魔法学園問題児科

蓮ヶ崎 漣

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問題児様、人間界へ②

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 葵ちゃんと友達になってから一週間が過ぎた。

いつもと変わらないはずの昼休み、私は屋上の踊り場で楓と二人きりになった。

楓と二人きりになるのはすごく久し振りだ。

そうなった理由は楓に呼び出されたから、なんだけど。


「杏。今、楽しいか?」


「え?何いきなり?楽しいよ。友達も増えてきたし。勉強にも追いつけるようになってきたし。楓は楽しくないの?」


「ん……いや、そうじゃねぇけど……なぁ、杏」


「何?」


「あのときの返事聞かせてくれ」


「あのとき……?」


「そう。俺が退学処分になったとき。まぁ、結果的には停学処分だったけどよ」


それを聞いて思い出す。

楓がどさくさに紛れて告白してきたことを。


「……あれ……だったって言ってなかった?」


「普通、これから会えるかわからないんだから好きですとは言えねぇだろ」


「……そっか。でも、私、その件に関しては怒っているから。このばかえで」


「はぁ!?なんで告白されて怒るんだよ!普通は照れるか意識くらいするだろ!」


「どさくさに紛れて告白されて素直に喜べると思う!?」


「……ゴメンナサイ」


「わかればよろしい」


「でもさ、俺、お前のこと好きだ。付き合ってほしい。何があっても俺がお前を守るから俺を選んでくれよ」


「そ、そんなこと言われても困るよ!それに……」


菫に悪い……と言いかけて止める。

ガサッと物音がしてびっくりして音がした方を見るとそこには誰もいなかった。

楓が小さな声でよしと言って私に肩にポンッと手を置くととてもいい笑顔で笑った。


「悪りぃな、杏!告白の練習相手にさせて!どうだ?少しはドキッとしたか?ちょっと昔のこと掘り返してマジっぽくして見たけど……顔赤いなー?やっぱり、告白されるとその気がない奴相手でも照れるのか?嬉しいもん?それとも、友達と思ってた俺からの告白だからそう言う反応?後者ならなんかこうグッとくるもんがあるな。あぁ、でも、杏のことは本当に好きだったぜ?嘘は吐いてねぇから。俺には勝ち目ねぇからな。早々に諦めた。もう杏のことは一番仲の良い異性の友達としてしか見てねぇから安心しろよ?そんじゃ、俺、教室戻るわ」


そう言って立ち去ろうとする楓を呼び止め思いっきりグーで殴ってやった。


「こっの……ばかえで!!!最低!今度同じことしたら火炙りの刑だから!!」


私は言いたいことだけ言うと頬を押さえて痛そうに蹲っている楓を放置して教室に戻った。


「どっちが馬鹿だよ……本気で好きだったんだよ、馬鹿杏……ったくいてぇな……本気で殴りやがって……防御使ったのにめっちゃくちゃいてぇぞ……杏の奴、強化してやがったな……あぁ、ホントいてぇ……」


