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第4話 デートを楽しく過ごしたいと思ったけど、やっぱり寂しくて
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翌朝、私は目覚まし時計の音で目が覚める。
そして、隣を見ると、そこには誰もいなかった。
「あれ、静香ちゃん?」
私は慌てて部屋を出ると、台所に向かう。
「夢美ちゃん、おはよ~」
「おはよう。何してるの? 良いにおい……」
「お弁当を作ってるんだよ。後は余ったおかずで朝食」
「えへへ、私の分まで作ってくれたの? ありがとう!」
「夢美ちゃんのためならこれくらい全然平気だよ」
「本当に大好き」
私が静香ちゃんに飛びつくと、静香ちゃんは私を受け止める。
「あはは、朝から元気だね。ほら、顔を洗ってきて。ご飯にするから」
私は言われた通り、顔を洗いに行き、食卓に着く。
すると、目の前には美味しそうな料理の数々が並べられていて、私は感動してしまった。
どれもこれも凄く良い出来栄えで、とても手作りとは思えない程である。
こんなに手間暇かけて作った料理は今まで食べたことがない。
これはきっと、惚れ薬の効果ではなく、静香ちゃんの心遣いによるものだ。
「静香ちゃんは良いお嫁さんになれるよ!」
「お嫁さんにそれを言われるなら、間違いないね」
私は静香ちゃんの言葉を冗談として受け取りながらも、心の中では本気にしていた。
私は幸せ者だと思う。
こんな素敵な彼女が居るのだから。
私は静香ちゃんの用意してくれた食事を食べながら、今日の予定を考える。
今日は初デートの日だ。
遊園地で一日潰れるのは良いけど、回る順番を間違えて長い時間待ってると、某夢の国みたいに別れるカップルになってしまいかねない。
そんな事になったら、私は間違いなく死ぬだろう。
静香ちゃんとのデートは絶対に失敗できないのだ。
私は食べ終わてお皿を流し台に置くと、歯磨きをして髪を整える。
そして、化粧をしていると、静香ちゃんが私に声をかけてきた。
どうやら支度が終わったらしい。
彼女はノースリーブにジーンズというラフな格好をしていたのだが、それでも彼女の魅力は損なわれていなかった。
むしろ、その露出の多さが逆に魅力的に映っているような気がする。
肩にかかる綺麗な茶髪に、白い肌。それに、少し幼さが残っている顔立ちも可愛いと思う。
これで中身まで完璧なのだから、神様は不公平だと言わざるを得ないだろう。
まぁ、不公平だからこそ、私にあんな素晴らしい彼女をくれたのかもしれないけれども。
なんて訳の分からない神様への感謝をしている内に、時間は過ぎて行き、遂に家を出る時間がやってきた。
私は玄関でサンダルを履いていると、静香ちゃんが声をかけてくれる。
彼女は既に準備万端といった様子だった。
私はそれを確認すると、彼女に微笑みかける。
彼女も私に笑いかけてくれた。
「じゃ、私先に出るね~。10分くらいしてから出ておいで~」
「静香ちゃん、気を付けて」
「うん。夢美ちゃんもね」
そう言うと、静香ちゃんは私の頬に軽くキスをする。
そして、私の頭を撫でると、静香ちゃんは家を後にした。
私は頬に手を当てて、暫くの間惚けていたのだけど、我に返ると急いで出掛けるのであった。
待ち合わせ場所である駅に到着すると、当然ながらそこには既に静香ちゃんの姿があった。
遠目でも分かるくらいに、人目を惹く。
私の彼女なんだ、と優越感に浸りながら、私は静香ちゃんに駆け寄っていく。
すると、静香ちゃんは私の存在に気付いたようで、笑顔で手を振りながら、こちらに向かってきた。
しかし、途中で何かに気付くと、急に立ち止まる。
一体どうしたというのだろうか? 私は首を傾げていると、静香ちゃんは何故か私に背を向けた。
私は静香ちゃんの行動の意味が分からず、不思議に思いながら、そのまま彼女の方に歩いていく。
すると、静香ちゃんはくるりと反転し、私に抱き着いて来た。
それはもう力いっぱい抱きしめてくる。
嬉しいんだけど、ちょっと痛かった。
しかも、周りの視線が集まってきている。
「ちょっと、なに?」
「不意打ち~。可愛すぎるよ、夢美ちゃん」
「うぅ~。恥ずかしいから、離れてよ~」
「嫌だ~」
静香ちゃんはまるで子供のように駄々をこねる。
こんな一面もあるんだな~と思いつつも、私は静香ちゃんを引き剥がそうとするが、中々離れてくれなかった。
静香ちゃんは、私から離れるつもりはないらしく、ずっと私の腕に腕を絡めて歩く。
まぁ、悪い気分ではないし、寧ろ役得なのでこのままでも良いかな、と思ってしまう。
