46 / 215
息子と夫
しおりを挟む
夕方になって珍しく、本当に珍しくエドが私を訪ねてきた。
「珍しいわね。どうしたの?」
「うん。ちょっと良い?」
「もちろんよ。中に入って掛けて頂戴。何か飲む?マーサ飲み物と…何かお菓子はある?なければ軽くつまめるものを持ってきて頂戴。」
「畏まりました。」
侍女に指示をした後でエドの側に寄る。
「顔色…少し悪いわね。」
「大丈夫だよ。」
「そう。今日は何か大事な話?」
「親父と話しがしたい。忙しいのは知ってるけど何とかならないかな?」
私を真っ直ぐに見る息子はまだ子供だと思っていたのに、いつの間にか大人の男の顔をするようになっていた。
「そうねぇ。確かに最近のロビンは忙しいみたいで帰ってくるのも遅いのよね。でも、エドはそれが分かっていても話がしたいのよね?」
「ムリ…かな?」
「今日の夜ロビンが帰って来たら聞いてみるわ。ロビンが無理だと言ったら諦めなさい。」
「分かった。」
「どちらにしてもクラレンスに伝えに行かせるから自室で待ってなさい。クラレンスが行った時に寝てたなんて事だけはしないでね?」
「ふっ、そんな事しないよ。」
不意に笑った顔は私の知っているあどけない息子の顔だ。
「そう。それじゃあ今度は母さんの話に付き合いなさい。」
「何?」
「あのね……」
息子が夫と大事な話しがしたいと言ってくるなんて何だか嬉しいような…寂しいような…複雑な感情を抱きながら久々に息子との会話を楽しんだ。
深夜になって帰ってきたロビンにエドと話をして欲しいと伝え部屋を後にした。
エドが自室に戻ったことをクラレンスが伝えに来たのは、それから1時間程度経ってからだった。
部屋に戻るとロビンは見たことのない顔をしていた。
長く一緒に居るのに“こんな顔"をする事もあるのねと思う。
「ヴィッキー、私達の息子はまだ子供だと思っていたけど知らない間に大人になっていたよ。」
「あら奇遇ね。私も今日、同じことを思ったわ。」
話しながら寝室に移動する。
ロビンは随分眠そうにしながらも簡単に話した事を報告してくれる。
「あの子は見つけたかもしれないそうだ。」
「何を?」
「初恋の女性だよ。」
「まぁ。そうなの。」
「まだ可能性だが、イザベル嬢だそうだ。」
可能性と言いながらも確信を持っているように見えるのは何故かしら?
「ロビンはエドの直感を信じてるんでしょ?」
「ヴィッキーには何でも分かってしまうんだな。でもな…困った事になったよ…」
「何が?」
「ジェダイナ公爵家が動く。夜会を開くそうだ。その夜会にイオを招待する計画らしい。」
「罠…よね?」
「だから兄さんにイザベル嬢と会う算段をつけろと言われた。明日は登城しない代わりに良案を出せって。案が出なければイザベル嬢を誘拐するそうだ。」
「まぁ大胆な作戦ね。でもこの状況でイザベル嬢とだけ会うとなると…」
「難しいよな…」
「イオちゃんに会ってもらう?」
「イオに詳細を話すことは兄さんから止められている。」
「詳細は話さなくて良いのよ。本人も会いたがっているんだから。」
「会いたがっ…ている?」
「そうエドが言っていたわ。」
「怪し…まれる…だろう?」
「良いじゃない。どちらにしても警戒されているでしょうし。それにイオちゃん会わせるのと誘拐するのならどちらが妙案?」
「ダメだ…」
「何でよ。」
「違う…眠い…今日はもう…考えが纏められそうに…ないから…明日考えるよ…」
「あら!それじゃあ休みましょう。」
「あぁ…おやすみ…ヴィッキー…」
「おやすみなさいロビン。今日もお疲れ様。」
そう言ってロビンの額に口付けを落とし、ベッドライトを消して眠りについた…
「珍しいわね。どうしたの?」
「うん。ちょっと良い?」
「もちろんよ。中に入って掛けて頂戴。何か飲む?マーサ飲み物と…何かお菓子はある?なければ軽くつまめるものを持ってきて頂戴。」
「畏まりました。」
侍女に指示をした後でエドの側に寄る。
「顔色…少し悪いわね。」
「大丈夫だよ。」
「そう。今日は何か大事な話?」
「親父と話しがしたい。忙しいのは知ってるけど何とかならないかな?」
私を真っ直ぐに見る息子はまだ子供だと思っていたのに、いつの間にか大人の男の顔をするようになっていた。
「そうねぇ。確かに最近のロビンは忙しいみたいで帰ってくるのも遅いのよね。でも、エドはそれが分かっていても話がしたいのよね?」
「ムリ…かな?」
「今日の夜ロビンが帰って来たら聞いてみるわ。ロビンが無理だと言ったら諦めなさい。」
