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 翌日の午前中は、父さまにルークさまたちのことを詳しく聞かれた。
「三人とも学園の一年生、一人はフォレストベルグ辺境伯家の嫡男、あとの二人は家名が不明ということか」
「はい、父さま」
 三人は常にお互い名前呼びだったので、家名は分からない。唯一判明しているロイドさまの家名もトリウさま経由の情報である。
「学園に入学しているということは貴族の子弟だろうが、よりによってルークとハンスか」
 父さまが腕を組んで唸る。何か良くない謂れでもある名前なのだろうか。
「ありがち過ぎて絞り込める気がしないな」
 ああ、よくある名前だから探すのが大変って意味なのね。
「学園の名簿は手に入らないのかしら」
 母さまが首を傾げる。
「そうだな、明日登城したら学園の名簿を調べてみよう。今は学生数も少ないし、寮生なら遠方の貴族の子息だろうから、それで分かるだろう」
「明日以降ですの? 私は今日にも御礼に伺いたいのに」
 デイジーの命の恩人なのよ、と母さまが父さまに詰め寄る。


「母さま、母さま、ルークさまたちは寮生だから、寮に伺えば」
 私は、母さまの袖を引っ張る。
 家名が分からなくても、学生寮で暮らしているのは分かっている。訪ねてみないといるかどうかは分からないが。
「そうね! そうしましょう。御礼は何がいいかしら」
 若い男の子なら、食べ物がいいかしら? と母さまが父さまを見る。
「午後からはジスカール侯爵邸に伺う予定なんだが……」
 父さまは困り顔である。
「ジスカール卿のお屋敷に?」
 そんな話は聞いていない。
「そうだよ、二日間も猫になりっぱなしだったんだ、何か問題があったら大変だろう? 診ていただけるようにお願いしたら、御自宅に招いてくださってね」
 そっか、今日は日曜だから、魔導研究所もお休みだもんね。






「デイジー嬢、大変な目に遭ったそうね、無事で良かったわ」
「ありがとうございます、レティーシャさま」
 午後、父さまと母さまと、まずはジスカール侯爵邸を訪問した。レティーシャさまが出迎えてくれる。
「ハルシャも顔色が良くなったわね」
「御心配をおかけして申し訳ございません」
 私が行方不明の間も連絡を取っていたようだ。




「特に魔力の流れにも異常はないですね。長時間猫の姿になっていたことの負担はないとみていいでしょう」
 いつものようにクリストフさまが診てくださった。
「デイジー嬢本人はどうかな? いつもと違うと感じるところはある? 痛いとか苦しいとかむずむずするとか」
 クリストフさまに尋ねられるが、特にはない。強いて言えば、二足歩行の感覚に慣れないけど、そんなことは言えない、人間として!


「足を怪我して、治癒の魔法を掛けてもらったらしいんです。右足にかさぶたが」
 母さまが、私の右足のくるぶしからふくらはぎにかけてやや斜めに走っているかさぶたをクリストフさまに示す。
「そうなんですか? 怪我をしたとは思えないくらいですけど……デイジー嬢、どのくらいの怪我だったか覚えてる?」
「えっと、ぐっさり?」
 ずきずきと酷い痛みだったことは覚えているが、傷口自体をちゃんと見てないんだよね。私って、やや長毛の猫だから隠れちゃうし、そもそもその時は目も開けられないほど弱ってたし。
「ぐっさり!?」
 母さまが恐ろし気に肩を震わせた。
「大丈夫なの、ロイドさまがすぐに治癒の魔法掛けてくれたし! 回復魔法も掛けてくれたし……母さま、苦しいっ」
 ぎゅうっと抱き締めてくる母さまの背中を叩いて何とか抜け出す。
 まだ愛の試練が続いていたとは。
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