甲賀忍者、甲子園へ行く【地方予選編】

山城木緑

文字の大きさ
上 下
37 / 243
セカンド月掛充

5

しおりを挟む
『あーーっと、菊地ジャーーンプ! キャーーッチ! 今日も忍者菊地のファインプレイ! なんという脚力でしょう。試合が終わりました。広島、今日も現代の猿飛佐助こと菊地のファインプレイで連勝です。解説の江本さん、今日も忍者菊地ですよ』

『いやあ、すごいね菊地は。本当に現代の猿飛佐助ですよ』

 ……馬鹿な。

 赤い装束を身に纏っている。この忍者、猿飛佐助などと呼ばれている。スポーツなどやっている。どこの流派だ?

「おい、親父。聞いたか?」

「ああ」

 親父は腕組みをし、明らかに奥歯を噛んでいる。

「さっきの赤装束、公共放送で現代の猿飛佐助と呼ばれてやがった。親父、この流派のやつ、スポーツで世に知らしめてやがる。黙ってられねえぞ」

 充は悔しさで頭から湯気が出ている。

「この目立ちたがりの流派め。充、野球で充こそが佐助様に近いと世に知らしめてやれ。お前ならスポーツなどすぐに順応できる」

「ああ、当たり前だ。野球部ってのがある。そいつらに入れてもらうわ」

 翌日、月掛充はひょんなことから、同級生の野球部員である藤田を訪ねた。

「藤田、お前、野球ってスポーツやってるな。俺も野球やるぞ」

「えっ、ほんとに? 嬉しい! 月掛くんの運動神経やばいから、すごい戦力かも」

 藤田はひょろりと痩せていて、優しい顔をしている。充はこんな藤田でも野球というスポーツはできるものなのかと思った。

「ただし、条件がある。広島の菊地という者だ。あいつと勝負させろ。俺の方が飛べるのを見せつけてやる」

 藤田は声を上げて笑った。

「月掛くん、正気で言ってんの? あれ、プロだよ。高校生とは試合なんてできないよ」

「なんだと? じゃあ、意味がねえじゃねえか。俺はあいつより飛べると世に知らせたい。野球をやる理由はそれだけだ」

 充がふてくされているのを藤田はまずいと思い、咄嗟に声を出してしまった。まだたった3人の部員しかいないのに……。

「それなら甲子園を目指そう! 月掛くん、甲子園に出れば必ずテレビに映るから」

 言って藤田は後悔した。3人しかいなくて試合なんてできないと言えば怒られそうだ。

「本当か。分かった、藤田。頼むぞ」

「……う、うん」

 この時点で、副島、藤田、蛇沼、そして月掛の甲賀高校野球部ができ、ここから部は急速に部員を増やしていくこととなる。

 月掛充は今日も飛ぶ。白球を追って。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

処理中です...