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「圭太、お前一緒に車作らんか」

工業高校2年、橋本蓮からの誘いは思いもよらぬ拍子抜けた事だった。

「車を作る?ディアゴスティー二でもやるつもりか」

「違う。俺らで一緒に本物の車を作るんだ。高校卒業までに」

車好きなら誰でも一度は夢見たことがある事だ。しかし、車の設計、組み立て、認証の取得など、ハードルが高いということは、少し考えればわかることだった。

「車を作るって、一からか?」

「そう。エンジンとかは出来合いのものを用意すればいい」

蓮は、明るい表情でそう言い放つ。

「簡単にいうけどお前、めちゃくちゃだぞ。そんなこと出来るわけがない」

「とりあえず、親父に相談してみるわ」

蓮の父親は、自動車整備士で自分で工場を持って働いている。出来合いのエンジンは蓮の父親に言えば、手配してくれそうだった。

「お前、正気か?」

「当然」と蓮は首を縦に振る。第一、お金はどうするつもりなのだろう。車を作るとなると少なく見積もっても百万単位の資金が必要だ。蓮も俺もまだ高校生だ。資金面の調達の時点で、ハードルが高かった。

「お前、急にそんな話するけど、資金面はどうするつもりだよ」

すると、蓮は、スマホの画面をやや自慢げに見せつけてくる。

「クラウドファンディング?」

クラウドファンディングとは、実現したい目標や夢のプロジェクトを公開して、支援者から資金を募るサービスの事だ。その夢や目標に賛同してくれた日本中の人が、資金を提供してくれるという仕組みである。

「なるほど。その手があったか」

放課後の誰もいない教室に、男二人。いつも馬鹿話で盛り上がる二人だが、今日は真剣な雰囲気が漂っている。

「で、クラファンには、申請出したの?」

「それがだな、審査通っちゃったんだよ」

クラファンの審査に通るというのは、すなわち、資金的な面で融資を受けられる可能性があるという事だ。

「もし、資金調達が上手くいったら、ほんとにやるつもりなんだな。でも、どうする。俺はカーデザインとか出来ないよ。」

「もし本当にクラファンの目標額に達成したら、絶対にプロジェクトをやらなければならない。2組の佐藤を誘ってみるか。あいつなら、車も好きだし、デザインも出来る」

「あと、同じ2組の中村も誘ってみればいい。3D CADもいじれるから力を貸してくれる筈だ。」

3D CADとは、コンピューターを使って、3次元のモデルを設計する技術のことである。中村は、3D CADを使って、自分でゲームを作って遊んでいる。あいつに頼めば、設計作業を上手くやってくれるだろう。
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