「分かった。」
「どちらにしてもクラレンスに伝えに行かせるから自室で待ってなさい。クラレンスが行った時に寝てたなんて事だけはしないでね?」
「ふっ、そんな事しないよ。」
不意に笑った顔は私の知っているあどけない息子の顔だ。
「そう。それじゃあ今度は母さんの話に付き合いなさい。」
「何?」
「あのね……」
息子が夫と大事な話しがしたいと言ってくるなんて何だか嬉しいような…寂しいような…複雑な感情を抱きながら久々に息子との会話を楽しんだ。
深夜になって帰ってきたロビンにエドと話をして欲しいと伝え部屋を後にした。
エドが自室に戻ったことをクラレンスが伝えに来たのは、それから1時間程度経ってからだった。
部屋に戻るとロビンは見たことのない顔をしていた。
長く一緒に居るのに“こんな顔"をする事もあるのねと思う。
「ヴィッキー、私達の息子はまだ子供だと思っていたけど知らない間に大人になっていたよ。」
「あら奇遇ね。私も今日、同じことを思ったわ。」
話しながら寝室に移動する。
ロビンは随分眠そうにしながらも簡単に話した事を報告してくれる。
「あの子は見つけたかもしれないそうだ。」
「何を?」
「初恋の女性だよ。」
「まぁ。そうなの。」
「まだ可能性だが、イザベル嬢だそうだ。」
可能性と言いながらも確信を持っているように見えるのは何故かしら?
「ロビンはエドの直感を信じてるんでしょ?」
「ヴィッキーには何でも分かってしまうんだな。でもな…困った事になったよ…」
「何が?」
「ジェダイナ公爵家が動く。夜会を開くそうだ。その夜会にイオを招待する計画らしい。」
「罠…よね?」
「だから兄さんにイザベル嬢と会う算段をつけろと言われた。明日は登城しない代わりに良案を出せって。案が出なければイザベル嬢を誘拐するそうだ。」
「まぁ大胆な作戦ね。でもこの状況でイザベル嬢とだけ会うとなると…」
「難しいよな…」
「イオちゃんに会ってもらう?」
「イオに詳細を話すことは兄さんから止められている。」
「詳細は話さなくて良いのよ。本人も会いたがっているんだから。」
「会いたがっ…ている?」
「そうエドが言っていたわ。」
「怪し…まれる…だろう?」
「良いじゃない。どちらにしても警戒されているでしょうし。それにイオちゃん会わせるのと誘拐するのならどちらが妙案?」
「ダメだ…」
「何でよ。」
「違う…眠い…今日はもう…考えが纏められそうに…ないから…明日考えるよ…」
「あら!それじゃあ休みましょう。」
「あぁ…おやすみ…ヴィッキー…」
「おやすみなさいロビン。今日もお疲れ様。」
そう言ってロビンの額に口付けを落とし、ベッドライトを消して眠りについた…
0
お気に入りに追加
1,675
あなたにおすすめの小説
【完結】愛とは呼ばせない
野村にれ
恋愛
リール王太子殿下とサリー・ペルガメント侯爵令嬢は六歳の時からの婚約者である。
二人はお互いを励まし、未来に向かっていた。
しかし、王太子殿下は最近ある子爵令嬢に御執心で、サリーを蔑ろにしていた。
サリーは幾度となく、王太子殿下に問うも、答えは得られなかった。
二人は身分差はあるものの、子爵令嬢は男装をしても似合いそうな顔立ちで、長身で美しく、
まるで対の様だと言われるようになっていた。二人を見つめるファンもいるほどである。
サリーは婚約解消なのだろうと受け止め、承知するつもりであった。
しかし、そうはならなかった。
平民の方が好きと言われた私は、あなたを愛することをやめました
天宮有
恋愛
公爵令嬢の私ルーナは、婚約者ラドン王子に「お前より平民の方が好きだ」と言われてしまう。
平民を新しい婚約者にするため、ラドン王子は私から婚約破棄を言い渡して欲しいようだ。
家族もラドン王子の酷さから納得して、言うとおり私の方から婚約を破棄した。
愛することをやめた結果、ラドン王子は後悔することとなる。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
出生の秘密は墓場まで
しゃーりん
恋愛
20歳で公爵になったエスメラルダには13歳離れた弟ザフィーロがいる。
だが実はザフィーロはエスメラルダが産んだ子。この事実を知っている者は墓場まで口を噤むことになっている。
ザフィーロに跡を継がせるつもりだったが、特殊な性癖があるのではないかという恐れから、もう一人子供を産むためにエスメラルダは25歳で結婚する。
