ぼく、パンダ

１２．ありがとう

６

　佐々木がそのまま突っ伏すと、いつの間にか開けっぱなしにしていた扉からシェンシェンが出てきていた。
　シェンシェンは佐々木をぽんぽんと前足で叩いた。泣きながら顔を上げると、シェンシェンは佐々木が顔を上げるのを待っていたかのように、それを確認して歩き始めた。ガタガタの岩盤をひょこひょこと歩いていく。

　本当にすっかり大きくなった。
　シェンシェンは梯子を軋ませながら、器用に昇っていく。シェンシェンはやぐらに上がり、佐々木をちらりと見た。佐々木が不思議そうな顔をしていると、シェンシェンは少し笑ったような気がした。
　シェンシェンはやぐらの真ん中に座り、空を見上げた。ずっとずっと高い空を眺めていた。

　佐々木しゃんは今日もまた、泣きべそをかいている。色々思い出したら佐々木しゃんは泣いちゃうんだ。
　早坂しゃんがいたら、佐々木、なに泣いてるんだって叱るだろう。いつまで泣いてんだって怒るだろう。
　ぼくはそうだ！　と閃いて、泣いている佐々木しゃんにタイヤを転がしたんだ。
　泣いている佐々木しゃんの背中にタイヤが当たって、佐々木しゃんは振り向いた。

『いったー、シェンシェンなにすんのよぉ』

　ぼくは早坂しゃんの真似をしてみたんだ。早坂しゃんはもうここにはいない。泣きべその佐々木しゃんを叱る早坂しゃんはもういないんだ。だから真似をしてみようって思ったんだ。

「佐々木、いつまで泣いてるんだ」

　そう言ってみたんだよ。
　佐々木しゃんは涙を拭いてぼくに向けてにやっと笑い、タイヤを転がして追ってきた。

『こらーー、シェンシェーン』

　佐々木しゃんの涙顔が笑顔に変わった。
　早坂しゃん、ぼく、早坂しゃんの真似が上手にできたよ。
　お客さんたちがぼくと佐々木しゃんの鬼ごっこを楽しそうに観ている。かわいい子供たちがぼくに手を振ってくれている。

　早坂しゃんのいる空が青くて綺麗なんだ。
　おかあしゃんが笑ってくれている空が輝いているんだ。

　おかあしゃん、さよなら。
　ぼくは元気だよ。

　おとうしゃん、さよなら。
　ぼくは幸せだよ。