そして、電車に乗り込むと、私達は遊園地に向かった。
電車に乗ること30分、ついに私達は目的地に到着した。
電車から降りると、私達は改札口を抜ける。
そして、目の前に広がる光景を見て、私は思わず息を呑んでしまった。
そこには、色とりどりの建物が建ち並び、沢山の人が闊歩している。
普段生活している世界とは全く違う。
まるで別世界に迷い込んだかのような錯覚に陥った。
「凄いでしょ? ここら辺は若者の街だから、休日になると人でごった返すんだよ」
「確かに……こんな都会、初めて見たかも」
「都会……いやまぁ、そうなんだけどさ」
「何で笑っているの? 変なこと言ったっけ?」
「別に~。ただ、夢美ちゃんの口からそんな言葉が出てくるとは思わなかったから」
「どういう意味!?」
「あはは、怒らない、怒らない。ほら、行こう」
「あ! 待って!」
私は慌てて静香ちゃんを追いかける。
すると、彼女はクスリと笑ってアトラクションを指さす。
そこには、ジェットコースターやコーヒーカップなど、定番のものばかりが並んでいた。
私達がまず最初に入ったのは、メリーゴーランドだ。
二人で馬車に乗って、ゆっくりと回っている。
周りには、仲の良さそうなカップルが何組か居た。
このメリーゴーランドは一周20分程度かかるため、かなり待つことになるだろう。
まぁ、こういうのも悪くない。
私は静香ちゃんと一緒なら何でも楽しいと思っている。
だから、こうして一緒に乗っているだけでも十分に満足できた。
隣を見ると、静香ちゃんと目が合う。
彼女はニッコリと笑うと、私に顔を近づけて来て、触れるだけの軽いキスをした。
私は突然の事に驚いて、口をパクパクさせる。
「えへへ、キスしちゃった」
「ちょ、もう……」
「夢美ちゃん、可愛い」
「静香ちゃんの方がもっと可愛い」
「あはは、ありがとー」
それからというもの、私達は何も話さず、ただ黙々とメリーゴーランドに乗った。
だけど、決して気まずい雰囲気ではなく、心地よい沈黙だった。
次に向かったのは、お化け屋敷である。
私は昔からお化けとか幽霊といった類のものが苦手で、足が震えていた。
しかし、そんな私とは対照的に、静香ちゃんはお化けに興味津々で、目を輝かせながら、私に話しかけてきた。
もしかしたら、私の反応を期待しているのかもしれない。
そう思うと、静香ちゃんに対して申し訳なくなった。
だから、私は精一杯の強がりを見せて、一緒にお化け屋敷に入る。
中に入ると、そこは真っ暗で何も見えない。
しかし、静香ちゃんはスマホのライトをつけて、辺りを照らしていた。
「じゃ、行こっか」
「う……うん……」
私は静香ちゃんに手を引かれて歩き出す。
暗闇の中を進むのは、とても怖い。
もし、何かあった時、私は対処できる自信がないのだ。
だが、静香ちゃんはズンズンと前に進む。
その背中は頼もしくもあり、どこか寂しさを感じさせた。
暫く歩いている内に、前方から悲鳴が聞こえてくる。
それに呼応するようにして、私も叫び声をあげた。
静香ちゃんの手を強く握りしめていると、やがて出口が見えてきて、私達は外に出ることができた。
心なしか、握っている手が汗ばんでいるような気がする。
だけど、静香ちゃんは特に気にしていない様子で、私に微笑みかけた。
「大丈夫?」
「うん。怖かったけど、楽しかったよ」
「そっか。良かった」
静香ちゃんはホッとした表情を浮かべると、私の頭を撫でてくれる。
そして、私の手を握ると、次のアトラクションに向かっていくのであった。
次に私達が向かったのは、フリーフォールと呼ばれる乗り物だ。
これは、一度高いところから一気に落とされることで、恐怖心を煽るというものだ。
私としては、絶対に乗りたくない。
だけど、静香ちゃんはどうしてもこれに乗ろうと言い出した。
私は必死に抵抗したのだが、結局押し切られてしまい、今に至る。
別に高い所が怖いわけではない、怖いわけでは無いけど、流石にフリーフォールは嫌だ。
「夢美ちゃん、絶叫系平気な方?」
「う~ん、苦手ではないんだけど、これに乗るとなると話は別だよ」
「そうなんだ。でも、折角来たんだし、乗らないともったいないよ?」
「うぅ~。分かったよぉ」
私は渋々了承すると、係員の指示に従って、椅子に座る。
そして、安全バーを下ろされた。
いよいよ、発車の時間が迫ってきている。
私は心臓がバクバクと高鳴り始め、緊張で体が固まってしまった。
一方、隣の席に座っている静香ちゃんは、ワクワクしているのか、まるで遠足を楽しみにしている子供のような目で私を見つめて来る。
それが逆にプレッシャーとなってしまい、余計に落ち着かない気持ちになった。
