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出口のない教室
12.
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――ここは、どこだ。
酷く暗い。どちらが上でどちらが下かも分からない。なにも見えないその場所で、彼女は最初ふわふわと浮かんでいた。記憶の糸を掴もうとすれば集中がぷつりと途切れて、形になりかけていたものが途端に霧散してしまう。
そんなもどかしい思いを、何度か繰り返した。
――わたしは、だれだ。
分からない。もしかしたら、自分など初めからなかったのかもしれない。誰かにとって意味のある存在だと思い込んでいるだけの、なにか。何者でもない可能性を考えるとどうしてか叫び出したいほどの恐怖に襲われたが、姿形がないのではそれも叶わない。どれだけ思考を投げかけても返ってくるものはなく、どこまでいっても広がっているのは無だ。
――わたしは、なんだ。
それは何度目になるか分からない問いかけだった。答える者はやはりない。思考は無から有を生み出すがごとき困難を伴い、あるいはなにも考えず闇に溶けてしまってもいいのではと思えた。人は誰もがいつしかその闇に還る。そのことだけはなんとなく知っていた。やがて自問にも疲れ果てついに意識を手放そうとしたとき、声が聞こえてきたのだ。
おまわりさん、と。
おまわりさん。その単語を何度か繰り返すと、しっくり馴染むような気がした。お巡りさん。警察。警察官。そう、わたしは警察官だった――と、彼女はひとつ思い出した。
警察官という概念から枝葉を伸ばしていく。
今度はうまくいった。
――わたしは、警察官だ。八津坂署。先輩。九雀蔵之介。呪症対策課。チーム。石川鷹人。わたしの名前は……真田律華。今は事件の捜査中だった、はずだ。
そこまで分かれば、あとは簡単だった。なににも代え難い記憶、日常の些細な記憶、蓋をして二度と思い出したくなかったような記憶までが次々と空白を埋めていく。怒り、悲しみ、喜び、楽しみ。感情が暗闇に彩りを与えた。頭の天辺から爪先まで、すみずみに力が行き渡った気がした。気付けば指先の感覚があった。
再構築が終わったことを確信し、まぶたをゆっくり持ち上げる。そこは――
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