楓がそんなことを言って泣いていたとは微塵にも思わず。

そして、桜がそれを一部始終聞いていたことにも気付かないで。


「……本当、ばかえでだと思うよ」


「……うるせぇ、桜。お前、そこは空気読んで励ませよ」


「……恋敵に励まされて嬉しいの?」


「……嬉しくねぇな。言っとくけど、お前だから譲るんだからな。杏を泣かせたら許さねぇぞ」


「……フラれる可能性もあるんだけど。楓、保健室行く?」


「……今殴ってもいいか?保健室はいい。屋上でサボる。だから、放課後迎え来いよ」


「殴られるのはまっぴらごめんだね。菫に迎えに来させるよ」


「……お前、ホント空気読めよ。杏と菫が喧嘩になったらどうしてくれんだ」


「菫は楓の気持ちに気付いてるだろ。フラれたってわかったら菫はここぞとばかりに猛アピールしてくるかも」


「……それ、やべぇな。今、優しくされたら男でも惚れそー」


「じゃあ、優しくしなくて正解だった」


「うっせ。お前とは一生親友止まりだ」


「友達としては最高ランクだと思うけど?」


「文句あるのかよ?」


「まさか。じゃあ、教室戻るから」


「おう。気を付けとけよ」


「出来る限り、ね」


そんなやり取りをしていたなんて思いもしなかった。

その日の放課後、桜が私の教室に来て一緒に帰ろうと言ってきた。

私は葵ちゃんと帰るからと断ろうとしたら葵ちゃんに今日は用事あるから一緒に帰れないんだ、ごめんねと言われて桜と一緒に帰ることにした。


「珍しいね~、桜が誘ってくるなんて」


「今日、買い物当番。手伝ってもらおうと思って」


「何それ?別にいいけど。夕飯当番も桜だよね」


「そ。何も作れないから出来合いでいい?」


「駄目!あの楓さえ手作りしたんだよ!桜も何か手作りしないと!」


「あれただ肉を丸焼きにしただけじゃん……しかも、ほとんど焦げてた」


「けど、やる度に焦げ目は減っているよ?」


「代わりにキッチンが黒焦げだよ」


「あはは、そうだね~」


そんな他愛もない話をしながら一緒に買い物して。

桜が珍しく寄り道しようと雑貨屋に入った。

その雑貨屋には可愛いものがたくさんあってあれがいいこれがいいと目移りしてしまう。

そんな私を見て桜はクスクスと笑いながらもこれはどう?なんて言って一緒に雑貨を見た。


端から見たらカップルに見えているかもしれない……


そう思ったらなんだか恥ずかしくなってきて桜を直視出来なくなる。

桜はそんな私なんかに気付きもしないで雑貨を見ていた。


「杏、どういうのが好き?」


「え?この中で?」


「うん」


「うーん……あ!これ!私、クローバーって好きなんだぁ」


「そっか。ちなみにこれは?」


桜が指したのを見るとサクラをモチーフしたネックレスだった。


え?

これって桜のことを好きかってこと?


意味を図りかねていると桜が口を開く。


「菫が女の子は花とかハートをモチーフにしたアクセサリーが好きって言ってたから杏はどうなのかなって思ったんだけど……」


深読みした自分が恥ずかしくて俯く。


あぁ、もう、私、馬鹿。

桜がそんなこと聞くわけないのに。


私は俯いたまま答える。


「そうだね。私も好きだよ」


「……そっか。じゃあ、そろそろ帰ろう。楓が五月蝿そう」


「う、うん」


桜が歩き出したのでその後に続く。

夕日のせいか桜の顔が少し赤くなっている気がした――――



 桜と一緒に帰ってから数日。

この日の朝は桜に呼び止められて何かと思えばプレゼントを渡された。

私の誕生日はまだ先だし今日はなんかの記念日だっけと首を傾げていると最近弱音吐かないで一生懸命頑張っているからそのご褒美と桜に言われプレゼントを開ける。

中に入っていたのはグリーンアメジストで出来ている四つ葉のクローバーのネックレスだった。

私は驚いて桜を見た。


「これ……」


「杏、クローバー好きって言ってたから作った。魔力封じは施してないからただのアクセサリーだけど」


「ありがとう!桜!すごく嬉しい!大切にするね!それと今度お返しするから!」


そう言って早速もらったネックレスをつけようとするが中々つけられない。

オロオロしていると桜が笑いながら貸してと言ってつけてくれた。


「あ、ありがとう。どうかな?」


「それ、プレゼントした本人に聞くの?」


「あ、そっか……えへへ、嬉しくてつい」


「喜んでもらえてよかったよ。あぁ、それと……」


桜は私の耳元で似合ってるよと言ってきた。

私はくすぐったさと嬉しさと恥ずかしさで顔を真っ赤に染めて。

桜は何食わぬ顔で口を開く。


「ほら、杏。学校行くよ?」


あぁ、もう!

桜の行動はたまに心臓に悪いよ!


