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本編

1話 転生して家出しちゃった

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 蜃気楼で地面がゆらゆらと揺れる
『(こんな猛暑日に出勤させられる社畜の自分が本当にかわいそうになる)』

 少しだけ視線を信号機に向け、青に変わったことを確認し渡ろうと歩き出す
 
 キキキキキーッ!
 と耳の奥の鼓膜を突き刺すようなブレーキ音が聞こえる、音の方に視線を向ける
 信号機は確かに歩行者が青になったのを確認したはずなのに訳の分からないスピードでトラックが真っ直ぐに向かってくる

 周りの人の大きな声や悲鳴らしきものが聞こえるが色んなどうでもいい記憶が一瞬で脳内に押し寄せてくる
 トラックが鼻先に当たる距離になりやっと思考が追いついたのか

『あ、死んだ』

 ドンッ!

 重たい鈍い音が体から響くように聞こえる




 暗闇に突き落とされる
 必死に体を動かそうとするが思いどりに動かない、そして死んだにしては何かが聞こえる体に違和感を感じるが痛みがあるわけではない、声を出そうとするが

『おぎゃーーーー!!』

 喉に入れる力が調整できないうえに喋りたかった言葉が舌への力の入れ方がわからず全く予想だにしていない声が出た
 困惑のあまり思考が止まっているとぼんやりと白く視界が明るくなってきたと思えば覗き込む人の顔が見える、きっと転生ものは最小はこんな感じなのだろう、そう思っていると自分が伸ばした腕が視界に入り込む

 『(あれ?赤ちゃんの腕......あれ?)』

   訳が分からない、夢なのかと現実かどうか思考を巡らせようと思っていたら、先ほどからずっと聞こえてた音が段々とはっきりと聞こえ始める
 甲高く耳障りの悪い女性の声がやっと言葉として聞こえ始めた

『あぁーーーーーーー!!!黒髪!!!!嘘よ!うそうそうそうそ!!!そんなわけない!私が、私が忌み子を産んでしまうなんて!?』

 困惑するような声、視界に映り込む嫌悪や憎悪が混じったような表情をした女の声なのだろうか
 その横にいる男が口を動かす

『気持ち悪い』

 吐き捨てるように俺を見て言った
 この二人が親なのか、となんとなく理解はできるが現実味がなさすぎる

『なかったことにしなきゃ』

 そう言いながら間違いなく視線はこちらを向いている

『(は?なかったこと?)』

 女は俺に向かって手を伸ばして

『炎よ現れたまえ』

 女の手にどこかから集まるかのように炎が段々と大きくなる、の火は顔にじりじりと熱を伝えてくる
 やめろと声を出そうとはするが何もかも下に力がうまく入れれず赤ちゃんの泣き声にしかならない

『(熱い、このままじゃ本当にままじゃ、ヤバい...!!)』

 そして続けて母親であろう女は何かを言おうとしたのを父親であろう男が女の肩に手を置くと、それに反応して振り返ると同時に火が小さくなり消えてゆく

『(助かった....のか?)』

 少し悲しそうな顔をしながら

『やめろ、こんな忌み子でも我が家の血をひている』

 女はこらえたような顔をしてゆっくりと手を引く

『隠せばいい、使用人の雑用でもさせておけば、ばれても孤児だと言ってごまかせる』

 この男はきっと自分の父親なのだろうがこれが生まれたばかりの我が子に言い放つ言葉とは到底思えない、そしてさっきの火から見て

『(異世界?転生なのか....しかもこんな倫理観の無い親の子なのか)』

 現実で異世界というラノベのような展開だが、最初からの希望の薄さや自身が死んだことにすらまだ納得がいかないままゆっくりと眠気が襲ってきた.....


