ぼく、パンダ

山城木緑

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10.父親だからよ

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 連日大賑わいだった暑い夏が終わろうとしている。
 八月の下旬を過ぎると、さすがに疲れたのかシェンシェンも暑さにぐったりする時間が多くなった。園長が特大の氷を差し入れすると、それを舐めたり遊んだりして夏の昼をやり過ごした。その姿も話題となり、シェンシェンの周りは熱狂冷めやらぬまま、歓声が常にこだまし、やがて夏休みを終えた。

「早坂さん、もうチョコみたいになってますよ、チョコ」

 佐々木が真っ黒に日焼けした祐吾を指さして、けたけたと笑う。
 祐吾の前に冷えたアイスコーヒーが出される。一気に飲み干し、背もたれに身体を預けた。目の前のガラスに写る自分を見て、祐吾はたしかにチョコみたいだな、と笑いそうになった。

「園長、俺にもでっかい氷くれよ。シェンシェンにあげてるやつ」

「早坂さんがでっかい氷で遊びだしたら、動物園じゃなくて新喜劇になっちゃいますよ」

 木下がそう言って執務室に笑いが起こる。
 モニターに目を移すと、シェンシェンが扉の前で立ったり座ったり、祐吾の帰りを待っているのが映っていた。

「シェンシェン、もう扉の前で祐吾さん待ってますよ。あんなになつかなかったのに、べったりっすね」

「ふふ、せやな。さ、はよ行ったらんと」

 それにしても、どっと疲れる。ベッドや布団で寝てるわけでもないから、身体の節々が痛い。
 佐々木が後ろから祐吾の肩を揉み出した。

「お、上司を敬えるようになってきたじゃねえか」

「お客さん、凝ってますねえ。肩凝りの場合はこうやって鎖骨の下をほぐしてあげるのが効果的なんですよ」

 佐々木が祐吾の肩を叩いた後、鎖骨の下に手を伸ばす。

「お、なんかお姉ちゃんのお店みたいでいいな」

「それ、セ、ク、ハ、ラ」

 佐々木が祐吾の鎖骨の下を言葉のリズムと同じリズムで押した。

「いってえ! 強すぎんだよ、お前」

「えー、そんな力入れてないっすよー」

「お前は乙女とかけ離れてるから、普通の力がもう男前なんだよ」

 ちぇー、せっかく揉んでやったのにぃと言いながら佐々木は後ろ手を組んで執務室を出た。祐吾は馬鹿力で揉まれた右胸を痛そうに押さえていた。
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