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113.夜会⑥

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曲も終盤に差し掛かった時だった。

「陛下!お気をつけ下さい!」

レオンの突然の声に会場内が騒つく。
悲鳴まで聞こえてくる。
するとフラフラと私達の前にキラデル侯爵が現れる。
虚な目は何も写してないかの様に濁って見える。
その手にはナイフが握られていて、血がポタポタと滴っている。
レオンを見ると腕を押さえていた。

ーまさかレオンがやられたのか?

私達を守る様に側近が動き、配置していた騎士団が取り囲む。
レオンがそばに来ると報告してきた。

◇◇◇

陛下に先程報告した様に最初はサラエン夫人に話しかけていました。

「サラエンあの日の私は間違っていたのか?」

「あの日?一体何の事?今日のクリス変よ?どうしたの?」

「いや…何でもないんだ…」

その後暫くは何事もなく過ぎていったのですが、陛下達がダンスを始めたのを見て様子が変わったのです。

「あれは偽者だ」
「いやあの方こそが本物だった」

「私は間違っていない」
「私はこの手で間違いを犯した」

「ああするしか無かった」
「私が諦めれば良かったのだ」

「彼女も私を愛しているんだ」
「いや彼女は私を愛していなかった」

と1人でブツブツと問答し始めました。
サラエン夫人も少ししてから気づき声を掛けられました。

「どうしたの?大丈夫?」

その声に侯爵が一度正気を取り戻しました。

「大丈夫だ」

と言った後でした。

「大丈夫なら良いわ。それにしてもジークフリート陛下とオフィーリア様は本当に幸せそうね。ジェイド先代国王様とグロリア妃の様に仲睦まじくいらして羨ましいわ。」

「そういえば今日は先代国王夫妻はどうしたのだ?」

「何を言っているのクリス…先代国王夫妻は今から約8年程前の領地視察の際、私達の領地から帰る道中で岩盤崩落に巻き込まれて亡くなられたじゃない。酷い事故だったわ。クリスも陛下達の後を追って事故現場を目撃していたじゃない。忘れてしまったというの?」

「私が?事故を?」

「えぇ目撃したのよね?そう言っていたわよ?」

「嘘だ‼︎私がそんなことする筈ないだろう⁉︎嘘をつくな‼︎」

「待ってクリス落ち着いて‼︎一体どうしたって言うのよ!」

そう言いながらサラエン夫人が侯爵を宥めようと近寄った時でした。
隠し持っていたナイフで侯爵が夫人を切り付けました。
血が吹き出し倒れ込んだ夫人を助けに入り私も腕を切られました。
夫人は医務室に運ばれましたが安否はまだ不明です。

◇◇◇

「キラデル侯爵。どういう事だ‼︎」

「うるさいジェイド‼︎お前が奪ったんだ‼︎私の大切なものを全部お前が奪ったんだ‼︎」

侯爵の発言に皆が響めく。

「ジェイドだと?なぜ父の名を?一体どういうことだ?」

「ジーク…侯爵にはジークがお義父様に見えているのでは?」

フィアが私の袖をひき自分の考えを伝えてくる。

「その場合フィアが母に見えているというのか?」

「それは分かりませんが…」

「グロリアを返せ‼︎私のグロリアを今すぐ返せ‼︎』

叫びながらナイフを振り回すキラデル侯爵を騎士団が取り囲む。
来賓が心配になり見るとガウェイン公爵が先陣をきり避難させていた。
侯爵に安易に近づく事が出来ないまま膠着状態が続いた。
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