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30.アルバート・ラグ・マホーティスの相談②

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「食事を強要していた事がどうしたんだ?」

ウィルの問いに顔を歪めるアルバートはその時の事を思い出しているのだろう。

「その食事には…その…ど…毒が盛られていて…無理矢理食べさせられて…少ししたら苦しみだして…でも、決して彼女が死なない量にしている様で…僕には信じられない光景でした。その時も僕は何もできず逃げ出しました。でも、助けたくて…」

ー虫唾が走るような話だな。でも私への報告にその事がなかった。王族直属の諜報部隊が掴めなかったというのか?

「陛下、暫く王都を離れることをお許し下さい。」

「レオン深く潜らなくていい。事実のみを最速で持ち帰れ。」

「御意。」

レオンの気配が応接室から消えた。

「アルバートが見たのはその2回だけか?」

「いえ…僕はその後も何ども彼女を助けたくてその部屋に足を運びました。でも助けられなくて…」

ー私の問いにもスムーズに答えるのは恐怖のせいか…

ウィルは自然に私の後ろに控え直す。今ならアルバートが普通に話せるとウィルも判断したという事だ。

「何を見たか話せるか?今日が無理なら後日改めて場を設けよう。話せないというならそれでも良い。無理強いはしない。」

「話さなかったら彼女のこと助けてはもらえませんか?僕は同じ目に遭いたくなくて彼女を助けませんでした。父さんにも相談できず…僕は…僕は2人と何も変わらない………」

ーとうとう泣き始めてしまったか。話せる様になったと思ったが、これでは今日は無理だろう。

「後日改めて場を設ける。今までの行動を後悔しているならその時話せるだけ話せ。場合によってはマホーティス侯爵家を正す。」

「……‼︎‼︎父さんに迷惑をかけてしまいますか?父さんはいつも領民のために働いてるんです。僕はそんな父さんを尊敬しているんです。だから…」

「事と次第による。侯爵が関わっていないとも知らないとも今は断定できないからな。だからアルバートの話を聞きたい。どうする?」

「………。」

アルバートは直ぐには返事をしなかった。父親の事を想い今後の行動を決めかねているのだろう。強く握った手のひらを見つめている。

ー別に聞かなくとも探る事は出来るだろう。ただ実際に見た当事者の話がある方が良いというだけだ。だから私はアルバート自身の決断に任せる。

「お……お話………します。お話しします‼︎」

「そうか。なら追ってゼノスから次の面談日を知らせる。」

「はい。あ…ありがとうございます陛下。お忙しいのに…その…。」

「私はアルバートのその女性を助けたいという気持ちに報いようと思っただけだ。気にするな。」

「ありがとうございます。」

アルバートを帰した後、執務室に戻り思案する。

「どう思った?」

「………………………。」

そう問いかけるも誰も答えられない。
悪辣な行為に対してではなく、王族に何の情報も掴ませず隠れおおせた事に恐怖に似た奇妙な感覚をどう発言するか迷っているのだろう。
私は得られない答えを気にするでもなく話続けた。

「マホーティス家は何処の後ろ盾を得たのだろうな。」

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