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74.王国議会①

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その日は朝から大雨が降っていた。
この国でここまで雨が降るのは珍しい。
フィアは窓から降り注ぐ雨を眺めていた。
最近いつも元気なフィアが何も話さず外を静かに眺めている姿は儚く消えてしまいそうで、思わず後ろから抱きしめてしまった。
フィアは何も言わず私を見て笑った。

昨夜フィアにはあの女の処遇を決める王国議会がある事を伝えた。
被害に遭ったのがフィアである事も、私の婚約者である事も議会では伝えられる。
正式な婚約式やお披露目式はするがその前に多くの貴族が知る事となる。
その事を初めはフィアに伝えないつもりだったが、当事者であるフィアが知らないままではいけないと思い伝えた。
フィアは何も言わず話を聞き、最後に"そうなんですね…教えてくれてありがとう。"とだけ言った。

この天気では今日は一日中フィアは部屋のなかで過ごす事になる。
せめて今日は晴れていて欲しかったと思わずにはいられなかった。



王国議会の時間になり私は荘厳な扉を開き中央の座に着く。
目の前にはリズベット・サンノ・マホーティスがいる。
ネイト宰相に突き放されたのがよほど辛かったのだろう顔色は悪く目は虚で生気が感じられない。
ネイト宰相の姿は見えないようにしている。
この国の高位貴族が集まる王国議会において宰相がその身を隠すというのは異例だろう。
今回、私の呼び掛けに集まった貴族の中には叔父を含めた三公に、宰相を含めた四侯の他国の要職に就く者が多く集まった。
裁かれる者の名しか伝えていないにも関わらずよく集まったものだ。
だがその中にキラデル侯爵はいなかった。

私は目の前の女に対し国王として対峙している。
そこに一切の私情を挟んではいけないと分かっている。

「これより王国議会を開催いたします。罪人として裁かれるのはリズベット・サンノ・マホーティスであります。犯した罪は誘拐、監禁及び暴行、侮辱、そして殺人未遂になります。被害者となったのは…国王陛下の婚約者様であるオフィーリア・ロサ・オーウェン侯爵令嬢であります。」

その発言を聞き議会は響めきが起きた。
皆が私の顔色を伺っている。
この場にオーウェン侯爵であるネイト宰相の姿が見えないのは余計に奇妙に見えた事だろう。

「静粛に‼︎リズベット・サンノ・マホーティスは当代のオーウェン侯爵に恋慕し自らの想いが遂げられないと知ると侯爵の娘を拐い監禁の上暴行した。その期間7年にも及ぶ。その罪は重い。今の内容に申す事はあるか?」

「私は悪くないわ…。私は悪くないわ…。私は悪くないわ…。そうよあれは夢だったのよ…そうじゃなきゃおかしいわ…だってネイトは俺なんて言わないもの…やっぱり夢だったんだわ‼︎」

ぶつぶつと同じ言葉を繰り返しているだけで何も話そうとしない。
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