そして、遂に出発の時間がやって来る。
私達は、ゆっくりと動き始めた。
最初は順調だった。
徐々に上がっていき、頂上に近づくにつれて、どんどんスピードが増していく。
頂点で暫く止まる。
「景色良いね。でも、夕方とか夜の方が景色もっと良いかもね」
「そうだね……。あ、あのさ……、ちょっと怖くなってきたんだけど……」
「え? あぁ、安心して。落ちたら支えてあげるから」
「そういう問題じゃないの! そもそもバーがあるから支えるとか無理だし! もう、静香ちゃんの馬鹿!」
「あはは、ごめんごめん」
静香ちゃんは悪びれた様子を見せず、クスリと笑っていた。
やっぱり、彼女には適わな――あっ
突如落下する感覚に襲われ、私は思わず目を瞑る。
一瞬にして地上へと戻り、再び座席に腰掛けた。
「あぁ……びっくりしたぁ……」
「大丈夫? 夢美ちゃん」
「だ、大丈夫だけどさぁ! 今のは反則でしょ!?」
「あはは、あ、また始まるみたい」
静香ちゃんの言う通り、先程と同じ要領で進んでいく。
一回目は景色を楽しんでほしいから少し長めに上空で待機、二回目はフリーフォールを楽しんで欲しいから間髪入れずに――
「きゃぁぁああ!」
二度目の急降下に、私は悲鳴を上げてしまう。
すると、静香ちゃんはクスリと笑った。
「ふっ、可愛い」
「うるさい……!」
私は顔を真っ赤にしながら、静香ちゃんを睨む。
彼女はそんな私を見て、更に楽しそうに笑うのであった。
その後も、ジェットコースターや観覧車など、定番のものばかりに乗って遊んだ。
そうしてお昼ごろ。レジャーシートを広げると、私は水筒のお茶を静香ちゃんから貰う。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
私は紙コップに注がれたお茶を受け取ると、口をつける。
程よい温度で飲みやすく、体中に染み渡った。
「美味しい」
「それは良かった」
「惚れ薬入ってないよね?」
「あはは。そんなものなくても、私はいつでも夢美ちゃんにゾッコンだよ」
「もう、茶化さないでよ」
静香ちゃんの言葉に、私は顔を赤く染めながら俯いた。
そんな私を揶揄うように、彼女は私の頬を突いてくる。
「あはは、照れてる」
「う~」
私は静香ちゃんの手を掴むと、そのまま静香ちゃんは私を優しい眼差しで見て来る。
ただ手を取っているだけで、心臓が早くなる。
顔が熱くなる。
「ほ、本当に入ってないよね? 安物でも」
「疑り深いなぁ~。大丈夫だって」
「じゃあ、証明のためにキスしてくれる?」
「えぇ~? しょうがないなぁ」
私が冗談半分で言うと、意外にもあっさり受け入れてくれた。
それからというもの、私達は何度も唇を重ね合う。
静香ちゃんとの初めてのデートはとても楽しくて幸せだった。
後半はそこそこのアトラクションを乗ってからお土産コーナーを見るのに時間を費やす事にする。
「ねぇ、何買おうか?」
「う~ん、お菓子とかかな?」
「じゃあ、クッキーにしようよ」
「うん」
私達は二人で同じクッキーを購入すると、レジに向かう。
そして、代金を支払うと、商品を受け取った。
すると静香ちゃんが小さな袋を私に渡してくれる。
「はい、プレゼント」
「え?」
「今日付き合ってくれた御礼だよ。受け取ってくれる?」
「勿論。だけど私、何も返せるものを持っていなくて……」
「いいの。私が好きでやってる事だからさ」
「静香ちゃん……」
彼女の優しさに涙が溢れそうになる。
それを何とか堪えると、私はギュっと彼女を抱き締めた。
「ちょ、夢美ちゃん!?」
「ごめん、つい……」
「もう……」
彼女は優しく微笑みかけると、私の頭を撫でてくれる。
そして、耳元で囁く。
「大好きだよ」
その言葉を聞いて、胸の奥がジーンとなる。
静香ちゃんに好きと言われる度に嬉しく思う。
私は静香ちゃんに抱きつくと、もう一度強く抱きしめる。
「私も好きだよ」
「知ってる」
「そっか」
静香ちゃんはクスリと笑いながらも、私を強く抱きしめ返す。
暫くの間、お互いの温もりを感じ合った後、ようやく体を離すと、静香ちゃんは恥ずかしそうにはにかみながら言った。
遊園地を出た後も、静香ちゃんとは一緒に行動した。
彼女が行きたいと言った場所なら何処へでも付いていく。
そして、日が落ち始めた頃。
最後に、静香ちゃんは私を連れて来た場所は、とてもロマンチックな雰囲気のある場所で、周りからはカップルの話し声がよく聞こえて来た。
私達も同じように手を繋ぎながら、ゆっくりと歩いて行く。
そして、ベンチの前で立ち止まると、静香ちゃんは私を見つめてこう告げる。
「夢美ちゃん、私夢美ちゃんの声が凄く好きなんだ。また、囁いてくれるかな?」
