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腕試し
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やはりこの大伴資定という選手はスケールが違う。副島はスイングの始動とともにそう感じた。最後のボールはど真ん中のストレート。打てるものなら打ってみろ。打ったとしても、理弁和歌山の壁は高いぞ。ボールにはそんな意志が込められていた。
上等だ。俺は俺の打撃をする。副島は逆らわず、基本に忠実なセンター返しを狙ってバットを振った。副島のバットが初めて真正面から資定のボールをとらえた。快音とともに、そのまま真っ直ぐ資定へ向かっていく。みんなにノックをし続けた賜物だ。
ダイナミックなフォームゆえ、資定は足元への打球に反応が遅れる。
甲賀ベンチが全員立ち上がった。
抜けろっ! 誰ともなくそう叫んだ。
必死にグローブを地面に向けたが、一足早く副島の打球が資定の足の間を抜けていった。鋭くセンター前へ跳ねていく。わぁぁっと甲賀ベンチが沸いた。逆転打でも同点打でもない、ただのセンター前へのシングルヒットだが、この一打は大きい。キャプテンが超高校級の怪物を打ったのだから。
「すごい、副島くん!」
桔梗と伊香保が思わず口元を押さえた。
「…………いや、まだだ」
桐葉が盛り上がるベンチをその一言で落ち着ける。同時に、セカンドベース上に一羽の隼が飛び込んできた。伊賀崎だ。身体を伸ばして、宙を飛ぶ。
「抜かせねえよ。お前らにこの内野は抜かせねえ」
宙を舞う伊賀崎の身体が地面と水平になる。グローブの先端で副島の打球を掴んだ。
「俺は……俺らは、14歳で親元離れて野球に賭けてきてんだ。お前ら素人たちが俺らの覚悟に勝てるわけがねえ。俺らの想いを、簡単に抜かせる訳にはいかねえんだよっ」
くるりと回転し、そのまま投げた矢のような送球がファーストのミットに収まった。
アウトォォッ!
顔をあげて副島が一塁を駆け抜けていく。
ゲームセット!
この瞬間、甲賀の初陣が幕を閉じた。
7-13。理弁和歌山相手に健闘したと捉えるのか、1、2年生相手に不甲斐ないと捉えるのかはナインの心に託された。
副島は駆けてベンチへ戻る。みんなの悔しそうな表情が並んでいる。
「惜しかった。よく当てたよ」
滝音が戻ってきた副島に声をかけた。
「あぁ、惜しくてもショートゴロはショートゴロや。ま、とりあえず挨拶や。挨拶いくぞ。こういう時にダラダラしたらカッコ悪いで」
副島に促されて、駆け足で審判のもとへ向かう。既に理弁和歌山は審判の前に整列していた。全員がしっかりと前を見据え、甲賀ナインが整列するのを待っている。
「しっかり並べ。爪先揃えろよ。整列で理弁さんに負けんな」
副島はナインの爪先を見たが、きっちりと足先は揃っていた。悔しさを滲ませながら、理弁和歌山ナインと目を合わせる。審判がそれを確認し、帽子をとった。
「では、13対7で理弁和歌山の勝ちです。お互いに、礼っ」
ありがとうございましたぁぁ!
ありがとうございましたぁぁ!
太陽は真南から少し西に傾いていた。
「負けたんやな」
「こんなに悔しいもんなんやな」
誰ともなく声が漏れていた。
上等だ。俺は俺の打撃をする。副島は逆らわず、基本に忠実なセンター返しを狙ってバットを振った。副島のバットが初めて真正面から資定のボールをとらえた。快音とともに、そのまま真っ直ぐ資定へ向かっていく。みんなにノックをし続けた賜物だ。
ダイナミックなフォームゆえ、資定は足元への打球に反応が遅れる。
甲賀ベンチが全員立ち上がった。
抜けろっ! 誰ともなくそう叫んだ。
必死にグローブを地面に向けたが、一足早く副島の打球が資定の足の間を抜けていった。鋭くセンター前へ跳ねていく。わぁぁっと甲賀ベンチが沸いた。逆転打でも同点打でもない、ただのセンター前へのシングルヒットだが、この一打は大きい。キャプテンが超高校級の怪物を打ったのだから。
「すごい、副島くん!」
桔梗と伊香保が思わず口元を押さえた。
「…………いや、まだだ」
桐葉が盛り上がるベンチをその一言で落ち着ける。同時に、セカンドベース上に一羽の隼が飛び込んできた。伊賀崎だ。身体を伸ばして、宙を飛ぶ。
「抜かせねえよ。お前らにこの内野は抜かせねえ」
宙を舞う伊賀崎の身体が地面と水平になる。グローブの先端で副島の打球を掴んだ。
「俺は……俺らは、14歳で親元離れて野球に賭けてきてんだ。お前ら素人たちが俺らの覚悟に勝てるわけがねえ。俺らの想いを、簡単に抜かせる訳にはいかねえんだよっ」
くるりと回転し、そのまま投げた矢のような送球がファーストのミットに収まった。
アウトォォッ!
顔をあげて副島が一塁を駆け抜けていく。
ゲームセット!
この瞬間、甲賀の初陣が幕を閉じた。
7-13。理弁和歌山相手に健闘したと捉えるのか、1、2年生相手に不甲斐ないと捉えるのかはナインの心に託された。
副島は駆けてベンチへ戻る。みんなの悔しそうな表情が並んでいる。
「惜しかった。よく当てたよ」
滝音が戻ってきた副島に声をかけた。
「あぁ、惜しくてもショートゴロはショートゴロや。ま、とりあえず挨拶や。挨拶いくぞ。こういう時にダラダラしたらカッコ悪いで」
副島に促されて、駆け足で審判のもとへ向かう。既に理弁和歌山は審判の前に整列していた。全員がしっかりと前を見据え、甲賀ナインが整列するのを待っている。
「しっかり並べ。爪先揃えろよ。整列で理弁さんに負けんな」
副島はナインの爪先を見たが、きっちりと足先は揃っていた。悔しさを滲ませながら、理弁和歌山ナインと目を合わせる。審判がそれを確認し、帽子をとった。
「では、13対7で理弁和歌山の勝ちです。お互いに、礼っ」
ありがとうございましたぁぁ!
ありがとうございましたぁぁ!
太陽は真南から少し西に傾いていた。
「負けたんやな」
「こんなに悔しいもんなんやな」
誰ともなく声が漏れていた。
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