ぼく、パンダ

山城木緑

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1.おかあしゃん

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『当たったはずだ。何で倒れない』

 パンッ パンッ

 また嫌な音が鳴った。

「いやな音がするねえ、おかあしゃん」

 ぼくがおかあしゃんに話しかけると、おかあしゃんはまた止まった。
 止まって、ぼくを降ろし、倒れた。

 いっぱい走って、おかあしゃん疲れちゃった。寝ちゃった。
 ぼくはそう思っていたんだ。

 おかあしゃんは倒れてひっくり返った。ぼくはおかあしゃんがぼくを笑わせようとしていると思ったんだ。

「おかあしゃん。ひっくり返って面白いけど、ぼく、もうお家帰りたい」

 ガササササササ

 ぼくがおかあしゃんに話しかけたとき、うしろからいやな音が近づいてきた。

 竹や草がかきわけられて、ぼくとおかあしゃんのうしろに変な生きものがやって来た。
 ぼくよりおっきいけど、おかあしゃんよりおっきくない。二人はおかあしゃんとおんなじで、荒く息を吐いていた。

「こんばんは」

 ぼくが挨拶すると、二人は息を切らしながらにっこりと笑った。

『よし、親は死んでる。こいつ、警戒もしねえでこっち見てやがる。こいつは高く売れるぞ』

 ぼくとおかあしゃんがお話するのとぜんぜん違う声を出している。ごにょごにょ話して、なにを言ってるのか分かんない。

 ぼくはおかあしゃんを起こしに振り返った。
 まだぼくを笑わせようとしているひっくり返ったおかあしゃんの手をとんとんと叩いた。

「おかあしゃん、誰か来たよ」

 おかあしゃんは起きない。もう……。早くお家に帰りたいよ。
 ふと、ぼくの脇に手が入れられて、ぼくは持ち上げられた。振り向くと、さっきの生きものの一人がぼくを抱えあげていた。
 ぼくを抱えて、そのままぼくのお家のほうへと歩き出した。

「あ、ちょっと待って。おかあしゃんがまだ寝てるんだよ」

 ぼくを連れてどんどんおかあしゃんから離れていこうとする。

「あそこにおかあしゃんいたでしょ。おかあしゃんのところに戻して」

 ぼくは手も足もバタバタさせて、地面に降りようとしたんだ。おかあしゃんみたいにやさしく降ろして欲しかった。

「降ろして。降ろしてほしいよう」

 ぼくの言葉をこの人たちは分からないみたい。ぼくはおかあしゃんに会いたい。

「おかあしゃん! おかあしゃん!」

『泣くな、てめえ』

 一人がぼくの頭を叩いた。ぼくは、うえんうえん泣いてしまった。痛かったからじゃないよ。悲しくて悲しくて、泣いてしまったんだ。

『おい、商品だ。叩くな』

 ぼくのお家の近くまでやって来た。ぼくを抱えたまま二人はぼくのお家にある大事な竹の葉のベッドを踏んでいく。

「ああ、やめてよ。なにするんだよう。おかあしゃん、おとうしゃん、助けて!」
 そのときだった。ぼくたちの後ろから猛然と大きな足音が近づいて来たんだ。
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