「……」
「駄目……かな?」
「良いけど、ちょっと待っててね」
「分かった」
私は声を整えて、彼女を正面から抱き締める。
そして彼女の耳元で、私の愛を囁く。
「静香ちゃん、好き……大……好き……。もう……静香ちゃんが居ないと……生きていけない……」
「ありがとね。もう良いよ」
「あ……」
名残惜しかったが、私はゆっくりと離れる。
彼女は満足げな表情を浮かべていた。
「ふぅ~。夢美ちゃんの愛の告白は最高だなぁ」
「あはは、ちょっと恥ずかしいかな……」
「今更? 夢美ちゃんの愛の言葉を聞くと、ゾクゾクして……もっと聞きたくなっちゃうんだよね」
「もう、静香ちゃんの変態」
「あはは、ごめん」
彼女は私の額に軽くキスをすると、再び歩き出す。
すると、ある場所に辿り着くと、私に振り返った。
「ね、最後にもう1回、観覧車乗らない? この時間の夕焼けと夜景が同時に存在する景色は絶景なんだよ」
「そうなんだ。うん、乗りたい」
「決まりだね。それじゃ行こうか」
私達は観覧車に乗り込むと、向かい合わせになって座った。
徐々に上がっていき、外の風景が見えると、思わず感嘆の息を漏らしてしまう。
「わぁ~」
「綺麗でしょ?」
「うん。でも、静香ちゃんの方が綺麗」
「あはは、ありがとう」
突如突風が吹き、観覧車が大きく揺れて停止する。
すると、静香ちゃんは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
そして、私の方に近寄ってくると、突然唇を重ねてくる。
私は驚きながらも、静香ちゃんを受け入れた。
舌が絡み合い、吐息が漏れ出る。
やがて口を離すと数分後、アナウンスと共に観覧車は動き出す。
「静香ちゃん、いきなりはびっくりするよ……」
「あはは、ごめん。我慢できなくってさ」
「全く……」
私達はその後、特に会話を交わす事もなく、ただ黙々と風景を眺め続けた。
頂上に着くと、静香ちゃんは私を後ろから抱き締めながら、首筋に吸い付く。
チクリとした痛みが走るが、不思議と嫌な気は全くしなかった。
寧ろ、静香ちゃんが喜んでくれるなら、幾らでも吸ってくれて構わないとさえ思った。
「んっ……」
「痛い?」
「ううん、大丈夫だよ」
「良かった」
静香ちゃんは私から離れると、今度は私を前から抱き締める。
お互いの鼓動を感じる。
私は静香ちゃんの頭を撫でると、静香ちゃんは再びキスをしてくる。
何度も何度も。
まるで私の存在を確かめているかのように。
それから10分程経っただろうか。
ようやく私達は離れた。
それから、私達は電車に乗って帰ることにする。
最寄り駅まで到着すると、私達は駅のホームに降り立った。
「楽しかったね、夢美ちゃん」
「………」
「夢美ちゃん?」
私の目から涙が零れ、嗚咽を漏らして私は泣いてしまう。
唐突のことに驚く静香ちゃんだけど、人の居ない方へ一緒に歩いてくれて、私が落ち着くまで待ってくれて、抱き締めたまま背中をポンポンと叩いてくれた。
「ごめんね、急に泣いたりして……」
「いいよ。今日は無理させちゃったからね。ごめんね」
「違うの。本当に嬉しくて。こんなに幸せなことが続いていいのかなって」
「夢美ちゃん……」
静香ちゃんは何も言わずに、私をギュッと強く抱きしめた。
そして、優しく頭を撫でてくれる。
「もう、帰る時間で、ここで別れないといけないって分かってるのに、分かった途端に寂しくなって、もっと一緒にいたくなって、離れたく無くて」
「あぁ、だから電車の中でも静かだったんだね」
「うん。静香ちゃんと離れたくない。ずっと一緒に居たいよぉ……」
「私もだよ。私も夢美ちゃんと一緒にいたい。夢美ちゃんのことが好きすぎて、大好き過ぎておかしくなりそう」
「静香ちゃん……」
静香ちゃんは私にキスをする。
そして、私を強く抱きしめる。
「よし、決めた。今日から私、夢美ちゃんの家に住むよ」
「……え?」
「言ったでしょ。私一人暮らしだから。家には両親もいないし、問題なし。それに夢美ちゃんと一緒なら、どんな困難でも乗り越えられる気がするんだ」
「そんな簡単に決めて良いの?」
「良いんだよ。だって私達、両想いなんだもん。ね?」
「……うん!」
こうして私達は一緒に住むことになり、私の生活スタイルは大きく変わった。
1人暮らしなのに、2人で住むことになったのだ。
最初は緊張するけども、段々慣れていくことだろう。
静香ちゃんとは毎日のように愛し合い、お互いを求め合って、平日は学校に通いつつ、休日にはデートして。
幸せで充実した日々が当たり前のように続いていく。
そう信じていた。
しかし、その願いは脆く崩れ去ってしまう。
