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いざ初戦。甲賀者、参る。

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 滝音と桔梗が広い歩道を横並びで走っていた。サヨナラ勝ちの熱狂も早々に、二人は犬走が運ばれた病院へ向かっていたのだ。

「アキレス腱、しかも両足……正直、どうだ?」

 滝音が隣を走る桔梗へ問う。

「十日ほしいのが正直なところ。あとは、犬走くんの身体次第かな」

「十日……それだと間に合っても決勝か……。もう少し短くならないか?」

「……やるだけやってみるよ」

 くノ一。

 可憐に、妖艶に、それでいて淡白に、無慈悲に人を殺める忍者。現代では、くノ一の印象はそんなところではないだろうか。

 そもそも、甲賀に限らず伊賀も含め、忍者の絶対数は少ない。その少ない人数で隠密にて重要な任務を背負っていたのが忍者である。忍者はその特殊な身体能力ゆえ、代えが利かない存在だった。それでいてミッションは過酷である。一人怪我をすれば、ミッションの遂行は難しい。そんな世界であった。

 それを支えたのがくノ一であった。くノ一は変装や忍び込みによって標的を狙う重要な任務の傍ら、もうひとつ重要な任務を背負っていた。

 それが医術である。
 
「まずは入院している犬走くんを無理にでも退院させる。手術は断ってって伝えたから縫合されてないと思うけど……」

「分かった。橋じいが犬走のお母さんに連絡して事情を説明してくれてる。お母さんと合流して、東雲家を名乗れば分かってくれるだろ」

 行き交う人の群れを二人がスラロームのようにかわしていく。すれ違った人々が何者かと振り返るが、既に二人の姿は見えない。

「滝音くんの冷静なリード、かっこ良かったよ! ちょっときゅんとしちゃった」

 走りながら桔梗が滝音に身を寄せる。

「ふっ、俺に艷術は通じないぞ」

「ちぇっ、滝音くんは由依とできてるもんね」

「って、できてねえよ! 俺と伊香保は勝つために一緒に分析してるだけだ」

「ふふ、耳真っ赤にしちゃって。かわいい」

 桔梗の甘い香りが通りに立ち込める。病院が見えてきた。
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