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蔑ろはどちらか

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「兎に角あーだこーだと要領を得ないが、兎に角あの女が格上の婚約者で、お前は蔑ろにされてるって事だな」
「そ、そんな……事は」
「有るだろ」

 まあ、話もそこそこに他人を突き飛ばして去るヤツだものね。婚約者への蔑ろがまっしぐらよね。

「……幼馴染が、来てからなんです。彼女がおかしくなったのは」
「幼馴染?」
「ええ、以前住んでいた所で仲良くなった姉妹なんですが……」
「まあ、姉妹……。その方達は可愛らしいのでしょうか?」

 は? 何だかこのジャージ氏の顔が……脂下がるというか、デレデレしてないかしら?
 ……なーんだか、不穏な空気になってきたような……。本人全く気付いててないけど。元々、丁寧に見えて実は、空気読めない感じなのかしら?

「ええ、とても可愛いんです」
「御歳は?」
「見た所……貴女と同じ位です。可憐な娘達ですよ」

 ……え。乙女ルーキア、只今御歳19歳なんだけど。
 このジャージ氏、どー見ても三十路前に見えるわね。それ、どういう関係の幼馴染なのかしら。歳の差デカくね?
 そんな差の子供が、仲良く友情を育み幼馴染付き合い出来るものなの? 偏見だけど、キモい方面でなく?
 ……まあ、ジジババがメインな我が領地生まれの私は、そんな歳の差すら幼馴染は居ないけどさ。

「可愛くてね。街を案内してあげた先月は小さいアクセサリーを。
 先日もレースのリボンをあげて、目を輝かせて喜んでくれて……。本当に可愛いんですよ」

 ……な、何を言ってるのかしら、この人。
 婚約者を差し置いて、若い女の子ふたりを侍らせてプレゼントを与える? それも何回も連れ歩いて?

 ……やだ、同情して損したわ。ぶつかられた事は腹が立つけど、そりゃ……。そんなのを目の当たりにして先月から? ペペリ嬢も自棄も起こすでしょうよ。

「そりゃ、あのお嬢さんは普通にキレますわよ」
「そうだね、自業自得だったか」
「え? え?」
「時間を無駄にしましたわ……」
「ルーキア、さっさと飲んで。君だけのコーヒーは持つよ」
「えっ、え?」
「まあ本当ですの!? ティ……ご子息様!!」

 いっけない、素敵なお店の素敵コーヒー奢りの嬉しさでティナー侯爵令息の身分を道端でバラす所だったわ。
 そういう気遣い大事なのよ、木っ端貴族だもの。

「ミシーでいいよ、ルーキア。さあ戻ろう。明日から宜しく」
「えっ……」

 わ、忘れられていなかったわ。明日から門番業務……。うう! あのジャージ氏インパクトで軽やかに忘れていて欲しかったのに!!

「あ、あの! ど、どうされたんですか?」
「どうされたもこうされたもない」
「あの、御自身の交友関係を見直された方が宜しいですわ」
「交友関係!? どういう事ですか!?」

 ……駄目だわこりゃ。このジャージ眼鏡……。この、なーんにも非が有りませんけど? 急に怒り出して怖! みたいなリアクション!
 何にも! 何っにも!! ペペリ嬢のことも! 解ってやしないわ。

「紳士らしく為さることです。では、失礼」

 ……う、ううむ。ティナー侯爵令息様は……笑い方が悪どいのに、美しい……。
 そんな場合じゃないのに。つ、つい見惚れてしまったわ。
 よく考えたら、要らん口を挟んだ上に不埒な野郎の味方をするところだったのね。

 ……危ない所だったわ。騎士団所属なのに、これ以上のスキャンダルは我が家の為にも困るのよ。

 しっかし、旧知とはいえ若い娘にデレデレする不埒な野郎をサッサと見限るべきよね。ペペリ嬢ったら思いきれないのかしら。
 準男爵パワーなら、貴族はダメでも平民にはよく圧力効くだろうし。未だ、ジャージ氏に心が残ってしまって、悲しくて怒ってるのかもしれないわね。
 いい事をした……訳ではないけど、理不尽に手を貸さなくて本当に良かった。
 ……私も、理不尽が払える圧倒的パワーが欲しいわ……。

「明日から来いよ、ルーキア」
「承りました……」

 うう、やっぱり行かなきゃならないのね……。
 イケメンに呼び捨てにされていると言うシチュエーションでも、実に嬉しくないわ……。
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