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第34話:1年3組 初風 絆(5)
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「それでさぁ、最近部室がムッシムシして胴着着るとマジサウナ状態なんですよね~!!」
19時半、僕達は両親が置いて行ったお金でネットから出前を頼み、リビングのテレビの前に折り畳み式テーブルを出して、各々が頼んだメニューを食していた。
初風は霊なので、食べることができないと思っていたが、どうやら集中すると食器に触れることができ口から摂取できるようだった。
今のこの状況をカメラで撮影したら、めちゃくちゃ不可解な映像が撮れるだろう。
だってプラスチック製の食器が宙に浮いて、中の物を咀嚼する音が聞こえるのだから・・・。
食事が始まると、真叶はえらく饒舌になり、最近推している芸能人や通っている中学であった面白いことを代わるがわる話し続けた。
おそらくだが、同性の人が家に泊まりにきたことなんて今までなかったからテンションが変に高ぶってしまっているのだろう。
「初風さんはなんか部活やってるんです?」
「私?入ろうとしたんだけどね、入部試験に落ちちゃってできなかったんだよね。」
「それってもしかして吹奏楽部ですか?」
「えっ?そっ、そうだけど・・・。」
「奇遇ですね!ウチの兄も春まで吹部入ってたんですよ。」
初風は驚いた顔をし、そのままそれを僕へと向けてきた。
きっと心の中で、「あの時の試験に一緒に参加してたのか!?」とか思ってんだよな。
「あれ?知らなかったんですか?」
「うん。初めて聞いた・・・。」
「ひょっとしてさぁ、初風さんのこと落としたの縁兄ちゃんじゃないのぉ!?」
「ばっ、バカ!!んなワケねぇだろ!!」
いや、あながちそれは間違っていないのかも・・・。
だって初風が落ちた代わりに僕が受かって入部することができたのだから。
そう考えると、まるで僕が蹴落としたみたいになって申し訳なくなる・・・。
初風のことだから、僕に責任転嫁するはずがないのだけれど・・・。
「そうですよ。試験に落ちたのは私の実力不足が原因なのですから、縁人先輩のせいではないですよ。」
「おっ、おう・・・。」
何故だろう?
声のトーンのせいで、どっちか分からなくて、コワい。
まさかこういう形で霊に恐怖を抱いてしまうなんて・・・。
「しっかしさぁ、分かんないんだよね。2人ってさ、一体どんな関係なのさ?」
「は?イヤだから、先輩と後輩なだけで・・・。」
「そこが腑に落ちないのよ。先輩後輩って普通部活が一緒で関係ができるはずだよね?なのに2人とも別々・・・。だったらあんま接点ってできなくない?どうして縁兄ちゃんはそんな初風さんと勉強教えっこする関係になったのさ?」
コイツ、中々に痛いトコ突いてくるぜ・・・。
さて、どうやって取り繕ったらいいだろうか?
イヤ。ここはシンプルに「人様の関係についてズカズカ聞くもんじゃない!」とズバッと言うべきだろうか?
すると、初風は急に持っていた割り箸をカチャっと置き、神妙な眼差しで真叶の方を見た。
「ふぅ・・・。・・・・・・・。中2の時に縁人先輩に告られたの。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?
「こっ、告られた!?告られたってどういうことですか初風さん!!?」
「黙ってたけど、私と縁人先輩は中学も一緒で同じ吹奏楽部だったの。ある日私は部活終わりに縁人先輩に呼び出されて唐突に告白されたの。私は断ったわ。だってその時縁人先輩のことはただの部活動の先輩としか見れなかったから。それにその時の台詞があまりにもイキってたから。もう思い出しただけでフヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ・・・。」
「兄はどんな言葉で落とそうとしたんですか!?チョウダイチョウダイ!!」
「ちょ、待っ・・・!!僕なんにも言ってな・・・。」
「外野は黙っとれやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「フゴぉッッッ!!?」
真叶がブン投げた空のプラ製の容器が僕の鼻っ面にクリーンヒットした。
「これからの学校生活、という、演奏会で、一緒にしあ、わせな日々、という音を、奏でていきたい、って・・・。」
「・・・・・・・。ブハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」
真叶は腹を抱え、カーペットの上でのたうち回った。
「そっ、そんな口説き文句で付き合えるはずなんてないのにぃぃぃぃぃぃぃ!!!あたしだったら“アナタバカデスカ?”って言ってやるわ!!アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」
僕だって言わねぇよ!!そんなイカれたセリフ!!
「やっぱそうだよね!でもさ、私が断ったら縁人先輩、世界滅亡5秒前みたいな顔してすんごく落ち込んだの。だから可哀相になって言ってあげたの。“高校が一緒になった時にまだ私のこと好きだったら友達から始めてもいい。”って。そしたらマジで同じ高校に進学して、しかもまだ好きだったら約束守ることにしたの。で、今に至るってワケ。」
「そうだったんですね~!いやぁ~初風さんってホントお優しいですよね!」
「でしょでしょ!?縁人先輩はこの私の慈悲に大きく感謝すべきですよ。このっこのっ!」
初風はニヤニヤとイヤらしい顔をして肘をツンツン当ててきたが僕は全く笑えなかった。
そんなついさっき思いついたばかりの突拍子もないストーリーを、あたかも本当にあった出来事のように平然と話したのだから。
げに恐ろしいのは、やはり女の嘘、ということなのだろうか?
