76 / 178
腕試し
13
しおりを挟む
三回裏。藤田がマウンドへ向かう。藤田はこの回も気迫の投球を見せる。
三振、ひとつフォアボールを挟んで、センターライナー、レフトフライと、また理弁和歌山を無得点に抑えたのだ。
「っし!」
控えめな藤田が珍しくベンチに戻りながら声を上げた。皆が藤田の頭を叩きながら祝福する。
センターから戻ってきた白烏の背中を道河原がグローブで叩きながら言った。
「白烏、こりゃお前の出番ねえぞ」
白烏は祝福される藤田の背中を見ていた。
「……いや、俺の出番はまたやってくる。その時こそは抑えてやる」
「お前も負けず嫌いやなぁ。俺もやけど」
道河原はそう言って豪快に笑った。白烏はそれには応えず、後ろからずっと見ていた藤田の投球フォームを反芻していた。
藤田の投げ方はお手本になる。滑らかで、身体全体で円を描くように投げているのが、後ろから見て初めて分かった。ただ、先程の回、最後から二人の打者へ投げた時、藤田の描く美しい円は無くなっていた。腕が下がってしまって、円運動になっていなかったのだ。現に、アウトにはなったものの、センターライナーもレフトフライも完全にとらえられていた。飛んだ位置に恵まれただけだった。今も祝福されながら、まだ肩で息をしている。
白烏は自分の出番がまたすぐに来ると確信して、大きく肩を回した。
四回表。先頭の月掛は明らかに力みすぎていた。
前の回、理弁和歌山の遊撃手が跳んだ高さは明らかにレフトへの打球になる高さだった。俺なら捕れたか? 月掛は自問して舌打ちした。あれを捕られたことで、上には上がいることをまざまざと見せつけられた。それでも自分が一番であることを譲りたくない。上がいるならば抜けば良い。それが月掛充のスタイルだ。
月掛は打ってセカンドベースまで行きたいと思っていた。俺はお前を越えてやると、あの遊撃手に直接伝えたかった。
月掛が珍しく高めに浮いた石田のボールを叩く。しまったという表情で石田がセンターへ顔を向けたが、センターは定位置ですでにグローブを構えていた。
アウトにはなったが、月掛は猛然と二塁まで進んでいた。ちらりと遊撃手が月掛に視線を寄越す。
「おい、俺は月掛充。日本で一番高く跳ぶ男だ。お前には負けねえ」
月掛がセンターからボールを受けた遊撃手に言い放った。
「ふんっ、素人がいきがるなよ。俺は伊賀崎道永(いがさきみちなが)。理弁のショートは今年から俺が守る。理弁のショートが日本一だ。覚えとけ」
月掛と伊賀崎の間に火花が散った。ともに二年生で、忍者でもあるこの二人。ここから二人のライバル対決は始まるのであった。
三振、ひとつフォアボールを挟んで、センターライナー、レフトフライと、また理弁和歌山を無得点に抑えたのだ。
「っし!」
控えめな藤田が珍しくベンチに戻りながら声を上げた。皆が藤田の頭を叩きながら祝福する。
センターから戻ってきた白烏の背中を道河原がグローブで叩きながら言った。
「白烏、こりゃお前の出番ねえぞ」
白烏は祝福される藤田の背中を見ていた。
「……いや、俺の出番はまたやってくる。その時こそは抑えてやる」
「お前も負けず嫌いやなぁ。俺もやけど」
道河原はそう言って豪快に笑った。白烏はそれには応えず、後ろからずっと見ていた藤田の投球フォームを反芻していた。
藤田の投げ方はお手本になる。滑らかで、身体全体で円を描くように投げているのが、後ろから見て初めて分かった。ただ、先程の回、最後から二人の打者へ投げた時、藤田の描く美しい円は無くなっていた。腕が下がってしまって、円運動になっていなかったのだ。現に、アウトにはなったものの、センターライナーもレフトフライも完全にとらえられていた。飛んだ位置に恵まれただけだった。今も祝福されながら、まだ肩で息をしている。
白烏は自分の出番がまたすぐに来ると確信して、大きく肩を回した。
四回表。先頭の月掛は明らかに力みすぎていた。
前の回、理弁和歌山の遊撃手が跳んだ高さは明らかにレフトへの打球になる高さだった。俺なら捕れたか? 月掛は自問して舌打ちした。あれを捕られたことで、上には上がいることをまざまざと見せつけられた。それでも自分が一番であることを譲りたくない。上がいるならば抜けば良い。それが月掛充のスタイルだ。
月掛は打ってセカンドベースまで行きたいと思っていた。俺はお前を越えてやると、あの遊撃手に直接伝えたかった。
月掛が珍しく高めに浮いた石田のボールを叩く。しまったという表情で石田がセンターへ顔を向けたが、センターは定位置ですでにグローブを構えていた。
アウトにはなったが、月掛は猛然と二塁まで進んでいた。ちらりと遊撃手が月掛に視線を寄越す。
「おい、俺は月掛充。日本で一番高く跳ぶ男だ。お前には負けねえ」
月掛がセンターからボールを受けた遊撃手に言い放った。
「ふんっ、素人がいきがるなよ。俺は伊賀崎道永(いがさきみちなが)。理弁のショートは今年から俺が守る。理弁のショートが日本一だ。覚えとけ」
月掛と伊賀崎の間に火花が散った。ともに二年生で、忍者でもあるこの二人。ここから二人のライバル対決は始まるのであった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる