上 下
136 / 178
いざ初戦。甲賀者、参る。

30

しおりを挟む
 副島が今考えていることは、大きく道河原の心を傷つけることになる。ただ、それをせずとすると、試合に負けてしまうかもしれない。

 副島は大きな選択に迫られていた。

 滝音がその様子を見て、また声を掛ける。

「副島……独りで悩まず、相談してくれ。俺らも伊香保も、橋じいだっている。抱え込むな」

「そうですよ。皆で悩みましょう」

 藤田も続く。

 皆が悩む副島の周りに集まった。腕組みした副島が皆の顔を覗く。

 

「ああ、ありがとな。正直、迷ってる」

 副島の考えはこうだ。

 桐葉が敬遠されて、1、2塁となる。続く道河原は当たればでかい。だが、やはりまだ、ど真ん中しか打てそうにない。ど真ん中から少しずらされたボールに手を出せば、ダブルプレーで試合終了となる。

 つまり、道河原にはわざと三振させて次の自分に回す方が同点の確率は高い……というわけだ。ただ、それは道河原の心を傷つけることになる。

「……なるほど」

 その場にいる全員が腕を組んで黙った。どちらの選択も辛い。

 ボーーーール

 やはり遠江姉妹社の捕手は立ち上がり、大きく外したボールをキャッチしていた。桐葉を敬遠しての道河原勝負に徹したようだ。

「あたしは、辛いけど、副島くんの作戦に賛成かもしれない」

 伊香保がそう言ったが、皆、何とも言えない表情で賛成とも反対とも口にすることはできずにいた。

 本当に難しい判断であった。

 だが、その悩みを桐葉が吹き飛ばす。

「……ねえ、副島。桐葉くんがこっちに何か伝えようとしてる」

 蛇沼が気付き、皆が打席の桐葉を見た。

 桐葉は手のひらをこちらに向け、待て、とでも合図しているようだ。

 なんだ? 桐葉、何を伝えたい?

 甲賀一の刀使いである桐葉家では、三種の斬撃が代々子孫へ伝承されている。

 瞬時、かつ威力に優れる「水月刀(すいげつとう)」

 まだ刀貴が会得していない奥義「竜突(りゅうとつ)」

 それに、月掛などの飛翔を得意とする忍者や、天井裏からの襲撃に対応する「舞葉斬(まいはざん)」

 この三種である。

 ボーーーール。

 3ボールノーストライク。

 完全な敬遠策だ。

 道河原が気合いを入れて、ネクストバッターズサークルで立ち上がった。副島がその道河原を呼び寄せようと声を出そうとした時、桐葉がまた、大きく副島に向かって手を広げた。

 大きく首を振り、やめろと合図している。

 副島はその合図を信じ、立ち上がった腰をまたベンチに降ろした。

「……あいつ、何するつもりだ」

 ふうぅぅぅ。

 桐葉は大きく息を吐き、居合の構えを解いた。バットを片手でぶらりと力なく持ち、棒立ちしている。

 遠江姉妹社のバッテリーだけでなく、この球場の誰もが、敬遠策で構える必要がないと判断したのだと思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

バーチャル女子高生

廣瀬純一
大衆娯楽
バーチャルの世界で女子高生になるサラリーマンの話

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...