「ごちそうさま!じゃあ食べ終わったから先にお風呂頂いちゃおうっかな?」
「どうぞどうぞ!もうお風呂沸かしてますから。」
「ありがと真叶ちゃん。」
初風が立ち上がって1階の風呂場に降りようとすると、僕は先程の虚言の件を聞き出すために、彼女の後を追った。
「初風ぇ!!」
「あら、何ですか?」
「何ですかじゃないよぉ!どういうつもりだよさっきの!?」
「別に。ただ誤魔化しついでに縁人先輩が私のことを蹴落とした仕返しにおちょくってやろうと思いまして。」
やっぱ根に持ってやがったよさっきの!!!
「お前さぁ~。悪ふざけにしても限度ってもんがあんだろぉ?僕全身が燃え盛るじゃねぇかってくらい恥ずかしかったんだぞ!」
「えへへ・・・スンマセン。」
初風はふにゃけた苦笑いをすると、僕にペコっと軽く頭を下げた。
「ほらほら。もういいから、早く風呂入ってくれよ。次僕が入りたいんだからさ。」
「はぁ~い。でも、ウソついてる時ちょっと思ったんですよね。」
「何を?」
「“縁人先輩が彼氏だったら、それはそれで楽しそうかな”って。」
「なっ・・・!?」
相変わらずケタケタと笑う初風だったが、それが妙に可愛く見えたので僕は言葉を詰まらせた。
「ではこれで。なるべく早めに出るので待ってて下さいね。」
「あっ、ああ。あっ、ちょっと待って!」
「はい?」
「お前さ着替えは?持ってきてないだろ?」
「私は霊ですから、外見は考えただけで変えられます。」
「そうか。意外と便利なんだな。」
「そうなんですよ。あっ、そうだ!」
「なんだよ?」
「せっかくですから一緒に入ります?その方が時間短縮できますよ?」
「そっ、そんなことできるワケないだろ!!」
「ジョークですよ。何ムキになってるんですか?カワイイですね♡」
「からかうのも大概しろよな・・・。」
「ごめんなさ~い♪じゃ、お先に~。」
初風は終始そのイヤらしい笑いを崩さないまま風呂に入って行った。
僕は今日、幽霊というものに対し、別の意味で恐怖の念を持つに至った。
19時半、僕達は両親が置いて行ったお金でネットから出前を頼み、リビングのテレビの前に折り畳み式テーブルを出して、各々が頼んだメニューを食していた。
初風は霊なので、食べることができないと思っていたが、どうやら集中すると食器に触れることができ口から摂取できるようだった。
今のこの状況をカメラで撮影したら、めちゃくちゃ不可解な映像が撮れるだろう。
だってプラスチック製の食器が宙に浮いて、中の物を咀嚼する音が聞こえるのだから・・・。
食事が始まると、真叶はえらく饒舌になり、最近推している芸能人や通っている中学であった面白いことを代わるがわる話し続けた。
おそらくだが、同性の人が家に泊まりにきたことなんて今までなかったからテンションが変に高ぶってしまっているのだろう。
「初風さんはなんか部活やってるんです?」
「私?入ろうとしたんだけどね、入部試験に落ちちゃってできなかったんだよね。」
「それってもしかして吹奏楽部ですか?」
「えっ?そっ、そうだけど・・・。」
「奇遇ですね!ウチの兄も春まで吹部入ってたんですよ。」
初風は驚いた顔をし、そのままそれを僕へと向けてきた。
きっと心の中で、「あの時の試験に一緒に参加してたのか!?」とか思ってんだよな。
「あれ?知らなかったんですか?」
「うん。初めて聞いた・・・。」
「ひょっとしてさぁ、初風さんのこと落としたの縁兄ちゃんじゃないのぉ!?」
「ばっ、バカ!!んなワケねぇだろ!!」
いや、あながちそれは間違っていないのかも・・・。
だって初風が落ちた代わりに僕が受かって入部することができたのだから。
そう考えると、まるで僕が蹴落としたみたいになって申し訳なくなる・・・。
初風のことだから、僕に責任転嫁するはずがないのだけれど・・・。
「そうですよ。試験に落ちたのは私の実力不足が原因なのですから、縁人先輩のせいではないですよ。」
「おっ、おう・・・。」
何故だろう?