そんなことを思いながら桜の後に続く。

玄関を出ると菫と楓が待っていた。


「杏、顔赤いぜ?大丈夫か?」


「平気!何でもないから!」


「あ、杏ちゃん。そのネックレス可愛いね。どうしたの?」


「これは今、桜からもらったの」


それを聞いた二人はニヤニヤして。

ふーんだとかへぇ~だとか言い始めた。


「桜ちゃーん?俺にはプレゼントないのかなー?」


「楓にはこれ」


そう言って桜が楓に渡したのは何の変哲もない箱だった。

楓は首を傾げながらその箱を開ける。

すると、中から煙が出たと同時にベシャッと言う音がした。

楓を見ると楓の顔はパイまみれだった。


「……桜、お前……」


私と菫は笑い出す。


「あははっ!楓、顔、真っ白!」


「ふふっ、びっくり箱だったんだね」


「パイ投げ用のパイだから味は保障しない」


「そこじゃねぇよ!これから学校ってときになんつーことしてくれたんだ!……ったく、お前ら先行ってろよ。俺、シャワー浴びてから行く」


そう言って楓は家の中に入った。

箱もちゃんと持って。

私たちは先に学校に向かう。


「桜くん、私には?」


「そのうち」


「そっか、楽しみにしてるね。桜くんのことだからきっと素敵なプレゼントだよね?」


菫は自分だけ何もないのが腹立たしいのかやけに桜に絡んでいた。

学校に着くと菫はすぐに自分の教室に向かった。


「杏、今日はお弁当一緒に食べよう?」


「え?うん。いいけど……」


「じゃあ、昼休み、屋上でね」


「わかった」


そう言って桜と別れて教室に行く。

教室に入ると葵ちゃんが話しかけてきて他愛もない話をした。

昼休みになり、屋上に行こうとすると葵ちゃんに呼び止められる。


「欅さん、どこ行くの?お昼は?」


「あ、ごめん。今日は桜と一緒に食べる約束しているんだ。だから、桜と食べてくるね」


「……そう……わかった。また後でね」


「うん、本当にごめんね」


気にしないでと葵ちゃんは言っていたけれどどこかに行ってしまった。

私は屋上に急ぐ。

誰もいないことを確認して屋上の鍵を開ける。

桜はもう来ていて私は隣に座る。


「お待たせ」


「うん。待った。楓たちも来るはずだけど遅いな……」


その直後に桜の携帯にメールが届く。

桜は中身を確認するとため息を吐いた。


「二人は友達と食べるってさ」


「あ、そうなんだ」


私は少しホッとしたような残念のような気持ちになった。

二人でお弁当を開ける。

今日のお弁当当番は楓だ。

見た目は表面だけなら美味しそうだが裏返したら案の定焦げていた。


やっぱり、楓に料理当番は無理かなぁ……


食事を終え、お弁当を片付ける。

片付け終わった私は桜に話しかける。


「桜、どうして今日はお昼に誘ったの?」


「たまにはみんなで食べたいじゃん。最近、クラスの奴とばっかりだったからたまには杏たちと昼休みに他愛もない話をしたかったんだよ」


桜はそう言うと大きく背伸びをして。

眠たそうだった。


「眠いの?」


「ん、ちょっとだけ」


「あ、じゃあ、私が膝枕してあげるから寝ていいよ?」


桜は沈黙する。


え、私なんか変なこと言ったかな?

膝枕の方が寝やすいよね?


首を傾げていると桜が口を開いた。


「……えっと、じゃあ……肩借りる」


「あ、うん」


桜は私の肩に頭を預けてしばらくするとよっぽど眠たかったのか寝息を立て始めた。


桜の髪ってサラサラだなぁ……


なんて思いながら頭を撫でる。


やっぱり、人間界でもモテるんだろうなぁ……

隠れファンクラブとかあったりして。

そう言えば、葵ちゃんは楓のことをやたらと聞いてきたっけ。

楓も気さくだから案外モテるんだよね。

あっちにいる頃は菫がやたらとガードしていたから秘かに想いを寄せていた子もいるかも……

こっちでは抑えているみたいだから女友達も出来たんじゃないかなぁ……

告白されていたりして……

楓はわかんないけど桜はありそう……


なんて思ったら心がズキリと痛む。


あぁ、もう何度目だろう?

桜のことは好きだけど今の関係が壊れるかもと思うと告白する勇気なんてなくて。

桜がくれたネックレスを握りしめていつか言えますようになんて願いを込めた。


昼休みが終わりそうなので桜を揺すり起こす。

桜はまだ眠そうに目を擦っていて。

その姿が可愛いななんて思った。

桜を教室まで届けてから自分の教室に戻る。

教室に入ると一瞬寒気がして。

でも、すぐにいつも通りに戻る。

葵ちゃんが駆け寄ってきてこれ預かったんだけどと手紙をもらった。

手紙には


話があります。

今日の放課後、一人で校舎裏まで来て下さい。

貴方を待っています。


と書かれていて。

渡してきたのは男の子だったよなんて葵ちゃんが言うから変に期待した――――
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