幸せは長く続かない、幸せは奪われるものなのだと、私は身をもって知ることになるのであった。
そして、隣を見ると、そこには誰もいなかった。
「あれ、静香ちゃん?」
私は慌てて部屋を出ると、台所に向かう。
「夢美ちゃん、おはよ~」
「おはよう。何してるの? 良いにおい……」
「お弁当を作ってるんだよ。後は余ったおかずで朝食」
「えへへ、私の分まで作ってくれたの? ありがとう!」
「夢美ちゃんのためならこれくらい全然平気だよ」
「本当に大好き」
私が静香ちゃんに飛びつくと、静香ちゃんは私を受け止める。
「あはは、朝から元気だね。ほら、顔を洗ってきて。ご飯にするから」
私は言われた通り、顔を洗いに行き、食卓に着く。
すると、目の前には美味しそうな料理の数々が並べられていて、私は感動してしまった。
どれもこれも凄く良い出来栄えで、とても手作りとは思えない程である。
こんなに手間暇かけて作った料理は今まで食べたことがない。
これはきっと、惚れ薬の効果ではなく、静香ちゃんの心遣いによるものだ。
「静香ちゃんは良いお嫁さんになれるよ!」
「お嫁さんにそれを言われるなら、間違いないね」
私は静香ちゃんの言葉を冗談として受け取りながらも、心の中では本気にしていた。
私は幸せ者だと思う。
こんな素敵な彼女が居るのだから。
私は静香ちゃんの用意してくれた食事を食べながら、今日の予定を考える。
今日は初デートの日だ。
遊園地で一日潰れるのは良いけど、回る順番を間違えて長い時間待ってると、某夢の国みたいに別れるカップルになってしまいかねない。
そんな事になったら、私は間違いなく死ぬだろう。
静香ちゃんとのデートは絶対に失敗できないのだ。
私は食べ終わてお皿を流し台に置くと、歯磨きをして髪を整える。
そして、化粧をしていると、静香ちゃんが私に声をかけてきた。
どうやら支度が終わったらしい。
彼女はノースリーブにジーンズというラフな格好をしていたのだが、それでも彼女の魅力は損なわれていなかった。
むしろ、その露出の多さが逆に魅力的に映っているような気がする。
肩にかかる綺麗な茶髪に、白い肌。それに、少し幼さが残っている顔立ちも可愛いと思う。
これで中身まで完璧なのだから、神様は不公平だと言わざるを得ないだろう。
まぁ、不公平だからこそ、私にあんな素晴らしい彼女をくれたのかもしれないけれども。
なんて訳の分からない神様への感謝をしている内に、時間は過ぎて行き、遂に家を出る時間がやってきた。
私は玄関でサンダルを履いていると、静香ちゃんが声をかけてくれる。
彼女は既に準備万端といった様子だった。
私はそれを確認すると、彼女に微笑みかける。
彼女も私に笑いかけてくれた。
「じゃ、私先に出るね~。10分くらいしてから出ておいで~」
「静香ちゃん、気を付けて」
「うん。夢美ちゃんもね」
そう言うと、静香ちゃんは私の頬に軽くキスをする。
そして、私の頭を撫でると、静香ちゃんは家を後にした。
私は頬に手を当てて、暫くの間惚けていたのだけど、我に返ると急いで出掛けるのであった。
待ち合わせ場所である駅に到着すると、当然ながらそこには既に静香ちゃんの姿があった。
遠目でも分かるくらいに、人目を惹く。
私の彼女なんだ、と優越感に浸りながら、私は静香ちゃんに駆け寄っていく。
すると、静香ちゃんは私の存在に気付いたようで、笑顔で手を振りながら、こちらに向かってきた。
しかし、途中で何かに気付くと、急に立ち止まる。
一体どうしたというのだろうか? 私は首を傾げていると、静香ちゃんは何故か私に背を向けた。
私は静香ちゃんの行動の意味が分からず、不思議に思いながら、そのまま彼女の方に歩いていく。
すると、静香ちゃんはくるりと反転し、私に抱き着いて来た。
それはもう力いっぱい抱きしめてくる。
嬉しいんだけど、ちょっと痛かった。
しかも、周りの視線が集まってきている。
「ちょっと、なに?」
「不意打ち~。可愛すぎるよ、夢美ちゃん」
「うぅ~。恥ずかしいから、離れてよ~」
「嫌だ~」
静香ちゃんはまるで子供のように駄々をこねる。
こんな一面もあるんだな~と思いつつも、私は静香ちゃんを引き剥がそうとするが、中々離れてくれなかった。
静香ちゃんは、私から離れるつもりはないらしく、ずっと私の腕に腕を絡めて歩く。
まぁ、悪い気分ではないし、寧ろ役得なのでこのままでも良いかな、と思ってしまう。
そして、電車に乗り込むと、私達は遊園地に向かった。
電車に乗ること30分、ついに私達は目的地に到着した。
電車から降りると、私達は改札口を抜ける。
そして、目の前に広がる光景を見て、私は思わず息を呑んでしまった。
