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サード蛇沼神

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 神は剣道場の入口に身を潜めていた。

 僕のせいで爺ちゃんと父さんが大事にしてた蛇剣を手放すことになるんだ……。僕のせいで……。

 明くる日から神の態度は変わった。

「こんな朝飯食えねえよ」

「学校なんか行くかよ」

「ぼろい家だな。こんな家に生まれて損したわ」

 一成も和歌も永吉も、昨夜の話を聞かれたのだと悟った。

「神よ、もう良い。無理するでない」

 蛇のような顔を優しくして、永吉が神へ言った。

「うるせえよ、じじい」

 神は椅子を蹴り上げ、剣道場へ向かった。

 床の間に飾られた蛇剣にそっと触れてみる。今まで触れられた試しがない。蛇剣は青白く光り、初めて神を受け入れた。そっと束を握る。持ち上げることはできなかった。

 でも、これでいい。僕がこうなれば、蛇沼家の伝統は守られるんだ。

 そう思うと、蛇剣は光をなくし、神の手元から滑るように落ちた。

 それから、家族が諭してくれても、神は己の思う反対の態度を取っていった。蛇沼家には必ず訪れる試練だが、神のそれは、両親や祖父にとって今までになく痛々しいものだった。


 また、河原にいた。

 高校に入ってからは周囲に溶け込むことができず、いつも居場所を探していた。

 高校を抜け出しては、毎日てくてくと行く宛もなく下を向いて歩いた。しばらく歩くと大きな川が流れていた。そこの河原でぼうっとするのが好きだった。人と会うこともなく、そこではねじ曲がったことをする必要もなかった。

 高校生の神にとって、この河原は唯一の安息の場であった。

 今日も夕焼け空を眺めていた。

 綺麗な茜色に染まっている。綺麗だなんて思ったら、蛇剣を振ることができないか……。父さんもおじいちゃんも大変だったんだなと、この歳になって初めて分かった気がした。

 飛行機雲が空を真っ二つにするように伸びている。その飛行機雲の先頭で、飛行機が飛んでいる。小さく徐々に遠ざかる。飛行機は白く光る矢印に見えた。僕の人生の矢印はどこへ向かっているのだろう。そんなことを考えると、涙が出そうになった。
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