____数か月後____


 あれから母親は一切、顔を見に来ずメイドがヤギのミルクなどはくれたがおむつや必要最低限以外は、誰も来ない部屋で天井を眺め続ける
 気が狂いそうになる、唯一の楽しみが嫌悪感や憐れみの顔で代わる代わるくる世話係のメイドの顔を拝むこと最初こそあまり泣かないからと楽がっていたメイドも泣かな過ぎて気味が悪いと段々と、雑になっていく

『(さすがに泣くか)』

 もう喋るという感覚はなく勝手に泣くという言葉が出てくる、口を動かして大きな声を出そうと息を吐く

『おぎゃ.....』

 想像の倍以上声が出ない

『(まさか....)』

 あまりにも口に力を入れなさ過ぎて、大きな声すら出せなくなっていたっことに焦りを覚える

『(気をつけないと...)』

  


 ____10年後____



 『もう10歳ぐらいか』

 当たり前のように誰もいなく薄暗い物置にも似た部屋でこの10年を少し思い返す
 喋れず動けもしなかった最初の3年は気が狂わないように永遠と独り言と思考をし続けた、それでもギリギリだったが声をさせるようになってからはまだましだった、それとおそらく普通の子供と同じように動けたのも前世があったおかげだろう
 食事も必要最低限、そして誰一人として言葉や歩き方教えてくれはしなかったのだから前世の記憶すらなければきっと死んでいただろう

 その後ある程度自由には動けたが使用人にもほとんどあったことはない、屋敷の離れに幽閉されているようなものだから食事も扉の前に1日に一回程度のこれも最低限、それが原因か10歳にしては小柄な体に、がりがりの腕、明らかに栄養が足りていない
 そして抜け出して庭でばったり父親であろう男にあったときは死ぬかもしれないと思う勢いで殴られた

 ただこの離れは倉庫なのか要らないものをしまっているのか、本は大量にあったからなんとなく読み書きはできた日本語ではない言語を最初から話せたことは転生のおかげなのかは定かではない

『そろそろか(小柄とはいえ自分で動ける、この日のためだけに耐え続けた逃げ出せるだけの必要最低限の体力がついた今ならいける、出て行ってやる!!!)』



 そんな訳で一刻も早く家出をしたくてしたが永遠と行く宛もなく歩いた
 きっと冷ややかな視線からして孤児だと思われただろう、ただ必死にあのから遠く逃げなきゃいけないと休まず移動を続けた

 『クソッ、もっと.....計画を....立てるべきだった......』

 夜道のなか癖になっていたひりごとをつぶやく

 グラッと視界が勢いよく下がる、体が力が入らず倒れる
  
『(あ.....限界か)』

 立ち上がろうと力を入れようとするが力が入らずぐったりとする

 『ちくしょう.....』

  脳裏にある言葉が浮かび上がる

 『死ぬのかな』

 地獄の10年、体とは違い成熟しきった精神でもしばらくの間は親を信じて愛されたかったと思っていたことを思い出し涙を流す


 後悔や恨みのなか、視界に映り込む屋敷から温かい光や微かに聞こえる賑やかな声

 『うらやましな.....』

 そう思いながら視界がゆっくりと暗転していく





 チュンチュン

 と元気な鳥の鳴き声が聞こえてきた
 勢いよく体を起こす
 自分体を見て、生きていたことに安堵する、そしてゆっくりとあたりを見渡す

『どこだ?........お洒落な部屋だな、金かかっーーー』

 癖の独り言で金がかかってそうと言いかけた瞬間に ガチャ とドアの回す音とともに扉が開く、別荘の窓越しからたまに見えた執事の服によく似た正装をきた白髪の細身なおじさんが入ってくる

『あぁ、お目覚めになりましたか』

 連れ戻されたのかと焦り窓の景色を確認する

『(違う)』

 全く知らない景色で安心する

『あの、大丈夫でしょうか?』

 と少し心配そうにここの執事であろう人がこちらを見る

『あ、大丈夫です』

『それは良かったです、昨夜あなた様が屋敷の前で倒れていたのを奥様が見つけて看病をしたのです』

『(奥様?ということは貴族の屋敷か?)』

 貴族がなぜ助けたのかと困惑していると

『起きたら伝えるように仰せつかっていますので、少々待ちください』

 と訳が分からず呆然としていたら部屋を出ていく

『え、あ.......』

パタンッ と扉が閉まる
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