そこには、色とりどりの建物が建ち並び、沢山の人が闊歩している。
普段生活している世界とは全く違う。
まるで別世界に迷い込んだかのような錯覚に陥った。
「凄いでしょ? ここら辺は若者の街だから、休日になると人でごった返すんだよ」
「確かに……こんな都会、初めて見たかも」
「都会……いやまぁ、そうなんだけどさ」
「何で笑っているの? 変なこと言ったっけ?」
「別に~。ただ、夢美ちゃんの口からそんな言葉が出てくるとは思わなかったから」
「どういう意味!?」
「あはは、怒らない、怒らない。ほら、行こう」
「あ! 待って!」
私は慌てて静香ちゃんを追いかける。
すると、彼女はクスリと笑ってアトラクションを指さす。
そこには、ジェットコースターやコーヒーカップなど、定番のものばかりが並んでいた。
私達がまず最初に入ったのは、メリーゴーランドだ。
二人で馬車に乗って、ゆっくりと回っている。
周りには、仲の良さそうなカップルが何組か居た。
このメリーゴーランドは一周20分程度かかるため、かなり待つことになるだろう。
まぁ、こういうのも悪くない。
私は静香ちゃんと一緒なら何でも楽しいと思っている。
だから、こうして一緒に乗っているだけでも十分に満足できた。
隣を見ると、静香ちゃんと目が合う。
彼女はニッコリと笑うと、私に顔を近づけて来て、触れるだけの軽いキスをした。
私は突然の事に驚いて、口をパクパクさせる。
「えへへ、キスしちゃった」
「ちょ、もう……」
「夢美ちゃん、可愛い」
「静香ちゃんの方がもっと可愛い」
「あはは、ありがとー」
それからというもの、私達は何も話さず、ただ黙々とメリーゴーランドに乗った。
だけど、決して気まずい雰囲気ではなく、心地よい沈黙だった。
次に向かったのは、お化け屋敷である。
私は昔からお化けとか幽霊といった類のものが苦手で、足が震えていた。
しかし、そんな私とは対照的に、静香ちゃんはお化けに興味津々で、目を輝かせながら、私に話しかけてきた。
もしかしたら、私の反応を期待しているのかもしれない。
そう思うと、静香ちゃんに対して申し訳なくなった。
だから、私は精一杯の強がりを見せて、一緒にお化け屋敷に入る。
中に入ると、そこは真っ暗で何も見えない。
しかし、静香ちゃんはスマホのライトをつけて、辺りを照らしていた。
「じゃ、行こっか」
「う……うん……」
私は静香ちゃんに手を引かれて歩き出す。
暗闇の中を進むのは、とても怖い。
もし、何かあった時、私は対処できる自信がないのだ。
だが、静香ちゃんはズンズンと前に進む。
その背中は頼もしくもあり、どこか寂しさを感じさせた。
暫く歩いている内に、前方から悲鳴が聞こえてくる。
それに呼応するようにして、私も叫び声をあげた。
静香ちゃんの手を強く握りしめていると、やがて出口が見えてきて、私達は外に出ることができた。
心なしか、握っている手が汗ばんでいるような気がする。
だけど、静香ちゃんは特に気にしていない様子で、私に微笑みかけた。
「大丈夫?」
「うん。怖かったけど、楽しかったよ」
「そっか。良かった」
静香ちゃんはホッとした表情を浮かべると、私の頭を撫でてくれる。
そして、私の手を握ると、次のアトラクションに向かっていくのであった。
次に私達が向かったのは、フリーフォールと呼ばれる乗り物だ。
これは、一度高いところから一気に落とされることで、恐怖心を煽るというものだ。
私としては、絶対に乗りたくない。
だけど、静香ちゃんはどうしてもこれに乗ろうと言い出した。
私は必死に抵抗したのだが、結局押し切られてしまい、今に至る。
別に高い所が怖いわけではない、怖いわけでは無いけど、流石にフリーフォールは嫌だ。
「夢美ちゃん、絶叫系平気な方?」
「う~ん、苦手ではないんだけど、これに乗るとなると話は別だよ」
「そうなんだ。でも、折角来たんだし、乗らないともったいないよ?」
「うぅ~。分かったよぉ」
私は渋々了承すると、係員の指示に従って、椅子に座る。
そして、安全バーを下ろされた。
いよいよ、発車の時間が迫ってきている。
私は心臓がバクバクと高鳴り始め、緊張で体が固まってしまった。
一方、隣の席に座っている静香ちゃんは、ワクワクしているのか、まるで遠足を楽しみにしている子供のような目で私を見つめて来る。
それが逆にプレッシャーとなってしまい、余計に落ち着かない気持ちになった。
そして、遂に出発の時間がやって来る。
私達は、ゆっくりと動き始めた。
最初は順調だった。
徐々に上がっていき、頂上に近づくにつれて、どんどんスピードが増していく。
頂点で暫く止まる。
