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いざ初戦。甲賀者、参る。
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不運は続く。
せっかく傾いた流れを切らすまいと、続く道河原が珍しく粘っていた。真ん中以外のボールにも食らい付き、ファールで逃げる。そして、ついにコントロールミスが起きる。
真ん中少し高めに入ってきたボールを道河原は力の限りかち上げた。天空高くに打球が上がる。高く上がりすぎて、普通の打者ならせいぜい外野フライだが、道河原のパワーは桁外れだ。遥か上空からスタンドへ向かっている。
いっけーーー!
ついに四番のホームランが出たと思ったが、不運にもこの瞬間、上空に強い風が吹いた。頂点に達した打球が風に押し戻されていく。
レフトがフェンスに背中をくっつけながら、道河原の当たりをがっちりと掴んだ。風さえ無ければ、スタンドに届いたホームランであった。
1-3のまま、流れは変わりそうで変わらなかった。悔しい、惜しい、という気持ちを胸に閉じ込め、甲賀ナインは守備へと向かう。
試合はここから硬直した。徐々に疲れが見え始めた藤田は、走者を出すも粘り強く投げる。ピンチを迎えると、守備陣がとんでもない身体能力で得点までは許さない。
甲賀打線は普段の力を取り戻していた。それでも、チャンスを作ろうとすると、またピッチャーが交代し、うまくリズムが掴めない。押しているのはどちらかといえば甲賀だったが、遠江姉妹社がギリギリのところで目線を変え、踏みとどまる。点差が、縮まらない。
回はいつの間にか終盤、七回を迎えていた。
藤田が何とか七回のマウンドに上がる。肩で息をし、顎が上がっている。
スタミナのない藤田がよくここまで投げたと言っていい。
副島はずっと迷っていた。藤田を代えるか、代えないか。
点差は2点。ここで白烏に託したとする。理弁和歌山戦の最後のようなピッチングを見せてくれれば問題はない。だが、おそらくその確率は低い。まだ白烏のコントロールのばらつきは改善されていない。ここで白烏を出してフォアボールを連発しようものなら、遠江姉妹社につけ入る隙を与えて、そのまま試合を締められてしまう。2点差と3点差は大きい。地道にコツコツ、野球の基本で攻めてくる相手に白烏は相性が悪いだろう。
伊香保もベンチで爪を噛んでいた。頭の中でExcelを開き、瞬時に藤田の続投と白烏への投手交代をシミュレーションし、計算してみる。
藤田のこの疲労度ではこの回、次の回と点を入れられる確率が高い。だが、それ以上に今の白烏では大量点を入れられる可能性が高い。
何か、策を講じられないだろうか。そうずっと悩んでも、答えは見つけられないでいた。
そんな間に藤田は早速ピンチを背負い始める。ワンアウトから、ヒット、フォアボールを許し、決定的な4点目が目の前に迫っていた。顎が上がっている藤田と、プルペンでフォームを確認しながらシャドーピッチングを行う白烏……。副島と伊香保がその二人を交互に見る。一体どうすれば……。
経験の差。この言葉を副島と伊香保は重く痛感していた。どうしても埋められない経験の差はべンチワークにもあったのだ。
だが、一つだけ副島も伊香保も忘れていることがあった。
この球場で最も経験値が高い人物が、すぐ近くにいるということを。
せっかく傾いた流れを切らすまいと、続く道河原が珍しく粘っていた。真ん中以外のボールにも食らい付き、ファールで逃げる。そして、ついにコントロールミスが起きる。
真ん中少し高めに入ってきたボールを道河原は力の限りかち上げた。天空高くに打球が上がる。高く上がりすぎて、普通の打者ならせいぜい外野フライだが、道河原のパワーは桁外れだ。遥か上空からスタンドへ向かっている。
いっけーーー!
ついに四番のホームランが出たと思ったが、不運にもこの瞬間、上空に強い風が吹いた。頂点に達した打球が風に押し戻されていく。
レフトがフェンスに背中をくっつけながら、道河原の当たりをがっちりと掴んだ。風さえ無ければ、スタンドに届いたホームランであった。
1-3のまま、流れは変わりそうで変わらなかった。悔しい、惜しい、という気持ちを胸に閉じ込め、甲賀ナインは守備へと向かう。
試合はここから硬直した。徐々に疲れが見え始めた藤田は、走者を出すも粘り強く投げる。ピンチを迎えると、守備陣がとんでもない身体能力で得点までは許さない。
甲賀打線は普段の力を取り戻していた。それでも、チャンスを作ろうとすると、またピッチャーが交代し、うまくリズムが掴めない。押しているのはどちらかといえば甲賀だったが、遠江姉妹社がギリギリのところで目線を変え、踏みとどまる。点差が、縮まらない。
回はいつの間にか終盤、七回を迎えていた。
藤田が何とか七回のマウンドに上がる。肩で息をし、顎が上がっている。
スタミナのない藤田がよくここまで投げたと言っていい。
副島はずっと迷っていた。藤田を代えるか、代えないか。
点差は2点。ここで白烏に託したとする。理弁和歌山戦の最後のようなピッチングを見せてくれれば問題はない。だが、おそらくその確率は低い。まだ白烏のコントロールのばらつきは改善されていない。ここで白烏を出してフォアボールを連発しようものなら、遠江姉妹社につけ入る隙を与えて、そのまま試合を締められてしまう。2点差と3点差は大きい。地道にコツコツ、野球の基本で攻めてくる相手に白烏は相性が悪いだろう。
伊香保もベンチで爪を噛んでいた。頭の中でExcelを開き、瞬時に藤田の続投と白烏への投手交代をシミュレーションし、計算してみる。
藤田のこの疲労度ではこの回、次の回と点を入れられる確率が高い。だが、それ以上に今の白烏では大量点を入れられる可能性が高い。
何か、策を講じられないだろうか。そうずっと悩んでも、答えは見つけられないでいた。
そんな間に藤田は早速ピンチを背負い始める。ワンアウトから、ヒット、フォアボールを許し、決定的な4点目が目の前に迫っていた。顎が上がっている藤田と、プルペンでフォームを確認しながらシャドーピッチングを行う白烏……。副島と伊香保がその二人を交互に見る。一体どうすれば……。
経験の差。この言葉を副島と伊香保は重く痛感していた。どうしても埋められない経験の差はべンチワークにもあったのだ。
だが、一つだけ副島も伊香保も忘れていることがあった。
この球場で最も経験値が高い人物が、すぐ近くにいるということを。
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