声のトーンのせいで、どっちか分からなくて、コワい。
まさかこういう形で霊に恐怖を抱いてしまうなんて・・・。
「しっかしさぁ、分かんないんだよね。2人ってさ、一体どんな関係なのさ?」
「は?イヤだから、先輩と後輩なだけで・・・。」
「そこが腑に落ちないのよ。先輩後輩って普通部活が一緒で関係ができるはずだよね?なのに2人とも別々・・・。だったらあんま接点ってできなくない?どうして縁兄ちゃんはそんな初風さんと勉強教えっこする関係になったのさ?」
コイツ、中々に痛いトコ突いてくるぜ・・・。
さて、どうやって取り繕ったらいいだろうか?
イヤ。ここはシンプルに「人様の関係についてズカズカ聞くもんじゃない!」とズバッと言うべきだろうか?
すると、初風は急に持っていた割り箸をカチャっと置き、神妙な眼差しで真叶の方を見た。
「ふぅ・・・。・・・・・・・。中2の時に縁人先輩に告られたの。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?
「こっ、告られた!?告られたってどういうことですか初風さん!!?」
「黙ってたけど、私と縁人先輩は中学も一緒で同じ吹奏楽部だったの。ある日私は部活終わりに縁人先輩に呼び出されて唐突に告白されたの。私は断ったわ。だってその時縁人先輩のことはただの部活動の先輩としか見れなかったから。それにその時の台詞があまりにもイキってたから。もう思い出しただけでフヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ・・・。」
「兄はどんな言葉で落とそうとしたんですか!?チョウダイチョウダイ!!」
「ちょ、待っ・・・!!僕なんにも言ってな・・・。」
「外野は黙っとれやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「フゴぉッッッ!!?」
真叶がブン投げた空のプラ製の容器が僕の鼻っ面にクリーンヒットした。
「これからの学校生活、という、演奏会で、一緒にしあ、わせな日々、という音を、奏でていきたい、って・・・。」
「・・・・・・・。ブハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」
真叶は腹を抱え、カーペットの上でのたうち回った。
「そっ、そんな口説き文句で付き合えるはずなんてないのにぃぃぃぃぃぃぃ!!!あたしだったら“アナタバカデスカ?”って言ってやるわ!!アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」
僕だって言わねぇよ!!そんなイカれたセリフ!!
「やっぱそうだよね!でもさ、私が断ったら縁人先輩、世界滅亡5秒前みたいな顔してすんごく落ち込んだの。だから可哀相になって言ってあげたの。“高校が一緒になった時にまだ私のこと好きだったら友達から始めてもいい。”って。そしたらマジで同じ高校に進学して、しかもまだ好きだったら約束守ることにしたの。で、今に至るってワケ。」
「そうだったんですね~!いやぁ~初風さんってホントお優しいですよね!」
「でしょでしょ!?縁人先輩はこの私の慈悲に大きく感謝すべきですよ。このっこのっ!」
初風はニヤニヤとイヤらしい顔をして肘をツンツン当ててきたが僕は全く笑えなかった。
そんなついさっき思いついたばかりの突拍子もないストーリーを、あたかも本当にあった出来事のように平然と話したのだから。
げに恐ろしいのは、やはり女の嘘、ということなのだろうか?
「ごちそうさま!じゃあ食べ終わったから先にお風呂頂いちゃおうっかな?」
「どうぞどうぞ!もうお風呂沸かしてますから。」
「ありがと真叶ちゃん。」
初風が立ち上がって1階の風呂場に降りようとすると、僕は先程の虚言の件を聞き出すために、彼女の後を追った。
「初風ぇ!!」
「あら、何ですか?」
「何ですかじゃないよぉ!どういうつもりだよさっきの!?」
「別に。ただ誤魔化しついでに縁人先輩が私のことを蹴落とした仕返しにおちょくってやろうと思いまして。」
やっぱ根に持ってやがったよさっきの!!!
「お前さぁ~。悪ふざけにしても限度ってもんがあんだろぉ?僕全身が燃え盛るじゃねぇかってくらい恥ずかしかったんだぞ!」
「えへへ・・・スンマセン。」
初風はふにゃけた苦笑いをすると、僕にペコっと軽く頭を下げた。
「ほらほら。もういいから、早く風呂入ってくれよ。次僕が入りたいんだからさ。」
「はぁ~い。でも、ウソついてる時ちょっと思ったんですよね。」
「何を?」
「“縁人先輩が彼氏だったら、それはそれで楽しそうかな”って。」
「なっ・・・!?」
相変わらずケタケタと笑う初風だったが、それが妙に可愛く見えたので僕は言葉を詰まらせた。
「ではこれで。なるべく早めに出るので待ってて下さいね。」
「あっ、ああ。あっ、ちょっと待って!」
「はい?」
「お前さ着替えは?持ってきてないだろ?」
「私は霊ですから、外見は考えただけで変えられます。」
「そうか。意外と便利なんだな。」
「そうなんですよ。あっ、そうだ!」
「なんだよ?」
「せっかくですから一緒に入ります?その方が時間短縮できますよ?」
「そっ、そんなことできるワケないだろ!!」
「ジョークですよ。何ムキになってるんですか?カワイイですね♡」
「からかうのも大概しろよな・・・。」
「ごめんなさ~い♪じゃ、お先に~。」
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