「景色良いね。でも、夕方とか夜の方が景色もっと良いかもね」
「そうだね……。あ、あのさ……、ちょっと怖くなってきたんだけど……」
「え? あぁ、安心して。落ちたら支えてあげるから」
「そういう問題じゃないの! そもそもバーがあるから支えるとか無理だし! もう、静香ちゃんの馬鹿!」
「あはは、ごめんごめん」
静香ちゃんは悪びれた様子を見せず、クスリと笑っていた。
やっぱり、彼女には適わな――あっ
突如落下する感覚に襲われ、私は思わず目を瞑る。
一瞬にして地上へと戻り、再び座席に腰掛けた。
「あぁ……びっくりしたぁ……」
「大丈夫? 夢美ちゃん」
「だ、大丈夫だけどさぁ! 今のは反則でしょ!?」
「あはは、あ、また始まるみたい」
静香ちゃんの言う通り、先程と同じ要領で進んでいく。
一回目は景色を楽しんでほしいから少し長めに上空で待機、二回目はフリーフォールを楽しんで欲しいから間髪入れずに――
「きゃぁぁああ!」
二度目の急降下に、私は悲鳴を上げてしまう。
すると、静香ちゃんはクスリと笑った。
「ふっ、可愛い」
「うるさい……!」
私は顔を真っ赤にしながら、静香ちゃんを睨む。
彼女はそんな私を見て、更に楽しそうに笑うのであった。
その後も、ジェットコースターや観覧車など、定番のものばかりに乗って遊んだ。
そうしてお昼ごろ。レジャーシートを広げると、私は水筒のお茶を静香ちゃんから貰う。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
私は紙コップに注がれたお茶を受け取ると、口をつける。
程よい温度で飲みやすく、体中に染み渡った。
「美味しい」
「それは良かった」
「惚れ薬入ってないよね?」
「あはは。そんなものなくても、私はいつでも夢美ちゃんにゾッコンだよ」
「もう、茶化さないでよ」
静香ちゃんの言葉に、私は顔を赤く染めながら俯いた。
そんな私を揶揄うように、彼女は私の頬を突いてくる。
「あはは、照れてる」
「う~」
私は静香ちゃんの手を掴むと、そのまま静香ちゃんは私を優しい眼差しで見て来る。
ただ手を取っているだけで、心臓が早くなる。
顔が熱くなる。
「ほ、本当に入ってないよね? 安物でも」
「疑り深いなぁ~。大丈夫だって」
「じゃあ、証明のためにキスしてくれる?」
「えぇ~? しょうがないなぁ」
私が冗談半分で言うと、意外にもあっさり受け入れてくれた。
それからというもの、私達は何度も唇を重ね合う。
静香ちゃんとの初めてのデートはとても楽しくて幸せだった。
後半はそこそこのアトラクションを乗ってからお土産コーナーを見るのに時間を費やす事にする。
「ねぇ、何買おうか?」
「う~ん、お菓子とかかな?」
「じゃあ、クッキーにしようよ」
「うん」
私達は二人で同じクッキーを購入すると、レジに向かう。
そして、代金を支払うと、商品を受け取った。
すると静香ちゃんが小さな袋を私に渡してくれる。
「はい、プレゼント」
「え?」
「今日付き合ってくれた御礼だよ。受け取ってくれる?」
「勿論。だけど私、何も返せるものを持っていなくて……」
「いいの。私が好きでやってる事だからさ」
「静香ちゃん……」
彼女の優しさに涙が溢れそうになる。
それを何とか堪えると、私はギュっと彼女を抱き締めた。
「ちょ、夢美ちゃん!?」
「ごめん、つい……」
「もう……」
彼女は優しく微笑みかけると、私の頭を撫でてくれる。
そして、耳元で囁く。
「大好きだよ」
その言葉を聞いて、胸の奥がジーンとなる。
静香ちゃんに好きと言われる度に嬉しく思う。
私は静香ちゃんに抱きつくと、もう一度強く抱きしめる。
「私も好きだよ」
「知ってる」
「そっか」
静香ちゃんはクスリと笑いながらも、私を強く抱きしめ返す。
暫くの間、お互いの温もりを感じ合った後、ようやく体を離すと、静香ちゃんは恥ずかしそうにはにかみながら言った。
遊園地を出た後も、静香ちゃんとは一緒に行動した。
彼女が行きたいと言った場所なら何処へでも付いていく。
そして、日が落ち始めた頃。
最後に、静香ちゃんは私を連れて来た場所は、とてもロマンチックな雰囲気のある場所で、周りからはカップルの話し声がよく聞こえて来た。
私達も同じように手を繋ぎながら、ゆっくりと歩いて行く。
そして、ベンチの前で立ち止まると、静香ちゃんは私を見つめてこう告げる。
「夢美ちゃん、私夢美ちゃんの声が凄く好きなんだ。また、囁いてくれるかな?」
「……」
「駄目……かな?」
「良いけど、ちょっと待っててね」
「分かった」
私は声を整えて、彼女を正面から抱き締める。
そして彼女の耳元で、私の愛を囁く。
