

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執務室を出て急いでイオの元へ向かおうとしているとダニーが声を掛けてくる。

「ダニー…何だ?」

「婚約の話、俺も聞いた。イオは今は母さんの部屋にいる。事情を説明されていると思う。」

「そうか。ダニー、俺はジェダイナ公爵家と…シャーロット嬢とは婚約はしない。断る。」

「直ぐに?」

その問いに俺は静かに首をふった。

「ジェダイナ公爵家に直ぐに返事はしないんだ…イオの事どうするの?」

「情報を少しでも得るためだって俺からも伝える。イオに誤解されたくないからな。」

「そう。恐らく母さんも今その説明をしているんだろうな。俺も婚約は反対だ。」

「俺がいない方がお前にとってはイオとの仲を深めるのに好都合じゃないのか?」

「バカにするなよ。いくらイオの事があったってジェダイナ公爵家と縁談をまとめて欲しいなんて願わないよ。」

冗談のつもりで言った言葉にダニーはものすごく怒った。

「心配してくれたんだ。」

「兄貴だし…」

「今回、俺は自分が公爵家に生まれて良かったって思ったよ。」

「どう…いう事?」

「今まで公爵家に生まれたからって嫌な思いをする事も多かったのに、今回はジェダイナ公爵家に良い返事をしなくて済んだんだ。立場的にも王弟の子訳だし断っても問題にならない事も本当に良かったと思った。」

「確かに…これで家格が低ければハル兄は有無を言わさずシャーロット嬢の婚約者になっていた可能性がある訳か…怖いな。」

「本当に怖い話だよ。まさか自分が公爵家である事を良かったと思うなんて…それでもシャーロット嬢と婚約する事にならなくてホッとしているよ。」

「ハル兄…俺イオの事諦めた訳じゃないから。」

「分かってる。」

「ハル兄の事をライバルだと思ってるけど、ハル兄の事も大事だから…だならさっきみたいな事を冗談でも言うなよ!」

「悪かった。」

「絶対にイオの事、守ろうな。」

「あぁ。何かダニーもやっと大人になったな。」

「どう言う意味だよ!」

「親父達やエドや俺がいくら言っても女性への良くない振る舞いは続けていただろう?俺はイオに会う頃にはお前の事は半ば諦めてた。あんな目に遭ったし仕方ないか…って。」

「そうなの?」

「でもイオと会って子供らしくなったと思うし、大事に出来る様になっただろう?」

「?何をだよ。」

「自分の事だよ。」

「俺の事?」

「もう無茶な事はしないだろう?」

「しない。」

「もう誰かを傷つけるような真似もしないだろう?」

「しない。」

「良かったな。」

「何が?」

「俺達がイオに会えて。」

「それはマジでそう思う。」

イオに会っていなかったら俺達は相変わらず誰かを傷つける事で自分を守ったり、殻に閉じこもったりしていたのだろうと思う。
誰かとの出会いがこんなにも自分を変えるとは思ってもいなかった…本当にイオに会えて良かった。
その後、俺は結局イオに会う事は出来なかった。
イオが母さんの部屋から出てこなかったからだ。
会いに行っても良かったが母さんの侍女のマーサが来て今日は休むようにと言伝られたと言われ渋々休む事にした。
きっと明日も俺とダニーがイオを取り合うに決まっている。
だから俺は言われた通り休む事にした。

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