上 下
41 / 127

41.朝焼けの奇襲

しおりを挟む
執務室に戻り大公と宰相にことの次第を伝える。
宰相の怒りは手に取る様に分かった。
宰相は私達について来ると言ったが、実の親であるからこそフィアの姿を見せてはいけないと思った。
それにアリシア夫人の事も気掛かりだった。
宰相には夫人と家族に説明する事を頼んだ。
王都にいる嫁いだ娘達も呼びフィアの帰りを待つと言ってくれた宰相に、必ず連れ帰ると約束した。

大公にはゼノスとマホーティス家の2人を頼む。
大公も同席のもとであれば必要な情報は揃うだろう。

また、大公と宰相にはキラデル侯爵が関わっている可能性も伝えておく。
2人は怒りを露わにしたが事実が明らかになるまで大人しく待つと言った。
私の両親を手にかけたのがキラデル侯爵なら、この国からキラデルの血は絶えるだろう。

そして私達はマホーティス侯爵家に向け出発した。

馬車で10日かかる距離を途中で馬を変えながら、ほぼ休む事なく走る。
6日目の夜明け前にはマホーティス侯爵家に着く。

朝焼けに侯爵邸が照らされ始めた時、私達は侯爵邸の呼鈴を鳴らした。
直ぐに執事と思き男が出てくる。
来訪者が王と知るなり青くなり侯爵をすぐに呼びにいく。

ほどなくして侯爵とリズベット夫人が現れる。
侯爵は驚愕と困惑が入り混じる表情で私達を迎え、夫人は青ざめていた。

「私の婚約者を返してもらおう。」

唐突な私の言葉に侯爵は戸惑いながら答える。

「陛下、恐れながら…私共の邸に陛下の婚約者がいるなどありえません。何かの間違いです。」

「なら、いない事を確認させてもらおう。」

「隠し立てするものは何もございません。陛下の気の済むまでお探し下さい。」

侯爵はそういうと家の中へ私を招き入れる。
侯爵は清廉潔白なのだろう、潔く真っ直ぐな人物だと思った。
侯爵の短所は領地経営が苦手な事と妻の本質を見抜けなかった事だ。
その夫人は気が気ではない様で、迷いなく夫人の私室に行く私達を止めようとする。

「陛下‼︎その部屋は私の部屋にございますが恐れながら私は夫のいる身…どうか御容赦ください。」

「リズ何を言っている⁉︎陛下に対し無礼ではないか。」

侯爵が嗜めるも夫人は納得しない。
私達は別に夫人の部屋でなくとも良いのだ。

「ならよい。セシリア嬢の使っていた部屋は何処だ?」

「セシリアですか?はい、こちらです。」

「娘は未婚故、陛下であっても…」

「リズいい加減にしろ。陛下に向かって何を言っているのか分かっているのか?」

「セシル侯爵、良いのだ始めに伝えなかった私が悪い。セシリア嬢本人に部屋に入る許可はもらっている。承諾を示す書類も此方にある。問題なかろう?」

リズベット夫人は言い訳が見つからないのか狼狽している。
私は無視して部屋に向かう。
本来は臣下の領地に訪れる時は先触れを出すのが普通だ。
だが、今回は先触れもなしに朝早く訪問した。
先触れを出せばフィアをまた何処かに隠すだろう
から奇襲をかけた。
私の目的はフィアの保護だ。
それが最優先事項だ。
他の事はどうにでもなる。

セシリア嬢の部屋を開け、隠し扉のある本棚を動かす。
2人の言っていた通り石の階段がある。

「何の部屋だ?」

侯爵は隠し部屋の存在を知らなかったらしい。
私はその階段を駆け降り続く廊下を走った。
突き当たりの部屋に護衛がいたがウィルが素早く倒す。
そして…その部屋の扉に手を掛け開いた。

しおりを挟む

処理中です...