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ファースト道河原玄武

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 もう何分経過しただろう。

 謙信の打つ投げに玄武が耐え、玄武が両差しから持ち上げるのをまた謙信が堪える。

 観衆の誰もが声を失っていた。信じられないが、観客には両者がぶつかる身体から火花が見えたのだ。

 そこから5分が経過した。両者の息遣いが会場の奥まで届く。
 よいっ!  はっけよい!
 行事が二人を煽る。ふうっと謙信が息を吐いた瞬間だった。

 玄武が仕掛ける。両まわしにかけた指に渾身の力を込め、僅か軽くなった謙信を持ち上げる。謙信の両足が遂に土俵から浮く。持ち上げたまま一気に玄武が土俵際まで抱え上げていく。謙信の足がバタバタと宙を掻く。観衆がこの日一番の盛り上がりをみせ、大きな声がこだました。土俵際で最後の力を込めて、もう一度玄武は謙信を吊り上げた。つり出しだ。

 が、ここで玄武はひとつ失敗を冒していた。余計に吊り上げた謙信の足は玄武の下腹部まで上がっていた。最後の足掻きで謙信が足を振り回すと、その足が不幸にも玄武の鳩尾みぞおちに穿たれた。

「うぐっ」

 力が緩む。その隙を百戦錬磨の謙信は見逃さない。両足を土俵につけ、その瞬間、しっかりと玄武のまわしをとった。右上手にとったまわしを豪快に振り回し、玄武の大きな身体が土俵際で宙に舞った。

 土煙を上げて、玄武の身体は土俵の下に落ちた。謙信が拳を突き上げる。観客席で龍造寺磊落が拳を突き上げ、道河原獅童を見やった。どうだ! そう言わんばかりの目線に獅童は拳を握り締めて耐えた。


 それから、中学、高校と相撲を続けてきた。
 あの敗けがあったからだ。あれ以来、獅童は意気消沈して、龍造寺家の話を出さなくなった。

 玄武は毎日まわしを締めて稽古し、天井に貼られた龍造寺謙信の写真を見ながら血と汗と涙を流した。思春期の玄武にとって、まわし姿は恥ずかしいものであった。それでも龍造寺家を倒すため、日々励んできた。
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