あやかし屋店主の怪奇譚

真裏

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第三章 学校の霊異譚

望ヶ丘高校の噂

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学校の七不思議。
この日本という国で生活していれば一度は聞いたことのある噂だろう。
女子トイレの花子さん、動く石像、光る音楽家の目、独りでになるピアノ…全国各地で語り継がれてきた、子供を恐怖させる都市伝説のことだ。

例に漏れず、俺が通っている望ヶ丘高校にも、そういった類の噂があった。

「ねえ小泉、この学校の七不思議って知ってる?」

吉沢が、ふいにそんなことを聞いてきた。先月あたりから妖怪と関わってきた俺は無条件にびくっと肩を上げてしまう。特に意味はないが。

「いや…存在してるのは知ってたけど、具体的にどんな妖怪がいるのか知らないな」

「えー、小泉なら知ってると思ってたのに」

「何の根拠だよ…」

やっぱり、花子さんとかはいるのだろうか?定番中の定番だから、いなかったらそれはそれで驚きだ。

「最近ね…女子が、美術室にある絵が描き足されていってるのに気が付いたんだよ」

ぎゅっと顔を寄せて、秘密の話でもするみたいなひそひそ声で吉沢は話し始めた。

「その絵は、元々風景画だったんだけど、なぜか人の顔が見えたり、血みたいのがついてたりするんだって」

「…気のせいなんじゃないの?」

「いんや、それがさあ。実は、代々語り継がれてきた七不思議の中に、『描き足される絵』っていうのがあるんだよ。私たちは、それが怪しいんじゃないかって睨んでる」

まぁたしかに、そんな噂があって描き足される絵を見つけてしまったら怖い。だけど、それを俺に話す必要性があるだろうか。

「それでそれで、小泉には解決してほしいんだよ」

「…え、なんで!?」

「なんか、妖怪と仲良くなれそうじゃん」

…吉沢、それ冗談で言ってるんだろうけど、本当に仲良くなっちゃってるからやめて!
それにしても、最近は出張依頼が増えた。あやかし屋で承るよりも俺が承った方が効率がいいんじゃないか?
吉沢には悪いけれど、依頼とあらば妖力はもらっていく。それが規則だ。

「はぁ…ま、分かったよ。何とか出来るかは分からないけど、最善は尽くしてみる」

「マジで!?ありがと小泉!これで女子の株上がりまくりだね」

「え、いらん」

「ちょっとは欲しがって?」

…と、こんな調子で依頼を受けてしまうことになった。ああ、紗世さんになんて説明しようかな。




■■■





「ほぅ、学校の七不思議とは、懐かしい響きじゃのう」

あやかし屋に着くなり、俺は事の詳細を説明した。それほど怒った様子もなく、どちらかというと依頼を受け取ったことを喜んでいて、普通に褒めてくれた。
…これは、俺が出張依頼をした方がいいな。

「それで、お主一人で夜の学校に赴き、妖怪を封印できるのかえ?」

「む、無理っぽいですね…出来れば、紗世さんに付いてきて貰った方が楽に済みそうです」

「いいじゃろう。今宵は儂も暇を持て余す予定だったのじゃ」

よっこらしょ、と年寄りくさい掛け声と共に立ち上がった紗世さんは、骨董屋として置いてある骨董品を一つ引っ張り出してきた。
紗世さんの手に握られていたのは勾玉で、深緑、群青、深紅の三色があり、先の景色が良く見える透明だった。ガラス細工みたいで、いつまでも見ていられそうに輝いている。

「この勾玉は、敵意のある妖力に触れると割れるんじゃ。」

「敵意のある妖力…とは?」

「そうじゃのう…儂の空想世界へ飛んだ時、チリチリとした妖力を感じたじゃろう?あれのことじゃ」

ああ、と納得の声を漏らす。
紗世さんが張っていた妖力の糸は俺を近づかせない為の‘‘敵意のある妖力‘‘だった。この勾玉たちは、その妖力を察知して割れるらしい。

「望ヶ丘高校の七不思議はあまり知らんからのう。準備は万端の方が安心じゃろう?」

「ですね、ありがとうございます」

店前で拾った蒼い貝殻をぶら下げる為に使っていた紐で、三つの勾玉を首につける。群青、深緑、蒼い貝殻、深紅といった具合で首に下げた。下げてみると意外に重く、首が疲れてしまいそうだ。

「ところで、いつ行くんじゃ?まあ、夜の方がよいであろうが」

「えっと…同級生から聞いた限りでは、七時以降がいいみたいです」

「今は…六時じゃな。奥の部屋で茶でも飲んでくつろいでいったらどうじゃ」

一応、選択の権限を与えてくれているようにも見えるが、その目は「くつろいでいけ」と脅迫していた。これは素直に従った方が身のためだと判断し、椅子から立ち上がり奥の部屋まで歩く。

奥の部屋はスタッフルームのようになっていて、表よりも小奇麗にされている。十畳程度の和室で、座布団が二枚と湯呑が一つ、そして和菓子が数個並べられていた。よく旅館で見るような個室の雰囲気を出している。

実はこの部屋に入るのはそれほどなく、毎回部屋の内装がちょこっとずつ変わっているので新発見が多い。

「ふぅ…」

座布団に座ると、懐かしいような安心感が襲いかかり、それと同時に睡魔が睡眠へ誘おうと手を伸ばしてきた。まだ一時間くらいあるし、いっか…なんて甘い考えで、俺は目を瞑り闇に身を任せた。
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