「静香ちゃん、好き……大……好き……。もう……静香ちゃんが居ないと……生きていけない……」
「ありがとね。もう良いよ」
「あ……」
名残惜しかったが、私はゆっくりと離れる。
彼女は満足げな表情を浮かべていた。
「ふぅ~。夢美ちゃんの愛の告白は最高だなぁ」
「あはは、ちょっと恥ずかしいかな……」
「今更? 夢美ちゃんの愛の言葉を聞くと、ゾクゾクして……もっと聞きたくなっちゃうんだよね」
「もう、静香ちゃんの変態」
「あはは、ごめん」
彼女は私の額に軽くキスをすると、再び歩き出す。
すると、ある場所に辿り着くと、私に振り返った。
「ね、最後にもう1回、観覧車乗らない? この時間の夕焼けと夜景が同時に存在する景色は絶景なんだよ」
「そうなんだ。うん、乗りたい」
「決まりだね。それじゃ行こうか」
私達は観覧車に乗り込むと、向かい合わせになって座った。
徐々に上がっていき、外の風景が見えると、思わず感嘆の息を漏らしてしまう。
「わぁ~」
「綺麗でしょ?」
「うん。でも、静香ちゃんの方が綺麗」
「あはは、ありがとう」
突如突風が吹き、観覧車が大きく揺れて停止する。
すると、静香ちゃんは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
そして、私の方に近寄ってくると、突然唇を重ねてくる。
私は驚きながらも、静香ちゃんを受け入れた。
舌が絡み合い、吐息が漏れ出る。
やがて口を離すと数分後、アナウンスと共に観覧車は動き出す。
「静香ちゃん、いきなりはびっくりするよ……」
「あはは、ごめん。我慢できなくってさ」
「全く……」
私達はその後、特に会話を交わす事もなく、ただ黙々と風景を眺め続けた。
頂上に着くと、静香ちゃんは私を後ろから抱き締めながら、首筋に吸い付く。
チクリとした痛みが走るが、不思議と嫌な気は全くしなかった。
寧ろ、静香ちゃんが喜んでくれるなら、幾らでも吸ってくれて構わないとさえ思った。
「んっ……」
「痛い?」
「ううん、大丈夫だよ」
「良かった」
静香ちゃんは私から離れると、今度は私を前から抱き締める。
お互いの鼓動を感じる。
私は静香ちゃんの頭を撫でると、静香ちゃんは再びキスをしてくる。
何度も何度も。
まるで私の存在を確かめているかのように。
それから10分程経っただろうか。
ようやく私達は離れた。
それから、私達は電車に乗って帰ることにする。
最寄り駅まで到着すると、私達は駅のホームに降り立った。
「楽しかったね、夢美ちゃん」
「………」
「夢美ちゃん?」
私の目から涙が零れ、嗚咽を漏らして私は泣いてしまう。
唐突のことに驚く静香ちゃんだけど、人の居ない方へ一緒に歩いてくれて、私が落ち着くまで待ってくれて、抱き締めたまま背中をポンポンと叩いてくれた。
「ごめんね、急に泣いたりして……」
「いいよ。今日は無理させちゃったからね。ごめんね」
「違うの。本当に嬉しくて。こんなに幸せなことが続いていいのかなって」
「夢美ちゃん……」
静香ちゃんは何も言わずに、私をギュッと強く抱きしめた。
そして、優しく頭を撫でてくれる。
「もう、帰る時間で、ここで別れないといけないって分かってるのに、分かった途端に寂しくなって、もっと一緒にいたくなって、離れたく無くて」
「あぁ、だから電車の中でも静かだったんだね」
「うん。静香ちゃんと離れたくない。ずっと一緒に居たいよぉ……」
「私もだよ。私も夢美ちゃんと一緒にいたい。夢美ちゃんのことが好きすぎて、大好き過ぎておかしくなりそう」
「静香ちゃん……」
静香ちゃんは私にキスをする。
そして、私を強く抱きしめる。
「よし、決めた。今日から私、夢美ちゃんの家に住むよ」
「……え?」
「言ったでしょ。私一人暮らしだから。家には両親もいないし、問題なし。それに夢美ちゃんと一緒なら、どんな困難でも乗り越えられる気がするんだ」
「そんな簡単に決めて良いの?」
「良いんだよ。だって私達、両想いなんだもん。ね?」
「……うん!」
こうして私達は一緒に住むことになり、私の生活スタイルは大きく変わった。
1人暮らしなのに、2人で住むことになったのだ。
最初は緊張するけども、段々慣れていくことだろう。
静香ちゃんとは毎日のように愛し合い、お互いを求め合って、平日は学校に通いつつ、休日にはデートして。
幸せで充実した日々が当たり前のように続いていく。
そう信じていた。
しかし、その願いは脆く崩れ去ってしまう。
幸せは長く続かない、幸せは奪われるものなのだと、私は身をもって知ることになるのであった。
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