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いざ初戦。甲賀者、参る。
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「犬走、もっかいやってみよう。そん時に桐葉と白烏の動き見てたら、二盗よりスタート切りやすいはずやわ。要するに遊撃手と投手の動きが二盗の時よりも分かりやすいんよ。もっと分かりやすくするために、月掛は来た球打ってもいい」
滝音がそう言って、もう一度、三盗の練習に入った。犬走は滝音に言われるがままに桐葉と白烏の動きを注視した。先ほどの練習と同じ五球目に白烏は月掛へ投げ込んだ。
「あ」
結局、犬走はスタートを切り損なったのだが、明らかに二盗と三盗の違いが分かった。
「なるほど。三盗の時は牽制が無かったら、遊撃手は守備位置に戻るんだな。二盗の時は一塁手がベースに張りついてたけど、この三盗の時はもともと二塁上に守備がいないから、しっかり注意すれば二盗よりスタートは早く切れそうだ」
伊香保が拍手した。
「うん、犬走くん、ご名答! そこに注意すれば、一歩早くスタートを切れると思うわ」
そう。三盗は速さでなく技術だとよく言われる。これさえ掴めば、犬走の足なら三盗の成功率はグッと上がるのだ。
───犬走は遠江姉妹社の遊撃手と投手を半身で見ながらリードを取る。二盗の時とはまるで集中力が違う。
キャッチャーは何度も何度も牽制のサインを出した。明らかに犬走が三盗を狙っているのが分かるからだ。三盗はキャッチャーの恥とも言われる。それだけは避けたいのだ。
だが、この何度も何度も繰り返される牽制は犬走にとって有利に働いた。この牽制のタイミングを何度も体感することで、違う動きが見分け安くなるのだ。
本当にしつこい牽制球が続いた。そして、7球目に入る前。犬走はここだとスタートを切った。二塁へ寄ってきたはずの遊撃手の足がふと、三塁方向へ向かったのだ。牽制じゃ、ない。これだ!
『ちっ、させるか』
スタートに気付いたバッテリーが咄嗟に高めに外す。これなら刺せると確信してキャッチャーは三塁へ球を送った。だが、やはり犬走は速い。とても野球選手ではお目にかかれない前傾姿勢のまま空気を切り裂き、もう三塁へ滑り込み始めている。
セーーーフ!
犬走、得意の足であっという間にノーアウト3塁のチャンスを作る。
さあ、ここから作戦『電光石火の先制点』のフィナーレを迎える。
月掛はペロリと舌なめずりをした。舞台は整った。この試合の先制点は俺が取る。
電光石火の先制点は五球以内で点を取るという相手にとっては大きなダメージとなる作戦だ。
能面のピッチャーはひとまず置いておいて、キャッチャーは完全に犬走の足に動揺を隠しきれないでいた。そんなキャッチャーが警戒するのは3つ。外野フライでの犠牲フライと内野ゴロでの先制点、それにスクイズという選択肢だ。
おそらくキャッチャーが指示したのであろう。内野がずいずいと前に寄ってきた。前進守備だ。ここまでくると、月掛にとっては選択肢が大きく縮まる。外野フライを打たせないように低めに投げてくるか、スクイズを警戒して大きく外側にボールを外すかのどちらかだ。
故に月掛は笑った。背の低い月掛にとって低めのボールはさほど驚異ではない。そして、外角高めに大きく外すボールは、バットが届かないところへと外してくるだろう。普通の人間であれば届かないコースへ。
さあ、スクイズだ。
滝音がそう言って、もう一度、三盗の練習に入った。犬走は滝音に言われるがままに桐葉と白烏の動きを注視した。先ほどの練習と同じ五球目に白烏は月掛へ投げ込んだ。
「あ」
結局、犬走はスタートを切り損なったのだが、明らかに二盗と三盗の違いが分かった。
「なるほど。三盗の時は牽制が無かったら、遊撃手は守備位置に戻るんだな。二盗の時は一塁手がベースに張りついてたけど、この三盗の時はもともと二塁上に守備がいないから、しっかり注意すれば二盗よりスタートは早く切れそうだ」
伊香保が拍手した。
「うん、犬走くん、ご名答! そこに注意すれば、一歩早くスタートを切れると思うわ」
そう。三盗は速さでなく技術だとよく言われる。これさえ掴めば、犬走の足なら三盗の成功率はグッと上がるのだ。
───犬走は遠江姉妹社の遊撃手と投手を半身で見ながらリードを取る。二盗の時とはまるで集中力が違う。
キャッチャーは何度も何度も牽制のサインを出した。明らかに犬走が三盗を狙っているのが分かるからだ。三盗はキャッチャーの恥とも言われる。それだけは避けたいのだ。
だが、この何度も何度も繰り返される牽制は犬走にとって有利に働いた。この牽制のタイミングを何度も体感することで、違う動きが見分け安くなるのだ。
本当にしつこい牽制球が続いた。そして、7球目に入る前。犬走はここだとスタートを切った。二塁へ寄ってきたはずの遊撃手の足がふと、三塁方向へ向かったのだ。牽制じゃ、ない。これだ!
『ちっ、させるか』
スタートに気付いたバッテリーが咄嗟に高めに外す。これなら刺せると確信してキャッチャーは三塁へ球を送った。だが、やはり犬走は速い。とても野球選手ではお目にかかれない前傾姿勢のまま空気を切り裂き、もう三塁へ滑り込み始めている。
セーーーフ!
犬走、得意の足であっという間にノーアウト3塁のチャンスを作る。
さあ、ここから作戦『電光石火の先制点』のフィナーレを迎える。
月掛はペロリと舌なめずりをした。舞台は整った。この試合の先制点は俺が取る。
電光石火の先制点は五球以内で点を取るという相手にとっては大きなダメージとなる作戦だ。
能面のピッチャーはひとまず置いておいて、キャッチャーは完全に犬走の足に動揺を隠しきれないでいた。そんなキャッチャーが警戒するのは3つ。外野フライでの犠牲フライと内野ゴロでの先制点、それにスクイズという選択肢だ。
おそらくキャッチャーが指示したのであろう。内野がずいずいと前に寄ってきた。前進守備だ。ここまでくると、月掛にとっては選択肢が大きく縮まる。外野フライを打たせないように低めに投げてくるか、スクイズを警戒して大きく外側にボールを外すかのどちらかだ。
故に月掛は笑った。背の低い月掛にとって低めのボールはさほど驚異ではない。そして、外角高めに大きく外すボールは、バットが届かないところへと外してくるだろう。普通の人間であれば届かないコースへ。
さあ、スクイズだ。
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