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第24話:3年1組 心堂 凰陽(10)

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翌日の日曜日。

僕は作戦に不可欠なを探しに、電車で10分ほどの電子街に出かけたが、中々見つけられないまま昼前を迎えて焦っていた。

やっぱり早々簡単には見つからないか。

そりゃそっか。

かなり年代モンだもんな~

徒労に暮れるあまり諦めそうになってしまうが、「次の店なら手に入るかもしれない。」と己を鼓舞する。

こうやって、目的の物が手に入らない時ほど「〇〇かもしれないが△△かもしれない。」というフタを実際に開けてみないと分からない所謂『悪魔の証明』が心の支えになる。

大方これが、人が店々をハシゴする原動力なのだろう。

ならば今は、不確かな可能性に身を預けるしかないか。

そう思って歩き出した時、目の前のアニメグッズ関連のグッズから見知った顔が出て来るのが見えた。

あれって、賽原!?

なしてアイツこんなところに?

まあいいや。

折角会ったんだし、挨拶くらいしておくか。

「お~い!賽原!」

賽原は僕の方を一瞬見たが、その後ビュっと視線を逸らすと再びスタスタと歩き始めた。

アイツ、僕のこと無視しやがった。

「ちょっと待てよ。おい、賽原!」

僕は賽原を引き留めるために、店のビニール袋を下げる腕を掴んだ。

「なっ、何ですかあなた?私を攫う気ですか?」

「先輩の顔を見忘れたか貴様。よぉく見ろ!」

「ん~?あっ!そのきったない幸薄面は櫟先輩!いや~奇遇ですね。」

人の顔を汚いと罵った上に幸薄いと言い放ったこの後輩をこの場で八つ裂きにしてやりたかったが、ここは天下の往来。

公道のど真ん中でそんなマネをすることはできないので、グッと堪えた。

「ああ、ホントに奇遇だよな。こんなトコでバッタリ会うなんて。」

「そうですね~まさか清く正しく生きる私にこんな不幸のソロアーチが降りかかるなんて。」

「お前にとって僕は極めて忌むべき存在なのかよ!?」

我慢できずツッコんでしまった。

ホントコイツは僕への悪口のバリエーションが豊富だ。

「ホントお前って僕の扱いヒドイよな。」

「あっ、もしかして気にしてました?それはどうもすいませんっ。私って心許した相手になんでもかんでも言っちゃうヤツなんで。」

「え、そうなの?」

これは少しばかり予想外の答えだった。

そうすると賽原の中では、僕は「どんな冗談でも遠慮なく言ってしまえる友人。」にカテゴリーされているのか。

男子の身としては、女子からそんな風に見られるというのは、あまり悪いものではない。

「ええ、私は櫟先輩のことを、“公園で餌をねだるハト”と同じ引き出しに入れていますから。」

「僕は鳥と同じ扱いかよ!!」

マジでコイツ何なの?

「あはは、こりゃ失敬。では櫟先輩、せめてものお詫びに櫟先輩の買い物付き合いますよ。」

休み明けになったら話すこととはいえ、今は僕の個人的な思案に留まってることに賽原を巻き込むのは些か申し訳なかったが、「用事終わって暇してるんですからお願いします。」と言って来たので、僕は彼女の厚意に甘えることにした。

年下の後輩と一緒に街をぶらつくなんて、傍から見たら何だかデートぽかったので、僕は少し照れ臭かった。

「と、ところで賽原は今日何買ったんだ?」

段々気まずさを感じた僕は、特に興味なかったが、賽原に、今手に提げている袋の中身を聞いた。

「これですか。これは私が去年見てたアニメのブルーレイBOXです。先月特典が豪華になって再販されたんで。」

「へぇ~」

心堂会長の件の謝礼の時もラノベの話してたし、もしかしたら賽原って、中々の二次元ヲタかもしれない・・・

「いくらしたの?」

「そうですね、ざっと12000円くらいですか?」

「高っ!!」

そんなに高いブルーレイがあんのかよ・・・

二次元の世界、恐ろしや。

「お前って好きなものに金の糸目つけないタイプなんだな。」

「いやいや!私って結構節約する方ですよっ。」

「じゃあ何でそんな高ぇの買ったの?」

「いや、たまたま立ち寄ったお店で偶然見つけちゃって。買おうかどうしようかあれこれ悩んでる内に・・・なんか気がついたらレジで会計済ましちゃって。」

「お前それヤバイかつダメなヤツ!!」

どうやら賽原は、レジに商品を持って行った記憶がゴッソリ抜けているらしかった。

僕はコイツの将来に対して、言いようのない恐怖を覚えた。

「いやぁしかし、どうして日本のアニメや漫画とかってこうも面白ものが多いんですかね~?」

「はぁ?」

「いやぁね櫟先輩、アニメや漫画ってたまに“これどっかで見たことあんな”って思うのがあると思うんですよ。でもそういうのに限って他の作品より目を引くことってあるじゃないですか。それってどういうことだと思いますか?」

確かに賽原の言う通り、既存の作品とどこか似通っている作品が、場合によってはトレンドの中心になったりすることがあるが、果たしてそれは一体どうしてなのだろう。

「それはですね、作者がかつて時代の中心に立っていた作品のいい部分のエキスを上手く抽出してるからなんですよ!」

「ん?」

「人気作品の作者にだって、子どもの頃に夢中になった作品があって、彼等はそれの核となる部分を上手~いこと活かしながら自分の作品を作っている。だからこそ面白いんだと私は思うんです。」

なるほど、それなら1つ合点がいく。

万人受けした作品のテーマやエッセンスを上手に活用することで、己の作品を誰がどう見ても面白いと思えるものに昇華してるからこそ、似たり寄ったりであるが面白いと感じられる作品が出来上がるのだろう。

「だとしたら、なんか胸が躍るな。」

「え、何でです?」

「先人たちが残したものが、次代の作り手たちに連綿と受け継がれいるんだろ?で、そっからまだ誰も見たことないモンだって出て来るかもしんない。だったら、二次元モノの未来って明るいじゃんか。」

賽原は目を潤々とさせて、うんうんと頷いた。

なんだか今日、賽原と少しばかり距離を縮められた気がして、僕は浮いた気分になった。

「ところで、キモヲタの櫟先輩。」

「人聞きの悪いことを言うな!僕はキモくない健全なヲタクだ。」

前言撤回。

やはり僕は、コイツのことがちょっと苦手だ。

「櫟先輩の方は今日何を買いに来たんで?」

「ああ、それは・・・おっ!あった!」

賽原と駄弁ってる内に目的の場所に到着した僕は、ショーウィンドウに並べられた手に入れたかったものをようやく見つけることができた。

「ここは、?」

「そっ。でもって僕が今日買いに来たのは、コレ。」

僕が指差す方にあるもの。

それは、8だった。

「よし。値段もそこそこだし、これだったら小遣いの範囲で買えるな。」

「でも櫟先輩、こんなん買ってどうすんですか?」

首をかしげる賽原に、僕は「それは明日の部活までのお楽しみ♪」と茶目っ気ぶりに言った。

その仕草にカチンときたらしい賽原は、僕に腹パン一発を見舞った。
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