甲賀忍者、甲子園へ行く【地方予選編】

山城木緑

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腕試し

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 息を吹き返したように見えた甲賀ナインだったが、バッティングはテンポを掴めない。四番の道河原、副島、滝音と簡単に打ち取られてしまう。

 それでも、藤田は気合いの入った投球を見せる。10点取られた後の二回裏、藤田はセンターフライ、セカンドゴロ、サードゴロと、見事に三者凡退に抑えた。

「せっかく藤田が抑えてんだ。この回、点取るぞ」

 ベンチ前で副島が気合いを入れる。この回先頭の蛇沼には期するものがあった。三人目の野球部員として、副島と藤田がたった二人で頑張ってきたのを一番よく分かってる。藤田の頑張りに応えないと。恩返しだ。

 蛇沼は静かにバッターボックスに入った。ぎこちない構えのまま、ストレートを見逃し変化球にはピクリと反応を示していた。あっという間に追い込まれる。

 理弁和歌山のキャッチャーはほくそえんだ。下位のバッターはド素人だな。変化球待ってるのがバレバレだ。構えも打てそうな気配を感じない。自信を持ってストレートのサインをピッチャーへ出した。大きく頷いたピッチャーが振りかぶる。と、急に蛇沼の構えが変わった。毎日副島から教わった構えだ。油断したストレートなら、打てる。蛇沼は迫り来るストレートにタイミングを合わせた。

 カキーーーン!

 打球がショートの頭を越える。甲賀高校、待望の初ヒットは蛇沼から。

 ファーストベース上で蛇沼が微笑み、小さくガッツポーズを副島に向けた。甲賀ベンチが沸く。副島の目に少し涙が浮かんでいた。

 次なる打者、白烏はバッターボックスに入り、かなりの緊張に襲われていた。

 ベンチは蛇沼の初ヒットに沸き上がっている。前の回は藤田がピシャリと抑えた。チームは上昇ムードだ。何とかして初回の汚名返上と、このムードを持続させたい。白烏はそう強く意識したが、そういえばバッティングは全く練習していない。打てる気がしない。ただ、ここで打たなければ、俺はただ10点取られたアホなピッチャーとなってしまう。

 白烏はバッターボックスで少し悩み、はっと気がついた。そういえば、サインは? すさかずベンチを見ると、副島が手で色んなところを触っている。色んなところを触っている手から目線を外して、反対の手に注目する。だらりと腰に下ろした反対側の手はグーだった。バントのサインだ。

 バントなら何とかしてやる。何とか……。

 力が入りすぎている白烏はこの後、下手くそなバントを試みる。まさかそれがひょんなところで役に立つことになろうとは。

 明らかにバントするのがみえみえの構えで、白烏はバットを構えていた。

 させるかよ。理弁和歌山のピッチャーは初球で白烏の胸元をえぐる。バントしにいきかけた白烏が慌てて仰け反り、後ろ向きに倒れた。あぶねえあぶねえと白烏が起き上がると、もう目の前に三塁手が走ってきていた。バントすらも絶対にさせないという理弁和歌山の強い意地がそこには見えた。

 白烏の額に汗が垂れる。まずいな。ここでバントも失敗したら、戦犯決定だ。白烏家の末代までの恥となってしまう。そんな追い詰められた白烏が2球目でやってしまう。
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