ぼく、パンダ

山城木緑

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12.ありがとう

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「シェンシェンが集めた葉は美味しいわ。ありがとうな。病気、治りそうやわ」

 シェンシェンはまた小さな竹林へ走った。もう届きそうにない葉を懸命に掴み、また祐吾の前に持ってくるのであった。
 祐吾は何度もシェンシェンを撫でながら「美味しい美味しい」と竹の葉を食べた。
 佐々木は涙を止められなかった。この泣き顔を見られたらまた祐吾にどやされるだろうか。
 でも、佐々木は悲しいから泣くのではなかった。
 本物の飼育員とは、どうあるべきなのか、動物と飼育員とはどうあるべきなのか、目の前でそれを教える早坂祐吾の背中の格好良さに、佐々木は涙を止めることはできなかったのだ。

 パンダ舎を囲む観客たちは一歩も動かず、声を出さずにこの光景を見つめていた。時折、子供が呼ぶシェンシェーンという声と、すすり泣く声がパンダ舎を囲んでいた。

 祐吾とシェンシェンの世界が広がっている。
 人間とパンダが向かい合い、そこには家族の温かさが流れていた。
 何ごとも発することなく、祐吾は最後に一枚、シェンシェンが摘んだ若い葉を食べた。
 シェンシェンから祐吾に身体を寄せた。シェンシェンよりひと回り小さい祐吾が受けとめる。軽くなった力で祐吾がシェンシェンを抱き締めた。
 すっくと立って、祐吾は大きな声で佐々木を呼んだ。

「佐々木ぃ!」

「はいっ!」

「あと、頼んどくわな」

「はいっ」

 冬の渇いた風が二人の声を遠くまで運んだ。

「シェンシェン……大丈夫だからな。大丈夫だぞ」

 キャウ、キャンキャンキャン。

 静かに祐吾は扉を開け、お客様へ深々と五秒、頭を下げた。いつも異音を鳴らす錆びた扉はこのときはじめて静かに閉まった。


 翌日、早坂祐吾はしずかに息を引きとった。
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