3年後、出産したばかりのエスメラルダに自分の出生についてザフィーロが確認するというお話です。
婚約者に心変わりされた私は、悪女が巣食う学園から姿を消す事にします──。
Nao*
恋愛
ある役目を終え、学園に戻ったシルビア。
すると友人から、自分が居ない間に婚約者のライオスが別の女に心変わりしたと教えられる。
その相手は元平民のナナリーで、可愛く可憐な彼女はライオスだけでなく友人の婚約者や他の男達をも虜にして居るらしい。
事情を知ったシルビアはライオスに会いに行くが、やがて婚約破棄を言い渡される。
しかしその後、ナナリーのある驚きの行動を目にして──?
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)
望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした
結城芙由奈
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】
男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。
少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。
けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。
少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。
それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。
その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。
そこには残酷な現実が待っていた――
*他サイトでも投稿中
【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」
婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からくなっていました。
婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/10/01 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過
2022/07/29 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過
2022/02/15 小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位
2022/02/12 完結
2021/11/30 小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位
2021/11/29 アルファポリス HOT2位
2021/12/03 カクヨム 恋愛(週間)6位
【完結】好きな人ができたら婚約破棄しよう。それは王子様と公爵令嬢が結んだ約束でした。一人ぼっちの公爵令嬢は今日も王子様を待っています
五月ふう
恋愛
「好きな人ができたら婚約破棄。
この約束で僕と婚約しないか?」
第二王子ステフ・ミラントは令嬢ココ・ウィーセルにそう尋ねた。ココ、ステフともにまだ10歳。彼らは幼馴染だった。
「こん・・やく?お互いに好きな人ができるまで?」
ココは戸惑いの表情を浮かべ、ステフを見つめる。ベットの上に横たわるココの全身は包帯で覆われている。昨日、起こった火事でステフをかばい、彼女は大やけどを負ったのだ。
「ああ。」
ココの両親はすでに伝染病にかかって亡くなっており、ココは独りぼっちだった。火傷の痕は一生消えないだろうとお医者さんに言われている。居場所は無く、美しさを失い、ココはステフと約束するしかなかった。
「わかったわ。
”好きな人ができたら婚約破棄”の約束で婚約しましょう。」
ココとステフの婚約はステフの両親である国王夫妻には認められなかった。ステフの同情のみが支える二人の婚約は、10年後のある日突如終わりを迎える。
「他に好きな人ができたから、婚約破棄してくれないか。」
ステフのその言葉と共に―――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる